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婚約破棄ですか。占い師なので、こうなる未来は見えていました
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「ミュリシア、婚約の話はなかったことにしてくれ」
私の家にやって来て開口一番、侯爵家のトラス様はそう告げた。
だけれども驚かなかった。
そんな私の異変を感じたのか、トラス様は戸惑った様子で聞いてきた。
「驚かないのか?」
驚かないわよ。だって私は……。
「占い師ですもの。こうなることは分かっていました」
「……そうだったな」
そう。私は占い師。
自分で言うのもなんだが、かなりの確率で予測した出来事が当たる。
事前にこうなることが分かっていたからか、あまり悲しみは感じなかった。
どこか怯えるような瞳で、トラス様は語りかけてきた。
「正直怖いんだ。ミュリシアのことが。なんでも言い当ててしまう、その力が」
私のことが怖い。
その言葉には少なからず心が傷ついた。
でも仕方ない。
未来のことをいくつも言い当てられたら、そりゃ不気味にもなるだろう。
「だから、すまない。もうこれで私たちの関係はお終いだ」
返答を聞くこともなく立ち去ろうとするトラス様。
引き留めるつもりはない。
そんなことをしてもお互い幸せになれないから。
だけれども言わずにはいられなかった。
ついさっき見た、この先のトラス様の未来のことを。
去ろうとするその背中に、静かに告げた。
「この先トラス様の一族には不幸が訪れ、間もなく衰退するでしょう」
気のせいかもしれないが、トラス様の肩がびくっと揺れた気がした。
「……」
振り向いた顔は青ざめていた。何か言おうとしたのか口を開いたが、すぐに前に向き直ってそのまま出て行ってしまった。
最後の一言を言わないほうが良かったのか。
いや、トラス様の為にも言ってよかったのだ。そう自分に言い聞かせた。
私は引き留めたかったのだろうか。
……それは違う。
トラス様は一族を繁栄させるために、私を、私の占いを利用していたのは知っていた。
この便利な占い師を他人に渡さないために、婚約をしようとしたが、結局は能力を不気味に感じ、捨てることにした。
そんなところだろう。
トラス様と出会った時から分かっていたじゃないか。
こうなる未来なんて。
窓の外に目を向けると、すっかり暗くなっていた。
私は町外れにある古びた一軒家に暮らしている。
この辺りには街灯が少なく、日が暮れると殆ど暗闇に包まれる。
今の私の心を表わしているかのようだった。
私は身分のある一族に生まれた。
最初こそ可愛がられたが、すぐに異変は起こった。
私には特殊な能力があった。
未来を見る力だ。
ふと脳裏にこれから起こる出来事が浮かぶのだ。
しかもそれらが高確率で当たるとあって、金や権力に目がくらんでいた親や親戚は、いいように私を利用した。
『聖女』『女神』
などとさえ周囲から言われた。
大袈裟すぎるとは思ったが、『役に立てる』というのが嬉しかった。
だが、まだ幼かった私はある日、何の悪意もなく、見えた未来のことを家族に告げた。
「お父様もお母様もお兄様も、皆苦しんでる。どうしたんだろう?」
それから間もなく経った頃。
家族が次々と謎の病に侵された。
兄は帰らぬ人となった。
そして、疑いの目は私に向けられた。
『悪魔の子』
そんなことさえ言われ、周囲から蔑まれるようになった
人の評価はこうもあっさり変わるものなのか。
絶望感に襲われた。
家にいづらくなった私は、外で一人でぶらぶらと過ごすことが多かった。
そんな時だ。とある占い師に出会ったのは。
路地裏で古びた椅子に座り、地面の一点を見つめている老婆。
『占います』とだけ書かれた小さな立て看板が横に置かれている。
(占い……)
心惹かれる魅力を感じた。
少し怖かったが、意を決して私が話しかけると、意外なことに老婆は笑顔で返事をしてくれた。
その日以降私がその老婆の所に通い詰め、自らの能力を磨いていったのは。
それから月日が経ち。
16歳になると私は家を飛び出した。
裕福な家庭だったというのもあって、少しばかりの蓄えを注ぎ込んで、この家を借りた。
そしてここで、未来を見る力を生かして占い師の仕事を始めたのだった。
最初こそ日々の生活は大変だったが、占いが当たると評判が評判を呼び、あっという間に4年の歳月が経っていた。
トラス様との初めての出会いはその頃だった。
地位を保つために色々と悩みを抱えていたトラス様は、よく当たると評判の占い師の噂を聞きやってきたということだった。
高い身分にある方が、こんな私なんかを……。
と驚いたものだ。
それから度々トラス様はここを訪れ、私はその飾らない人柄に惹かれていった。
……共に人生を歩めない未来は見えていたのに。
婚約破棄から一年ほど経った頃。
とある事実が耳に入ってきた。
お客様の占いをしていた時のことだ。
常連客である、噂好きの年配女性がこう告げた。
「トラス様のこと知ってる? 謎の病にかかって急死したらしいわよ」
全身に衝撃が走った。
「そ、そうなんですね」
私は冷静さを装っていた。
最後に会って以降、私はトラス様の未来を占うことはしないでいた。
一族が衰退していくことは見えていたが、まさか死ぬことになるとは。
「噂によると、婚約相手がいたらしいんだけど、トラス様が病に倒れてすぐにいなくなってしまったらしいわよ。どうしたのかしらね」
婚約相手は金や地位が目当てだったのだろうか。
だがそれが望めないことが分かった瞬間、あっさりと捨てたということだろうか。
もうこの世にいない人のことを考えても仕方ない。
それに私は彼に捨てられているのだ。
いい気味だとさえ思える。
そんな過去があったからだろうか。
今私は幸せだ。
なぜなら……。
「失礼します。お客様、そろそろお時間です」
扉をノックして部屋に入ってきた人物がそう告げた。
私の旦那だ。仕事を手伝ってくれているのだ。
巷に広がった評判により、お客様の数は増える一方で、雑務などにも手が回らなくなっていた頃、彼と出会った。
元々はお客様の一人だったが、話していくうちにやがて恋に落ちた。
二人の未来を占うようなことはしなかった。
この人となら、きっと幸せになれる。
そう感じていたから。
お客様との会計を済ませ、玄関を開けてお見送りをした。
『ありがとうございました!』
旦那と声がタイミング良くぴったり重なった。
思わず見つめ合う。
その顔には笑顔が浮かんでいた。
この人となら幸せになれる。
占いなんてしなくても、私には未来が見えていた。
私の家にやって来て開口一番、侯爵家のトラス様はそう告げた。
だけれども驚かなかった。
そんな私の異変を感じたのか、トラス様は戸惑った様子で聞いてきた。
「驚かないのか?」
驚かないわよ。だって私は……。
「占い師ですもの。こうなることは分かっていました」
「……そうだったな」
そう。私は占い師。
自分で言うのもなんだが、かなりの確率で予測した出来事が当たる。
事前にこうなることが分かっていたからか、あまり悲しみは感じなかった。
どこか怯えるような瞳で、トラス様は語りかけてきた。
「正直怖いんだ。ミュリシアのことが。なんでも言い当ててしまう、その力が」
私のことが怖い。
その言葉には少なからず心が傷ついた。
でも仕方ない。
未来のことをいくつも言い当てられたら、そりゃ不気味にもなるだろう。
「だから、すまない。もうこれで私たちの関係はお終いだ」
返答を聞くこともなく立ち去ろうとするトラス様。
引き留めるつもりはない。
そんなことをしてもお互い幸せになれないから。
だけれども言わずにはいられなかった。
ついさっき見た、この先のトラス様の未来のことを。
去ろうとするその背中に、静かに告げた。
「この先トラス様の一族には不幸が訪れ、間もなく衰退するでしょう」
気のせいかもしれないが、トラス様の肩がびくっと揺れた気がした。
「……」
振り向いた顔は青ざめていた。何か言おうとしたのか口を開いたが、すぐに前に向き直ってそのまま出て行ってしまった。
最後の一言を言わないほうが良かったのか。
いや、トラス様の為にも言ってよかったのだ。そう自分に言い聞かせた。
私は引き留めたかったのだろうか。
……それは違う。
トラス様は一族を繁栄させるために、私を、私の占いを利用していたのは知っていた。
この便利な占い師を他人に渡さないために、婚約をしようとしたが、結局は能力を不気味に感じ、捨てることにした。
そんなところだろう。
トラス様と出会った時から分かっていたじゃないか。
こうなる未来なんて。
窓の外に目を向けると、すっかり暗くなっていた。
私は町外れにある古びた一軒家に暮らしている。
この辺りには街灯が少なく、日が暮れると殆ど暗闇に包まれる。
今の私の心を表わしているかのようだった。
私は身分のある一族に生まれた。
最初こそ可愛がられたが、すぐに異変は起こった。
私には特殊な能力があった。
未来を見る力だ。
ふと脳裏にこれから起こる出来事が浮かぶのだ。
しかもそれらが高確率で当たるとあって、金や権力に目がくらんでいた親や親戚は、いいように私を利用した。
『聖女』『女神』
などとさえ周囲から言われた。
大袈裟すぎるとは思ったが、『役に立てる』というのが嬉しかった。
だが、まだ幼かった私はある日、何の悪意もなく、見えた未来のことを家族に告げた。
「お父様もお母様もお兄様も、皆苦しんでる。どうしたんだろう?」
それから間もなく経った頃。
家族が次々と謎の病に侵された。
兄は帰らぬ人となった。
そして、疑いの目は私に向けられた。
『悪魔の子』
そんなことさえ言われ、周囲から蔑まれるようになった
人の評価はこうもあっさり変わるものなのか。
絶望感に襲われた。
家にいづらくなった私は、外で一人でぶらぶらと過ごすことが多かった。
そんな時だ。とある占い師に出会ったのは。
路地裏で古びた椅子に座り、地面の一点を見つめている老婆。
『占います』とだけ書かれた小さな立て看板が横に置かれている。
(占い……)
心惹かれる魅力を感じた。
少し怖かったが、意を決して私が話しかけると、意外なことに老婆は笑顔で返事をしてくれた。
その日以降私がその老婆の所に通い詰め、自らの能力を磨いていったのは。
それから月日が経ち。
16歳になると私は家を飛び出した。
裕福な家庭だったというのもあって、少しばかりの蓄えを注ぎ込んで、この家を借りた。
そしてここで、未来を見る力を生かして占い師の仕事を始めたのだった。
最初こそ日々の生活は大変だったが、占いが当たると評判が評判を呼び、あっという間に4年の歳月が経っていた。
トラス様との初めての出会いはその頃だった。
地位を保つために色々と悩みを抱えていたトラス様は、よく当たると評判の占い師の噂を聞きやってきたということだった。
高い身分にある方が、こんな私なんかを……。
と驚いたものだ。
それから度々トラス様はここを訪れ、私はその飾らない人柄に惹かれていった。
……共に人生を歩めない未来は見えていたのに。
婚約破棄から一年ほど経った頃。
とある事実が耳に入ってきた。
お客様の占いをしていた時のことだ。
常連客である、噂好きの年配女性がこう告げた。
「トラス様のこと知ってる? 謎の病にかかって急死したらしいわよ」
全身に衝撃が走った。
「そ、そうなんですね」
私は冷静さを装っていた。
最後に会って以降、私はトラス様の未来を占うことはしないでいた。
一族が衰退していくことは見えていたが、まさか死ぬことになるとは。
「噂によると、婚約相手がいたらしいんだけど、トラス様が病に倒れてすぐにいなくなってしまったらしいわよ。どうしたのかしらね」
婚約相手は金や地位が目当てだったのだろうか。
だがそれが望めないことが分かった瞬間、あっさりと捨てたということだろうか。
もうこの世にいない人のことを考えても仕方ない。
それに私は彼に捨てられているのだ。
いい気味だとさえ思える。
そんな過去があったからだろうか。
今私は幸せだ。
なぜなら……。
「失礼します。お客様、そろそろお時間です」
扉をノックして部屋に入ってきた人物がそう告げた。
私の旦那だ。仕事を手伝ってくれているのだ。
巷に広がった評判により、お客様の数は増える一方で、雑務などにも手が回らなくなっていた頃、彼と出会った。
元々はお客様の一人だったが、話していくうちにやがて恋に落ちた。
二人の未来を占うようなことはしなかった。
この人となら、きっと幸せになれる。
そう感じていたから。
お客様との会計を済ませ、玄関を開けてお見送りをした。
『ありがとうございました!』
旦那と声がタイミング良くぴったり重なった。
思わず見つめ合う。
その顔には笑顔が浮かんでいた。
この人となら幸せになれる。
占いなんてしなくても、私には未来が見えていた。
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