【失言ホラー 二言目】励ましたつもりだったのに【なずみのホラー便 第162弾】

なずみ智子

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励ましたつもりだったのに

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 私の名前は、矢羅 樫子(やら かしこ)。
 自分で言うのもなんだけど、明るくて爽やか、そして誰に対してもフレンドリーな大学生なのです。

 大学での講義が終わった後、私の斜め後ろに座っていた女の子グループの会話が聞こえてきたの。
 そのグループの人たちとは親友レベルと言えるほどの深い付き合いはしていなかったけれど、朝風のごとく爽やかなコミュニケーションを人付き合いのモットーとしている私は、彼女たちの会話にそうっと耳を傾けずにはいられなかった。

「……でね、来週の火曜日についに手術受けることにしたんだ」と、Y子ちゃんの声。

「良い病院が見つかったんだ。良かったじゃん」

「うん、前から気になっていたし、ずっとこのままだったらどうしようかと思ってたから……」と、Y子ちゃんの声はすごくうれしそうだった。

「チャッチャッと切除してもらった後は、快適な生活を送れるよ」

 彼女たちの会話を聞いた私も、心から良かったと思ったの。
 だから、私は振り向いてY子ちゃんに言ったの。

「Y子ちゃん、ついにワキガ手術受けるのね。手術は大変だろうけど、頑張ってね」

 私はY子ちゃんを励ましたつもりだった。
 でも、Y子ちゃんは瞬時に凍りつき、真っ赤になった。
 人間の顔って、ここまで真っ赤になるんだと思うほどに真っ赤になったの。
 そして、顔を覆ったY子ちゃんは泣き出した。
 周りの女の子たちも慌て出した。
 Y子ちゃんが、ヒック、ウグッとしゃくりあげながら言う。

「わ、私っ、ワキガだったの? 皆に、ず、ずっと……臭いって思われていたの……っ……?」

 何とも言えない空気が周りに漂い、彼女の友人たちは泣き続けるY子ちゃんを慰める派と私に厳しい視線を向ける派に分かれてしまった。
 私は後者の一人に「ちょっと、矢羅さん」と腕を掴まれ、廊下へと連れ出されてしまったの。

「あのね、Y子が受けるのは背中に出来ている粉瘤を切除する手術なのよ」

「ふ、粉瘤? だって、『前から気になっていた』と『切除』という言葉から、私はてっきりアポクリン汗腺を切除するワキガの手術だと思って……だって、気づいていたでしょう?」

 さらに厳しい視線というか、憎しみすら含まれている視線が私に突き刺さってきた。

「……確かに気づいていたわよ。でも、生まれつきの体質によるものだし、すごくデリケートな問題じゃない。いくら友だちでも言えないわよ。それに……一緒にいることすら耐えられない程のレベルじゃなかったし、時折、少し気になるかなって程度だったから」

 彼女の言葉を聞いた私は考えたの。
 Y子ちゃんを泣かせてしまったのは確かに悪かったと思う。
 けれども、結果的に私の言葉はY子ちゃんを救うことになったのではないかと考えずにはいられなかった。

「今日がY子ちゃんの人生の転機になったかもしれない……だって、誰かが言ってあげなかったら、Y子ちゃんはずっと自分のワキガに気づかないまま就職活動とかに入っちゃったでしょ。やっぱり、体の臭いはしないにこしたことないと思うの。Y子ちゃんだって、結果的に私に感謝するはずよ」

「……感謝するかしないのかを決めるのはY子自身よ。現に今、Y子は傷ついて泣きじゃくっている。それがすべてよ。もともとナイーブな子だし、あの様子じゃ、もう大学にも来れなくなるかもしれない」

「そんな……私は友だちを励ましたつもりだったのに。悪意なんて微塵もなかったの」

「……あのね、矢羅さん。前から言おうと思ったんだけど、Y子も含めて、私たちのグループとあなたには、そんなに親しい関係ではないわよね? もちろん、同じ大学の人として挨拶はされたら返すけど、それだけよ。……なのに、今日だって私たちの会話を盗み聞ぎしたばかりか、ズカズカと入り込んで掻きまわして……あなたって狂風よりも迷惑で怖い人ね!」


(完)


【後書き】
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 本日2025年2月16日に急遽お届けいたしました前作「褒めたつもりだったのに」と本作「励ましたつもりだったのに」の表のテーマは「失言」ですが、裏のテーマは「関係性」となります。
 言ってしまった言葉や言われてしまった言葉も、相手との関係性や状況、または相手の性格によってはまた違った捉え方ができるかもしれない。
 しかし、二作ともそうではなかったがゆえの悲劇でありました。
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