1 / 1
励ましたつもりだったのに
しおりを挟む
私の名前は、矢羅 樫子(やら かしこ)。
自分で言うのもなんだけど、明るくて爽やか、そして誰に対してもフレンドリーな大学生なのです。
大学での講義が終わった後、私の斜め後ろに座っていた女の子グループの会話が聞こえてきたの。
そのグループの人たちとは親友レベルと言えるほどの深い付き合いはしていなかったけれど、朝風のごとく爽やかなコミュニケーションを人付き合いのモットーとしている私は、彼女たちの会話にそうっと耳を傾けずにはいられなかった。
「……でね、来週の火曜日についに手術受けることにしたんだ」と、Y子ちゃんの声。
「良い病院が見つかったんだ。良かったじゃん」
「うん、前から気になっていたし、ずっとこのままだったらどうしようかと思ってたから……」と、Y子ちゃんの声はすごくうれしそうだった。
「チャッチャッと切除してもらった後は、快適な生活を送れるよ」
彼女たちの会話を聞いた私も、心から良かったと思ったの。
だから、私は振り向いてY子ちゃんに言ったの。
「Y子ちゃん、ついにワキガ手術受けるのね。手術は大変だろうけど、頑張ってね」
私はY子ちゃんを励ましたつもりだった。
でも、Y子ちゃんは瞬時に凍りつき、真っ赤になった。
人間の顔って、ここまで真っ赤になるんだと思うほどに真っ赤になったの。
そして、顔を覆ったY子ちゃんは泣き出した。
周りの女の子たちも慌て出した。
Y子ちゃんが、ヒック、ウグッとしゃくりあげながら言う。
「わ、私っ、ワキガだったの? 皆に、ず、ずっと……臭いって思われていたの……っ……?」
何とも言えない空気が周りに漂い、彼女の友人たちは泣き続けるY子ちゃんを慰める派と私に厳しい視線を向ける派に分かれてしまった。
私は後者の一人に「ちょっと、矢羅さん」と腕を掴まれ、廊下へと連れ出されてしまったの。
「あのね、Y子が受けるのは背中に出来ている粉瘤を切除する手術なのよ」
「ふ、粉瘤? だって、『前から気になっていた』と『切除』という言葉から、私はてっきりアポクリン汗腺を切除するワキガの手術だと思って……だって、気づいていたでしょう?」
さらに厳しい視線というか、憎しみすら含まれている視線が私に突き刺さってきた。
「……確かに気づいていたわよ。でも、生まれつきの体質によるものだし、すごくデリケートな問題じゃない。いくら友だちでも言えないわよ。それに……一緒にいることすら耐えられない程のレベルじゃなかったし、時折、少し気になるかなって程度だったから」
彼女の言葉を聞いた私は考えたの。
Y子ちゃんを泣かせてしまったのは確かに悪かったと思う。
けれども、結果的に私の言葉はY子ちゃんを救うことになったのではないかと考えずにはいられなかった。
「今日がY子ちゃんの人生の転機になったかもしれない……だって、誰かが言ってあげなかったら、Y子ちゃんはずっと自分のワキガに気づかないまま就職活動とかに入っちゃったでしょ。やっぱり、体の臭いはしないにこしたことないと思うの。Y子ちゃんだって、結果的に私に感謝するはずよ」
「……感謝するかしないのかを決めるのはY子自身よ。現に今、Y子は傷ついて泣きじゃくっている。それがすべてよ。もともとナイーブな子だし、あの様子じゃ、もう大学にも来れなくなるかもしれない」
「そんな……私は友だちを励ましたつもりだったのに。悪意なんて微塵もなかったの」
「……あのね、矢羅さん。前から言おうと思ったんだけど、Y子も含めて、私たちのグループとあなたには、そんなに親しい関係ではないわよね? もちろん、同じ大学の人として挨拶はされたら返すけど、それだけよ。……なのに、今日だって私たちの会話を盗み聞ぎしたばかりか、ズカズカと入り込んで掻きまわして……あなたって狂風よりも迷惑で怖い人ね!」
(完)
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日2025年2月16日に急遽お届けいたしました前作「褒めたつもりだったのに」と本作「励ましたつもりだったのに」の表のテーマは「失言」ですが、裏のテーマは「関係性」となります。
言ってしまった言葉や言われてしまった言葉も、相手との関係性や状況、または相手の性格によってはまた違った捉え方ができるかもしれない。
しかし、二作ともそうではなかったがゆえの悲劇でありました。
自分で言うのもなんだけど、明るくて爽やか、そして誰に対してもフレンドリーな大学生なのです。
大学での講義が終わった後、私の斜め後ろに座っていた女の子グループの会話が聞こえてきたの。
そのグループの人たちとは親友レベルと言えるほどの深い付き合いはしていなかったけれど、朝風のごとく爽やかなコミュニケーションを人付き合いのモットーとしている私は、彼女たちの会話にそうっと耳を傾けずにはいられなかった。
「……でね、来週の火曜日についに手術受けることにしたんだ」と、Y子ちゃんの声。
「良い病院が見つかったんだ。良かったじゃん」
「うん、前から気になっていたし、ずっとこのままだったらどうしようかと思ってたから……」と、Y子ちゃんの声はすごくうれしそうだった。
「チャッチャッと切除してもらった後は、快適な生活を送れるよ」
彼女たちの会話を聞いた私も、心から良かったと思ったの。
だから、私は振り向いてY子ちゃんに言ったの。
「Y子ちゃん、ついにワキガ手術受けるのね。手術は大変だろうけど、頑張ってね」
私はY子ちゃんを励ましたつもりだった。
でも、Y子ちゃんは瞬時に凍りつき、真っ赤になった。
人間の顔って、ここまで真っ赤になるんだと思うほどに真っ赤になったの。
そして、顔を覆ったY子ちゃんは泣き出した。
周りの女の子たちも慌て出した。
Y子ちゃんが、ヒック、ウグッとしゃくりあげながら言う。
「わ、私っ、ワキガだったの? 皆に、ず、ずっと……臭いって思われていたの……っ……?」
何とも言えない空気が周りに漂い、彼女の友人たちは泣き続けるY子ちゃんを慰める派と私に厳しい視線を向ける派に分かれてしまった。
私は後者の一人に「ちょっと、矢羅さん」と腕を掴まれ、廊下へと連れ出されてしまったの。
「あのね、Y子が受けるのは背中に出来ている粉瘤を切除する手術なのよ」
「ふ、粉瘤? だって、『前から気になっていた』と『切除』という言葉から、私はてっきりアポクリン汗腺を切除するワキガの手術だと思って……だって、気づいていたでしょう?」
さらに厳しい視線というか、憎しみすら含まれている視線が私に突き刺さってきた。
「……確かに気づいていたわよ。でも、生まれつきの体質によるものだし、すごくデリケートな問題じゃない。いくら友だちでも言えないわよ。それに……一緒にいることすら耐えられない程のレベルじゃなかったし、時折、少し気になるかなって程度だったから」
彼女の言葉を聞いた私は考えたの。
Y子ちゃんを泣かせてしまったのは確かに悪かったと思う。
けれども、結果的に私の言葉はY子ちゃんを救うことになったのではないかと考えずにはいられなかった。
「今日がY子ちゃんの人生の転機になったかもしれない……だって、誰かが言ってあげなかったら、Y子ちゃんはずっと自分のワキガに気づかないまま就職活動とかに入っちゃったでしょ。やっぱり、体の臭いはしないにこしたことないと思うの。Y子ちゃんだって、結果的に私に感謝するはずよ」
「……感謝するかしないのかを決めるのはY子自身よ。現に今、Y子は傷ついて泣きじゃくっている。それがすべてよ。もともとナイーブな子だし、あの様子じゃ、もう大学にも来れなくなるかもしれない」
「そんな……私は友だちを励ましたつもりだったのに。悪意なんて微塵もなかったの」
「……あのね、矢羅さん。前から言おうと思ったんだけど、Y子も含めて、私たちのグループとあなたには、そんなに親しい関係ではないわよね? もちろん、同じ大学の人として挨拶はされたら返すけど、それだけよ。……なのに、今日だって私たちの会話を盗み聞ぎしたばかりか、ズカズカと入り込んで掻きまわして……あなたって狂風よりも迷惑で怖い人ね!」
(完)
【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日2025年2月16日に急遽お届けいたしました前作「褒めたつもりだったのに」と本作「励ましたつもりだったのに」の表のテーマは「失言」ですが、裏のテーマは「関係性」となります。
言ってしまった言葉や言われてしまった言葉も、相手との関係性や状況、または相手の性格によってはまた違った捉え方ができるかもしれない。
しかし、二作ともそうではなかったがゆえの悲劇でありました。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる