高次元世界で生きていく

エポレジ

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第2章 地下世界

14話 がんばるしかない

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「なるほど、その大川先輩という方にクリスタルを騙し取られたのですね」

 B2の大広間。その隅っこで泣き崩れる俺を、雪夜はよしよしと慰めてくれた。

「悔しい……許さねえ……!! 大川はずっと計画してたんだ……無知な新入生がやってくるのを、ハイエナのように待ち構えて……!」

 辺りを見回すと、たくさんの先輩が新入生に声を掛けている。どいつもこいつもハイエナ。新入生からクリスタルを騙し盗ろうとしているんだ。

 今すぐ叫んで阻止してやろうかと思ったが、そんなことしても俺のクリスタルが戻ってくるわけでもない。馬鹿は俺と同じ思いをすればいいんだ。いや、むしろ一人でも多くこうなってくれ。

「雪夜も先へ行ったらどうだ。こんなとこにいても、クリスタルはゲットできないぞ」

「糸はどうするんですの?」

「俺はもう失うものはないからな、間抜けなやつのクリスタルでも狙うよ。でも、雪夜にそんなクソなとこ見られたくないし、行ってくれ」

「ええ。貴方が強盗するようなところは見たくありません。ですので、しっかりと見張っておきます」

「やめろよ。3つのクリスタルを集めて脱出しないと、何年も地下に閉じ込められることになるんだぞ! これは遊びじゃない、すでに勝負は始まっているんだ! たとえ相手を蹴落としてでも早く外へ……!!」

 ガシッ

「とにかく落ち着きなさい。正しくない方法でここから脱出してしまうと今後の人生に響きますわ。心にモヤモヤが残るくらいであればまだ救いようはありますが、盗みが当たり前だと思ってしまうと人道に反する腐った人間になってしまいますわよ」

「外に出た時、人道に反する人間に……」

 俺は桐山に財布を盗まれたことを思い出した。
 もしかしたらあいつらは、このゲームで性格が歪んで……。

「そうはなりたくないでしょう? 少なくとも、私は糸にそうなっては欲しくありませんわ。だから、これを差し上げます」

 雪夜は俺にクリスタルを渡した。

「これで貴方が盗まれた分はチャラです。だから、もう他人から奪おうなどという浅はかな考えは決して起こさないでください」

「雪夜……」

「さ、行きましょう。私達の舞台はここではありませんわ」

 雪夜は俺の手を引いて、先へ進む。

 この世には厳密に正しい人間というのは存在しない。でも、雪夜は心に正義を持っていて、少なくとも自分が堂々と誇れる生き方をしている。

 もちろんこのクリスタルは貰ったつもりにはならないけど、持っているだけで雪夜のような白い生き方ができる気がしたから、一先ず借りておくことにした。


 ◇◇◇


 食堂や温泉のあるB2からさらに下へ階段を下ると、まるで地下とは思えない大自然が広がっていた。ここが小さな魔物が潜むフロア、B3。

「空に木に川に。まるで外のようですわね……」

 これも次元を用いた技術なのだろうか。ともかく、薄暗い中で何年も過ごすわけではなくてホッとした。

 ガサッ!! プニョン

「あ! 草むらからスライムが飛び出してきたぞ!」

「魔物ですわね。潰せばいいのでしょうか」

 雪夜がスライムを踏みつける。

 ブニョン!

 しかし、スライムは潰れずに変形した。

「あ……足にまとわりついてきましたわ……!」

 雪夜はまとわりつかれた足を蹴り上げたりするが、スライムは変形するだけで倒せない。

 ジュウゥゥゥゥ!!

 すると青かったスライムは赤く変色し、湯気を出し始めた。

「あ……熱っ……!! 足が焼かれるようですわ!!」

「雪夜!!」

 俺は急いでスライムを剥がそうとした。

「熱っ!?!? なんだこいつ!!」

 このままだと雪夜の足が火傷してしまう。

「そこの新入生! 足を出せ!!」

 バチュンッ!!

 スライムは、突然現れた男の武器による攻撃によって、一撃で倒された。

「足は大丈夫かい」

「はい……ありがとうございます……」

「あのスライムを一撃で……。あの、どうしてそんな簡単に倒せたんですか?」

「美しいお嬢さん。よかったらこの後二人でお茶でもどうかな」

「え、ええ……」

「やっぱり武器ですか? その武器を使えば簡単に倒せるんですか?」

「うっせえな、オトコ!! あのな、俺が毎日毎日考え続けてようやく分かった攻略法を、なんでお前みたいなオトコなんかに教えなくちゃならないんだ! お嬢さんを助けたのは善意だが、そこから先は善意だけで教えれるほど安くねえ。ここにいるやつらは1日でもこの地獄から出るために必死なんだ。どうしても教えてほしけりゃクリスタルを出せ! この乞食が!」

 男は怒鳴ると、興が冷めたように去っていった。
 俺は何も言い返せなかった。

「攻略法……魔物には弱点のようなものがあるのでしょうか?」

「……」

 この日、俺達は1匹も魔物を倒すことはできなかった。


 ◇◇◇


 温泉と夕食を済ませ、個室の前。

「それでは、今日はお疲れさまでした。また明日頑張りましょう。おやすみなさい」

「うん……おやすみ……」

 ガチャ

 雪夜は隣の部屋に入って行く。俺も部屋に入り、ハンモックに横になった。
 そして、一日中モヤモヤしていたことを考えていた。

(……みんなこの地獄から出るために必死なんだ。だからこそ、人間性がはっきり出る。その本質は、ギブアンドテイク。何かをして欲しければ、何かを差し出すしかない。相手が人間である限り、テイクだけをしてくれる都合の良いヒーローなんているわけないんだ……!)

 気づくと俺の体は、ハンモックから飛び起きてB3へ向かっていた。

 タッタッタ!!

(頑張るんだ……! 結局ここから出るためには、自分でなんとかするしかないんだから!)

「うああああああああ!!!!」

 俺は何かを吹っ切り、叫びながら夜の地下世界へ駆けだした。
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