高次元世界で生きていく

エポレジ

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第3章 真実を探す旅 -学園からの追撃者-

28話 トレイン・フリーザー

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「梶谷くん。君は優秀な【エネルギーの次元】の能力者だ。そんな君には是非とも九重を倒してきて欲しい。これを持ちたまえ」

「あの……これってまさか……!」

「『次元のカケラ』だ。それを持っているとマナが増幅され、超能力者のように次元を操作できるようになる。良い報告を期待しているよ」

「はい、理事長。必ずや期待にお応えします」


 ◇◇◇



 ガタンゴトン ガタンゴトン

「それにしても次元計の手がかりはなかなか掴めませんわね」

「次の場所には何か知っている人がいればいいんだけど……。それより電車の個室なんて初めて乗ったよ。節約は良かったのか?」

 俺達は電車の個室を貸し切っていた。
 個室のドアは内から鍵が掛けられる。

「こういう時にお金を使うための節約ですわ。個室なら追跡者も入ってこれませんし安全ですもの」

「それにしても追跡者はどうやって俺達を見つけてるんだろう。GPSは仕込まれてなかったし、あんなに早く見つかるなんて信じられない」

「もしかしたら、次元を用いた何らかの手法で追っているのかもしれませんわね……」

 コンコン

「車内販売です! 美味しいお紅茶はいかがですか?」

 車内販売のお姉さんがワゴンをおして個室のドアをノックする。

「雪夜、車内販売だって。お菓子でも食べようか」

 バッ!!

 雪夜は個室のドアを開けようとした俺を引き止めた。

「糸、目的地に着くまで極力ドアを開けてはいけません。トイレもできるだけ我慢しましょう。誰かに与えられたものを口にするなんて言語道断ですわ。喫茶店のことをもう忘れましたの?」

「そうだった。ごめん……」

 雪夜は追撃者の攻撃を相当警戒しているんだ。俺も迂闊な行動は慎まないと。


 ガタンゴトン ガタンゴトン


 乗車してからしばらく経ったとき、俺達は個室の異変に気付き始めた。

「あの……この個室、冷房が効きすぎていませんか?」

「確かに、さっきからちょっと寒い気が……」

 エアコンのスイッチを探してみたが、見当たらなかった。

「個室にはエアコンがついてないみたいだ。ということは、車内のエアコンが壊れたのか……?」

「いいえ、見てください……ドアの外側に霜がついていますわ。これはこの個室だけの温度が下がっているということです」

「クックック! 今頃気づいたか馬鹿め!!」

「だ、誰だ!?」

 キュッキュッキュッ!!

 ドアの外側の霜を謎の人物が拭う。
 すると、はっきりとドアの向こうに男が立っているのが見えた。

「追撃者か!?」

「クックック! ワイの名前は梶谷。優秀な【エネルギーの次元】の能力者であるッ!」

「この個室に一体何をしたのですか!」

「クックック! ま、今更知ったところで手遅れだし特別に教えてやろう。ワイは個室内の気体の運動エネルギーを外側から少しずつ奪っていったのだ。気体の運動エネルギーとはすなわち温度! この個室の温度はこのまま絶対零度までじわじわと下がり続けるのだ!!」

「手遅れですって? ドアを開けて返り討ちにして差し上げますわ……って、これは!?」

「クックック! ワイに近い場所ほど温度は下がる。つまり、ドアノブや鍵穴は既に氷漬けで動かない!! お前たちがこの個室から逃れる術はもうないのだ!!」

「雪夜! 外側の窓を割るぞ!!」

 バシンッ!!!

「か……堅え……!?」

「ちなみにこの電車の窓の素材は飛行機の窓と同じアクリル! てめえらが赤ちゃんみたいにバンバン叩いたところで壊れねえのさ!! これまでは松蔭の闇のセンサーを恐れてじわじわと攻撃してきたが、もはやその必要は無用! マナのパワー全開だ!!!」

 ヒュオオオ!!!!

「さ……さらに寒く……! 一体、氷点下何度ですの……」ガタガタ

「なんで超能力者でもないただの能力者がこんなことできるんだ……!?」

「クックック! それはこの『次元のカケラ』のおかげさ。『次元のカケラ』は持ち主のマナを増幅させるのだ。したがってワイのような優秀な能力者であれば、あたかも超能力者のように振舞えるというわけだッ!」

 だんだんとドアが霜で覆われ、梶山の顔が見えなくなってくる。
 さらに空気の飽和水蒸気量が小さくなったことで個室内に霧が発生し、俺達の視界を奪った。

「寒い……寒いですわ……」ガタガタ

 氷点下20℃は超えただろうか。雪夜の寒がり方が尋常ではない。

「雪夜……大丈夫か……!?」

「はあ……はあ……」ガタガタ

 氷点下は30℃を下回った。薄着の俺達には既に限界の気温。
 俺達は寄り添ってなんとか暖を取る。

「……糸の傍にいると……なんか暖かいですわ……」

「確かに、俺はそこまで寒くない気が……。……あれ……俺のカバンが暖かいぞ……!」

 俺と雪夜が寄り添ったところに置いてあったのは俺のカバン。そしてその中にあったものは杖だ。

「この杖の周りだけ不思議と暖かい……なんでだ……? でも、これを使えば……」

 俺は杖を握り、思いっきり振ってみた。

 ヒュオンッ!!!!

 その瞬間、あたりの気温が一気に戻った。

「な、なにい!?!? 貴様ら一体何をした!!」

 バタン!!

 梶山はたまらず個室へと入ってきた。

「それは!!? どうして……どうしてお前が『次元の杖』を持っているんだ……!?」

「次元の杖?」

「知らないのか!? 『次元の杖』は高次元世界に3本しかない杖。持ち主のマナを増幅するばかりか持ち主のマナをコピーして蓄え続け、強い能力者が持つと杖自身が次元を左右する力を持つようになる。そんな貴重な物をどうしてお前が持っていて、なぜそれでワイの能力が無効化されたのだ!? まさか……お前のマナは『次元の歪みを修復する』能力を持っているのか……!?」

 次元の歪みを修復するマナを持つ俺と、そのマナを蓄え続けた杖は次元の歪みで下がった気温を打ち消していたというわけだ。

「さあな。まあどうでもいいが、お前は自分の心配をしな」

「ふふふ……よくもあんな寒いサウナに入れてくださいましたわね……」

「ひ……ひい……」

 ボカボカボカボカ!!!!

「ぎゃああああああああ!!!」

「一つ聞かせろ。お前たちはどうやって俺達の居場所を突き止めている」

「へっ、吐くわけねえだろバーカ!! これはいくらボカボカにされても吐かねえ! その代わりに、一つ教えておいてやろう。九重、お前命が狙われるぜ」

「な……なんですって……」

「『次元の杖』は持ち主が死に、その後に初めて杖に触れたものが持ち主になる。言い換えると、持ち主が死ぬまで次の持ち主にはなれないのだ。『次元の杖』の力は強大……理事長どころか高次元世界に存在するあらゆる闇の組織も狙っている。そいつらはなんとしてでもお前を殺し、次元の杖の持ち主になろうとするだろう。フフフ……だからワイがこの事実を広めた瞬間、お前たちは全ての敵から命が狙われるのだ!!」

「そんなことさせませんわ!!」

 個室の外に逃げた梶谷を雪夜が追った。しかし……

「車内販売でーす! お紅茶いかがですか?」

 ドンピシャのタイミングで車内販売がやってきて、逃げられてしまった。

「逃げ足の速いやつですわ……」

「この杖がそんな貴重なものだったなんて……」

 これを機に、俺達の旅はさらに過酷になっていくのだった。
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