喪女の夢のような契約婚。

紫倉 紫

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シーズン3

第五十話後

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 薬膳料理は、素材の味を活かしたあっさり目の味付けで、体に良さそうだ。
 蓮水の健康のため、一品として取りいれたい。
 凡子は、出汁の奥にある風味や旨味を感じとりたくて、食事に集中した。
 食べ終わったとき、泉堂が「気に入ってもらえたようで」と、声をかけてきた。
「ありがとうございます。リピートしたいお店が増えました」
「ゼリー、ジャスミンティーだったね。初めての味だった」
「他にもいろいろと勉強になりました」  
「料理、するんだったね?」
「夕食は、作るようにしてます」
「どんな料理が得意なの?」
 凡子は、顔合わせのために練習した言葉で返した。
 泉堂は「食べてみたいなあ」と言った後、「冗談だよ」とウインクをした。
 泉堂からは、やはりからかわれていると思った。そして、思い出した。
「あっ、いつ……」
 凡子は、「なんでもありません」と俯いた。
 蓮水に、泉堂からランチに誘われたことを伝えていなかった。
「今週、ランチにまた一緒に来られる日、あります?」
「えっ! 毎日でも」
 流石に毎日は面倒なので、「今週は、一日おきでどうですか?」と返した。
「それより、夜、カフェに行く日を先に決めよう」
 今週は泉堂を早めに帰らせると、蓮水が言っていた。蓮水と暮らし始めてからは、フラワーアレンジメントの教室を休んでいる。合気道の練習日以外は、どこでも良い。
 ランチも夜もとなるとなんとなく抵抗感がある。
「木曜日はいかがです?」
「了解」
 約束してしまったことなので、とにかく早く済ませてしまいたい。


 蓮水が夕食を食べに帰ってきた。
 玄関で出迎えをすると、蓮水は開口一番「泉堂とランチに行ったんだってな」と、言った。
「はい……次、ランチをご一緒するのは水曜日、夜、カフェに行くのは木曜日の予定です」
「泉堂から聞いた」
「さすが、樹さんの補佐役です。報連相が徹底してらっしゃる」
 蓮水が「泉堂からの報告は、おかしい。プライベートなのに」と、無表情で返してきた。
 狼狽える凡子を気にもとめず、中に入っていく。凡子は慌てて後を追った。
 昼間食べた炊き込みご飯が美味しかったので、急遽予定を変えた。ホタルイカは失敗すると生臭くなりかねない。無難な、鶏胸肉と大根の炊き込みご飯にした。油揚げも入れてみた。
 蓮水が帰ってくる前に味見をしてみたが、なかなか美味しく炊き上がった。
 早速、食卓に料理を並べた。
「今夜は炊き込みご飯なんです。樹さんは、お焦げは食べられます?」
「炊き込みご飯か、楽しみだ。もちろんお焦げも食べたい」
 凡子は笑顔で「かしこまりました」と言い残し、キッチンへと足早に向かった。
 茶碗に炊き込みご飯をよそった。底の方をしゃもじで擦って、一番上にお焦げをのせた。
 凡子は茶碗に鼻を近づけて、息を吸い込んだ。
 香ばしい。
 蓮水もきっと喜んでくれると思い、急いでダイニングに戻った。

 凡子はワクワクしながら食卓についた。蓮水は「いただきます」と手を合わせたあと、箸を持つ。
 まず、味噌汁から口をつけた。凡子は、蓮水の様子をじっと見ていた。
「なみこは食べないのか?」
「あっ、食べます。いただきます」
 凡子も味噌汁から食べ始めた。アオサをふんだんに入れてある。汁を一口啜ったあと、箸でアオサを摘んで口に運んだ。
――美味しい。
 蓮水は炊き込みご飯を食べている。凡子は、蓮水の感想が気になって仕方ない。
 蓮水が視線をあげ、目が合った。期待に胸を膨らませながら、言葉を待つ。
 蓮水が、微笑みながら俯いて「とても美味しいよ」と言った。
「落ち着いて食べたいから、あまり見ないでくれ」
 たしかに、凡子も蓮水から見つめられたら、味がわからなくなるほど緊張してしまう。
「気をつけます」
 そう言いながらも、蓮水の反応が気になり、凡子はチラチラと視線を向けてしまう。
「心配しなくても、全部美味しいよ」と、少し呆れた顔をした。
 蓮水は食べ終わり「今日は遅くなりそうだ。なみこの鍵を貸してくれないか? 先に寝ておいてもらえるだろう」と、言った。
「先に寝るなんて……お待ちします」
「ありがとう。だが今日は、残れるだけ残りたいんだ」
 凡子は受け入れた。
 部屋から鍵を取ってきて蓮水に渡した。
「あと、なみこに確認しておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「泉堂に、俺と頻繁に会っている印象を与えてないか?」
「まさか、そんな! バレるようなことは……」
 つい、『樹さん』と言いかけたことを思い出した。

「樹さんと言いかけたときは、ちゃんと誤魔化せました」
「なんと言って、誤魔化した?」
「いつもクールな蓮水さん……と……」
 蓮水は「うーん」と言いながら腕組みした。凡子としては上手く誤魔化せた気でいたが、問題があったようだ。
「気をつけていたんですが……」
「何度ともなると話は変わるが、一度だけなら誤魔化せているはずだ。それに、俺も、泉堂の前で、なみこと呼びかねない」
「それは、まずいですね……」
 泉堂とランチに行く日には気を引き締める必要がある。
「えっと、泉堂さんとのランチに同席するのやめません?」
「それはダメだ。泉堂がなみこを気にする意図を知りたいからな」
――面白がられてる気が……。
 蓮水が何を気にしているのかはわからない。一度一緒にランチに行けば、納得するだろう。
 明日は、夜も外で食べると言い残して、蓮水は仕事に戻っていった。
 蓮水から先に寝るようにと言われていたので、凡子はシャワーで汗を流してすぐ、ベッドに横になった。
『五十嵐室長はテクニシャン』のお気に入りエピソードを読み返そうと、投稿サイトにアクセスした。
 途端に、和人の顔が思い浮かんだ。
 思わずニヤついてしまう。
 和人を思い出すだけでときめきはするが『恋』ではないと思っていた。
 それより凡子は、水曜日のランチの約束が気がかりだった。
 泉堂のいる場で蓮水を前にして、どんな表情をすれば怪しまれずにすむのか。
 ミスをすれば、泉堂に、蓮水との関係を疑われてしまう。
 

 
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