感じさせて……。

紫倉 紫

文字の大きさ
5 / 157
ゆめ1

しおりを挟む
 数日後、また先生に呼び出された。
「ああ、まず、誓約書にサインをしてもらおう」
 先生から、クリップボードとペンを渡される。
 一切の他言は許されないなど、印字されていた。
「期間は、内藤君がこちらに戻るまででよいかな? 君もいない間寂しいだろうし、ちょうどよいと思うがどうだろう」
「一年ほどですか」
 先生が頷いた。
「長くても三年だろう」
 承諾した。その間で先生に振り向いてもらえるかもしれない。
「誓約書の内容を破った場合、君と内藤君の、研究者としての道は断たれる。わかってるね」
 内藤さんがどうなろうと知らないが、わたしは研究を続けたい。先生の側で。先生は誓約書をしまうといって、わたしから見えない場所へいった。
 鍵をあけたのが音でわかった。金属のすれる耳障りな音が聞こえる。
 先生はすぐに戻ってきた。
「まだ、奥村君が来ていない」
 何が始まるか全然わからない。
 奥村さんとは、研究所内でわたしが一番苦手な奥村さんだろうか。
 滅多に会わないが、会う度にわたしを睨む。
 背が高くてやせてて、眼鏡をかけてて、病人みたいに色が白い。
「奥村君には記録係を頼んである。まず、彼の検査を受けてもらうよ」
 ――検査って……一体どんな?
 不安が増す。
 ノックがきこえた。奥村さんが来てしまったらしい。
「お待たせしました」
 低い声を聞いて、気分まで暗くなる。
 先生は「早速始めてください」と、奥村さんに声をかけた。
「わかりました」

 教授に言われ、いつも先生が座っている場所より奥へすすんだ。
 本棚で見えない位置に、シングルベッドがあった。てっきり、そこにも本棚が立っているのかと思っていた。
「仮眠につかっているんだが、実験にちょうど良かった」
 ベッドに、あがるように言われた。奥村さんがベッドに近づいてくる。
「後で、奥村君から報告をお願いする」
 教授は、奥村さんとわたしをその場に残して去って行った。
――そんな……。先生とたくさん過ごせると思って、引き受けたのに……。
 奥村さんに名前を呼ばれた。顔をあげると、見下すような視線と目が合う。
「引き受けるとは思わなかった」
 口の端を片方だけひねりあげて、奥村さんが笑う。
「まあ、あの人を待たすとやっかいだから、さっさと下着を脱いで」
 ここで、下着を脱ぐなんて、できるわけがない。頭の中でぐるぐると疑問符が回る。
 わたしは微塵も動けずいた。
 奥村さんの舌打ちが聞こえた。
「お前、出世のために引き受けたんだろう。今さらもたもたすると機嫌を損ねるぞ」
 わたしは頭を横にふった。
「先生のお役にたちたかっただけで……」
 本当は近づきたかっただけ。
「まさか、内容を知らないのか?」
 ほとんど知らないから、頷いた。
 奥村さんは、ため息をついた後、しばらく黙っていた。
「内容を知らない方が、純粋な結果が得られるかもな」
 鋭い目で見据えられる。
「研究者としての将来は何より大事だよな?」
 何よりもと言われるとわからない。だけど、先生から嫌われるのは困る。
「ここでされることに、一切抵抗しないこと。俺からできるアドバイスはそれだけだ」
 頷けない。
「まあいい。俺は俺の役目を果たす。さっさと脱げ」
「それはできません」
「そんなこともできないなら、実験からおりろ。俺から伝えとく」
 それは困る。
「わかりました」 
 先生は一体、なんの実験をするつもり?
「向こうを向いてください」
 奥村さんはだめだという。
「俺は記録係だ。計測器だと思うようにしろ」
 そんな風に、思えるはずがない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...