感じさせて……。

紫倉 紫

文字の大きさ
8 / 157
うつつ2

しおりを挟む
「僕よりは早く帰れると思うしね」
 いくら幼なじみでも一応は歳の近い男女だ。
「あなたは、それでいいんですか?」
 思わず聞いてしまった。
「それでとは?」
「いえ、何でもありません」
 ひかりは、和明に表情をうかがわれていることに耐えられず、下を向いた。
「ああ、家賃や食費かあ……僕は、構わないと思っていたけど、家計を守っているのは君だしね。悪いがその辺りは二人の間で取り決めてもらえるかな」
 和明の用事はすんだらしく、それ以上は何も話さなくなった。          
 和明が、亮をこの家に住まわす理由についてあれこれ思案したが、研究のためではないかという結論にいたった。でなければ、意味がわからない。
 和明は浮世離れしているが、一応は、ひかりと男女の関係になれたのだ。まさか、世の男性が等しく自分のように淡白であると思い込んではいないだろう。亮とは、幼馴染でしかない。しかし、幼い頃ならまだしも、大人になってからは一つ屋根の下で寝泊まりしたことはない。
 男性の衝動が、女性の比ではないことは、知識としてある。何も起きないとは言いきれない。
 和明は食事を終えたあと、書斎にこもった。

 翌日、和明はいつも通り大学へでかけた。ひかりは家事を終え、WEB小説を読み進むことにした。集中力にかけ、頭に入ってこない。
 先がわかりやすい展開でも、一応は気になる。しかし、主人公の女性研究員がバカにしか思えない。
 研究のしすぎで、ああいう人たちは感覚がおかしくなっているのだろうか。
 和明も似たようなものだ。意外にそれがリアルなのかもしれない。
 やはり、部屋を貸すのをないことにしてほしい。今夜にでも和明に頼んでみることにした。理由を問われたらなんと返そう。一緒に暮らすのはおかしいと、思ったままを伝えてもいいだろうか。
 名案は思いつかないまま、夕方になった。珍しく和明から電話が入った。何事かと思いながら出る。
――喜多川君が来てるんだ。僕はまだ帰れないから迎えに来てやってくれないか。
 昨日の今日でなぜ京都にいるのか。
「家に呼ぶんですか?」
――早くなれてもらった方がいいだろう?
 良いわけがない。
「突然すぎます。寝具も用意できてません」
――寝具は僕のを使ってもらえばいい。彼の話がもっと聞きたいんだ。
 何を言っても変更は無理だと諦めた。
「食事は家でとりますか?」
 和明はできるだけ早く切り上げて帰ると言った。
 亮と会うこと自体が久しぶりで、いきなり、家に泊めることになるとは思わなかった。
 途端に、苦痛になってくる。
 ひかりは引きこもりがちなせいで、変化に対する耐性が弱くなっている。
 大学に着いたら電話をいれるように言われた。
 服を、着替えなければならない。和明の上司や同僚に会うかもしれない。気合が入っていると思われない程度に、きちんとした服装を選ぼうと決めた。クローゼットをあけて、中をみた。これだと思える服がない。
 家からは五分ほどしか離れていない。あまり待たせると、変に思われる。
 ひかりは大人しめのワンピースに着替えた。どうせロングコートに隠れると気づいた。
 正門前につき、電話をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...