感じさせて……。

紫倉 紫

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ゆめ4

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 時間もあったので、ミートソースを作った。奥村さんは炭水化物を多めにとりたいと言っていたが、どのくらいの量を考えているのかわからない。
 多めに作っておいて、余ったら、冷凍しておけばいい。
 パスタを多めに湯がこう。
 奥村さんに大学を出るときに電話をくれるよう頼んでおいた。
 そこから、お湯を沸かして茹で上がる頃には、奥村さんも着替えてちょうど食卓につけるはず。
 ドレッシングを作って冷やしておく。
 オリーブオイルとバルサミコ酢、ハーブソルトを配合していく。
 味見のできる実験は料理だけ。楽しい。
 細かく刻んだパプリカを加えれば完成。
 あっという間に時間が過ぎて、奥村さんから電話が入った。
 パスタをゆでる際に塩を入れるのは、水の沸点をあげるためだとまことしやかに言っているテレビをみたことがある。
 沸点を上げるためにどれだけの塩が必要か知らないから、適当なことを言う。
 一度、条件をかえて実験をしたことがある。
 そもそも、塩は必要かということを含めて検証した。
 私の出した結論は『必要』だった。
 単なる下味ではない。
 昔の人は、知識もなく浸透圧の関係に気づいたのかもしれない。
 予想した時間通りに奥村さんは帰ってきた。
 玄関の方をのぞきにいった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 奥村さんが一瞬、動きをとめた。私は挨拶を間違ったのかと考える。
「お疲れ様でした」
「ああ」
 これは多分正解。
「着替えたら、すぐに食べられますよ」
 時間が時間なだけに、おなかをすかせているだろう。
 私は、キッチンに戻り、沸騰している湯に乾いたパスタをいれる。
 細めのなので、油断するとアルデンテでなくなる。
 奥村さんが着替えて出てきた。
 自分の分のパスタをみせる。
「どのくらい食べられます?」
 奥村さんはちらっとこちらに視線をむけて「倍くらい」と言って、手を洗いにいった。
 多めにゆでておいて良かった。
 食卓に料理を並べたのはいいが、フォークの場所がわからなかった。
 奥村さんが戻ってきたので訊く。
「使わないからなあ」
 キッチンに入ってくる。引き出しを開けて探している。
「言われてみると、箸とは、一緒になかったなあ」
「今夜は、お箸でいいですか? 今度探します」
「なにで食べても味は変わらんだろ」
 私は頷いた。パスタがのびることの方が大問題だ。
  とにかく食べ始める。
「このくらい炭水化物をとっておかないと頭がまわらない」
 奥村さんは満足げだ。
「ところで、明日は、5時前に起きてくださいね」
 先に起きるなと言われたので、忘れないうちに頼んでおくことにした。
「5時とは、朝の5時か?」
 当たり前だ。
「無理だ」
「じゃあ、お弁当が作れません」
 奥村さんが眉根を寄せて真剣に何か考え込んだ。
「つくるのにどれくらいかかる?」
「実質は、20分から30分ほどです」
「わかった。できあがった後、また少し寝たらいい」
 私は首を横にふる。そんなのは無駄だ。
「目が覚めたとき……」
 奥村さんが黙る。
「なんですか?」
「理由なんかどうでもいいだろ。ここは俺の家なんだから、俺の言うとおりにしたらいいんだ」
 そんなの横暴。でも逆らうのも面倒。
「わかりました」
 そう返したけれど、明日の朝、実行する気はない。
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