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3章 怪しすぎる言い伝えと疑惑のD級冒険者
41話 ンギャギャさんの言うとおりですね!!
しおりを挟む「あーよいしょっどっこいせっ!」
「どっこいせ……」
「よいよいよいよいやー! わっしょいわっしょい!!」
「……わっしょいわっしょい……」
ある夜、村人達は火を囲み偉大なる英雄を讃えていた。
その輪の中にはセオドアの姿もある。もっとも、本人はいやいややっている事は丸分かりだが、やってきた英雄に湧く村人たちはそんな事気にしていない。
「いつまで続くんだ、これ」
事の始まりは、レオンハルトだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やーっと、ノルベク領だぞ! 長かったな!」
グスカンが腕を広げて、清々しく言った。
「一番栄えている所の前にいくつか村があるらしいです」
レオンハルトが地図を指差す。
「ならば、今日はそこに泊まるか」
「わかりました!」
リリアンヌが元気に答える。
グスカンがリリアンヌの背負う背嚢を確認した。
「スラ子とうさのすけはそこに隠れてろよ……。
ンギャギャは手筈通りだな!」
「旅の間に見つけた異国の無口な少数民族ですね!」
「ギャ」
「気にするな、言葉はゆっくり覚えていけばいい」
ンギャギャの成長速度には目を見張るものがあった。
セオドア達も、声だけでなんとなく気持ちが伝わるようになった。
「よしっ! 行くぞー!」
五人は歩き始めた。
「風が強いな」
叩きつけるような風が吹く。リリアンヌなどは、吹き飛ばされそうになっていた。
「リリ、大丈夫か? 掴まれ」
セオドアが腕を差し出す。
「は、はいっ! ありがとうございます……!」
赤くなったリリアンヌがセオドアの腕に掴まり、なんとかバランスを保つ。
「ギャッ」
ンギャギャがさり気なく、リリアンヌの盾になるように立つ。
「どうしたんでしょうか……急に強くなりましたね……!」
「魔力を感じねえから自然のモンだろ! 怪我すんなよ!」
グスカンが風に負けないように大きな声で答える。
「よし! 近いぞ! 歩け!」
村はすぐそこにあった。風さえ吹いていなければ、気にもならない距離だっただろう。
「よし、じゃあおじゃましまーす! 旅の者ですが一晩留めていただけないでしょうかー?」
グスカンが村の柵で声を張り上げる。家のようなものは見えるのだが、人が一人も見あたらない。
セオドアの目の端で何かが光った。
「避けろっ!」
リリアンヌをしゃがませ、光った方に風の刃を飛ばす。
矢は真っ直ぐにグスカンを狙った。しかしこの日は風が強かった。
微妙にずれた矢は、グスカンを逸れてレオンハルトに向かってゆく。
「レオンハルトっ!」
頭に刺さってしまった。レオンハルトがよろける。
「うーん、矢?」
常人ならば、ここで死んでしまうだろう。しかし“守護者の愛”を持つレオンハルトには無効だったようだ。
ヘラっとした表情で落ちた矢を掴む。
「ふう……そうだったな、お前は丈夫だったな。心配して損した」
「え? 心配してくれたんですか⁉」
「黙れ」
レオンハルトが顔を輝かせた。グスカンが呆れる。
「殺されかけた奴とは思えん反応だな……ま、無事でなにより」
「それより、この矢はなんですか……?」
リリアンヌが怯えたように言った。彼女にとって、この経験は衝撃的だったらしい。
「そうだな……おい、姿を見せろ! 村人か?」
すると、そこからゴソゴソと複数の男が現れた。
一人が、走り寄ってレオンハルトを拝む。
「英雄様! とうとう我々を救いに来てくださったのですね!!」
「えっと、僕は英雄ではなく勇者なのですが……? そもそもなんで僕?
師匠じゃなくて?」
戸惑い、後さずるレオンハルト。セオドアも驚きを隠せない。
「おい、どういう事だ」
睨みつけるように言うと、村人がセオドアをチラリと見た。
「英雄様の従者か? ささ、英雄様こちらに。この者たちは置いてゆきましょう」
「違います師匠です! それに置いていしませんよ! 一緒に村に入れてくださいっ!」
「なんと! 慎み深い!……おい、英雄様のお許しのもとここにいる事ができるんだからな。変な真似するなよ」
男の目は不信感たっぷりだ。いつの間にか出てきた他の男達に囲まれる。
「扱いの差ひでーな」
「村長に伝えないと! 英雄様! こちらです!」
男について行くと、家々から他の村人が出てきた。
「英雄様だ! 英雄様が到着したぞ!!」
「金髪の英雄様だ!」
「子供たちよ、わしの見えぬ目の代わりによく見ておくれ」
「英雄様、あたしたちみたいな服を着てるの。でも、大草原みたいな美しい金髪でまるで神様みたい!」
「その者、金色の髪を持つ不死身の者なり、大風の日に現れてこの地を救うべし……。
古き言い伝えは本当じゃった!」
村人の歓迎しようもすごかった。
「宴じゃー! 祭りじゃー!」
セオドア達が、質問をする間も無いほど勢い良く、謎の儀式は始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おんどりゃっせー! おんどりゃっせー! なんじゃこのやろー!」
「ナンジャコノヤロー」
(あーーー。面倒だ)
もう四刻はこのままだ。焚き火を背後にした高床式の台に乗ったレオンハルトをぐるぐる囲む儀式は、終わりを見せない。
未だに、誰も自体を把握できていなかった。レオンハルトも放心状態なのか無表情である。
リリアンヌなどは寝てしまい、ンギャギャとグスカンが見ている。
セオドアは儀式から離れる事を許されなかった。
「何事だ」
もう逃げてやろうかとセオドアが思い始めたとき、厳つい声が耳に入った。
大して大声では無いのに、よく響く。
「ナスウードか! なんと英雄様が来られたのだ!」
村人の一人が、興奮して男に駆け寄った。
もう辺りは暗く、男の顔は見えない。
「そうか、あの金髪か……客人に事情は伝えたのか?」
男がのしのしと歩いてきた。火の光が当たり、やっと顔が把握できる。
「黒エルフ……?」
浅黒い肌に漆黒の髪、そして特徴的な笹耳。紛れもなく黒エルフだった。
「いや、まだだが」
「……何をやっている。彼らも大分困っているだろう。見ろ、この死んだ目を」
黒エルフが、セオドアを指差した。しかしセオドアの目は昔から死んでいる。
「……やっと、常識的な奴がきた」
「もう休ませてやれ。我が庵を使うといい。我はナスウード・スペッホルドという」
「俺はセオドア。あの金髪はレオンハルト、赤毛はグスカン。子供はリリアンヌで顔が見えないのはンギャギャだ。
宿の件、感謝する」
面倒なので全員の名を伝える。
「わかった。セオドア、付いてこい」
ナスウードが歩き始めた。
「レオンハルト、来い」
「はいっ!」
レオンハルトが嬉しそうな顔をして、台から飛び降り、それからノータイムで走り寄る。
先程までの無表情が嘘のようだ。
「……人間とは思えん身体能力だな。彼はまだ若いのに……
有能な戦士になるだろう」
「レオンハルトはちょっと事情があってな……まあいい。あとで話す。
お前も色々教えてくれ」
「あいわかった」
「済まねえな、世話になっちまってよ」
「……キャ」
リリアンヌを背負ったンギャギャとグスカンが礼を言う。
「問題ない……ここが我が庵だ」
みんな一安心していた。
──謎の生物にセオドアとレオンハルトが押し倒されるまでは。
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