生きてみたところで

滝本潤

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第3話~古琴之友

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「光一!いい加減に起きなさい!今日は、夏祭りの日よ!」
 母に無理やり起こされた僕は、寝ぐせだらけの髪の毛を気にしながら一階の洗面所に向かった。
「夏祭り?またクソつまんねえんだろう……」
 顔を洗った僕は、お尻をボリボリと掻きながら、朝食が並べられている食卓の座椅子に座り込んだ。ご飯と納豆、えぼ鯛の干物、豆腐とわかめの味噌汁。何気に僕は、和食党だし、何より母の作る料理は、いつだってとても美味しかった。

「髪の毛くらいとかしなさい。髭も後で剃るのよ!」
「分かってるよ!」
 僕は、マッハで朝食を完食して、冷たい麦茶を飲みに台所の冷蔵庫までのそのそと歩いていった。
「楽しみねえ……今夜の夏祭り!」
 母は、暑かったのか?ゴムで後ろ髪を束ねてタオルで首筋を拭いていた。
「楽しくは、無いよ……」
 僕は、麦茶を飲みながら正直な意見を小さな声で呟いた。
「お母さん、四季の中で夏が一番好きだわ……」
 僕の横をすれ違った母の身体からは、形容の仕様の無いとてもいい匂いが漂ってきた。香水でもつけているのか?一瞬変な感覚に襲われた僕は、麦茶をさっさと飲み干して、二階の自分の部屋に上がっていった。


 今でも思う。母は、息子の自分から見ても、こんな田舎町に居ては勿体ないくらいの美人で、艶めかしい色気を常に漂わせていた。アラフォー主婦とは思えない若々しさと未だに誰かと恋愛でもしているかのような輝きを、眩しいくらいに放っていた。

 そして、この日の夜の夏祭りは僕にとって一生忘れられない思い出を脳裏に焼き付ける事になる。


 いよいよ、夏祭りが始まろうとしていた。この日ばかりは町の雰囲気は一変して、まるでそれは、三六四日の退屈と静寂を一気に吐き出すための一日に感じられるほどだった。

「光一、お客さんよ!!」
 祭りが大好きな母は、なんだかとっても嬉しそうで、僕を呼ぶ声もいつもよりトーンが高いような気がした。
「今行くよ~!!」
 部屋でくつろいでタバコを吸っていた僕は、タバコを吸い終わってからゆっくりと階段を降りて玄関に向かった。

「ようっ!久し振りっ!」
「あっ!タケル!!」
 正直、僕は驚いた。この町を出て行ってから殆ど音信不通だった高校生時代の親友のタケルが、今、目の前に元気な姿で立っている事を……
「光一君、久し振り!」
「アカネ!お前も来てくれたのか!!」
 タケルの後ろからアカネが現れた事で、僕はまるで時間が巻き戻されたような感覚に陥り、嬉しさでいっぱいになった。
「まあまあ、二人とも上がって行けよ!」
 僕は、二人を迎え入れて三人で二階の僕の部屋へ入っていった。


「タケル君にアカネちゃん。本当に久し振りよねえ~!!」
 三人分の麦茶とお菓子を持って来た母は、笑顔で二人を歓迎した。
「いやぁ、だけど、東京は何かと大変ですよ!!毎日、生きていくので精一杯です!」
 タケルは、崩していた姿勢を急に正して母に対応した。
「アカネちゃんも……すっかり大人の女性になって!」
 母は、化粧が濃くなってケバくなったアカネの事を、いろいろ事情は僕から聞いて知っているのを隠すように褒めていた。
「え~、ホントですかぁ~?私から言わせれば光一君のお母さんの方が昔から美人で、まるで女優さんみたいって今でもそう思いますよ~!!」
 僕は、アカネのその言葉を聞きながらチラッと母の顔を見上げた。少し頬が赤くなっていて一瞬ドキッとしてしまった。僕は、最近何度も母にそう感じさせられる事が多くなってきたと思いながら運ばれてきた麦茶を少しだけ口にした。


「ところで、光一。久しぶりに三人で、やらねえかい?」
 母が僕の部屋を出て行った後、タケルはこのタイミングで3Pを誘ってきた。
「いや、さすがに……しかもこの部屋じゃ……」
 僕は、やりたくないわけでは無かったが、一応表面的には、やんわりとタケルの誘いを断った。
「タケル!久し振りに光一君に会えたのに変な事言っちゃダメだよ!!」
 アカネは、これまた随分と短いスカートを履いていて座っているせいか?ぶっちゃけパンツが丸見えだった。
「じゃあ、せめて葉っぱでもやりますか?」
 タケル……マジか?お前……僕は、代わり映えのしないタケルに少しだけ呆れてしまった。
「まだマリファナなんてやってんのかよ。やめとけ、やめとけ!!」
 今の僕は、二人に会えただけでとても幸せな気分だったので、その気分を壊されたくなかったのかも知れない。
「お前、まだこの町に居続けるつもりかよ?」
 タケルは何かを企んでいるような、そんな表情、目つきをしていた。
「光一君。急で悪いんだけど……」
 突然アカネが立ち上がって僕にお願いのポーズをしてみせた。
「えっ!何々?」
 驚いた僕は、その時アカネよりもタケルの表情を伺っていた。
「十万円。貸して欲しいの……」
「十万円!?どうして?」
「私、妊娠したの……」
「妊娠!タケルの子供か?」
「まあ、そう言う事で……」
 タケルが、会話に入って来てアカネと同じ様なお願いポーズをとった。
「下ろすのか?」
 僕は、アカネに向き合って穏やかな振りをして問い詰めた。
「だって、まだ私達赤ちゃんなんて。産んでも育てられる自信がないの……」
「ちょっと待ってね!」
 僕は、机の引き出しにしまってあった貯金通帳を取り出した。
「直近の記帳記録だと約一五〇万円。こんな町の寂れたコンビニのバイトでも結構貯まったなぁ……」
「取り敢えず、これが最初で最後という事なら十万円貸せるけど……」
 僕は、そう言って二人の顔を交互に見比べた。
「助かるよ~!!やっぱりお前は、俺達の大切な親友だ!!」
 タケルは、そう言って僕にいきなり抱きついてきた。
「ありがとう。光一君……」
 アカネは、今思うとその時僕に何かを告白したかったのではないか?そんな意味深で複雑な表情を浮かべていた。

「な、やっぱり葉っぱは、最高だろう!?」
 僕が拒み続けたマリファナを、タケルは強引に三人で吸わせる事に何故か?こだわっていた。
「まったく。しょうがないなぁ……」
 僕は、仕方なくタケルから渡されたマリファナを手に取ってライターで火を点けて、どこか懐かしいような感覚を覚えながら次第に酩酊状態にいざなわれていった。
「タケル!あんまり葉っぱを強要するのは良くないよ!!」
 アカネは、自らもマリファナを平然と吸っていながら、タケルによって巻き添えを食ってしまった僕を心配してタケルに一喝した。
「懐かしいなぁ~、高校時代こうやって三人で葉っぱをやったよなぁ~!!」
 タケルは、罪悪感など微塵も見せずにマリファナをしこたま吸っていた。僕は、久し振りに吸ったマリファナが効き過ぎたか?その場に居ながら、正体が無くなりかけていた。


 その後三人は、あの高校生時代のようにセックスをした。アカネが、やけに興奮してしまっていた。

「ああ、こりゃあ母さんに丸聞こえだなぁ……」
 僕は、マリファナといい、今行っている性行為といい、母には、バレバレだろうと、もう諦めていた。タケルとアカネが性行為の後、またマリファナを吸っている間に、僕はお気に入りの「デイドリーム・ビリーバー」をリピート再生で部屋中に響き渡るくらいの音量で流し続けた。

 
日が暮れて、僕とタケルとアカネは町の郵便局に向かった。さっき取引した二人の間に出来た赤ちゃんを下ろすための十万円をATMから引き出さねばならなかったからだ。

「はい、きっちり十万円!ちゃんと確認してね!」
 僕は、よくも潔く二人に十万円も渡したのだと後になって思ったが、この時は二人に久し振りに会えたのが相当嬉しかったのだと思う。



「光一~!!」
 鮮やかな浴衣姿に身を包んだ母が夏祭りの会場に現れた。周囲にいた人達は、この会場の中で一際ひときわ輝くような美しさを放っている母の浴衣姿に羨望せんぼうの眼差しを向けていた。
「うわ~、やっぱり光一のお母さん、綺麗~!!」
 アカネは、そう言ってから手を振って母の元へ走っていった。
「ホントに光一の母さんは、こんな町に置いておくのは勿体ねえなぁ!!」
 タケルが、露店で買った生ビールを飲みながらそんな事を言っていた。


 祭りはかなり盛り上がっていた。意外とこんなにも沢山この町に人が住んでいるのだと、僕はよくわからないけど感心してしまっていた。

「田中先輩~!!」
 どこかで聞いたような……いや、出来れば聞きたくなかったような女の子の声が確かに僕の耳に突き刺さるように響いた。
「田中先輩!!この前は、自転車で送って下さってありがとうございました!!」
 谷 有希子。この前、屈辱を味わされたコンビニエンスストアのバイトの後輩だ。
「何してるんですかぁ~、こんな所で……」
 何してるもしてないも、このシチュエーションで夏祭りに遊びに来ている以外何の理由があるんだよ……
「まあ、何となくね……」
「何となく?」
 谷 有希子は、露出の高い服装でそれなりに可愛かったけれども、相変わらずの無神経さは、この日も健在のようだった。
「わたあめ食べたいなぁ~!!」
 食べたいなぁ~、じゃねえんだよ!食べたきゃ自分で買ってくれば良かろうに。
「先輩!!わたあめ買ってきてくださいよ~!!」
 僕の嫌な予感は大的中だった。この女め。たかが、わたあめ一つすら僕に買わせるつもりなのかぁ……?
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