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1~初犯
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ここから見える景色は、僕の人生の最後を飾るには持って来いの様な気がした。殺風景だけど吹き抜ける風は少しだけ暖かい。その僅かな温もりが、僕の全身を包み込み、これから旅立っていくであろうまだ見ぬ世界への恐怖心すら緩和してくれている気がした。
僕は、ついさっき、実の母親を殺してしまった。母親の作ってくれたお昼ご飯のオムライスが、僕の口には合わなかった。オムライスにかけられていたトマトケチャップを見た瞬間、僕の全身の血液が逆流するような感じに襲われた。僕は、母親にオムライスを作り直すように忠告した。けれども母親は、それを拒んだ。当たり前の事だろう。憤怒の感情に包まれた僕は、自分の目の前に置かれていたオムライスを約二十秒で貪るように完食した。
「どうしたの?あなた、様子が変よ!?」
母親は、ケチャップ塗れになった僕の顔を凝視しながら冷めた目つきで僕を侮蔑した。そうでは無かったかもしれないけど僕には、そうとしか思えなかった。
「……ごちそうさま」
僕は、コップに注がれていた麦茶を一気に飲み干して自分の部屋に戻るために席を立った。
「悠人!お母さんの作ったオムライスのどこが気に入れなかったの!?教えてよ!」
母親の言葉を聞きながら僕は何も答えずに自分の部屋に入って内鍵をかけた。
僕の怒りは、時間を追うごとに増していき、遂には、あのオムライスを作った張本人である母親を殺す決意を固めた。時刻は、午後の十二時五十五分。
母親の作ったオムライスは、決して失敗作では無かった。チキンライスの味付けもちょうどよかった。卵は、少し半熟でとろみがあって、それでいてふんわりとしていた。そう、レストランで客に出しても遜色のない完璧な仕上がりだった。では何故?僕は、そのオムライスが気に入らなかったのか?答えは簡単だ。卵の上に何の芸術性も無い姿で乗っかっていたトマトケチャップだ。とは言え、僕はトマトケチャップ自体は大好きだ。例えばスパゲッティナポリタンの味付けにトマトケチャップを使う事に関しては、何の異論もない。しかしだ!今日のオムライスに乗っかっていたトマトケチャップは、妙に自己主張が過ぎていた。主役であるオムライスの上にその下品極まりない醜態を晒して激しく自己主張を続けていた。
午後一時三十五分。
僕は、昼寝をしていた母親の傍に近づいた。
「母さん、苦しめないで殺してやるよ……」
僕は、寝ている母親の首筋を何の迷いもなくナイフで切り裂いた。
午後一時五十三分。
僕は、息絶えた母親の遺体を見つめながら静かに微笑んだ。
「今まで育ててくれて、ありがとう……」
僕は、母の瞼を右手でそっと閉ざして一分間黙祷した。
午後二時四十分。
僕は、台所でフライパンを振るってチキンライスを作っていた。母親にオムライスを作ってあげるためだ。手早くオムライスを作った僕は、動かなくなっていた母親の遺体に近づいて首筋から大量に流れ出ていた血液をオムライスに満遍なく回しかけた。
「じゃあね。母さん。もう行くよ……」
僕は、自分の部屋に戻って着替えを済ませて外出する準備を始めた。
午後三時十二分。
僕は、家の固定電話から警察に電話をかけた。
「さっき、母親を殺しました。直ぐに来てください。住所は……」
それだけ言って僕は電話を切った。もうすぐ警察がやって来る。僕は、妙に健やかな気分で家を出た。
この後、僕は自殺した。いや、正確には自殺ではない。僕は、自ら命を絶つような真似は絶対にしない。フェイクだ!それは、とても恐ろしい事件へと発展していくのだが、まだこの当時は、母殺しの息子が、自責の念に堪え切れずに自害したという結末で警察も世間一般、も認識していた。実際は、そんなんじゃあない。
「これから、ゲームが始まる……」
僕は、そう呟いて密やかに街の裏路地をゆっくりと歩いていた。
午後五時十三分。
母親のへそくりの場所を知っていた僕は、金を全額持ち逃げしていた。
「当面の逃走資金には、充分だろう。僕は、絶対に捕まらない……」
この日から僕は、母殺しの罪の十字架を背負って数百日に及ぶ逃走劇を繰り広げる事になる。アホな警察も僕のトリックに気が付けば、僕を追ってくるだろう。取り敢えず僕は、腹ごなしに飯を食う事にした。
午後六時二十分。
裏路地の寂れた寿司屋に入った。
「いらっしゃい!!」
寿司屋の店内は、誰一人として客が居なかった。僕は、迷わずカウンター席に座った。
「お任せで。適当に握って下さい!」
僕は、そう言って寿司屋の大将の顔を見つめた。初老の人の良さそうな男性だった。
「はいよっ!お任せですね!お待ちください!」
大将は、そう言って何だかとても嬉しそうに寿司を握り始めた。店内には、小さなテレビが置いてあった。ニュース番組が流れていた。僕は、寿司を待つ間そのニュース番組を何気なく見ていた。
僕は、ついさっき、実の母親を殺してしまった。母親の作ってくれたお昼ご飯のオムライスが、僕の口には合わなかった。オムライスにかけられていたトマトケチャップを見た瞬間、僕の全身の血液が逆流するような感じに襲われた。僕は、母親にオムライスを作り直すように忠告した。けれども母親は、それを拒んだ。当たり前の事だろう。憤怒の感情に包まれた僕は、自分の目の前に置かれていたオムライスを約二十秒で貪るように完食した。
「どうしたの?あなた、様子が変よ!?」
母親は、ケチャップ塗れになった僕の顔を凝視しながら冷めた目つきで僕を侮蔑した。そうでは無かったかもしれないけど僕には、そうとしか思えなかった。
「……ごちそうさま」
僕は、コップに注がれていた麦茶を一気に飲み干して自分の部屋に戻るために席を立った。
「悠人!お母さんの作ったオムライスのどこが気に入れなかったの!?教えてよ!」
母親の言葉を聞きながら僕は何も答えずに自分の部屋に入って内鍵をかけた。
僕の怒りは、時間を追うごとに増していき、遂には、あのオムライスを作った張本人である母親を殺す決意を固めた。時刻は、午後の十二時五十五分。
母親の作ったオムライスは、決して失敗作では無かった。チキンライスの味付けもちょうどよかった。卵は、少し半熟でとろみがあって、それでいてふんわりとしていた。そう、レストランで客に出しても遜色のない完璧な仕上がりだった。では何故?僕は、そのオムライスが気に入らなかったのか?答えは簡単だ。卵の上に何の芸術性も無い姿で乗っかっていたトマトケチャップだ。とは言え、僕はトマトケチャップ自体は大好きだ。例えばスパゲッティナポリタンの味付けにトマトケチャップを使う事に関しては、何の異論もない。しかしだ!今日のオムライスに乗っかっていたトマトケチャップは、妙に自己主張が過ぎていた。主役であるオムライスの上にその下品極まりない醜態を晒して激しく自己主張を続けていた。
午後一時三十五分。
僕は、昼寝をしていた母親の傍に近づいた。
「母さん、苦しめないで殺してやるよ……」
僕は、寝ている母親の首筋を何の迷いもなくナイフで切り裂いた。
午後一時五十三分。
僕は、息絶えた母親の遺体を見つめながら静かに微笑んだ。
「今まで育ててくれて、ありがとう……」
僕は、母の瞼を右手でそっと閉ざして一分間黙祷した。
午後二時四十分。
僕は、台所でフライパンを振るってチキンライスを作っていた。母親にオムライスを作ってあげるためだ。手早くオムライスを作った僕は、動かなくなっていた母親の遺体に近づいて首筋から大量に流れ出ていた血液をオムライスに満遍なく回しかけた。
「じゃあね。母さん。もう行くよ……」
僕は、自分の部屋に戻って着替えを済ませて外出する準備を始めた。
午後三時十二分。
僕は、家の固定電話から警察に電話をかけた。
「さっき、母親を殺しました。直ぐに来てください。住所は……」
それだけ言って僕は電話を切った。もうすぐ警察がやって来る。僕は、妙に健やかな気分で家を出た。
この後、僕は自殺した。いや、正確には自殺ではない。僕は、自ら命を絶つような真似は絶対にしない。フェイクだ!それは、とても恐ろしい事件へと発展していくのだが、まだこの当時は、母殺しの息子が、自責の念に堪え切れずに自害したという結末で警察も世間一般、も認識していた。実際は、そんなんじゃあない。
「これから、ゲームが始まる……」
僕は、そう呟いて密やかに街の裏路地をゆっくりと歩いていた。
午後五時十三分。
母親のへそくりの場所を知っていた僕は、金を全額持ち逃げしていた。
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僕は、そう言って寿司屋の大将の顔を見つめた。初老の人の良さそうな男性だった。
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