鮮血

滝本潤

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1滴目~活〆

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彼の犯した罪は、ゆるされるべき、或いは、それに相当するものだったのか?

 千葉県の房総ぼうそう半島はんとう

 彼は、ここで幼少期を過ごした。彼は、この土地が大好きだったようだ。平和で穏やかな日々の中で、この土地に住む人々が、ほぼ全員、正体不明の何者かによって虐殺されて鮮血に染められる恐ろしい事件の犠牲者になるなんて……誰一人として考えもしなかった。


 彼の名前は、たいら じん。両親は、地元でも有名な高級旅館の経営者だった。父親は、旅館の板前として、母親は、女将さんとしてこの旅館を切り盛りしていた。

 旅館の名前は、「海宝館かいほうかん」。平 仁は、何不自由なくこの環境で楽しい少年時代を過ごした。

「魚は、鮮度が命だ!釣ったばかりの新鮮な魚を、その場でいけじめにするのさ!たまに、生簀いけすで泳がせている魚を目の前でさばいている店があるけど、ありゃあダメさぁ!魚たちにストレスをかけちまっている。何も知らない輩が多すぎりゃあ!」

 父親のたいら 銀司ぎんじは、事あるごとに仁にそう言い聞かせていた。いずれは、板前としてこの旅館の後を継がせようと考えていた銀司は、仁に色々な知識を植え込んで、一人前の板前にさせようとしていた。

 母親のたいら 澄子すみこは、妖艶な雰囲気を醸しだすような美人で、この近辺ではちょっとした有名人だった。澄子は、一人息子である仁の事を溺愛できあいしていた。

 両親の愛情を一身に受けて、仁はスクスクと成長していった。やがて、仁が地元の高校を卒業する頃……この土地の中だけでは済まされない日本中を恐怖のどん底へおとしいれる凄惨極まりない事件が起こってしまう。

 それは、一体誰の仕業だったのか?死傷者計一六四人。不思議なことに、その殺害方法は、全て同じものだった。何か先のとがっている凶器で両目、心臓、そして性器を突き刺されて殺されていた。そう、まるで魚を活〆する時のように……

 無傷で助かった人間は、たったの五人だけだった。その中に平 仁も含まれていた。あとの四人は……仁の父親の平 銀司。地元の女子高生の池田いけだ 可奈子かなこ。この土地に唯一存在していた小学校の教員である榊原さかきばら 。そして最後の一人は、この土地の交番の警察官だった松田まつだ 孝雄たかお

 大怪我を負ったものの、かろうじて命だけは助かった数名の生存者もいた。その中には、平 仁の母親である平 澄子の名前もあった。

 警察は、犯人の手がかりをこれらの数少ない生存者達からの情報をもとに絞り込みを始めていった。

 しかし、いくら警察が取り調べを進めても、無傷の五人と重症の数名の男女ともに、犯人の手がかりとなるような事を誰一人として喋ろうとはしなかった。誰もが、何かを知っている。それでも話したくても話せない何かを隠しているようだった。

 事件は難航を示し、時間だけが無慈悲に経過していった。


「犯人は、体力に自信のある大人の男だろうよ!おんなこどもに一六〇人の殺人が、たったの一晩の間に出来るかあ!?」
 刑事の大和やまと 大作だいさくは、もうすぐ事件経過から一年が経とうとしている中で犯人は、この土地の人間であること。その中でも体力のある大人の男性だとにらんでいた。
「先の尖った鋭利な凶器……魚を活〆するかのような殺し方……」
 大和は、そう呟きながらタバコをふかして考え込んでいた。
「外部の人間の犯行じゃねえ……ましてや、女子供でもねえ……」


 事件から一年半後の早朝五時半。平 仁の父親、平 銀司が警察に出頭してきた。
「私が、やりました……」
 銀司が自首してきた日の午後、仁が姿をくらませて行方不明になった。


 自首をしてきた銀司に対して、刑事の大和は、長年の刑事としての「勘」から何か気持ちの悪い違和感を強く感じていた。当初から疑われていた銀司が、真犯人という結末は、納得がいかない点が幾つかあったからだ。

「平 銀司の息子の平 仁を探し出せ!!」
 大和は、何かを確信したかのように部下達に仁の捜索を指示した。


 事件が急展開を迎えた中、平 仁は、東京の新宿歌舞伎町にいた。
「人間も魚も、活〆が一番良い鮮度を保てるのさぁ……」
 仁は、そう呟いてニタニタと薄気味の悪い笑みを浮かべながら歌舞伎町のホストクラブへ入っていった。
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