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一章

皇帝とのお茶会

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 憂鬱だ。
 息子リアスが、女帝エルーザが開くお茶会に自分も着いていくと言いだしたのだ。
 そのことをアルナに頼まれたと、妻から連絡が来たときはこんな辺境で遠征任務をしている私の胃がひっくり返るかと思った。
 6年前、たしかに感じた嫌な予感は当たっていた。
 何故なら、当初始末する予定だったリアスが、いつの間にか我が領地には必要不可欠になってしまったからだ。
 
「どうしたんだいアルジオ?」

 私に話しかけてくれたのは、ガリオ・フォン・ヘルナーリット子爵様だった。
 リアスとアルナの同世代の娘を持つことから、度々子供の話をして交流をするようになった人物だ。

「ヘルナーリット郷でございますか。申し訳ございません。少々頭の痛くなる話を妻からもらったもので」

「また子息がなんかしたのかい?」

「えぇ。女帝エルーザ様の開催するお茶会に、使用人として参加する事になったと伝書鳩が飛んできまして・・・」

「じゃあ今頃皇帝陛下を怒らして------あ、ごめんごめん」

「皇帝陛下を怒らしている可能性はゼロじゃないです。もう倒れたくなる気持ちになるのも仕方の無いことだろう」

 リアス、あの男は恐ろしい人物だ。
 まだ貴族としての自覚がなかったアルナを、瞬く間に懐柔し領地の状態を変えてしまった。
 当初妻と私で、貴族と平民は違う者だと何度言い聞かせても聞かなくなった。
 それはリアスが、庶民の前に私達を突き出して、死ぬかも知れないという恐怖を与えたことがでかいだろう。
 私は貴族をして長いし、妻は元伯爵令嬢だ。
 それくらい慣れていたが、アルナは違った。
 箱入りに育ててしまったために、完全にリアスの貴族と庶民は平等と認識し、貴族としての責務をしていた私達に貧困生活を強制させた。
 娘が可愛いからどうにかあの男の魔の手から、なんとか救ってやらなければいけないと思った矢先に、ジャイアントベアを婚約者として連れてきた娘と奴の二人で瞬殺したと言うことをアルナから聞いた。
 リアスや婚約者のミライとかいう女がそれを言っても信じなかっただろうが、アルナがそんな嘘をつくはずがないし、意味もないだろう。
 暗殺者を送り込もうとしていたこっちとしては、その情報が先に聞けて良かった。
 もしその前に暗殺者を送り込んでいたら返り討ちにあったあと、二度と首と胴が繋がって居なかったと思うと、もう逆らおうと思わなかった。
 あの日から息子に対しての妻の怯えようがようやくわかった。
 本気で改心したあの日からは皮肉にも私の家の立場が変わった。
 男爵家でありながら名誉なことに、国の遠征に参加させて貰えるほどに。
 それは奴が言っていたことが正しいことを示している。

「君の息子はすごいから、案外気に入られている可能性もあるよ」

「だといいのですが。その、あいつは」

「どぶさらい?平民と貴族は同じ人間っていう考えね。俺は面白いと思うけどね。平等とまでは立場上言えないけど、もし何かしらの有事の際に民の力を借りれないのは、帝国にとって損失だと思うし」

 私は自分の顔から血の気が引いていることがわかった。
 平民は大切と言う考えは貴族の中でもどぶさらいと言って蔑まされる貴族用語だが、冗談では無い。
 国を思う前に、自分の身すら危ういと言うことがわかった今ではな。
 民が我々貴族に食料を与えてくれなければ飢えるし、何より反感を買ってしまえば殺される可能性だってある。
 息子が居なければ領地の飢餓に危機感を覚えた領民たちが、私を殺して道連れにされていたに違いない。
 
「悪いはずがないですね。領民を大切にすればそれだけ自身の利益にもなる。どぶさらいと蔑む考えすら、捨てるべきだと思っております」

「君が私腹を肥やしていたときは大違いだ。やはり子供ができると変わるのかな」

「どうでしょうか、私にはわかりかねます」

「ふふっ、領地に帰るときは楽しみだね。君の息子は絶対に何かやらかしているだろう」
 
 ヘルナーリット子爵はニヒヒと不敵な笑みを浮かべていた。
 リアスは自身のは隠していてどれほどの規模かは把握しきれていない。
「願わくば何も起こらないことを切に願う」

 隣国であるヒャルハッハ王国との国境の野営地で私は領地の方に体を向けてそう願った。



「あー、そこそこ。効くぅ」

『たかが1時間でこれは情けないです』

「ごめんねリアスくん。すっかり気持ちよくなっちゃって」
 
 俺達はアルゴノート領から1時間かけてお茶会に参加するために帝都に来ていた。
 馬車に揺られて婚約者と妹に肩を貸していた俺は肩凝りが酷かったため、ミラに肩を揉んでもらっていた。

「兄貴は男としての器量が足りないのよ!」

「うるせぇ!ミラの頭は軽いからいいけど、お前頭重いんだよもっと痩せろ!」

「んまぁ!女性に対して失礼よね!ミライちゃんからも言って頂戴」

「二人とも仲良しだねぇ」

「「どこが!!」」

『リアスの前世では、喧嘩するほど仲が良いと言うのでしょう?』

 この野郎。
 俺が話かけられない状況であれこれ煽りを入れてくる。
 あとで覚えてろよ!
 今日のおやつは抜きだ!
 クレはおやつの時間を何よりも楽しみにしてる。
 なのでおやつを抜けば、かなりストレスになるはずだ。
 俺をストレス攻めにするんだから、テメェもくらっとけ!

「それにしても今日の茶会は規模が凄まじいな。さっき窓からチラッと見えたが、馬車の数が尋常じゃない」

 50台はありそうだが、これじゃあ茶会と言うよりパーティだ。
 それだけ何か特別な意味でもあるのだろうか。
 
「今日の茶会は有力貴族が集まると聞いてたんだけど、まさかこれほどとは思ってなかったわ」

「ボクは今回出席しないし二人とも頑張って!あ、帝都で美味しいスイーツ見つけたら、お土産に包んでもらっとくね」

 ミラは他人事かの様に言う。
 まぁ実際他人事なんだが。
 
「あ、ミライちゃん!帝都のグランマーレってスイーツ専門店がかなり人気って聞いたよ。よかったら行ってみて!」

「ありがとアルナ。人気なら混んでるだろうから、ある程度周ったらそこに行ってみるよ」

 その後もしばらく会話を弾ませて、お茶会の予定時刻の午後の1時を周り、ミラはナスタと帝都の観光に、俺とクレとアルナは茶会会場の後宮へと足を踏み入れた。

「はぁー、大したもんだ」

「ちょ、ちょっと兄貴。一応今は使用人なんだからちゃんと振る舞ってよ」

「あぁ悪いな」

『お、お菓子がいっぱいです・・・ください!』

「はぁ、わかってるよ」

 俺はおやつをあげないと決めたのに、机に乗っていたクッキーを手に取ってクレの口元に運んだ。
 美味しそうに咀嚼するクレは、次から次へとお菓子を請求した。
 気がつけば、精霊に物を食べされる俺が珍しいのか視線がこちらに集まっていた。
 クレがお茶会に来る以上これは想定内だ。

「あ、あに------リアス!目立ってますわよ」

「これはお嬢様。申し訳ございません。私の分身にも等しい精霊がお腹を空かしていましたもので」

「そ、そう。次からは気をつけてね」

 引き攣った顔でそういうと、アルナはまるで取り繕うかの様に笑顔に戻った。
 女性って怖いな。

「ちょっとあれ、どぶさらいのアルゴノートよ」

「さすが家族のプライドを捨てた家の使用人は違うわね」

「マナーがなってないこと、ちょっとわからしてあげますわ」

 ツカツカとこちらに歩み寄ってくる令嬢がいる。
 青みがかったロングの髪を揺らして、金髪だけに許されるドリルヘアをした女だ。
 俺はこいつをみたことある。
 なにせ花そそでも重要人物の一人だ。
 こいつがいなければ、帝国は滅ばなかった可能性が高い。

「これはこれはグロウリンニア様。失礼致しました」

 こいつの名前はヘンリエッタ・フォン、グロウリンニア。
 何を隠そう、こいつが悪役令嬢をハメて罪を押し付けた張本人なのだ。
 そしてこいつはお咎めなしときた。
 あのゲーム、恋愛パートはほんと雑だな。

「ちょっとあなた!調子に乗りすぎですよ。このお菓子はワタクシ達、貴族のために作られた物ですのよ!貴方みたいな使用人が食べていい代物じゃないんです!」

 そういうとクレから加えていたおやつを取り上げた。
 ふんっとしてやったりの顔をしてる。
 一方アルナは顔面蒼白となる。
 そりゃまぁそうなるよな。
 こいつ命知らずだな。

『このアマ、殺す』

「申し訳ございませんグロウリンニア様。自分の精霊はおやつを食べることを生きがいにしておりまして、できれば早く返していただけると幸いにございます」

「使用人風情が生意気よ!精霊にそんな感情あるわけありません!」

 俺は警告したからな。
 精霊契約の儀で強制的に契約した精霊が、感情を持たない。
 これはうちの使用人で精霊契約の儀を行った全員がそうだった。
 中には感情を持ってる精霊と契約してる人もいたが、それはどれも契約の儀以外で契約した精霊だった。

「お、お待ちくださいグロウリ------」

「皇帝陛下の入場でございます!」

 ラッキー。
 アルナがヘンリエッタを止めようとしてたけど、おそらく男爵令嬢が生意気とかなんとか言って止まらなかっただろうな。
 男は片膝をつき、女はスカートの裾を摘み上げ、全員が頭を下げる。

「クレ、あとでお菓子とってやるから待っておけ」

『我慢しますよもちろん。流石にこの場で、あの令嬢をスッポンポンにはできませんからね。まぁ次やったら公衆の面前で脱がせますが』

 クレは昔、アルナがクレからお菓子を取り上げられた時にアルナのドレスをズタズタにした。
 そのことが今でもトラウマになっていて、クレにちょっかいをかけることはない。
 そのことを思い出したアルナは焦って止めようとしたのだろう。
 この場でドレスを斬り裂いても、俺がやったとは誰も認めないだろうし、問題なかった。
 そんな細かい魔法を使える人間は、おそらく精霊と対話できる俺くらいだからだ。
 認めれば自分達は男爵の使用人以下の人間と認めてしまうことに他ならない。
 
「ふむ。何やら騒がしいが余が来るまでに何かあったのか?」

 あれがエルーザ・フォン・ティタニア。
 真紅の髪が美しく、それでいて妖艶さを含む美貌は誰もが虜になるだろう。
 ミラがいるから俺はどうでもいいことだが。

「グロウリンニア。表を上げよ」

 黙って頭だけを元の位置に戻すヘンリエッタ。
 淑女の嗜みとマナーはお手の物だ。
 命令されれば返事をせず黙って頭を上げる。
 皇帝の話してる最中はいかなる横槍も入れてはいけないのが、この国でのマナーだった。

「今日は無礼講だ。だが、そのために憂いがあってもよろしくないだろう。何があったか話すが良い」

「はいっ!畏多くも男爵令嬢の使用人が精霊に、ここに並んでいるお菓子を渡していたので注意をしていた次第でございま------」

 俺は即座に姿勢を正して、自分がいた位置から離脱する。
 迷いもなくナイフを飛ばしてきやがったあの女帝の近衛。

「チッ」

「ほぅ、なかなかやりおる」

 ちっ、舌打ちしてぇのはこっちだ。
 面倒なことをしやがる。
 索敵魔法の練習してなきゃ刺さって大怪我だぞ。
 それにこれじゃ悪目立ちするじゃないか。

「ヘンリエッタよ」

「はい、なんでございましょうか」

「今日は無礼講だ。彼のことは許してやれ」

「はい!陛下がおっしゃるなら!」

「そして諸君。今日は集まってくれて感謝するぞ。身分に関係なく、皆の者心ゆくまで楽しんでくれ」

 拍手喝采が起きると、再びあたりが騒がしくなり始めた。
 あの女帝はずっとこちらを見ている。
 目をつけられたか?
 まぁ俺はこの人の印象が知りたかったわけだから願ったり叶ったりだ。
 俺と彼女の睨み合いは続く。



 アタシはこの国の皇帝、エルーザ・フォン・ティタニア。
 腑抜けな夫の代わりに国を納めている。
 夫は皇帝でありながら、この国のことを考えずに色ボケに走っている。
 側妃や妾の数は有に千を超え、子供の数が三桁を超えた時は、バカかと言いたくなった。
 本来であれば、婿として引き入れた伯爵だったが、まさかここまで浮気性と知っていれば婚約を破棄していたに違いない。

「アタシの息子にはそうなってほしくないもんだよ」

「陛下、口が悪いですよ」

「すまんなゴードン」

 ゴードンは、アタシが成人する前から騎士としてお目付役としてアタシの隣にいる。
 アタシの頼れる近衛だ。

「心中お察しします。お言葉ですが、あの下郎は捨て置いてよろしいのでは?」

「そうはいかん。有志には役立つ上級精霊を使役しているのだからな」

 精霊には下級、中級、上級、そして神話級の精霊が存在する。
 神話級は今まで見たことないが、幻獣の森に大量にいると聞いて部隊を派遣したこともある。
 何年か前にヒャルハッハ王国が神話級精霊を手に入れたと聞いた時には驚いたものだ。
 故にその後に派遣したがまさか全滅するとは思っても見なかった。
 精鋭だったのに、家族に申し訳が立たない。

「性格には難がありますけどね。それに上級は第三王子までの皇位継承権を持つ三人が使役しているではありませんか」

 たしかにそうだが、奴等は精霊契約の儀を行って得た精霊だ。
 理由は知らんが、精霊契約の儀で契約した精霊は、感情が存在せずに常に虚の目をしている。
 これを持ち込んだ教皇にそれを聞いても、神の考えることはわかりかねるの一点張り。
 しかしそれでも簡単に精霊と契約できるようになったのは大きいところだから、文句は言ってはいなかった。

「さて、お召し物の準備もできましたし、行きましょうか」

「あぁ」

「シャァァァ!!!」

 突如、近くで寝ていたアタシの精霊がお茶会会場の方に向かって威嚇始める。
 アタシと契約した精霊は土属性の上位精霊、ヘビモスだ。
 彼女が威嚇する時は大抵強大な魔物がいるとき。
 しかしそんな魔物が突如会場に現れたとは考えにくい。
 何故なら、それだけ強大な魔物が現れれば誰でも気付くからだ。
 だとすれば招待客のいずれかが、ヘビモスが警戒するほどの力を保有してることになる。
 それも今まで隠していたほどに。
 そしてちょうど、第一皇子の婚約者に媚びを諂う少女の声が聞こえてきた。

「また彼女ですか」

「ははっ、元気がいいのは良いじゃないか」

「まぁエルーザ様がそうおっしゃるなら」

 それに彼女は今回は役に立ってくれたかもしれない。
 ヘビモスは上級精霊相手に威嚇はしない。
 同格相手には威嚇しなくても勝てると判断しているんでしょうね。

「楽しみねえ」

「さぁいきましょう」

「皇帝陛下の入場でございます!」

 いつ聞いてもなれないわ。
 みんな頭を下げている。
 しかし一人だけ頭は下げているのに、自尊心が隠せてない奴がいる。
 黒髪で、耳が隠れるくらいの髪の奴だ。
 肩にはイタチを乗せているが、あれがヘビモスが威嚇していた相手・・・え?
 ヘビモスが今度は丸まって怯えてる!?
 とりあえず状況を聞きましょう。

「ふむ。何やら騒がしいが余が来るまでに何かあったのか?」

 すぐさまヘンリエッタの頭を上げさせる。
 位置的にも彼女が彼に何かしたのは間違いない。

「今日は無礼講だ。だが、そのために憂いがあってもよろしくないだろう。何があったか話すが良い」

「はいっ!畏多くも男爵令嬢の使用人が精霊に、ここに並んでいるお菓子を渡していたので注意をしていた次第でございま------」

 次の瞬間、ゴードンがナイフを彼に向かって投擲する。
 な!?
 いきなりなんの許可もなく放つか!?
 しかし等のナイフを喰らった本人は綺麗にナイフを避けた。
 頭を下げた状態で攻撃を見切っただと!?

「チッ」

「ほぅ、なかなかやりおる」

 内心驚きを悟られない様に大きく息を吸う。
 正直今の一瞬で肝が冷えて、変な汗がドボドボと出てくるわ。
 ゴードンの攻撃を躱せるような輩が、上位精霊を怯えさせる精霊を使役するなんてなんの冗談よ。
 魔法使いは大抵身体は鍛えず、魔力の底を上げる訓練をしている。
 精霊を使役すると何故か魔力の上限が少なくなるからだ。
 身の丈に合わない精霊と契約すれば、魔法が使えなくなってしまう。
 だから少なくともそんな精霊と契約してるのなら、魔術師の可能性が高い上に、身体能力も回避に徹すれば、ゴードン並みと差し支えない。
 つまりところアタシの考えはひとつ。
 
「ヘンリエッタよ」

「はい、なんでございましょうか」

「今日は無礼講だ。彼のことは許してやれ」

「はい!陛下がおっしゃるなら!」

「そして諸君。今日は集まってくれて感謝するぞ。身分に関係なく、皆の者心ゆくまで楽しんでくれ」

 ヘンリエッタが手出しできる相手ではないから、皇帝として下がれと命じる。
 ゴードンがいまだに警戒している相手をただ見つめるだけのアタシ。
 あちらもこちらを睨んできているので、お互い様だわね。

「そこの使用人、すまなかった。今日は無礼講である。楽しんでくれ」

「ありがたき幸せにございます」

「うむ」

 その使用人は、主人と思われる女性の一歩後ろに下がり一礼をする。
 なるほど、奴はアルゴノートの使用人か。
 帝国貴族の領主の顔は全員覚えているが、アルゴノートほど私腹を肥やしていた奴等が、この6年でみるみるうちに、民のために領地を改革していたのは記憶に新しい。
 結果的に経済が循環し、私腹を肥やしていた頃より贅沢をできている。
 その分苦労もしているだろうが、プライドの高いだけの貴族はアタシ的にはいらないし良いことだわ。

「アルゴノート男爵令嬢?」

「はいっ!皇帝陛下」

 今回招待したのは娘だけだ。
 グレコ・フォン・アルゴノートは何度か話したことがあるが、彼女は変わっていた。
 伯爵令嬢時代はヘンリエッタの様に傲慢だったと言うのに、あれは憑物が落ちたかの様な振る舞いだった。
 あの娘は傲慢さが気品に少々出ているが、民を思う気持ちはあの娘が言い出したと聞く、、
 だから話をしてみたかった。

「少し奥にきてもらってもよろしいかな?」

「光栄の極み」

 使用人についてもここで根掘り葉掘り伺うとしよう。
 よく見ればアルゴノート嬢の肩が震えている。
 ゴードンが未だに警戒を解かないところを見るに、かなりの手練れなのは間違いない。
 
「ゴードン、良い加減警戒を解け」

「お言葉ですが陛下、彼は貴女を慕う目では見ていない。警戒を解くことはできませぬ」

 なんと、そういうことだったか。
 つまり他国のスパイの可能性もあるのか。
 それならゴードンが構わず投擲したのもわかる。
 だがしかし、アタシは彼が他国のスパイには見えないのだ。
 何故なら此奴をどこかで見たことがある様な気がしてならない。
 思い出せ、アルゴノート家なら何度も顔を合わせてきた。
 誰か使用人に似た容姿がいたはずだ。
 それさえ証明できれば、ゴードンの警戒も------

 そこでエルーザ、電流走るぅ。

「お主、アルジオに似ているな。そういえばアルジオは7年ほど前に養子を取ったらしいが、一度も社交界には出ていないと聞く・・・」

 驚いた顔を見せる彼に対して、こちらには聞こえない小言を呟くと、それが答えだと言うかのように頷いた。
 なるほど、招待した客が娘だけだから兄が心配してきたというところだろうか?
 ゴードンに目配せすると、察したのか矛を収めた。
 ゴードン自身、幼い妹がいてシスコンレベルで可愛がってる。
 それこそアタシにすら妹を害したら容赦しないと公言するほどだ。
 だからこそ、その目が妹を思う目だと思えば納得がいったのだろう。
 頭の硬い騎士団長と違い、ゴードンはある程度柔軟な思考の持ち主だから。

「さて君達と話がしたい。こちらへ」

 黙って追従する二人と共に、私室へと招き入れた。
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