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二章
入学早々問題を引き起こす
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自己紹介はどんどん進んでいき、俺の前の席のアルナまで回ってきた。
「ワタクシはアルナ・フォン・アルゴノートですわ!男爵家の次期領主ですの。このクラスにはアルゴノートが四人居ますけど、どれもワタクシと対等な立場ですの。よろしくお願いしますわ」
アルナの声に、教室はざわめき出した。
自己紹介でざわめき出すのはこれで8回目だ。
このクラスは35人構成だから8回って結構な回数だよな。
アルナの他にはミラと、花そその主人公にして、聖獣と契約する聖女リリィ、そして攻略対象の5人で皇太子のアルバートと乳兄弟のガーデル、宰相の息子のパルバディ、剣聖の子息のグランベル、英雄の息子グレイだ。
まぁ花そそのメインメンバーは、貴族ではかなり有名だしわかる。
ミラは婚約者の俺以外には略称を呼びを許さないって言う発言で、まぁ結構な奴らがキレてた。
あいつら模擬戦の授業の時ぶっ飛ばそう。
ミラがあぁ言わなきゃ略称呼びしようとしてたんだろうからな。
「次、リアス様」
シャルル先生の発言と共にどよっと、ざわめきが辺りに響く。
俺もぶっ飛ばしたくなった。
あの教師は、なんで皇子ですら君づけだったのに、俺は様付けなんだよ。
「あー、リアス・フォン・アルゴノートです。アルナの兄です。仲良くしてください」
俺はそのまま席に着いた。
そう、ここは下手に指摘をしないほうがいい。
触らぬ神に祟りなしだ。
俺は最後だからな。
下手に印象付けると、後で絡まれかねない。
「ねぇ、あれドブさらいの家の奴らでしょ?なんで様付けなんて」
「この学園の奴らもみんなドブさらいだからでしょう?」
「ふふっ、貴族としてのプライドがないのかしら?」
「まぁ妹が家督を継ぐのだから大した事ないのでしょうね」
お前ら聞こえてんぞ。
まぁなんとかごまかせたようでなによりだ。
ドブさらいは平民と貴族を同列に扱う貴族のことの皮肉言葉だ。
別に同列には扱ってないんだよな。
等しく人権は必要だとは思ってるけど、領民とそこのアルバートを天秤にかけられたら、俺はアルバートを選ぶ。
当然だ。
領民あっての貴族だが、貴族制度の国である以上、皇子と平民を同列に扱うことはできない。
貴族と平民は平等だ。
けど対等ではないんだよ。
そこを履き違えてる。
ドブさらいと呼ばれて蔑まれている奴らは、貴族と平民を同列視するだけだからそうなる。
当たり前だ。
そんなんじゃ秩序が乱れる。
俺は様付けされるのが嫌いだからさん付けにしてもらってるし、ミラやイルミナはさん付けも嫌だからちゃん付けされてる。
それが証拠に何も言わないアルナは、領民と仲こそいいが様付けだ。
庶民だってわかっているんだ。
分別を弁えないと、今度は貴族を軽視して内乱を起こす人間が出てしまうことを。
まぁだからって平民を蔑むのはまた違うけどな。
「はい。以上で自己紹介も終わりました。明日からは、授業が始まります。本日は先輩達が歓迎会を催しているそうですので、皆様は是非とも------」
「話は終わりかアルスナー?」
「えぇ終わりですよ殿下」
「じゃあ俺から全員に話すことがある。俺は今日君達との交流を深めるために、夜会を開こうと考えている。是非とも君達には参加してもらいたい」
えぇ・・・。
先輩達が歓迎会を開くのって、ずっと昔からある伝統だろうに。
そうじゃなくても、この歓迎会は貴族の令息令嬢達が、新入生の貴族たちのためにわざわざ催しているのだ。
その顔に泥を塗る行為だよなこれ。
やるにしたって事前に知らせるとかあるだろう。
「俺は型にはまった社会を改革しようと思い開催を決意した。もちろん先輩方の主催したパーティに行きたいモノがあれば止めはしない。しかしこの国を変えようとする貴族は、是非俺の主催する夜会に出席してほしい」
要するに平民は来るんじゃねぇってことね。
それは結構なことだな。
自分は型にはまった社会から出れていないのに、改革しようとか言うとか怒りを通り越して笑えるぞ。
誰が参加するんだこんなの。
と言うかシナリオにこんな夜会パートなんてなかったぞ?
「殿下の志に感服致しました!私は是非とも参加させていただきたく存じます」
「うむ。パルバディ・フォン・エッケンベルグ、宰相大臣の息子であり、次期侯爵家の当主である君が参加してくれるのは、俺としても鼻が高いよ」
宰相の息子ともなれば、他の貴族との関係性にヒビを入れるよりも、皇太子候補であるアルバートの顔を立てることを注視するのは、当然ちゃ当然だな。
まぁこいつが皇太子になれればだが。
他はどうするんだ?
「自分も参加致します。ジャスティン家は帝の剣。皇族より優先するモノはございません」
そう言って膝をつき、金髪ストレートでロン毛のグランベルは、髪を地面につけて頭を下げた。
「よせ。今は公共の場だ。それにお前の髪も汚れるだろう」
「心遣い感謝致します」
「あぁ、アルバート様はなんで慈悲深いのかしら!」
「キャー!かっこいいわぁ」
何?
ここはアルバート教の本山かなにか?
慈悲なんてどこにも感じなかったぞ?
あいつもなんであんな満足げな顔してんの?
羞恥って感情に異常をキタしてるよ!?
「わたしも参加するよ!アルバートくんいいかな?」
一見不敬にも見られかねないその行為も、彼女なら許される。
リリィ・バンディナー、花そその主人公であり聖獣を持つ聖女だ。
聖女は国に富をもたらすと言われていて、どの国でも喉から手が出るほどほしいため、皇帝と同じ権限を持つ。
「もちろんだ。聖女が来てくれるのは俺としても鼻が高い」
「私も参加しますわ!」
「私も是非!」
「アタクシもお願いしますわ!」
次々と参加者を募いでいく。
これはもうカリスマと言ってもいいんじゃないか?
『なんですかあれ?洗脳でもされてるんですか?』
「同感だな。俺もそう思う」
アルバートの席の周りが騒がしくなってきた。
教師も注意しろよ------ってもう退出してる!?
あいつ仕事外のことはしないタイプの教師か。
「なぁリアス」
「あ?どうしたグレイ」
「お前はあれ参加すんの?」
「いや?する気ないぞ?」
アルナにも無理に参加はさせない。
だってアルバートが催す夜会なら、どうせ宮殿だろう。
それなら陛下から情報を粗方聞けるはずだ。
そうじゃなくても、俺達は帝国が滅ばない道を選んでも俺達がこのことで不自由な暮らしを強いられちゃ困る。
「ってことはイルミナちゃんも参加しねぇよな」
「さぁ?それは本人次第だが」
「しませんよ。なんですかあの宗教みたいな集まりは」
「いくらなんでも先輩方に失礼だよねー。ボクが先輩だったら殿下でもぶっ飛ばしてる」
ミラとイルミナが文句を言いながらこちらに寄ってきた。
「イルミナちゃんも参加しねぇのかー。お前らは先輩達の催しには参加するわけ?」
「イルシア先輩もいるだろうしな。俺はあの戦闘の時肩を借りた恩があるし、礼も言いたいしな」
「確かにあの集団に参加するくらいなら、先輩達の催しのがいいよね。料理はメルセデスにいつも作ってもらってるけど、今回は流石に毒とか心配しなくてもいいよね?」
まぁ帝国で用意できる毒なら、ボクらを殺すことなんて夢のまた夢と、小さく笑いながら呟くミラ。
飯食う気満々だな。
クレとミラの治癒魔法は、即効性の毒も服毒1分以内なら蘇生できるし、万が一仕込まれていても心配はない。
流石神話級の精霊!
ただ苦しいことは苦しいから、特別なパーティでもない限りは、メルセデスの料理だけだな。
「じゃあオレも先輩達の催しの方に参加するわ」
「お前、殿下の幼なじみだろ。いいのか?」
グレイだけじゃなく、攻略対象5人は全員幼馴染みだ。
だからこいつも夜会に参加すると思っていたんだがな。
「よく知ってんな」
「お前英雄の息子だろ?個人情報なんてないに等しいぜ?」
「違いない。まぁオレはイルミナちゃんに興味がある。婚約者候補が出席しないパーティに行く意味があるか?」
「大有りです!」
なんだ?
俺は背筋がゾッとした。
3日前に見た悪夢の所為だろう。
グレイに意見するように声を発したのは、前世でゲームとはいえ、何度も対峙した女性グレシアだ。
「おいグレシア」
「貴方が殿下の顔に泥を塗るような行為をしようとしてるのに、許せると思いですか!?」
「別にお前にゃ関係ないだろ」
「大有りです!!私は貴方の幼馴染みとして、貴方が間違った道に行かないようにする義務があります」
いやそんな義務幼馴染みにはないぞ?
義理はあるだろうけど。
と言うかなんだこれ?
俺が知ってるグレイは、グレシアに対して蔑んだ目を向けているシーンくらいしか思い浮かばないし、間違っても幼馴染みの設定を生かした会話が起きたことはなかった。
でも今のは明らかに幼馴染みとして一つの在り方のそれだ。
よく考えたら、グレイを攻略対象に選んだらグレシアは、グレイの婚約者になるんだから、これくらい仲睦まじいのも当たり前、なのか?
わからん。
「そうは言ったってよ、あんな非常識を言う奴のパーティーなんて行きたかねえよ」
「どうしてですか!」
「いや、実際殿下は義理を果たしてないし、それを注意しない乳兄弟もどうかと思うんだよ。なぁ、間違ってることだとわかってるのにやらないといけないことなのか?」
グレシアの言うことも間違ってはいないし、グレイの言うことも正しい。
何か間違えてる奴がいるとすれば、それはアルバートだろう。
あいつは自分の影響力と、世間の常識を全く理解していない。
グレシアは、こんなにもアルバートのことを考えているのに不憫だな。
この世界が一周目だろうと二周目だろうと、アルバートとの婚約は成立しないのだから。
「グレイの言う通りだな」
「俺達も、と言うかあの時前線にいた奴らはみんな同じ気持ちだろうな」
気がつけば俺の後ろには、子爵や男爵が集まっていた。
あの時魔物大量発生の時、駆り出されていた次期当主達だ。
アルナも含めて7人が集まっている。
「どういうことですか?」
「グレシア様には悪いですが、貴方の婚約者の行動は、昔の自分達をみてるようなのです」
昔の自分達ってのは、貴族という肩書を利用して平民を蔑んでいたことか。
話的にはそうだと思うが。
「アルバート殿下の行動は、先輩方や平民を顧みない、酷く自分勝手なモノです」
「それは皇族だからです!」
「俺達もつい先日までそう思ってましたよ。立場的に何をしても許されると思ってました」
「当然です。彼はそれだけのことをするのが、許されるだけの責務をこなしていますからね」
いや、だからって相手の気持ちを無我にするような行為をしていいわけじゃなかろうに。
俺が口を開こうとした瞬間、次期当主達が先に反応する。
「それではただの横暴です。我々にも言えますが、責務は皇族に生まれた以上、仕方がないのですよ。それを理由に許されることはあっても、何でもしていいということじゃないんです」
驚いた。
俺がまさに言おうとしたことを代弁したからだ。
ミラがニコニコしながらこっちをみてる。
あの場ではイエスマンになってただけだと思ってたが、ちゃんと自分達の今までの行動を鑑みてるじゃないか。
こいつらが昔はどうだったか知らないが、少なくとも一つの成長だと思う。
「それは------そうですね。私が間違っていました。私も殿下の婚約者として諫める立場だと言うのに、責務を放棄してしまっていましたわ。今すぐに抗議してきます」
「あ、グレシア様」
ミラは静止しようとしたがするりと抜けて行ってしまった。
このままでは、確実に面倒なことになるぞ。
「無駄だ。あいつは昔から行動が早い。思い立ったが吉、そういう奴なんだ」
「同じ幼馴染みでも、随分と殿下に対してと反応が違うんだな」
「どうかね。ただの腐れ縁なだけだ」
本当に腐れ縁だと思ってる奴はそんなこと言わないわ。
でも彼女は婚約者が間違った道に進みそうなら正そうとする優しい婚約者と言えるな。
政略的意味での婚約だというのに。
花そそでも、彼女が悪役令嬢として立ちはだかるとは言え、同情の声も少なくないしな。
「殿下!その催し本当に開催するおつもりですか?」
「なんだグレシア。お前は俺の婚約者だ。口出しは無用だ」
「いいえ!婚約者だからこそです。事前に準備をしていた他の貴族の先輩方々に一言お声かけをするのが、筋というモノではありませんか?」
「何故する必要がある?俺は皇太子だぞ?」
皇太子ならむしろ筋を通せよ。
偉ければ何しても許されるなんて子供かよ。
「貴方はまだ皇太子ではありません。この学園を卒業して初めて皇太子となります。このままでは、日々の行動を理由に皇太子候補から外されてしまいますよ?」
実際、皮肉なことに、こいつ以外が皇太子になる可能性は低いけどな。
第二皇子はこいつに心酔していて、第三皇子は廃嫡されている。
だからこその強気であり、自分が皇太子になることを疑っていないのだろう。
「ふんっ!女の癖に政争に口を出してくるな!お前は婚約者として俺の顔を立ててればいい!」
「その通りですわ」
「いくらグレシア様でも不敬ですわよ」
「なっ!?」
男尊女卑激しいな。
グレイが黙って拳を握り、血が滲み出している。
「擁護しなくていいのか?」
「下手に手をだして何もできずに、実家に迷惑かけろってか?」
「さぁ」
グレイはグレシアのことを大事にしてるのだろう。
だから正しいことを言ったのに、何故彼女が非難されないといけないのかと疑問に思いつつも、自分が彼女を擁護したところで、男爵という身分では火に油。
更に自らの実家にまで飛び火するとなれば、出ていくこともできない。
その自分の無力さに、こいつは腹が立っているんだ。
「もういい。お前は来なくていいぞ」
「な、殿下それは!」
「俺がやることに文句があるとはそういうことだろう?」
アルバートの奴正気か?
婚約者をパーティに呼ばないってことの意味わかってんのか?
誰も擁護する気配がない。
それどころかパルバディの気配が危うい。
あいつも第二皇子のガランほどでないしろ、アルバートを崇拝してる。
パルバディは腰の剣に手をかけた。
抜刀すんなよ学園で。
「やめておきなさい」
イルミナがいち早く動いて、彼の剣を抜かないように柄を手のひらで押して抑えている。
アルバートの近くにいた奴らは、イルミナの動きにすら気づけていない。
下手したら急に現れたと思ってるんじゃないか?
「女性相手に何をしようとしていたのですか?」
「不敬な女に制裁を加えようとしただけだ」
「そうですか」
柄から手を離すとイルミナは何もなかったかのようにこちらに戻ってきた。
流石に抜刀するのはやり過ぎだとアルバート以外は考えたのか、パルバディの周りから人が一歩だけ離れている。
「ナイスイルミナ」
「なんてことないですよ」
「ボクとリアスくんも止めようとしたけど、色々と問題になるしね」
流石にパルバディも自分がしようとしたことがどういうことか、周りの反応から反省しているようだ。
反省するのが遅い。
「たかが侍女に遅れを取るとは不甲斐ないぞ!」
「も、申し訳ございません」
帝の剣と呼ばれる家系が、一塊の男爵の侍女として入学した生徒に遅れを取ればそうなるわな。
多分教師を含めたこの学園に所属する人間の中で、イルミナを超える身体能力持ちはいないだろう。
あくまでここは魔術学園だしな。
「ところで君達はどうする?是非ともクラスの者達にはこれからのことも考えて参加してほしいのだが」
「で、殿下、私は」
「うるさいぞ。ここで婚約破棄でもされたいか?」
グレシアは殿下に払い除けられて、よろけて倒れてしまった。
あれだけ言われても婚約者を正そうとするその姿勢は感服するよ。
ミラがアルバートみたいな性格だったら、俺も結契なんてしなかったと思うし、婚約者同士に関しては身分なんて本当に関係なく平等だと思うけどな。
「グレイ、お前は参加するだろ?」
「悪りぃなアルバート。俺は先輩方の催しに出るぜ」
「なに?聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「ん?あぁ、悪い悪い」
グレイは満面の笑みを浮かべる。
そのことから参加するとグレイが言うと思ったのだろう。
しかしこの状況で気遅れして参加するとか言う奴なら、そもそもアルバートにタメ口なんて使わないだろう。
「こいつらは全員お前の夜会には参加しない。俺達はお前の夜会にはしない。悪いな」
「き、貴様ぁ!」
クラスの35人のうち11人は参加しないことになった。
そのことに顔を赤くして怒るアルバートの顔は面白い。
ミラがグレシアの元に近づいていく。
「グレシア様、手を」
「え、あ、ありがとうございます」
「行きましょう。こんな婚約者を無下に扱う人に気を使う必要はありません」
ミラはかなりゲスな顔でアルバートに微笑んだ。
怒りのあまりアルバートはミラに殴りかかる。
こいつ・・・
俺が許すと思ってんのか?
アルバートの拳を俺がミラとアルバートの間に入って止めた。
「俺の婚約者になにをしようとしました?」
「貴様の婚約者が俺に無礼を働こうとしたからだ」
「はぁ。俺の見る限りどこが無礼だったのかわかりかねますが」
ここでミラが不適な笑みを向けたことを言えば、アルバートがどれだけ舐められているかを公にしてしまうことになる。
流石にそこまで来て陛下が来れば、廃嫡問題にも発展しかねないことがわかっているのだろう。
アルバートは下唇を噛みながら、拳を下に下ろした。
唇切れてるぞ。
「じゃあ俺達はそういうことで行きますね。そちらはそちらでお楽しみくださいませ」
参加しない俺達はグレシアと共に教室から出ていく。
さぞかし悔しいだろう。
でも今ここでこうしておく必要があった。
グレシアへの怒りよりも、俺達への怒りの方を強くしておかないと、帝国破滅という最悪の事態になりかねないからな。
俺たちは、口にしなくとも意思疎通が出来ている。
それにしてもアルバートのやつ、ゲームよりも非常識になってないか?
まぁ現実に実在する人間なんだから、シナリオとは違っても不思議ではないが。
「ワタクシはアルナ・フォン・アルゴノートですわ!男爵家の次期領主ですの。このクラスにはアルゴノートが四人居ますけど、どれもワタクシと対等な立場ですの。よろしくお願いしますわ」
アルナの声に、教室はざわめき出した。
自己紹介でざわめき出すのはこれで8回目だ。
このクラスは35人構成だから8回って結構な回数だよな。
アルナの他にはミラと、花そその主人公にして、聖獣と契約する聖女リリィ、そして攻略対象の5人で皇太子のアルバートと乳兄弟のガーデル、宰相の息子のパルバディ、剣聖の子息のグランベル、英雄の息子グレイだ。
まぁ花そそのメインメンバーは、貴族ではかなり有名だしわかる。
ミラは婚約者の俺以外には略称を呼びを許さないって言う発言で、まぁ結構な奴らがキレてた。
あいつら模擬戦の授業の時ぶっ飛ばそう。
ミラがあぁ言わなきゃ略称呼びしようとしてたんだろうからな。
「次、リアス様」
シャルル先生の発言と共にどよっと、ざわめきが辺りに響く。
俺もぶっ飛ばしたくなった。
あの教師は、なんで皇子ですら君づけだったのに、俺は様付けなんだよ。
「あー、リアス・フォン・アルゴノートです。アルナの兄です。仲良くしてください」
俺はそのまま席に着いた。
そう、ここは下手に指摘をしないほうがいい。
触らぬ神に祟りなしだ。
俺は最後だからな。
下手に印象付けると、後で絡まれかねない。
「ねぇ、あれドブさらいの家の奴らでしょ?なんで様付けなんて」
「この学園の奴らもみんなドブさらいだからでしょう?」
「ふふっ、貴族としてのプライドがないのかしら?」
「まぁ妹が家督を継ぐのだから大した事ないのでしょうね」
お前ら聞こえてんぞ。
まぁなんとかごまかせたようでなによりだ。
ドブさらいは平民と貴族を同列に扱う貴族のことの皮肉言葉だ。
別に同列には扱ってないんだよな。
等しく人権は必要だとは思ってるけど、領民とそこのアルバートを天秤にかけられたら、俺はアルバートを選ぶ。
当然だ。
領民あっての貴族だが、貴族制度の国である以上、皇子と平民を同列に扱うことはできない。
貴族と平民は平等だ。
けど対等ではないんだよ。
そこを履き違えてる。
ドブさらいと呼ばれて蔑まれている奴らは、貴族と平民を同列視するだけだからそうなる。
当たり前だ。
そんなんじゃ秩序が乱れる。
俺は様付けされるのが嫌いだからさん付けにしてもらってるし、ミラやイルミナはさん付けも嫌だからちゃん付けされてる。
それが証拠に何も言わないアルナは、領民と仲こそいいが様付けだ。
庶民だってわかっているんだ。
分別を弁えないと、今度は貴族を軽視して内乱を起こす人間が出てしまうことを。
まぁだからって平民を蔑むのはまた違うけどな。
「はい。以上で自己紹介も終わりました。明日からは、授業が始まります。本日は先輩達が歓迎会を催しているそうですので、皆様は是非とも------」
「話は終わりかアルスナー?」
「えぇ終わりですよ殿下」
「じゃあ俺から全員に話すことがある。俺は今日君達との交流を深めるために、夜会を開こうと考えている。是非とも君達には参加してもらいたい」
えぇ・・・。
先輩達が歓迎会を開くのって、ずっと昔からある伝統だろうに。
そうじゃなくても、この歓迎会は貴族の令息令嬢達が、新入生の貴族たちのためにわざわざ催しているのだ。
その顔に泥を塗る行為だよなこれ。
やるにしたって事前に知らせるとかあるだろう。
「俺は型にはまった社会を改革しようと思い開催を決意した。もちろん先輩方の主催したパーティに行きたいモノがあれば止めはしない。しかしこの国を変えようとする貴族は、是非俺の主催する夜会に出席してほしい」
要するに平民は来るんじゃねぇってことね。
それは結構なことだな。
自分は型にはまった社会から出れていないのに、改革しようとか言うとか怒りを通り越して笑えるぞ。
誰が参加するんだこんなの。
と言うかシナリオにこんな夜会パートなんてなかったぞ?
「殿下の志に感服致しました!私は是非とも参加させていただきたく存じます」
「うむ。パルバディ・フォン・エッケンベルグ、宰相大臣の息子であり、次期侯爵家の当主である君が参加してくれるのは、俺としても鼻が高いよ」
宰相の息子ともなれば、他の貴族との関係性にヒビを入れるよりも、皇太子候補であるアルバートの顔を立てることを注視するのは、当然ちゃ当然だな。
まぁこいつが皇太子になれればだが。
他はどうするんだ?
「自分も参加致します。ジャスティン家は帝の剣。皇族より優先するモノはございません」
そう言って膝をつき、金髪ストレートでロン毛のグランベルは、髪を地面につけて頭を下げた。
「よせ。今は公共の場だ。それにお前の髪も汚れるだろう」
「心遣い感謝致します」
「あぁ、アルバート様はなんで慈悲深いのかしら!」
「キャー!かっこいいわぁ」
何?
ここはアルバート教の本山かなにか?
慈悲なんてどこにも感じなかったぞ?
あいつもなんであんな満足げな顔してんの?
羞恥って感情に異常をキタしてるよ!?
「わたしも参加するよ!アルバートくんいいかな?」
一見不敬にも見られかねないその行為も、彼女なら許される。
リリィ・バンディナー、花そその主人公であり聖獣を持つ聖女だ。
聖女は国に富をもたらすと言われていて、どの国でも喉から手が出るほどほしいため、皇帝と同じ権限を持つ。
「もちろんだ。聖女が来てくれるのは俺としても鼻が高い」
「私も参加しますわ!」
「私も是非!」
「アタクシもお願いしますわ!」
次々と参加者を募いでいく。
これはもうカリスマと言ってもいいんじゃないか?
『なんですかあれ?洗脳でもされてるんですか?』
「同感だな。俺もそう思う」
アルバートの席の周りが騒がしくなってきた。
教師も注意しろよ------ってもう退出してる!?
あいつ仕事外のことはしないタイプの教師か。
「なぁリアス」
「あ?どうしたグレイ」
「お前はあれ参加すんの?」
「いや?する気ないぞ?」
アルナにも無理に参加はさせない。
だってアルバートが催す夜会なら、どうせ宮殿だろう。
それなら陛下から情報を粗方聞けるはずだ。
そうじゃなくても、俺達は帝国が滅ばない道を選んでも俺達がこのことで不自由な暮らしを強いられちゃ困る。
「ってことはイルミナちゃんも参加しねぇよな」
「さぁ?それは本人次第だが」
「しませんよ。なんですかあの宗教みたいな集まりは」
「いくらなんでも先輩方に失礼だよねー。ボクが先輩だったら殿下でもぶっ飛ばしてる」
ミラとイルミナが文句を言いながらこちらに寄ってきた。
「イルミナちゃんも参加しねぇのかー。お前らは先輩達の催しには参加するわけ?」
「イルシア先輩もいるだろうしな。俺はあの戦闘の時肩を借りた恩があるし、礼も言いたいしな」
「確かにあの集団に参加するくらいなら、先輩達の催しのがいいよね。料理はメルセデスにいつも作ってもらってるけど、今回は流石に毒とか心配しなくてもいいよね?」
まぁ帝国で用意できる毒なら、ボクらを殺すことなんて夢のまた夢と、小さく笑いながら呟くミラ。
飯食う気満々だな。
クレとミラの治癒魔法は、即効性の毒も服毒1分以内なら蘇生できるし、万が一仕込まれていても心配はない。
流石神話級の精霊!
ただ苦しいことは苦しいから、特別なパーティでもない限りは、メルセデスの料理だけだな。
「じゃあオレも先輩達の催しの方に参加するわ」
「お前、殿下の幼なじみだろ。いいのか?」
グレイだけじゃなく、攻略対象5人は全員幼馴染みだ。
だからこいつも夜会に参加すると思っていたんだがな。
「よく知ってんな」
「お前英雄の息子だろ?個人情報なんてないに等しいぜ?」
「違いない。まぁオレはイルミナちゃんに興味がある。婚約者候補が出席しないパーティに行く意味があるか?」
「大有りです!」
なんだ?
俺は背筋がゾッとした。
3日前に見た悪夢の所為だろう。
グレイに意見するように声を発したのは、前世でゲームとはいえ、何度も対峙した女性グレシアだ。
「おいグレシア」
「貴方が殿下の顔に泥を塗るような行為をしようとしてるのに、許せると思いですか!?」
「別にお前にゃ関係ないだろ」
「大有りです!!私は貴方の幼馴染みとして、貴方が間違った道に行かないようにする義務があります」
いやそんな義務幼馴染みにはないぞ?
義理はあるだろうけど。
と言うかなんだこれ?
俺が知ってるグレイは、グレシアに対して蔑んだ目を向けているシーンくらいしか思い浮かばないし、間違っても幼馴染みの設定を生かした会話が起きたことはなかった。
でも今のは明らかに幼馴染みとして一つの在り方のそれだ。
よく考えたら、グレイを攻略対象に選んだらグレシアは、グレイの婚約者になるんだから、これくらい仲睦まじいのも当たり前、なのか?
わからん。
「そうは言ったってよ、あんな非常識を言う奴のパーティーなんて行きたかねえよ」
「どうしてですか!」
「いや、実際殿下は義理を果たしてないし、それを注意しない乳兄弟もどうかと思うんだよ。なぁ、間違ってることだとわかってるのにやらないといけないことなのか?」
グレシアの言うことも間違ってはいないし、グレイの言うことも正しい。
何か間違えてる奴がいるとすれば、それはアルバートだろう。
あいつは自分の影響力と、世間の常識を全く理解していない。
グレシアは、こんなにもアルバートのことを考えているのに不憫だな。
この世界が一周目だろうと二周目だろうと、アルバートとの婚約は成立しないのだから。
「グレイの言う通りだな」
「俺達も、と言うかあの時前線にいた奴らはみんな同じ気持ちだろうな」
気がつけば俺の後ろには、子爵や男爵が集まっていた。
あの時魔物大量発生の時、駆り出されていた次期当主達だ。
アルナも含めて7人が集まっている。
「どういうことですか?」
「グレシア様には悪いですが、貴方の婚約者の行動は、昔の自分達をみてるようなのです」
昔の自分達ってのは、貴族という肩書を利用して平民を蔑んでいたことか。
話的にはそうだと思うが。
「アルバート殿下の行動は、先輩方や平民を顧みない、酷く自分勝手なモノです」
「それは皇族だからです!」
「俺達もつい先日までそう思ってましたよ。立場的に何をしても許されると思ってました」
「当然です。彼はそれだけのことをするのが、許されるだけの責務をこなしていますからね」
いや、だからって相手の気持ちを無我にするような行為をしていいわけじゃなかろうに。
俺が口を開こうとした瞬間、次期当主達が先に反応する。
「それではただの横暴です。我々にも言えますが、責務は皇族に生まれた以上、仕方がないのですよ。それを理由に許されることはあっても、何でもしていいということじゃないんです」
驚いた。
俺がまさに言おうとしたことを代弁したからだ。
ミラがニコニコしながらこっちをみてる。
あの場ではイエスマンになってただけだと思ってたが、ちゃんと自分達の今までの行動を鑑みてるじゃないか。
こいつらが昔はどうだったか知らないが、少なくとも一つの成長だと思う。
「それは------そうですね。私が間違っていました。私も殿下の婚約者として諫める立場だと言うのに、責務を放棄してしまっていましたわ。今すぐに抗議してきます」
「あ、グレシア様」
ミラは静止しようとしたがするりと抜けて行ってしまった。
このままでは、確実に面倒なことになるぞ。
「無駄だ。あいつは昔から行動が早い。思い立ったが吉、そういう奴なんだ」
「同じ幼馴染みでも、随分と殿下に対してと反応が違うんだな」
「どうかね。ただの腐れ縁なだけだ」
本当に腐れ縁だと思ってる奴はそんなこと言わないわ。
でも彼女は婚約者が間違った道に進みそうなら正そうとする優しい婚約者と言えるな。
政略的意味での婚約だというのに。
花そそでも、彼女が悪役令嬢として立ちはだかるとは言え、同情の声も少なくないしな。
「殿下!その催し本当に開催するおつもりですか?」
「なんだグレシア。お前は俺の婚約者だ。口出しは無用だ」
「いいえ!婚約者だからこそです。事前に準備をしていた他の貴族の先輩方々に一言お声かけをするのが、筋というモノではありませんか?」
「何故する必要がある?俺は皇太子だぞ?」
皇太子ならむしろ筋を通せよ。
偉ければ何しても許されるなんて子供かよ。
「貴方はまだ皇太子ではありません。この学園を卒業して初めて皇太子となります。このままでは、日々の行動を理由に皇太子候補から外されてしまいますよ?」
実際、皮肉なことに、こいつ以外が皇太子になる可能性は低いけどな。
第二皇子はこいつに心酔していて、第三皇子は廃嫡されている。
だからこその強気であり、自分が皇太子になることを疑っていないのだろう。
「ふんっ!女の癖に政争に口を出してくるな!お前は婚約者として俺の顔を立ててればいい!」
「その通りですわ」
「いくらグレシア様でも不敬ですわよ」
「なっ!?」
男尊女卑激しいな。
グレイが黙って拳を握り、血が滲み出している。
「擁護しなくていいのか?」
「下手に手をだして何もできずに、実家に迷惑かけろってか?」
「さぁ」
グレイはグレシアのことを大事にしてるのだろう。
だから正しいことを言ったのに、何故彼女が非難されないといけないのかと疑問に思いつつも、自分が彼女を擁護したところで、男爵という身分では火に油。
更に自らの実家にまで飛び火するとなれば、出ていくこともできない。
その自分の無力さに、こいつは腹が立っているんだ。
「もういい。お前は来なくていいぞ」
「な、殿下それは!」
「俺がやることに文句があるとはそういうことだろう?」
アルバートの奴正気か?
婚約者をパーティに呼ばないってことの意味わかってんのか?
誰も擁護する気配がない。
それどころかパルバディの気配が危うい。
あいつも第二皇子のガランほどでないしろ、アルバートを崇拝してる。
パルバディは腰の剣に手をかけた。
抜刀すんなよ学園で。
「やめておきなさい」
イルミナがいち早く動いて、彼の剣を抜かないように柄を手のひらで押して抑えている。
アルバートの近くにいた奴らは、イルミナの動きにすら気づけていない。
下手したら急に現れたと思ってるんじゃないか?
「女性相手に何をしようとしていたのですか?」
「不敬な女に制裁を加えようとしただけだ」
「そうですか」
柄から手を離すとイルミナは何もなかったかのようにこちらに戻ってきた。
流石に抜刀するのはやり過ぎだとアルバート以外は考えたのか、パルバディの周りから人が一歩だけ離れている。
「ナイスイルミナ」
「なんてことないですよ」
「ボクとリアスくんも止めようとしたけど、色々と問題になるしね」
流石にパルバディも自分がしようとしたことがどういうことか、周りの反応から反省しているようだ。
反省するのが遅い。
「たかが侍女に遅れを取るとは不甲斐ないぞ!」
「も、申し訳ございません」
帝の剣と呼ばれる家系が、一塊の男爵の侍女として入学した生徒に遅れを取ればそうなるわな。
多分教師を含めたこの学園に所属する人間の中で、イルミナを超える身体能力持ちはいないだろう。
あくまでここは魔術学園だしな。
「ところで君達はどうする?是非ともクラスの者達にはこれからのことも考えて参加してほしいのだが」
「で、殿下、私は」
「うるさいぞ。ここで婚約破棄でもされたいか?」
グレシアは殿下に払い除けられて、よろけて倒れてしまった。
あれだけ言われても婚約者を正そうとするその姿勢は感服するよ。
ミラがアルバートみたいな性格だったら、俺も結契なんてしなかったと思うし、婚約者同士に関しては身分なんて本当に関係なく平等だと思うけどな。
「グレイ、お前は参加するだろ?」
「悪りぃなアルバート。俺は先輩方の催しに出るぜ」
「なに?聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「ん?あぁ、悪い悪い」
グレイは満面の笑みを浮かべる。
そのことから参加するとグレイが言うと思ったのだろう。
しかしこの状況で気遅れして参加するとか言う奴なら、そもそもアルバートにタメ口なんて使わないだろう。
「こいつらは全員お前の夜会には参加しない。俺達はお前の夜会にはしない。悪いな」
「き、貴様ぁ!」
クラスの35人のうち11人は参加しないことになった。
そのことに顔を赤くして怒るアルバートの顔は面白い。
ミラがグレシアの元に近づいていく。
「グレシア様、手を」
「え、あ、ありがとうございます」
「行きましょう。こんな婚約者を無下に扱う人に気を使う必要はありません」
ミラはかなりゲスな顔でアルバートに微笑んだ。
怒りのあまりアルバートはミラに殴りかかる。
こいつ・・・
俺が許すと思ってんのか?
アルバートの拳を俺がミラとアルバートの間に入って止めた。
「俺の婚約者になにをしようとしました?」
「貴様の婚約者が俺に無礼を働こうとしたからだ」
「はぁ。俺の見る限りどこが無礼だったのかわかりかねますが」
ここでミラが不適な笑みを向けたことを言えば、アルバートがどれだけ舐められているかを公にしてしまうことになる。
流石にそこまで来て陛下が来れば、廃嫡問題にも発展しかねないことがわかっているのだろう。
アルバートは下唇を噛みながら、拳を下に下ろした。
唇切れてるぞ。
「じゃあ俺達はそういうことで行きますね。そちらはそちらでお楽しみくださいませ」
参加しない俺達はグレシアと共に教室から出ていく。
さぞかし悔しいだろう。
でも今ここでこうしておく必要があった。
グレシアへの怒りよりも、俺達への怒りの方を強くしておかないと、帝国破滅という最悪の事態になりかねないからな。
俺たちは、口にしなくとも意思疎通が出来ている。
それにしてもアルバートのやつ、ゲームよりも非常識になってないか?
まぁ現実に実在する人間なんだから、シナリオとは違っても不思議ではないが。
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