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二章

歓迎会の会場

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 俺は寮で休んだらメルセデスを呼びに部屋の前に来たところだ。
 流石に外で待たせるわけにもいかないしな。
 新入生は今日から入寮なため、自室の
整理をしているところだ。
 それにしてもあの副学園長、いや教頭はその説明もせずに帰るとはなに考えてんだか。
 まぁあのバカ皇子の所為でクラス自体に対して、呆れてしまったのかもしれない。
 普通に考えれば、皇子主催の夜会は子爵以下はお呼ばれしないし、伯爵以上は今後を考えても行かないわけにはいかないだろうからな。

「おう、坊ちゃんおかえり」

『あれ!?ナスタがいねぇ!』

「言っただろ。今日からミラのところにいるって」

『なんだよ、遊ぼうと思ってたのに』

「悪いな。クレ、遊んでやれ」

『いいですよ?』

『やったぜ!クレの兄貴!』

 二人はそういうと、隅で魔力の調整の練習を始めた。
 それは遊びなのか?
 まぁ本人達は楽しそうだしいいか。

「今日は先輩方が新入生の為に歓迎会を開いてくれるらしいからな。メルセデスは今日は休みだ。て言うか、ついてきて家族達が食べる料理を研究して欲しい」

「坊ちゃんはいいのか?」

 俺は1番毒に怖がってたからな。
 そう思うのも無理ないけど、最悪毒が盛られていても、クレやミラがいればなんとかなるし、こういう催しくらいはそんなこと気にせずに行きたいしな。

「最悪クレが治してくれるしな」

「そう言うことならいいんでさ。歓迎会は公爵の料理人とかも準備してるだろ多分。今日は楽しみ!」

「だろ?まぁ庶民料理に関しちゃ、お前に叶う奴は貴族の料理人にはいないだろうぜ」

「ありがとよ。貴族の料理も敵う奴が居ないように頑張りまっせ!」

 そのうち本当に、帝国一の料理人になるんじゃないか?
 流石にそこまではわからないけど。

「ところで話は変わるが、イルミナに言い寄ってた奴が居たぞ」

「なにぃ!?」

 メルセデスもまたイルミナに想いを寄せる人間の一人だ。
 メルセデスは今年で24、イルミナとは9歳差だな。
 ロリコンか?
 まぁそんなことはどうでもいいな。
 そんな理由からグレイがイルミナに婚約を申し込んだしたことは、メルセデスに話しておかないとな。
 じゃなきゃ公平じゃない。
 
「どこのどいつだ!」

「英雄の息子、グレイって奴だ」

「くっ、イルミナの魅力に合う肩書きっ!」

 お前もいい加減思い告げろよと思う。
 イルミナどころか、女子の恋心自体よくわからない俺としては、さっさと想いを告げた方が確かだと思うけどなぁ。

「まぁ当の本人はーーーーーーいや、いいや。なんでもない」

「なっ!そこまで言ったなら教えてくれよ」

 いや、教えなかったら二人の関係が発展するのでは?と考えたんだよな。
 だからここはこいつらのためにも黙っておこう。
 グレイのことはよく知らないが、メルセデスは信頼に足るし、こいつとくっつけば幸せになれるのでは?

「おーいリアス。歓迎会の会場ってさー」

「グレイ、人の部屋に入る時はノックぐらいしろ」

 勝手にドアを開けたグレイに物申した。

「それなら部屋にいる時くらい鍵をしろ」

 グレイは自分のことを棚に上げてくる。

「あんたがグレイか!」

「リアス、こいつ誰だ?」

「こいつはメルセデス。俺の専属料理人だ」

 首をクイクイとやって自己紹介するように促す。
 一応こいつも貴族だからな。
 最低限の礼節は弁えさせないと、俺まであのバカ殿下と同じになる。

「メルセデスです」

「おい、メルセデス」

「はぁ。坊ちゃん、じゃなかった。リアス様の専属で料理長をさせていただいておりますメルセデスです」

 よろしい。
 名前だけは流石に失礼過ぎるからな。
 マナー自体は悪くないんだよこいつ普段は。
 料理長というのは名ばかりで、俺が料理人を増やさない限り肩書だけだ。

「へぇ、聞いてると思うから家名は省くな。オレはグレイだ。よろしくなメルセデス」

「えぇ、よろしくお願い致します」

 二人は言葉上は、友好的な会話になっている。
 しかし一方は敵意剥き出しだ。

「あ、オレなんでこんなに睨まれてるの?」

「俺に聞くな。それで何の用だ?」

「あぁ。リアスは歓迎会の場所を知ってるのか聞こうと思ってさ」

 例年通りなら学園の離れにあるパーティ会場用の施設で行うはずだろうけど。

「離れの施設じゃないのか?」

「いや、そこは皇族が貸し切ったらしい」

 やはりか。
 じゃなきゃわざわざ聞きに来ないよな。
 そりゃあのシャルル先生も呆れるわ。

「おい、坊ちゃん!それって」

「明確な嫌がらせだと取られてもおかしくない。本人はサプライズパーティ程度に思ってるだろうけどな」

 学園がそのことに気づかないはずがない。
 拒否だって出来たはずだ。
 しかし皇族が貸し切る理由に、何かとんでもない理由があれば話は別だ。
 そうか、魔物大量発生スタンピードが起きたことにより、貸し切る理由にそれを促せば、十分可能だ。
 ただ------
 
「あの皇子様正気か?」

「アルバートが正気な行動してると思うか?あいつは仕事はできるが、仕事に対して思いやりが全くない。去年くらいまではそれでも何とかなっていたんだ」

「なにがあった?」

「アルバートがグレシアを蔑ろにし始め、勝手な行動をするたび、ターニャ家に文句を言いに行ったんだ」

「それが何の理由になるんだ?」

 まぁ大方予想がつくけどな。
 さっきあったばかりだが、グレシアは間違っていることは間違っていると、自分の非を認めて考えを変えれるような奴だ。
 アルバートが文句を言おうとも、グレシアがその尻拭いをしていたのだろう。

「ターニャ家の現当主、グレシアの父親はグレシアを痛めつけたんだ!」

「はぁ、マジか」

 ターニャ家自体が真っ黒かこれ?
 花そそのシナリオで裁判を待たずに処刑が執行された理由の一端は見えた気がした。
 いくらこの国が腐った貴族社会でも、親が子供を痛めつけるのはご法度だ。
 それが虐待だけで済んでるはずがない。
 調べれば色々出てくるんだろうな。
 そうか、イルシア先輩の子入れ替えの工作も、ターニャ家の領主が行なった可能性が高いな。

「驚かないんだな」

「驚いたさ。ただ以前グレシアのお兄さんと色々あってな。思うところがあっただけだ」

「そう言えばあのとき、イルくんとも仲良さそうだったもんなお前」

 イルか。
 愛称呼びはそれなりに仲が良い証拠だ。
 イルシア先輩は反面教師として親を見ていた。
 そして目をつけられ、先日の事件に繋がった。

「なぁ、グレシアって」

「あぁ、花そそでの悪役令嬢だ」

 メルセデスには花そそのシナリオについて教えてる。
 それにグレシアにはミラとイルミナが探りを入れる予定だったから、どういうことかと聞きたかったのだろう。
 俺は後で話すと言っといた。
 流石にグレイの前で、花そその内容を話せるほど信頼関係はまだない。

「話は戻るがグレシアと言う抑えが効かなくなったアルバートはそれはもう酷いもんだ」

「税が足りない払えないと言えば、領民の暮らしを減らせば回収できることだろうとか、そんなところか?」

「あ、あぁ。なんでわかったんだ?」

「ここ最近、うちの領地へ飢餓で苦しんでいた奴が移り住んできた。それだけ言えばわかるだろ?」

 貴族が税収を回収出来ていないと皇族から税収が払われていないと通達が来る。
 ここ近年領民達が、別の領から移り住みたい要望が絶えなかった。
 なんでも税収の回収に融通が効かなくなり、飢餓に苦しみ始めたとか。

「被害者がお前の領地にもいると」

「そういうことだ。みんなかなり不満貯めてたからな」

 でも困ったな。
 そうすると歓迎会の場所がわからない。

「シャルル先生に聞いてみるか?」

「歓迎会は夕方からだ。今から聞きに行ったんじゃ、間に合わないだろ。あいつが場所言わないで、バカ皇子を諫めないからこうなった。あとでぶん殴ってやる」

「おいおいリアス。流石に平民にそれを期待するのは酷だろ」

「平民だろうがなんだろうが、あの学園ではあいつは皇子様なんかより偉いんだ。お前だって見ただろ?あのエルニカだっけ?あいつが退学にされたところ」

「エルリカな。ジャルバーニの令嬢は気の毒にな。オレならあの場ですぐに頭下げるけど、あいつはプライドが許さなかったんだろうぜ」

 プライドと人生天秤にかけんなよ。
 まぁどのみちもう二度と会うことはないはずだ。
 貴族がアルザーノ魔術学園を卒業できなかったらどうなるかなんて、常識的な育ち方をしてたらわかるはずだ。
 アルザーノを卒業することを前提にした職業が主な帝国で、これは致命的だ。
 要するに、お前は社会に入らないと言われたようなもんだ。
 日本で言う高校と同じだな。
 高校すら出てない奴は、例え優秀だとしてもお断りされるの同じ。
 秀才じゃない、天才でもなければ成功が難しい。

「バルドフェルド先輩まだいるかな?」

『そんな必要ないですよ。外見てください』

 俺は外を見ろと言われたから、部屋の窓を見る。
 そこには葉っぱの傘を持った小さな精霊がいた。
 たしかアンリエッタだっけ?

『人間は魔法自体が使えない。つまりそう遠くには離れていないはずです』

「なるほど。外にはいないみたいだから、バルト先輩の部屋か」

「リアス、どうした急に?」

「外にイルシア先輩の精霊がいる。ってことはイルシア先輩も近くにいるってことだろ?」

「あぁ、なるほど!さすがだなリアス」

 クレの受け入りだけどな。
 まぁグレイには精霊の言葉かわからないし、言うつもりもないからなにも言わないが。
 俺達は俺の部屋を後にして、バルドフェルド先輩の部屋に向かう。

「バルドフェルド先輩、居ますかー?」

 しばらくすると扉が開き、中からバルドフェルド先輩とイルシア先輩が出てきた。

「おぉ、リアスか。それにグレイも」

「グレイくんも一緒かー。二人とも早速仲良くなったんだ」

「リアス、グレイ、入学おめでとう」

「そうだ、おめでとう二人とも」

「ありがとうございます」

「サンキューイルくん、バルドくん」

 二人から祝賀をもらったので、お礼を述べる。
 これは貴族じゃなくても当然の礼儀だよな。

「そっちの背が高い人は、リアスくんの従者?」

「あ、メルセデス。挨拶挨拶」

 二人とも初対面だったこと忘れてた。
 イルシア先輩も顔は見たことあるだろうけど、紹介はしたことなかったしな。

「メルセデス・フォン・アルゴノートです。リアス様の専属で料理を作らせていただいております」

「おい、メルセデス!俺との態度が違うぞ!」

 キッ!って音が出そうなほどメルセデスはグレイを睨む。
 恋敵とは言え、本人には言ってないし、流石に可哀想だ。
 グレイも、オレって何か嫌われることしたか?って言ってるし。

「アハハ・・よろしくメルセデス。俺はバルドフェルド・フォン・グランマドだ」

「イルシア・フォン・ターニャだ。お前も魔物大量発生スタンピードの時いたから知ってると思うが、こいつは男爵で俺は公爵な」
 
「まぁ堅苦しい自己紹介はこれくらいにしようイルシア。二人とも俺に何の用事?」

「歓迎会の場所を教えてほしくて来ました。担任には教えてもらえませんでしたので」

「ついでに言うとオレ達のクラスは参加者11名だ。アルバートの奴、自分で入学祝いの夜会を開きやがった」

 二人とも意外にも驚いていない。
 普段からアルバートを見て来たからか、本来の場所を貸し切られたからかはわからないが、予想の範疇だったんだろう。

「あちゃー、やっぱ皇族が離れを貸し切ったのって、そういうことなんだ」

「アルバート、あいつ自分がなにしてるかわかってるのか?」

「イルくん。アルバートは、またグレシアを蔑ろにしたよ。だから歓迎会にはグレシアも参加する」

「ッ!あいつ!」

 この反応、イルシア先輩はグレシアの事を溺愛してるのだろうか?
 イルシア先輩はまともだし、ターニャ公爵夫人には会った事ないが、グレシア以外家の人間がまともじゃない場合、それはもう可愛い事だろう。

「今、グレシアはどこに?」

「ミラとイルミナと一緒に寮に戻ってますよ」

「はぁ、今回は味方が居てくれてよかった。君達には皇族の権力は関係ないもんな」

「今回は?」

 よく考えたら何度も問題を引き起こしてるアルバートのフォローをしてるグレシアの事を庇ってくれてる奴は居たのだろうか?
 相手はあんなのでも皇族だ。
 グレイくらいは味方についてそうだが。

「あぁ、グレイやバルドフェルド、俺はグレシアを慰めていたが、基本的に味方はいなくてな。グレシアには女の子の友達というもの自体が居ないんだ。取り巻きはいるが」

『アルバートは人間の中でもどうしよもない人ですね』

 クレの言う通りだ。
 そして俺が思ってる以上にアルバートはどうしよもない。
 アルバート、あいつは人としてダメだ。

「想像以上に酷いな。あんなのが皇太子、ましてや皇帝にでもなったらこの国も終わりですね」

「やっぱりリアスもそう思うか。同感だ。まだ13で女遊びが過ぎるが、ジノアが皇太子に一番ふさわしい器をしている」

「へぇ、ジノア殿下が」

 現実ではジノアとあったことはないが、ゲーム内のシナリオでは女泣かせで皇子達の中で一番たち悪いと思ってた。
 でも実際はジノアは男としてダメだが、アルバートは人としてダメだから、女癖の悪さ以外まともならジノアのが一番マシなのか。
 廃嫡してるジノアの名前を出すくらいだから、相当だろう。
 ガランはアルバートに心酔してるだろうし。

「この国大丈夫か?」

「アルバートが治めたら間違いなく内乱が起きると思うぜ。グレシアが支えてくれるならいいが、あいつ下手したらグレシアを幽閉して名ばかりの白い結婚でもするんじゃないかと」

 グレイの言う白い結婚とは、書類上のみの結婚で夫婦とは程遠い関係の事だ。
 
「そうなったら俺はなにがなんでもグレシアに離婚させる!俺の可愛い妹にそんな生活させてたまるか」

「イルシアはグレシアちゃんやミルムちゃんの事になると頭に血が昇るんだから。今日は二人の祝いの場だし、グレシアちゃんも歓迎会に来てくれるんだ。今はそれでいいじゃない?」

 確かに本来ならアルバート主催の夜会に出るのが、婚約者としての義理だ。
 しかしアルバートがその事自体を拒否した為、グレシアは歓迎会に来る。

「おぉそうだな。あんなくそ皇子のことは忘れて、今日は楽しんでくれよ」

「あ、それで会場はどこなんです?」

「入学式と同じ場所だ」

 入学式の会場は体育館だった。
 マジか、考えたな。
 離れは学園からかなり遠いし、近くで歓迎会をしてれば、無理にアルバートの夜会に行こうとはしないと言う、学園の対策か。

「すぐそこだな。じゃあゆっくりできんじゃん。リアス、お前のこと色々教えてくれよ」

「え、めんどい」

「そんなこと言うなよ、友達だろー」

「ミラ達に会場を伝えないといけないだろ。それに同じクラスの奴らにも」

「あぁ、たしかに。じゃあ男子には俺が伝えとくから女子にはお前が伝えておいてくれよ」

 女子寮は男子禁制だぞ。
 学園は間違いがあっても責任取れないからな。

「わかった、伝えるよ」

「え」

 ニヤついてるあたり、期待してた答えとは違って驚いたのだろう。
 ぶっちゃけ待ち合わせしてるから、その時伝えればいいんだけどな。
 しかしこの事を口にした事で俺は後悔した。

「リアス!是非ともここでそれを実践してくれ」
 
「イ、イルシア先輩!?」

 肩をがっしり掴み、逃さんぞと言わんばかりの目力でこちらを見る。

「待ち合わせしてるからその時伝えるんですよ」

「いや、君の口振り的に今伝えようとしてたよな。君の魔法は興味深いんだ。是非とも見せて欲しい」

 あちゃー、イルシア先輩ってこんな好奇心旺盛なタイプだったのか。
 ゲームではおそらく入れ替えられてしまった別のイルシアだったから、この人の性格の想像がまるで付かない。

『リアスが紙で会場の場所を書いてください。私が紙を加えて伝えに行きますよ。流石に伝達法を見せるのは色々と問題があるでしょう。紙で伝えるのはグレシアへのカモフラージュでもあります』

 たしかに伝える方法はあるにはあるが、それを伝えるのはミラが精霊のハーフだったり、俺が精霊と話せる事が出来たりすることの次に見られたらまずいものだ。
 イルシア先輩は悪い人じゃないとは思うが、それを伝えられるほど信頼関係が深いわけじゃない。

「クレ、ミラ達にこれ伝えてくれよ」

「キュゥゥゥウ!」

 俺は会場の場所をメモして、クレに咥えさせてミラのところにやった。

「なんだ、魔法じゃないのか。つまらん」

「そんなものですよ」

「精霊なしでも魔法が使えるリアスならではの技だな」

 精霊が居なくても、魔法が使えると言う情報を開示しといてよかった。
 これで精霊が居なくても違和感がない。

「ところでグレイの精霊は一体どんな精霊だ?」

「ん?それは後で見せるぜ。今は寝てるんでな」

 ベルトの部分についてる籠を指差して、口に人差し指を当てる。
 歓迎会の時にでも見せてもらおう。
 どんな精霊だろうか。
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