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二章

プロローグ

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 これが生まれ変わってはじめての入学式になる。
 いよいよ今日から「花咲く季節☆君に愛を注ぐ」のシナリオが始まる。
 帝国貴族は基本的に家庭教師から勉学を勤しみ、15歳でアルザーノ魔術学園へと入学する。
 それはアルザーノ魔術学園に通うことが、当主を継ぐ条件の一つに法律であるからだ。
 俺達も例に漏れず家庭教師から教育を受けた。
 まぁ三十路の記憶のある俺にはなんら苦はなかった。
 それにミラとイルミナもそれなり勉強ができていたし、俺達の幼少期は魔力、体力作りで過ぎ去っていった。
 将来への投資だと思えば安いもんだけど、子供の時はもっとはしゃいでた記憶があるから、二人には悪いことしたと思う。

「えぇー、入学生諸君。本日は入学おめでとう。君達は今日から晴れて、魔術学園の生徒となった。ここは貴族は通うことが義務付けられているので、平民の諸君は肩身の狭い思いをすることになるだろう。だが安心しては欲しい。この学園は平等だ。家族も平民も関係ない。故に君たちは存分に勉学に励むように!」

 話し合えた髭が目立つじじぃはこの学園の学長だ。
 拍手は半数より少ない程度しか鳴らなかった。
 何故ならそんなの平民しか拍手しないからだ。
 俺もこの方針はどうかと思うよ。
 貴族が民のことを考えたまともな奴らならいいと思うよ?
 でもこの国はそうじゃないし、勘違いした奴が平民を虐げるかも知れない。
 そしてそれを利用して、貴族を陥れる平民だって出るかもしれない。
 良くも悪くもここは情勢に取り残されれば、社会的に殺される惨状にも等しい。
 現にグレシアは、花そそで冤罪で断罪されてしまった。
 
「あのじじぃ胡散臭ぇ」

「奇遇だね。ボクも同じこと思ってた」

「仕方ないです。平等な世の中であれば、ここまで家族の考えも腐敗してませんよ」

 実際に俺達は音声言語は発していない。
 読唇術でなんかなく話してることがわかる程度だ。
 じゃなきゃ貴族や学長の批判なんて口にできない。
 世間体的にも、面倒ごとが増えるだけだしな。
 けど精霊達はみんなぺちゃくちゃ話してる。
 俺とミラは精霊の声が聞こえるので精霊達がうるさいねと笑った。

『あれは本気で平民と貴族が平等に暮らせる世の中ができると思ってるますよ。呆れます。人間はやはり愚かだ』

 血を流す気かよ。
 そんなの貴族制度を撤廃するしか方法はない。
 それは治安や経済の崩壊に繋がる。
 残念ながら平民達は外交でのマナーには疎いし、秩序という枷が外れた野蛮人が強盗や強奪は絶対に起きるさ。
 残念ながら昔のアルゴノート家の様に税を貪り、領地を管理しない貴族なんて稀なんだよ。
 貴族と平民は対等だが平等じゃない。
 全部陛下の父親の所為なんだけどな。

「今は陛下のおかげで均衡を保てているが、いずれどうなることやら」

「それはなる様にしかならないよ。でも皮肉だよね。ほとんどの貴族は愚かだけど、貴族社会が無くなればどうなるかは良く理解してると思う」

 それはそうだろうな。
 じゃなきゃ領地での会計、経済を回したりと領主の役割を全うしないアルゴノート家の集団となっていただろう。
 逆に貴族と平民の平等を謳う平民達は何もわかっていない。
 そこが皮肉なんだろうな。
 性根が腐っても人の役に立つ人間と、正義感あふれる理想のために奮起する奴と、どっちがマシかと言われれば前者に決まってる。
 
「以上で学園長のとお話は終わります。各自教室へ向かう様に!解散」

 それぞれ生徒達は入学式の会場からゾロゾロと退室し始めた。
 俺とミラとイルミナも同様だ。
 そしてミラとイルミナと俺は同じクラスだ。
 ミラは俺の婚約者として、イルミナは従者として入学しているから当然だな。
 
「兄貴、ワタクシ達のクラスにはアルバート殿下も居るらしいですわよ」

「お前も同じクラスなんだよな」

 アルナと同じクラスと言うことは、実質グレシア、アルバート殿下、そして花そその主人公と同じクラスだという事はたしかだ。
 アルナはグレシアの取り巻きのガヤだからな。

「オレ達のクラスは平民から公爵位まで、色々な生徒がいるらしいぜ」

「誰だお前?」

 気さくに俺達に話しかけてきたのは青髪の少年。
 俺、こいつをどこかで見たことあるぞ?

「あぁ、オレはグレイ・フォン・ベルヌーイってんだ。次期ベルヌーイ男爵家を当主だ。よろしくな。お前の活躍は見てたぜ。あの時は助かったよ」

 ミラとイルミナは驚いて俺の方を向いてる。
 グレイは花そその攻略キャラの一人で帝国の英雄の息子だ。
 男爵家と、階級こそ低いがその実力は攻略キャラの一人で宰相の息子にして、帝国騎士団の剣聖の一番弟子、グランベルト・フォン・ジャスティン伯爵令息とためを貼るそうだ。
 グランベルトとグレイは、仲間として使うと他の攻略キャラに比べてNPCの強さが少しだけ高くなると言う特典付きだ。
 それだけ二人は強いと言うことを、制作者達は示したかったのだろう。

「どうかしたのか?」

「あぁ、いや悪いな。俺はリアス・フォン・アルゴノートだ。俺も男爵家ではあるが、次期当主ではない。そしてこっちが俺の婚約者のミラ」

「ミライ・フォン・アルゴノートでーす!婚約者の段階だけど、性はもらってるんだ。あ、ミラって呼び方はリアスくんにのみ許してるから、ミライって呼んでね」

「あぁ、ミライちゃんな。君の実力も見てたぜ。あの剣を溶かした魔法、とんでもなかった」

 ミラはどや顔を俺に向けてくる。
 何、褒めて欲しいの?
 胸張ってちょっとかわいいし撫でてやろう。

「んふぅ~」

「それで、こっちがイルミナ。一応従者ってことで入学してるが、別に従者ではないからな」

「イルミナ・フォン・アルゴノートです」

 綺麗に背筋を伸ばしてお辞儀するなぁ。
 メイド長達からは指導されてないだろうに。
 と言うかアルゴノート家のメイドの質は酷いから、教えられても大して身にならなかったと思うが。

「え、イルミナちゃんもしかしてリアスの側室!?」

「いや?俺はミラ一筋だ。側室は作る気は無い」

「えぇ。わたしもリアス様のことは慕ってはおりますが、恋愛感情はありません。ただ、わたしを救って下さったので一生かけて恩をお返し致します」

「いや、俺達はイルミナに幸せになってほしかったから助けたのに・・・」

「うんうん!」

「何やら事情があるみたいだな。でも側室じゃないならさ、オレと婚約しないかイルミナちゃん!」

 俺達は、と言うよりこの場の空気が凍てつくのがわかる。
 まさかこいつ、イルミナ狙いだったのか?

「たしかにリアスとミライちゃんは凄まじい規模の魔法を行使したし、リアスはジャイアントベアを鷲づかみにするインパクトがあって尊敬するんだけどさ。一番すごいのは、イルミナちゃんの体術だと思うんだよね!身体強化を使ってたみたいだけど、それでもオレはイルミナちゃんを尊敬してるわけよ」

 なんか熱く語り出した。
 と言うか身体強化を使っていると気づいていたのか。
 すごいな。
 さすがに攻略キャラの中で二大実力者ではあるな。
 
「ありがたいお申し出ですが、丁重にお断り致します」

「えー、いきなりフラれたー!」

「いや、どうしていけると思った?俺達出会ってまだ二分くらいしか起ってないぞ?」

「そりゃあ貴族の婚約ってそんなもんだろ?政略的な意味で。オレの家も男爵家だし!オレ恋愛結婚したくってさ。家格的にも釣り合ってるし良いと思うんだよな。親父の威を借りるのも恥ずかしいが、英雄の家だしさ!」

 グレイの父親のパーピル・フォン。ベルヌーイ男爵は、かつてライザー帝国とヒャルハッハ王国が戦争をしていた時代。
 今から30年程前に起きた戦争で、終戦の立役者となったのだ。
 前線では数百人を一人で斬り殺し、後衛に下がればその指揮能力でヒャルハッハ王国を追い込むまでに至った。
 それから彼の父は英雄として、帝国の歴史に書き記されている。

「いや知ってると思うが、俺達は階級こそ貴族だが、領主としての責務しか全うする気が無い。両親もアルナも恋愛結婚を許可してる。俺達に取って結婚は政略的な意味よりも、後の人生を左右する重大なモノとしてるんだよ」

 これは俺が唯一持っていったワガママだ。
 ミラとの婚約を解消されでもしたら困るからな。
 結果としてアルゴノート領では地方令で、商家も含めた政略結婚は当事者の了承が無ければ行わないことになっている。
 もちろん政略的な意味を持つ恋愛結婚もあるわけだから禁止はされてはいないが。

「そんな貴族がいたのか・・・でもなら問題ないな!オレはイルミナちゃんに恋をしてしまったんだ。正攻法で口説いていくまでよ!」

「ポジティブだな」

「迷惑なのでやめて下さると助かります」

「そんなこと言わないでくれよぉ」

『リアスに聞いていたとおり、彼は馬鹿ですね』

 そう、こいつは作中でも英雄の息子とは思えないくらい馬鹿だった。
 こいつを攻略キャラにしたときは、悪役令嬢を断罪した理由が、アルバートの様に裏があるような模写がなく、令嬢達の言うことを真に受けてたんだよな。
 よく言えば裏表が無い人間とも言える。
 だからイルミナには本気で恋してるんだろう。
 
「イルミナ、こいつどうやら本気でお前に恋してるみたいだぞ」

「人に夢と書いて儚いという言葉がありますよね」

 それは日本だけだ。
 しかし脈はないように思えるけどなぁ。
 まぁ俺は恋愛経験がミラしかないから、そこまで語れる訳でも無いんだけどさ。

「ハカナイと言うのはよくわからなんが、少なくともオレへの配慮がないことはわかるぜ」

「まぁ配慮してないからだろ」

「酷い」

「まぁ叶わぬ夢を信じてがんばれ」

「お前もちょっとは配慮しようぜ!?」

 しょうがないだろう。
 オレはこいつの恋が叶わなければ良いなと思ってる。
 こんな奴にイルミナを渡せば、確実に不幸になる。
 紐気質があるし。

「ほら教室着いたぞ」

「はぁ、入学初日からいやな気分だな」

 教室に入ると、各々が楽しく談笑していた。
 初日からグループできてんのかよ。

「俺達の席はどこだ?」

「リアスくん!黒板に貼ってあるみたい」

「どれどれ?」

 俺の席がアルバートの近くなのはどうしてだ?
 ミラとイルミナは前の方でグレシアの席の近くだ。
 なんか意図的なモノを感じるんだが。

『これはエルーザが息子の護衛と、何かやらかさないか監視を頼むと言う意味では?』

「めんどくさ。席替えしねぇかな」

「なんだー?婚約者と離れて寂しいの------痛い痛い痛い!頭割れる!」

 グレイの言動にイラッときたから、アイアンクローで顔面を鷲づかみにしている。
 こめかみを親指と中指で押さえることにより、痛みを倍増させている。

「これは丁度良いかもよ。ボク達はうまくグレシアと仲良くして探りも入れてみるから、リアスくんは殿下のことを」

「ですね。グレシアがわたし達と居ることで、冤罪を未然に防ぐことも可能かも知れませんし」

「そうだな。ここはポジティブに考えるか」

「な、なんの話をしているかは知らんが、離してくれ!」

 わざと耳に入ってこないように、力を強めて痛みに集中させている。
 こいつからアルバートや、ましてや教室の後ろで早速男爵の男子達を侍らせている花そその主人公、リリィ・ゴールドの耳に入っても面倒だ。
 一通り話も終えたからこいつの顔面から手を離す。

「ハァハァ・・・おまえどんだけ握力あるんだ!」

「さぁな。さっさと席着くぞ。すぐ担任がやってるくんだろ」

「そうだねー。どうやらボク達で最期みたいだし」

 俺はもう一度グレイの顔面を鷲づかみにして、席に着かせた。
 みんな話に夢中なのと、殿下に視線が集中しているのとの二択なので、普通は目立つ行動をしても大して気にも留められなかった。
 だからやったんだけどな。

「おーい全員席着け」

 しかし席に着いているのは平民以外は、俺とグレイ、ミラとイルミナ、そしてグレシアと一部の子爵家と男爵家の男子だけだった。
 おいおい、いきなり教師に対してそういう態度取るのか?
 俺も目の前の教師は知っている。
 花そそをプレイしていたからって言うのもあるが、個人的に見てもこの教師は有名だ。
 目の前の男はシャルル・アルスナーという平民出身の魔法使い。
 アルザーノ魔術学園で副学園長という座にも着くほどだ。
 この学園の教師陣は実力主義だ。
 精霊が優秀なのか、教師が優秀なのかはよくわからないけどな。

「おい、聞こえなかったか?席に------」

「やだぁ、平民が教師とかぁ。帰って下さって結構ですわよ」

 誰だそんなこと言った奴!?
 寧ろ栄誉なことだろうに、平民ってだけでそこまで言うか?
 それにおそらく副学園長がこのクラスに選ばれたのは、殿下が居るからだろう。
 この学園が死と隣り合わせと言うことをこいつらわかってないのか?
 年間でアルザーノ魔術学園から何人の死者が出てるか理解出来てないほど馬鹿なのか?
 席に着いてる奴らは当然、その令嬢の発言に心底驚いていた。

「ほぉ。君、名前は?」

「はぁ?平民に名乗る名前なんてありませんが?」

「そうかそうか。情状酌量の余地無しだな。君はエルリカ・フォン・ジャルバーニ伯爵令嬢だね」

 あぁ、これなんとなく予想付くわ。
 花そそでは入学式のあとは放課後になっていたからな。
 初めての学園は色々あったとかなんとかで片付けられてたけど、これ片付けて良いレベルじゃないだろう。
 
「君、この教室から出て行って良いよ。もう来なくて良い。君は退学クビだ」

「はぁ!?あんたに何の権限があって!?」

「私はこの学園の副学園長だよ?君はこの学園に相応しくないと判断した」

 だろうな。
 副学園長より安全が保障される人間だとこの実力主義の学園内なら、学長くらいだろう。
 つまり他の人間に変えると言うことはそれだけで危険度を上げることと同じになるわけだ。
 この学園は戦闘実習があるしな。

「君たちも席に着かないなら良いよ。それは例え皇子であろうとも、私は退学を言い渡すからね」

「ふんっ、全員席に着け」

 アルバートがそう支持すると、全員席に着き始めた。
 エルリカ以外は。

「君は出ていっていいよ」

「なっ!」

 顔が真っ赤になってる。
 エルリカも席に着けばお咎めは無かったと思うけど、貴族のプライドが許さなかったのだろう。
 
「こ、このことはお父様に言いつけますからね!」

「どうぞ?」

 そう言うと本当に出ていった。
 ここから出ていく意味がわかっているのか?
 頭を下げれば終わったかも知れないのに馬鹿なのか。

「さて、邪魔者は出ていったところで諸君。まずは入学おめでとう。君達は晴れてアルザーノ魔術学園の生徒だ。知っての通りこの学園は平等だ。今見たとおり、ここには身分を盾にして勝手をすればそれなりの制裁は加えさせてもらう。ここは命を簡単に失ってしまう場所だと心得てくれ」

 なるほど、学長の強気な発言はそれだったわけね。
 主人公は基本的に良い子だったから、退学なんて状態にならないから知らんかったわ。
 副学園長がこのクラスに配属された理由は、アルバートやグレシアと言った国の中枢の人間が勝手をしないようにと言うことだろう。

「ふんっ、そんな皇太子たるモノ、命を常に狙われているわ!」

 そうだろうな、皇太子なら狙われてるだろうな。
 まだこいつは、アルバートはまだ皇太子候補であって皇太子じゃないけどな。
 アルザーノ魔術学園は皇太子になる条件にもなっているし。

「初日からこんなので、俺はアルバートと上手くやる自身がないんだが」

『別に上手くやらなくて良いんです。グレシアを不幸にしなければ結果的にこの国はグレシアの手では滅ばないでしょう』

「あぁ、そこにあれの意思は関係ないのね」

『はい!』

 笑顔でなんてこと言うんだクレ。
 いや実際グレコにした強硬手段を取るのも手だよな。
 皇子一人の人格で国が救われるなら、良いことだよな。
 うん、良いことだ。

「ってそんな訳あるか!」

『良いと思ったんですけど』

「常識的に考えろ!グレコにはやり過ぎたと思ってるんだから、あんなの量産するのはもうこりごりだ!それにそこまでの強硬手段に出るほどになっていたら、確実に廃嫡されてると思うぞ」

 そんなに皇太子は甘くないと思ってる。
 現に第三皇子が、女癖の悪さで廃嫡になってるんだから。

「それじゃあ自己紹介といこう。このクラスでこの一年はともに過ごしますからね」

 自己紹介はいいな。
 現実での花そその登場人物の少しでも人となりが知ることが出来る。

「じゃあ君から席順にやっていこう」

 そして自己紹介が始まった。
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