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三章

一瞬の油断が命取り

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 俺が出した案のパーティクルボードを資料化して、公爵夫人でこのシーソルト侯爵領の娘であるラミアさんに提出した。
 要点をまとめて即興で作った割に上手くいったと思う。

「この短時間でここまで資料をまとめるのはすごいわ。リアスくん、だったわね。パーティクルボードは素晴らしい案だと思うわ。是非ともここで使わせて頂けると嬉しいわ」

「ありがとうございます」

「それにしてもお父様もお母様も出席できなくてごめんなさいね。孫であるアルアを不幸にしたってジノアには会わないって言うのよ」

「気持ちはわかります」

 それは当然だろう。
 寧ろ貴族の家庭からすれば珍しい方だ。
 転生してから六年、貴族社会を見てきたが基本的に大切にされてるのは長男くらいなものだ。
 次男以降は我関せず、娘は政略結婚の道具。
 そんな家庭が多いだろうな。

「悪いねリアス。僕が資料渡してればここでこんな苦労しなかったのに」

「ミラ達が手伝ってくれたからいいさ。あ、これで朝の件はチャラな」

「リアスくんは一言余計なんだよね」

「兄貴は空気を読むって事を知らないから」

「こういうことは、今のうちに帳尻を合わせた方がいいと思ってよ」

 肩を透かし悪びれずに言う俺だが、存外みんなはあまり悪態を吐かない。
 恵まれてるな。

「わかってるさ。リアスが資料作りをしている間領地を視察してみたんだが、この前の魔物大量発生スタンピードでひどい有様だった」

「なんだ、今回もついていってやろうかと思ったのに」

「セバスがいたからね。たまにはリアスに護衛を休んでもらってもいいかなと思って」

「変に気を使わなくていいぞ」

「僕がしたいからしてるだけだ」

 これを本心で言えるとしたら、こいつは聖人君子にも近いだろう。
 大抵は打算的な目的がある。
 更に加えてこいつは腹黒い部分もある。
 上に立つ者としては申し分ない資質だ。
 唯一の欠点と言えば、人に良くしすぎるのはこいつの悪いところではあるが、いいところでもあるからこいつが皇族になればこの国はかなり良くなるんじゃないか?

「そうか。それなら俺からは何も言わんよ」

「おい、リアス!それにジノア、様!」

 グレイが焦った顔で扉を勢いよく開ける。
 こいつバルドフェルド先輩とグレシアと三人で、俺を放って出掛けやがったくせになんだ。
 バルドフェルド先輩とグレシアの奴は顔色が悪いな。
 一体何があったんだ?

「騒がしくすんなよ。まずは落ち着け」

「これが騒がずにいられるかよ」

「リアス、非常に面倒なことになりそうだ」

「面倒なこと?」

 魔物でも出たか?
 ラミアさんやアルターニアに俺達の力を見られる分には構わないが、流石にこの領地の人達の前でも見せるわけにはいかない。
 そう言う意味では確かに面倒だが・・・

「アルバート様がこの侯爵領に入ってきたわ!」

「あいつはいつも面倒ごとを出してくるなぁ!」

「彼は歩くイベント製造機だもんね」

 ミラが言うことに付け加えるなら、悪意のあるってのが手前に付く。
 要するにいい方向に転ばないと言うことだ。
 ゲームシナリオでは主人公補正か知らないが、アルバートが断罪する相手は一周目でアルバートを攻略キャラに選ばなければ全員黒の人間だったから問題なかったが、証拠自体は状況証拠のみだったため行動はグレーだった。

「ってそんなことはどうでもいい。このタイミングでアルバートが来るってことは------」

 アルバートがここに来て困る人間はジノアだ。
 俺を後ろ盾とした慈善活動は周知の事実ではある。
 そんな現場を目にすれば、アルバートは必ずそれに横やりを入れることだろう。
 ジノアの表向きは皇族に復帰したい元皇子で、そのための見方付けの活動を行っている。
 
 そしてジノアを困らせたい人間でこの侯爵領に居るのは・・・

「ボクの予想が正しければ、これはラミアさんの両親が呼んだとみてるんだけど、どうかな?」

「そんな、お父様とお母様が・・・」

「別に不思議な事じゃありませんラミアさん。大事な孫娘を不幸にしたジノアを良く思わない気持ちはわかります」

「だけど、その孫娘本人であるアルアが、この子が何か事情があったと言ってるんですよ?」

「そんなことは関係ないですよ。例え合ったとしても、孫娘であるアルターニア嬢と婚約破棄したことに変わりはありません」

 簡単に言えば傷物となってしまった。
 それが婚前だとしても、他の男の物だった事に変わりはなく良い縁談は来ないだろう。

「想像以上にシーソルト夫妻から恨みを買っていたとはね」

「ボクはやり方が汚いと思う。結局皇族の血の繋がりがあるジノアに自分達が手を出せないからって」

「そうは言うけどミライ。貴族社会って言うのは利用したりされたり、陰湿な行為を行ったりと色々とあるのよ」

「経験者は語るだなグレシア」

「私も婚約者には良いように利用されてるからね。まぁお父様が亡くなった以上、いくらお兄様が公爵になってるとしても後ろ盾としては弱いし、そのうち婚約破棄されるんじゃないかしら?」

 たしかにいくら後ろ盾として公爵家の名前が使えるからと言っても、歴史が浅いからあまり強みと言えない。
 下手したらアルターニアの方が婚約者として価値があるんじゃないか?
 結構詰めたい話だけどな。
 まぁこっちもタダでは終わらせない。
 婚約破棄される前にあっちの不貞行為も公にして、ジノアと同じ目に遭わせる。
 こっちは誤解でも何でもなく、事実を目にしてるからな。

「そうなったら、まぁ俺達の領地でひっそりと暮らせばいいさ」

「グレシア様!うちは大歓迎ですよ!」

「ありがとうアルナ。そうなったらお言葉に甘えることにするわ」

「お話しもよろしいですが、そろそろここを出る準備をお願い致します」

 セバスさんの言うとおりだな。
 のんきに喋ってる暇はない。

「ごめんねアルア。また会う機会を作るから。今日はあってくれてありがとう」

「ジノア様・・・私、信じてますから!」

 二人はほんの短い間だが、永遠にも近いように手を握り合って別れを惜しんでいる。
 この二人の関係を引き裂いたガランは許せないな。
 俺達は急いで屋敷をあとにして、馬車に乗り込む。
 元々今日は泊まる予定だったから、御者は帰してしまっている。
 そのため馬車の御者はセバスさんが務めてくれるそうだ。
 屋敷から侯爵領を出るまで距離があるが、何事もなくあっさりとシーソルト侯爵領をあとにできた。
 ていうか、クレの奴これだけ激しく動いたのに、クレは俺の肩でのびのび昼寝してる。 

「はぁ、心臓にわりぃよ」

「ボクは結構スリルがあって楽しかったよ」

「ミラは気楽だなぁ」

「リアスこそ、走ってるとき顔が笑ってたぞ?」

「適当なこというなよグレイ。俺がそんな顔しないだろう。なぁ?」

 俺は全員に同意を求めたが、何とも言えない顔をされた。
 なんかスパイ映画みたいだなとか思ってねぇよ?
 全然思ってねぇからな?
 無自覚で笑ってたんだな。
 
「まぁ何はともあれ鉢合わせなかったのはよかったよ」

「そうですね。鉢合わせていたら、かなり面倒になったことでしょう」

「ともあれこれからはアルバートの動向も考えながら動かないとな」

「そうだね。ガラン兄上に警戒でもされれば、母上から咎められないとも限らないし------おっと」

 だが安心するのは早い。
 急いでいたためか、それともアルバート達と出会さないためかわかんないけど、セバスさんは荒れた道を行っている。

「結構揺れるな」

「アルバート様が追手を出しているとも限らないため、こちらのルートを使わせていただきました。前の方は比較的揺れが少ないですよ」

 前の席は二人座れる。
 この中で一番か弱い女子はグレシアだから、まずはグレシアを前の席にやるのは決まっている。
 あとは必然的に皇子であるジノアか。
 
「とりあえずグレシアとジノア、前行けよ」

「僕はいいよ。女性陣の誰かに・・・」

「この中で一番か弱い奴二人を選んだんだが」

「え、私まで!?どちらかというとバルドフェルド先輩のが、か弱いでしょ!」

「え、俺!?」

 バルドフェルド先輩がショックを隠せていない。
 そりゃ女の子に面と向かってか弱いなんて言われたらショックだろうな。
 
「グレシア、バルドフェルド先輩落ちこんでんぞ」

「あ、ごめんなさいバルドフェルド先輩」

「いや、いいよ。事実だから」

「グレシア、お言葉に甘えて僕達は前に座ろうよ」

「そ、そうですね」

 二人は前に座る。
 一応隣同士だが距離を開けて二人は腰掛けた。
 この場には俺達しかいないし気にしすぎな気がする。
 
「なぁ、ジノア。これから帝都に戻ったら自由時間で良いのか?」

「うーん、アポも今からじゃ取れないしそうなるかな」

「よしっ!ミラ、デートしよう!」

「リアスくん切り替え早いなぁ。もちろんOKだよ!」

 やったぜ!
 久しぶりのミラとのデートだ!
 ここ最近のジノアの拘束で、デートもろくに出来てないしな。

「二人ともこの状況で、緊張感の無い話をするのはさすがだと思います」

「同感。どうせならイルミナも俺とデートしねぇ?」

「丁重にお断りさせていただきます」

「ガーン!」

 相変わらずグレイはイルミナにアプローチかけるもいつも玉砕だな。
 ていうかグレイって、イルミナへの好意がなんか違うんだよな。
 恋心って言うより親愛に近いイメージ。
 寧ろグレイって・・・

「はぁ、みんな緊張感ないわねぇ。帝都まで森が続くのよ?いつ魔物が出てもおかしくないんだからね?」

「いや、俺達にそれを言うのは・・・」

 俺の言葉に額を抑えてため息を吐くグレシア。
 将来白髪増えそう。

「そうね。失言だったわ」

「失言って言うか、規格外のリアス達が悪いよね?」

「そんな規格外の奴を、使いっ走りにしてるのはどいつだ?」

「さぁ------うわッ!!?」

「なんだなんだ?魔物か?」

 急に馬車が思いきり揺れ始めた。
 グレイは魔物だと騒ぐが魔物じゃない。
 索敵魔法で生体反応はあったがまだ遠い。

「お気を付けて下さい皆さま!転倒致します」

「うぉっ!」

「おっと!」

 馬車が転倒する!?
 魔物に押し倒されたわけでもないのに、一体外で何が起きてる?

『仕方ないです。私がなんとかしますよ』

 さっきまでぐーすか寝てたくせに偉そうに。
 でも頼んだぜ相棒!
 
「全員しっかり捕まってろ!舌噛むなよ!」

 それぞれ近くに居た女子を庇う男性陣。
 バルドフェルド先輩がアルナを、ジノアはグレシアを、グレイはイルミナを、俺はミラを抱きかかえる。
 グレイは寧ろイルミナに庇われてるみたいだけど気にしない。
 なんとか馬車を持ち直したが、急に馬車が倒れるなんて焦る。

「全員、怪我はないか?」

「こっちは大丈夫ですわ兄貴!」

「こちらも大丈夫。ジノア様、庇ってくれてありがとうございます」

「男として当然のことをしただけだよ」

「それじゃグレイは当然のことは出来てないな」

「わたしは庇われるほどやわじゃないので」

「グレイがイルミナを庇うなんて十年早いよ」

「結構過大評価するなミラ。こいつが十年でイルミナに追いつけるとは思えない」

「あ、たしかに」

「う、うるせぇ!」

 騒がしいグレイはほっといて、索敵魔法で生体反応を確認するがあまり動いた様子がない。
 魔物が近づいて対処しないといけなくなるしな。

「申し訳ございません。馬が急に暴れ始めたところに運悪く岩に引っかかりまして」

「馬は大丈夫なんですか?」

「えぇ、なんとか落ち着かせました」

「トラブルが続くね。とりあえず休憩しようか。興奮するほど暴れた馬達に馬車を動かさせるのは心配だからね」

「たしかにな。近くに魔物もいないみたいだし」

『・・・』

「どうしたクレ?」

『・・・いえ、何でもありません』

 クレが考え込むような素振りを見せたってことは、今転倒仕掛けたのは誰かの策略?
 クレが黙って何か考え事する時は大体ろくなことが起きないんだよなぁ。
 ともあれ休憩を挟んだ後の帰りの道は驚くほど静かだった。
 まるで本当にあの馬車の転倒が、誰かに仕組まれていたかのように。



 そそくさとシーソルト侯爵領から脱出してから2日が経ちまた学校が始まる。

「結局昨日はデートにいけなかった!」

「仕方ないよ。クレセントおじさんが急にリアスくんに頼み事をするなんて、なにかあるんでしょ」

『えぇ、一昨日の馬車の一見が仕組まれたモノのように見えてならなかったので』

 俺はクレに頼まれて、昨日新しい魔道具を作成していた。
 強力な自白剤だ。
 複雑な付与だったためクレとミラの二人の力を借りて作ったが、ちゃんと機能するかわからない。
 なにせ魔法陣が何重にもなっていて、一度使えば壊れてしまう仕様だからだ。
 今まで作った魔道具でも、魔法陣が4つ以上付与されてるモノは一度きりの効力しか発動出来なかった。
 更に魔道具の中には、普通の自白剤に使われる薬品の材料は貴重なため量産するのは難しい。
 金を積めば買える様な物じゃないからだ。
 実行犯だと確信した時点で使わないといけないから、ちゃんと発動するかどうかも試していない。
 
「わたしも少しだけ違和感を感じました」

「気の所為じゃねぇの?索敵魔法でも何も反応は無かったんだろ?事故だって事故」

「グレイは気楽ね。ガラン様がジノア様を陥れるために、何か罠を設置していた可能性だってあるのよ?急に馬が暴れるなんて、早々あり得ないでしょう」

 たしかに魔物はかなり遠くに居たというのに、馬が急に暴れるなんてことは人為的に何かしないでも限りあり得ない。
 だから俺は魔道具作成に了承したし、それについては文句は無い。
 しかし不満がないと言えば嘘になるのもたしか。

「坊ちゃん大変な目にあったんだな」

「そんな一言で片付けるなよメルセデス」

「色々と不満が溜まるのは、糖分が足りてない証拠だ。ほれ、飴」

 メルセデスから飴を口に運ばれる。
 甘い。
 いちごジャムで作ったあめ玉っぽい。

「うまっ・・・」

「え、メルセデス。ボクにもちょうだーい」

「へいどうぞお嬢」

「んー!あっまい!でもすっきりしてて美味しい!」

「イルミナもどうだ?」

「わたしは甘いのはちょっと・・・」

「コーヒー味もあんだぜ。ほれ」

 コーヒー味って気になる。
 前世ではコーヒー味の飴を仕事中によく舐めてたんだよなぁ。
 イルミナの目が・・・

「すごい!イルミナがすごい嬉しそうな目してる!」

「み、ミライ様・・・美味しかったモノで・・・」

 すげぇ、久しぶりにイルミナが照れてる。
 そんなにコーヒー味の飴美味しいなら食べてみたいな。
 あとでもらおう。
 学園に着くが、校舎の入り口が騒がしい。
 何事だ?
 走ってこっちに向かってくるのはバルドフェルド先輩だ。
 それに久しぶりに学園で見た、イルシア先輩とミルム先輩も走ってこっちにくる。

「イルシア先輩、久しぶりですね」

「大変だぞ、グレシア急いで逃げろ!」

「お願いみんな!急いでグレシアちゃんを連れて学園から逃げ------」

「おいおい、お前達は俺の婚約者を連れて何処に行こうって言うんだ?」

 アルバート・・・
 この騒ぎはこいつが一枚噛んでやがるのか。
 気づけば周りもこちらに非難の目を向けてるのが明らかにわかる。

『確実に敵意を感じます』

「敵意・・・」

「これはアルバート様、どうなされましたか?」

 グレシアはスカートの裾を掴み上げて淑女の挨拶をする。
 しかしアルバートはそのゲスな笑みをやめない。
 後ろにいる花そその攻略キャラの奴らと、主人公のリリィがクスクスと笑っているのがわかる。
 何を企んでやがる。

「どうしたか?はっはっは!面白いことを聞くな。これを見ろ」

「そ、それは!?」

 嘘だろ?
 ジノアに抱きつかれているグレシアの写真だった。
 これは一昨日の馬車内での出来事だと言うことはわかる。
 まずい、この写真をここで提示したと言うことは・・・これからあれが起こる。
 幸か不幸か、ここには学園の生徒が大量に集まっている。
 そしてほとんどが貴族の生徒だろう。

「ジノアとグレシアの不貞の証拠だ!このことから、俺はグレシア・フォン・ターニャとの婚約を破棄することをここに宣言する!」

「なっ!?」

「くっ!」

 やられた!
 あの馬車での事件は本当に仕組まれたモノだったんだ。
 更に最悪の形で花そそでのイベントも回収しやがった。
 ただの婚約破棄ならアルゴノート領でひっそりと暮らすための場所を用意できたが、この場合は話が違う。
 皇子の婚約者の不貞は国外追放繋がりかねない事案だ。
 シナリオのように死刑になると言うことはないだろうが・・・
 俺はポッケに突っ込んで、昨日作成した魔道具に手をかけるがクレが止める。
 自白剤を使えば一発で真実を確かめることが出来るのに!

『その魔道具は強力ですが一度きりしか使えません。あの皇子はアホなので我慢して下さい。彼が写真を提供されただけだとしたら、魔道具が無駄になります』

 クレは冷静だ。
 俺は頭に血が上ってることを反省して、思考を巡らせる。
 最早婚約破棄するのは決定してしまったものだろう。
 これだけの証人がいるからな。

「アルバート様、彼女は聖女であるリリィ・バンディナーに対しての嫌がらせも数々行っていたようです」

 乳兄弟のガーデルが、アルバートに耳打ちする内容は驚きを隠せない。
 グレシアがリリィに嫌がらせをする時間があるわけないだろう。
 学園ではほとんど俺達と一緒で、寮でもミラやイルミナとほとんど共に居るらしいのに。
 いや、待てよ?
 これはチャンスか。

「なにっ!聖女にそんなことをするなんて、見損なったぞグレシア!」

 出ました、見損なったぞグレシア。
 花そそでも屈指の名言であり、迷言だ。
 アルバートルートでの一周目のバッドエンドに向かってく台詞なんだからな。
 ていうか顔と台詞が合ってないんだよ今回は。
 そのニヤけ面をなんとかしてから発言しろよ。
 しかしこいつらがアホでよかった。
 この台詞が出たと言うことは、ゲーム通りに婚約破棄のイベントが始まる。
 アルバートはグレシアの足下に手袋を投げつける。
 これは決闘の宣言だ。

「拾えグレシア!俺がお前に天誅をくだしてやる!その代わりお前が勝てば、弁明くらいは聞いてやろう!」

 来た!
 付け入る隙はここしか無い。
 俺はグレシアに拾うように促す。
 ゲームと今生で最も違うことがあるのは、グレシアには味方がいるって事だ。
 決闘は基本同性同士で行う勝ち抜き戦。
 そして勝者は敗者の言い分を何でも聞かなければいけない学園の制度だ。
 実質勝者が主人で敗者が奴隷みたいなモノだから、基本的に男性が女性に決闘を行うことは勝てなければ醜聞でしかなくなる。
 俺が一人であの四人ぶっ飛ばせば、アルバートの醜聞は十分で後ろ盾も無くなりその醜聞が原因で縁談も望めなくなるだろう。
 自白剤を使うよりも、良い方向に転んでくれて俺は助かる。

「アルバート様がそう望むのであれば受けて立ちましょう」

 グレシアは手袋を拾い、アルバートを睨み付ける。
 シナリオのグレシアではかなり動揺してたが、俺はグレシアに花そそで起きたグレシアの出来事を話してある。
 覚悟は出来ていたのだろうな。
 アルバートはグレシアの態度が気にくわなかったのか、殺気まで浮かべていた笑顔を歪ませてグレシアを睨んでいた。
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