乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたい

茶坊ピエロ

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四章

アルゴノート邸へようこそ

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「よ、ようこそ起こし下さいました皇子様方・・・」

 グレコは顔を引き攣らせながらも、笑顔を取り繕っている。
 顔を引き攣らせてしまうのも仕方の無いことだろう。
 リアスに精神的な粛正を受けて心を入れ替えたとは言え、伯爵令嬢で男爵夫人の彼女が皇族を前にすればこれが普通の反応だ。
 
「ちょっとアルナ、どういうこと!?なんで皇子が二人もいるのよ!?私は一人しか聞いておりませんわよ!?それに公爵令嬢様に宰相様や英雄様のご子息様まで!」

「か、母様・・・みんながいるのですからもう少し落ち着いてくださいまし」

「これが落ち着いていられますか!!」

 六年ぶりに見るグレコの形相に、若干引きつつも皆の前と言うことを忘れていないアルナはちゃんと礼節を弁えている。
 これにはグレイやグレシアも苦笑いを浮かべていた。

「まぁまぁアルナ。アルゴノート夫人。本日はお招きいただき誠にありがとうございます。初めまして。私はグレシア・フォン・ターニャです」

「自分はグレイ・フォン・ベルヌーイですマダム」

 グレシアはともかく、グレイが礼儀正しく挨拶をしたことにアルナはきょとんとした顔をしていた。
 グレイも一応男爵令息だと言うのにこの扱いである。

「こ、これはご丁寧にどうも。グレコ・フォン・アルゴノートです」

 グレコも空かさずスカートの裾を掴み挨拶をする。
 一応この場はこれで収まった様に見えた。
 しかし一難去ってまた一難とはよく言ったものだ。
 アルゴノート邸の玄関では窓から庭が見える。
 外ではバチバチと雷鳴と、暴風が巻き起こっていた。

「なんだ!?」

「落ち着いて兄上。多分あれはリアスかミライだと思うよ」

 次の瞬間雷鳴と共に現れたのはリアス達と魔物達だった。
 先ほどまであれほど殺伐としていたと言うのに今はそんな雰囲気は全くなく、カムイが意識を無くしているであろうリアスを抱えている。 

「おいおい、あれさっきのSランクの魔物じゃねぇか!」

「え、Sランク!?Sランクの魔物ですって!?」

 グレコは驚いて顔を乗り出した。
 Sランクの魔物を見たことはなかったグレコだ。
 ぱっと見ただけじゃ、人間と大差ない姿をした彼らを魔物と判断することは難しいだろう。

「異形の姿・・・」

「ふんっ!情けない!敵に抱えられて奴も負けたと言うことだろう」

「残念。リアスくんはSランクの魔物二体をあっという間に倒しちゃったよ」

「んがっ!?」

 一瞬で目の前に現れたミライに驚いて尻餅をつくアルバート。
 雷撃による瞬間移動の魔法、神雷だ。
 神雷はミライの固有魔法オリジナルで、細君支柱フィアンコネクトの感覚から生み出された魔法だった。
 雷の魔力を纏わせて、雷撃の速度で移動出来ると言う魔法だ。

「ただいま、お義母様」

「お、おかえりなさい・・・ところでリアスがSランクの魔物を二体も倒したと聞いたのだけれど・・・」

「あー、それね。たしかにリアスくんは、鬼神とカムイを倒したよ」

「ひ、ひぇぇええ・・・」

 グレコは泡を吹いて倒れてしまった。
 トラウマが呼び起こされたのだ。
 過去にグレコはリアスを虐げていた。
 そんな人間がSランクの魔物を倒すほどの実力を持っているのならば、その報復が怖いわけがない。
 グレコはリアスに完全にトラウマを植え付けられてしまったため、性格まで変わってしまった一人だ。
 それが故に、恐怖のあまりに意識を手放したのだ。

「母様!?」

「ふふっ、リアスくんを虐げてたのにその程度で済んでよかったね」

「ちょっとミライ。どういうことなの?私達にもわかるように説明して欲しいわ」

 唯一状況を読み込めたグレシアがミライに説明を求める。
 ミライもハッとした顔でどう切り出すか迷う。

「ひとまずボク達の部屋に行こうか。積もる話はそこで。みんな、入って来てー」

「邪魔するぞ」

「ほぉ、これが人間の住処でござるか。綺麗でござるな」

「本当ね。アタシも元はハーピィだからこう言うの憧れてたのよ」

 カムイはリアスを抱えてそそくさとミライに付いていき、鬼神とクピドは部屋を物珍しがって見回している。 

「あとでご案内致します。ひとまずはこちらへ」

「いやぁ、リアスんちってせめぇなー」

「グランベル、よくこいつらと一緒にいて平然としてられるわね・・・」

 続いてイルミナとグランベル、そしてグランベルの袖を摘まんで怯えながら歩くリリィが入ってくる。
 
「聖女の子、そんなビビらないで頂戴。って、他にも聖獣を契約している奴がいるのね」

「姉御、早く進んで!俺も人間の家は初めてなんっすから。あ、ハヌマンはちゃんと子供連れて来てるんすよね?」

「でぇじょぶだ。おらの腕ですやすやと寝てんぞぉ」

「恐怖のあまりに気絶したでごわす」

「子供には刺激が強い過ぎる戦闘だったすからねー」

 続いてフェンリルのスノー、チーリン、ハヌマン、キュクロープスもぞろぞろと入っていく。
 Sランクの魔物が七体もいることにグレイとグレシア、そしてジノアは驚きを隠せない。
 アルバートと、アルゴノート領に入ってから終始空気のパルバディは理解すら追いつけていないようだ。
 更に空気になっていたプラムはというと・・・気絶していた。

「ぷ、プラム!?気をしっかり・・・」

「え、えしゅらんく・・・ふへへ・・・」

「さすがに僕も驚いたよ。倒してくるどころか和解するって・・・リアスって面白いなぁ」

「ふはは・・・さすがに驚いたがリアス達だからでなんか納得出来るな」

「二人とも笑い事じゃ・・・まぁいいわ。ひとまずミライが家に上げたんだから大丈夫でしょう。アルナはプラムをどこかで寝かせてあげなさい」

「あ、はい!わかりましたわ」

 そういうとプラムとグレコを引きずって奥へと消えていった。
 さすがにリアスの妹だなとグレシア達は苦笑いをしている。
 そして残っていた者もすべてリアスとミライの部屋へと入っていく。
 カムイが無造作にリアスをベッドに投げると、ミライの肩に座っていたクレセントがおもむろに威嚇する。

『おい、カムイ!』
 
「うっせぇなじじぃ、いいだろうが別に。もうこいつは大丈夫なんだろ?」

『それとこれとは話が違いますよ』

「これ、二人とも喧嘩するでない!」

『スノーこれは喧嘩ではありません』

「姉御・・・そうだ!こちとら------」

永劫の雪原アイスエイジ

 そういうとクレセントとカムイが氷付けになる。
 すぐにクレセントは風で氷を斬り割いて脱出したが、カムイはそうはいかなかった。

「カムイは反省するまでそこにいなさい!」

(姉御・・・これじゃあ凍え死ぬって・・・)

 カムイの心の声を置いてフェンリルがそっとリアスに掛け布団をかけて、その横に触る。

「さて、初めましての人間もいることですしお互い自己紹介をしましょう」

「は?」

「え?」

 フェンリルの言葉にグレイとグレシアは困惑を見せる。
 Sランクの魔物だけでもレアケースだと言うのに、お互いがコミュニケーションを取ると言う行為に、思考が追いついて居なかったのだ。

「まぁ色々とあったけど、彼女達は今は敵じゃない・・よね?スノーおばさん?」

「おばさんは女性に対して失礼よミライちゃん?」

 そういいながらカムイの氷漬けを解いたスノー。

「貴方から手本を見せなさいカムイの?」

「姉御ぉ~」

 涙目になりながらも自己紹介を始めるカムイと魔物達。
 一通り自己紹介すると共に、進化するまでの経緯と何故人間に対して攻撃を施したかを説明した。
 そしてそれに倣うようにミライ達も自己紹介を始めていき、入学してからこれまで起こったことを事細かに話す。

「あ、言い忘れてたけど彼がリアスくん。ボクの婚約者だよ」

「ふふっ、驚いたわ。貴族なのに婚約者がいる令息がリアスだけなのね」

「オレの場合、言い寄ってくる女は多いけど信用できる女は指で数えられる程度しかいなくてよー!今はイルミナちゃんを口説いてるとこだ!」

「永遠に来ない努力をするとは物好きですね」

 字と目を向けながら、呆れてため息を吐くイルミナ。
 その様子に更にクスクスと笑うスノー。

「それにしてもイルシアちゃんはとんでもない男を引っ掛けたわねー」

「えぇ、本当です。私としてもあんな元婚約者が婚約者なのはごめんですから」

「貴様!俺は皇太子だぞ!」

「あらあら、これは面白い素材ね。そうね、鬼神のが面倒みてあげなさいな」

「な、何故拙者が!?」

「彼我の実力差がわからない貴方は、強さと弱さと言うものを学ぶべきです。力は力でしかないと言うのに、キュークロプスが作った剣にまでヒビを入れて」

「気づいてたのでござるか!?」

 そういうと鬼神は鞘に入った刀を取り出す。
 刀を見れば刃こぼれがすごく、所々にヒビが入っていた。
 キュークロプスも流石に驚き、すぐさま刀を鬼神からもぎ取った。

「鬼神のは何と闘ったでごわすか!?」

「人間でござるよ。まさか無手、素手相手にそこまでされるとは思わないでござろう?」

 鬼神の言うことは事実正しくはあるが、見た目に騙されると言うことはまだまだ三流と言うことらしい。
 実際、鬼神は退けるタイミングがあったので何も言えなかった。

「ふんっ!俺は魔物に教わることなどな------」

「道徳も弁えず、調べることもせずに婚約者を貶め、そして偏見で自身の実力向上のチャンスも棒に振る英断能力もなし。剣術レベルすらグランベルにすら劣る貴方が一国の主人になって何をするのかしら?傀儡?」

「き、貴様!魔物の癖に俺を侮辱するか!」

 話を聞いただけで的確な指摘と図星を刺すスノーに対して、アルバートは癇癪を起こすしかなかった。
 
「わりぃけどアルバート。姉さんの言う通りだ。そもそも俺とリリィはお前に対してなんとも思ってねぇぞ?俺たちが付き従ってたのは、お前が偉いからじゃなくてお前の立場が偉いからだ」

「そうねー、わたしも貴方が皇子じゃなきゃ近付かなかったわ」

「リリィ、それはダメでしょ?本来なら貴女は責任を持ってこの負債物件を引き取る義務があるのよ?」

「いいじゃない?結果的にモラハラ婚約者と婚約破棄出来たんだから」

「こっちは嫁の貰い手が無くなる醜態を払わされたのよ!」

「そんなの、グレイにでも貰ってもらいなさいよ!どう考えてもグレイとイルミナは釣り合ってないわよ!?」

「おま、そういうことはハッキリ本人の前で言うなよ!」

「リリィはよくわかっていますね」

 アルバートの怒りゲージはどんどん溜まっていく。
 自分のことを慕っていると思ってた人間が、内心はどう思っていたのかを聞けば、悲しむか怒るかの二択だろう。

「貴様らぁぁ!」

「あ、アルバート様!俺は慕っていますよ!」

 パルバディがフォローを入れるが時すでに遅し。
 リリィの胸元を掴みあげるアルバート。

「貴様の愛は偽物だったのか!接吻だって交わしただろう!」

「あらごめんなさいね。接吻はしたけど、貴方に愛してるの一言でもあげたかしら?」

 リリィは本気でアルバートの婚約者になろうとしていたが、気持ちがアルバートに向いたことは一度もない。
 だからデート等、好感度を上げるイベントをこなしている感覚でしていたのだ。
 
「キスは挨拶、それくらい常識じゃないかしら?」

「うわぁ。リリィ、開き直ってるよ」

「ミライ達はどうか知らないが、あいつはキスは挨拶感覚でするぞ?それをうまく利用してアルバートに取り入ろうとしていたんだ」

「どうかなー?ボクは口付け自体はリアスくんと契約時にしたけど、キスはまだだからなぁ」

「それはもうしてるのでは?」

 アルバートが等々剣を抜く。
 魔物側は止めなくていいのかと聞くが、リアス陣営は誰も慌てる様子がない。
 リリィとアルバートでは実力が天と地ほど離れているので、万が一にもどうにかなると言うことがない。
 一瞬で剣を腕から奪い鞘に戻した。

「はぁ、こっちはあの鬼神にビビってるんだからやめてよ。先に言うけどあいつは聖女の全力を打ち破ったんだからね?」

 聖女の全力とは、聖魔法最大火力を誇るイグニッション・レイのことだ。
 そしてそれを打ち破った鬼神の彼は、聖女がいてなお国の脅威ということになる。

「いやぁ、マジで助かったよゴリュー!お前が俺たちを転ばさなければ死んでたぜ」

『わしゃ、主人が無事で何よりじゃけぇ!』

 リリィとグランベルが無事だったのは、ゴリューの覚えたての下級の土魔法のマッドロールという、段差を作ってバランスを崩す魔法で、二人のつま先に段差を作ることで難を逃がすことができたのだ。

「そもそもお前さんに選択肢はあるのか?」

「ないですね。兄上はリアスに認められないとならないし、聖女より強い実力者に指導を受けるなんてそう滅多に起きることじゃないよ?」

「おい、ジノア!何を勝手に------」

「ついでにパルバディも連れていきなよ?一人じゃ寂しいでしょ?」

「え、そ、それは・・・」

「ふむ、二人を鍛え直すということか。拙者の相棒も修理が必要ではあるからして、小童共に胸を貸してやらんこともないでござる」

「はい、じゃあ早速いってらっしゃいな。ミライ、さっきの庭は使っても大丈夫なのよね?」

「特大の魔法を使わなければ!」

「此奴らの実力はそこまで高くはあるまい?なら魔法を使っても簡単に打ち消せる!問題ないでござる!」

「そうね。鬼神ならその辺は心配ないわ。それに初日は基礎からでしょう。魔物達の実力アップを担った貴方の手腕を見せない。どっかの怪力バカじゃどうしようもないからね」

「悪いな姉御」

「そう思うなら直しなさいな!」

 項垂れるカムイを他所にスノーは叱咤を入れる。
 
「いてぇな姉御!」

「そういう顔しない!似合わないのよ!鬼神はさっさと連れてきなそいつら!最悪心が壊れても仕方ないから、ちゃんと鍛えなさい!」

「は?」 

「嘘だろ・・Sランクの魔物がその気になれば俺とアルバート様の精神なんて簡単に・・・」

 アルバートは理解が追いつかず、パルバディは今世の譫言を呟く様に遠い目になった。
 そして鬼神はカムイの様に尻を噛まれない様に、さっさと二人を抱えて外へと向かっていった。

「さて、邪魔者二人はいなくなったわけだ。本題に入ろうかしら?」

「あえて二人を外に出したんだおばさん」

「おばさんはやめな!クレセントや精霊とあんた達が会話してなかったからね。違和感があったのよ」

 家に入ってからと言うものの、精霊と会話できる全員が精霊と会話していない。
 その違和感に気づいた時スノーは早々に先程との違いを考え、精霊と話せることを隠していると判断した。
 そして隠している相手がアルバートとパルバディだと言うことは自己紹介と事情を聞いた時から明白だった。

『流石何年も生きているだけありますね』

「あんたも失礼だね!」

『いえいえ、そんなことはありませんよ?』

 睨み合う二人だったが、すぐに向き直った。
 
「じゃあまずこちらが話しましょう。どうして私達が人間達を襲撃したかについて」

 そしてスノーから事の顛末の説明が始まった。
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