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五章

街デートなう!

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 とりあえず起きてすぐの運動はよくないから、ミラと散歩をしている。
 幸い地獄が始まるのは明後日からで、明日はおっさん達とのサプライズもある。
 時間を作れるのが今日しかないと思って、俺とミラは二人で街デートなうだ。

「久しぶりだねこの街も」

「だなー。街の風景は三ヶ月じゃ大して変わらないけど、6年前と比べたらかなり発展したよな」

 6年前は見るも無惨なボロ田舎の廃村のような場所だった。
 年月を重ねるに連れて村も発展し、今じゃ帝都と遜色なく違うのは規模くらいにまでなった。
 中世ヨーロッパの都心みたいな街並みなのは俺の趣味なのは言うまでもない。
 帝都の街並みは結構質素だからな。
 まぁ貴族が自分たちの家を建てるのに金をかけてる所為で回せないんだろうけど。

「おぉー、リアス様!今日はミライちゃんとデートかい?」

「リアス様、おかえりなさい!夏季休業はゆっくりしてってください!」

「ミライ様、可愛らしいでございます」

 街へ遊びに行くと次々と話しかけられるが、デートの邪魔をしない為にと領民の人達は一言程度の挨拶をするだけですぐに仕事に戻っていく。
 そこら辺の配慮もしてくれるのが嬉しいよな。
 それにしても他の貴族達は出歩くだけで平民に頭を下げさてるけどあれ楽しいのかね。

「やっぱこのくらい一般人として扱ってくれる方がデートしやすいよね!」

「あぁ、他の貴族達の気持ちがわからないな。まぁ俺も半分は平民の血が流れてて、魂はもっぱら庶民根性入ってるからかもしれないが」

「リアスくんの場合貧乏根性だと思う」

 耳が痛い話だ。
 節約節約と金を使わずにいたが、そもそも金のある貴族が経済を回さないといけないのにな。
 まぁうちの領地の場合、常に色々な開発をしてるから予算が他の領地よりもかかるし仕方のない部分もあるけど。
 料理はそのうち和食にも着手したいな。
 
「あ、リアスくん!たこ焼き屋さんいこ!」

「たこ焼きか。まぁこの領民達が毒を盛ることもないし行くか」

 俺は帝都に行くまではメルセデスの料理しか口にしていなかった。
 単純に信用できなかったんだ。
 毒を盛られる可能性は否定できないしな。

「店主、たこ焼き二つ」

「え、リアス様?か、かしこまりました!!」

 たこ焼き屋の店主は驚いた顔をしたが、すぐに切り替えてたこ焼きを用意してくれた。
 タコが熱々の生地に包まれて黄金色の光沢が鮮やかで、そこに特製のソースを塗りたくる。
 この世界ではまだマヨネーズは作られてないからこれで終わりだが、将来はマヨネーズも絶対に着手してやる。
 
「あの、リアス様。いつもありがとうございます」

「ん?あぁ?」

「リアス様がタコを取ってきてくださらなければ、私共はお金を稼ぐこともままなりません。本当に感謝しております」

 アルゴノート領は海に面した地域じゃない為、海に面した領地であるヘルナーリット領から融通を利かせて分けてもらってる。
 もちろんちゃんと金を払ってるけどな。
 俺はたこ焼きを食べたい為だけに、タコを輸入してるわけだが、これを領地にも普及させたらうまく行くのでは!?と思ってレシピとタコを売りつけたら、見事観光の御当地料理となってくれた。
 関西の人ごめんなさい!

「褒められちゃったねリアスくん!リアスくんはメルセデスに料理の開発をさせて自分が食べる為のついでに食料を確保してるのに」

「余計なこと言わないでよろしっ!」

「あ、いてーっ!てへへ」

 馬鹿正直に本当のこと言うミラに軽くチョップする。
 笑顔でごめんごめんと謝っていたし、これで勘弁してやるかな!

「流石はリアス様です。私は2年ほど前に移住してきた身ですが、この領地の暮らしやすさに驚いております。前の領地ではあまりにも酷い対応でしたので」

「まぁそればっかしはこの国のガンで、早々治せるもんじゃないな。でもまぁせっかくアルゴノート領の仲間になったんだ。まぁ楽にしてくれよ」

「ははぁ!」

「いや、その謙るのはやめてほしい。領民はみんな家族だろ?」

 姓が一緒、その連帯感が絆を生むと思ってる。
 領地に来て短くてもそれに変わりはないしな。

「そうでございますね」

「あぁ、たこやきありがとよ店主」

「いえ、またお越しくださいませ」

 そう言って俺とミラはたこ焼き屋を後にした。

「はふはふ。ほいひぃえひあふふん!」

「あぁ、美味いな。あとミラ、食べるか喋るかどっちかにせい」

「はーい」

 熱々のたこ焼きを頬張るミラはかわいいので、ごっくんしたところで頬をつく。
 たこ焼きを食べたからほんのり熱い。
 俺が頬を突いたからと、ミラも真似して俺の頬を突いてくる。

「ふふふふっ」

「なんだよ」

「なんでそんなに照れて顔が赤いのー?」

 ヤッベ顔に出てたか!?
 なんかこれ、巷でいちゃついてるカップルみたいで恥ずかしい。
 合計35年分の生きた記憶があるせいで、なお恥ずかしい。

「うぶだなぁ」

「悪かったな」

「いや可愛いよ」

 それを男が言われて嬉しいと思う奴は極一部だと思うぞ。
 いやまぁミラに言われて悪い気はしないけども。

「はいあーん」

「うっ!」

 このシチュエーションは前世で思春期に憧れたシチュだ。
 しかしこれは恥ずかしい!
 俺の今の頭にはこうある。
 →素直に頬張る
  恥ずかしがりながら断る
  ミラの手からたこ焼きをとって食べる
 この三つから一つを選択しなければならない!
 まぁ別にそう言うわけじゃないけど、俺素直に頬張ろうとした。

「あーーーーむっ!?」

「へへーん!引っかかったー」

 たこ焼きを食べようとした瞬間に、ヒョイっと上にあげた後自分でパクッと咥えてピースしてる。
 あまりにも王道なシチュエーションだが、やられると恥ずかしさのあまり怒りたくなるのがわかる。
 でもただで怒ったらつまらないから、そのままミラの口に咥えたたこ焼きを口で奪い取った。
 因みにキスしたわけではない。
 しかしミラは似たような捉え方をしたのだろう。
 顔が真っ赤だ。

「リアスくん!人前だよ!」

「人前じゃなきゃ良いのか?」

「はぅっ!」

 真っ赤な頬を抑えて、顔を俯かせるミラに対して勝ち誇った目をしている。
 しかしそれがどれだけ恥ずかしいことかをすぐ知ることになる。

「ねぇおかーさん!あの人達イチャイチャしてるよ!ラブラブだぁ」

「こら!すいませんリアス様、うちの子が」

「あ、いやえっと・・・」

 子供に指を指され、そしてどれだけ恥ずかしいことをしていたかわかると俺はしゃがみ込んでしまった。
 もはや収拾が付かない。

「二人とも何してんだ?」

「ぐ、グレイ?」

 そういやジノアとグレイとグレシアは街を散策しに出てるって言ってたな。
 まぁでもこの状況で来てくれたのは助かる。
 とりあえずこの場を切り抜ける救いの手だ。
 しかしそこには悪魔の手もあった。

「グレイ、見てわかるでしょ。二人は人目も憚らずイチャイチャして、そこのお子さんに指摘されて羞恥のあまり顔を俯かせてるのよ?」

「わかってるなら言うなよ!」

「ふふっ」

「自爆するなんて面白いねリアスは」

 そこには弄る対象を見つけて悪魔の笑みを浮かべたグレシアとジノアも居た。

「落ち着け!話せばわかる」

「別に取って食おうとしてるわけじゃないんだから落ち着きなさいよ」

「僕はそんなことないけどね!リアス達の羞恥してる姿を見るのは楽しいもん」

「まぁまぁ二人ともそれくらいにしてやれって。とりあえずここから離れようぜ?今から3人でお茶とお昼でも食べようと思ってたんだ。一緒に行こうぜ?」

 ミラとのデート中ではあるが、この状況は恥ずかしいのでグレイの言葉に甘えようとする。
 ミラの手を引いて俺達は、この街が村になる前からある喫茶店へと足を運んだ。
 その喫茶店の名前はマグワリア。
 正確には現在が喫茶店で、元々は鍛冶屋の店だった。

「いらっしゃいま------あらリアスじゃないの。久しぶりね」

 彼女の名前はヴェルメルさん。
 現在この店のオーナーをしている人だ。

「久しぶりヴェルメルさん」

 ヴェルメルさんは、鍛冶士のグレゴリータのおっさんの嫁さんだ。
 ご近所さんだから馴染みがある。
 二人には子供がいたんだが、当時の飢餓の影響により命を落としてしまった。
 だからグレゴリータさん達の貴族への、いやアルゴノートでの二人恨みはこの村でおそらく一番強い。
 アルナをクワで率先して殺そうとしたくらいだからな。

「うちの夫があんたにサプライズがあるって張り切ってたよ」

「それ言っていいのかよ」

「あっ、今のは聞かなかったことにしといとくれ」

 今では二人とも俺のこと息子のように可愛がってくれている。
 ミラを連れてきた時も早く孫の顔が見たいとかボヤかれたくらいだ。

「ミライちゃんはわかるけどそちらの------お、お、お、皇子ぃぃぃ!?」

「あ、えっとごめんね?僕、入店しても大丈夫かな?」

 そりゃそう言う反応になるわな。
 なんかグレコもそれで卒倒したらしいし。
 むしろヴェルメルさんはよく耐えたと思うわ。

「これは失礼致しました。もちろん大丈夫です」

「よかった。僕の醜聞は知ってるでしょ?少し不安だったんだ」

 無罪を勝ち取ったと言っても、それまでに出ていた噂話は消えたりはしない。
 特にこの田舎じゃ、醜聞くらいしか流れてこないだろう。
 でも多分ヴェルメルさんなら大丈夫だ。

「それは聞いています。けれど貴族になってからあれだけ警戒してたリアスが一緒ってことは、根も葉もない噂なんでしょう?」

「え?」

「だってある時を境に、こいつは外で飯を食わなくなりましたからね」

「そりゃ、グレコの奴が毒を盛る可能性があったから」

「それにしたって失礼なくらい警戒していたよ!」

 耳が痛い話ではあるがそれは事実だ。
 俺、自身ため息を吐きたくはなる。
 リアスとして生まれ変わる前の記憶と、リアスの記憶を掛け合わせると信用出来る人物は周りにいる人間だけだと思っていたからな。
 
「でもまぁ悪かったよヴェルメルさん。今日はここに昼を食いに来たんだ。一番のを頼むぜ」

「え、リアスが・・・」

 ヴェルメルさん、瞳に涙を浮かべてる。
 そんなに嬉しいのか?
 
「まかせときっ!腕によりをかけて振る舞うさかいね!」

「ありがとうございます」

 そういうとヴェルメルさんは厨房の方に走っていった。

「すごい信頼されてるね」

「ヴェルメルさんはリアスくんが幼い頃を知ってるからねー。それに多分息子に頼られた感じがして嬉しいんだと思う」

「照れるな」

 他の客や皇子のジノアがいるからか気を遣って出ていこうとしていたがそれはさすがに待ったをかける。

「皆、気を遣わないでいいぞ。ここは俺持ちで支払いをしてやるから普通に食事を楽しんでくれ」

「「ありがとうございます。リアス様」」

 そう言うと立ち上がろうとしていたみんなは再び席に着いた。

「リアス太っ腹だねぇ」

「お前だって男爵なんだからできるだろ?なぁ英雄の息子さん」

「皮肉かよ。俺は親父の足下にも及んでいないんだからな」

「気にするなよ」

「お待たせしました。お水です」

 従業員の子が飲み物を席に置いてくれる。
 喫茶店だからお茶でも頼もうかな。

「へぇ、コーヒーにも色々な種類があるんだね」

「ジノアは皇子だから知ってると思ってたけどな。一応、俺の知識も多少使っているけど、基本的にメインはロックバンド商国があるじゃん?」

「ロックバンド商国は知っているよ。なにせうちの家系がやらかした所為で、商人達が国から出て行くハメになったからね。商人達のほとんどはロックバンド商国出身だしね」

「まぁその歴史は繰り返さないようにしてくれよ。って言ってもそれはアルバート次第か」

「そうだね。兄上には頑張ってもらわないと」

 アルバートがこの三日で素直に心を入れ替えるとは思えないけど。
 まぁこの夏期休暇の間に、自分勝手な行動をしたら身を滅ぼすくらいは学んで欲しいもんだけど。

「っと、話を戻すな。そのロックバンド商国の本国にあるコーヒーを一部取りいれてるんだよ。うちには元商人で食いっぱぐれていた奴もいてさ。この街にある喫茶店のコーヒーの基本レシピはそいつが書いて、みんなに配ってるからな」

「へぇ、すごいね。もうこの国ではロックバンドに関われる人間はほとんどいないし、これも特産品になるんじゃない?」

「いやそこまでは」

 エスプレッソコーヒーとかそういった感じだし、レシピ自体も商人だった男のルイスって奴が自分の舌で判断して作ったものだ。
 完全な模倣とは言えない。
 レシピを盗んでいたら犯罪だけどな。

「わたしはコーヒーが苦手だから紅茶があると良いのだけれど・・・ロイヤルミルクティーにしようかしら」

「ボクはハーブティーを頼もうかなー」

「オレはブラックコーヒーでいいや」

「お前はもう少し考えろよグレイ」

「良いだろ別に。飲みたいの飲めば」

「それはまぁ・・・そうだな。俺もブラックで」

「えぇ・・・二人ともブラック・・・なら僕も」

「好きなの飲めよジノア」

「じゃあ、この種類のコーヒーのミルク入りで」

 さすがにジノアの歳でブラックコーヒーはキツいだろう。
 俺だって前世で子供の時はブラックコーヒーは苦くて泣いた記憶がある。
 そん時、父親にそんなことで泣くなってめっちゃボコられたな。
 今思い出しても腹が立つ。

「リアスくん顔を怖いよ」

「あぁ、わりぃ。じゃあ従業員さん。以上で」

「はい、繰り返させていただきます。ロイヤルミルクティーが一つ、ハーブティーが一つ、ブラックコーヒーが二つ、エルドレッドコーヒーミルク入りが一つでございますね」

 俺達は黙って頷くが、どうやらこの光景自体にグレイとグレシアとジノアは驚いているようだ。

「え、すごい。今ので覚えてられるんだ。それにメモも取ってるってことは字も読める?」

「あぁ、男尊女卑がすごいもんな。平民の女は家に嫁ぐのが幸せとか言ってる奴らは俺からしたら古い!実力があってしたいことがある人材が、そんなことで埋もれるなんて勿体ない」

「おかげでわたし達女性陣はリアス様に感謝しております」

 実際、この国ではまだまだ男尊女卑、身分差別が激しい。
 平民の女性はカースト最下位と言っても良い。
 だからせめてこの領地くらいでは自由な職に就いて欲しいと思って出した制度だったが、それは思いの外上手くいって、街のファッションショップは帝都に引けも取らない充実した場所になっていた。

「すごいわね。これはお兄様にも言って取りいれた方が良い案件だわ」

「オレとしてもそれは良いことだと思う。男尊女卑で良い人材が埋もれるなんて、あっちゃいけんだろ」

「でも他の貴族達が黙って成さそうー。でもまぁリアスにそんなこと言っても返り討ちにしちゃうか」

「俺達はもちろん、領民達でも一人一人はゴブリンくらいは倒すことができるくらいの実力は持ってるから、そう上手くはいかないだろ」

 領民達の栄養管理をちゃんとしていればそれくらいは当たり前になるだろう。
 そんなことで驚いてるようじゃこいつらはまだまだだな。

「リアス~!そろそろ出来るよ!待ってなー!」

「はーい!んじゃ、ヴェルメルさんの料理が来るまで、この夏期休暇の間なにするか少し話そうぜ」

 俺達は各々がこの夏期休暇で何をするかで盛り上がった。
 しかしそのすべてが適わなくなることに、今の俺達は全く思ってはいなかった。
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