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五章

気分上々からの急転直下

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 ヴァルメルさんが料理を持ってきてくれた。
 それは一見なんの変哲もないオムライスだったが、食べてみるとすごい。
 
「美味い!中身が炒飯か」

「ボクの中身はチキンライスだった!リアスくん交換しよ」

「いいな。もらうなミラ」

「オレのオムライスの中身はタケノコの炊き込みご飯か。オレのとも交換してくれよ」

「中身が違うのね。わたしのはドライカレーだったわ」

「全員で交換しながら食べる楽しみもあるのかな?パエリア風のライスは新しいかも」

 俺達は全員でオムライスを分け合う。
 これは味以外の楽しみ方もあるし、店の中で最高の料理ではあるな。
 俺達はあっという間に食べ終わった。

「「「ごちそうさまでした!」」」

「ふふっ、満足してくれて何よりさね」

「いやマジで美味かったわ」

「そうね。それに私達貴族は、こういった料理に食べ慣れてないのもあって新鮮だったわ」

「ハハハ!肥えた舌を唸らせられたなら、こっちも冥利に尽きるよ。また食べにおいで!あとリアスと今後もよろしく頼むよ。こいつはあたし達にとって息子みたいなもんだからさ」

 俺の頭を無造作に撫でるそれは、確かにお袋って感じだよな。
 ワシャワシャとされるのは中身40近いおっさんの俺からしたらむず痒いものがある。

「ありがとうヴェルメルさん。代金は------」

「いいよいいよ!息子みたいなあんたの友達から金なんか取れないさね。それにお前さんはここの客の代金は出してくれるんだろ?なら昼代くらい取らなくても怒らないよな?」

「「おぅ!」」

 客達も景気よく返事をしている。
 なんかいいなこの感じ。
 もしこの世界にも冒険者ギルドみたいなのがあったらこんな感じになっていたのかね?

「んじゃ、そろそろお暇するかー」

「だね。いつまでも僕がいたらみんな落ち着いて食事出来ないしね」

「ありがとうございましたヴェルメルさん」

「貴族の令嬢様に御礼を言われるようなことじゃないですよ!またお越し下さいね」

「また来るねー!」

「うまかったぜここの料理」

 俺達は喫茶店を後にした。
 お腹をさすりながら、食後の運動で再び街を散策し始めるが、何か様子がおかしかった。
 
「なんか街の奥が騒がしくないか?」

「何か事件があったのかもしれないよリアスくん」

「この六年間でこれと言った事件は領地で起きてないんだぞ?さすがに・・・」

 街のみんなは新聞をみて色々と騒いでるみたいだ。
 内容はうるさすぎて入っては来ない。
 新聞を配ってる男の方へと向かって行く。
 なんかかなり服装が貧相というか、汚いというか。

「号外!号外!!」

「新聞ひとつもらえるか?」

「おぉ若いのが新聞読むのか!この領地は博識な奴が多いねぇ」

 俺の事を知らないって事は領民じゃないのか。
 さすがにこの領地で俺を知らない領民はいないだろう。

「ありがとよ」

「僕にも頂戴」

「はいよ!」

 ジノアも知らないのか?
 この国の人間じゃない?
 スパイだとしたらかなり杜撰ではあるが・・・
 どうやらジノアもスパイである可能性を予想して、新聞を配ってるおっさんを睨んでいる。

「失礼ですが、この国の御方ですか?」

「いーやちがうよ!それを見ればわかると思う」

「新聞を?」

「り、リアスくん!!これ」

「おい、これはやべぇニュースじゃねぇか」

 ミラとグレイが驚いた様子で俺の服を引っ張る。
 グレシアは何かを考え込むように顎に手を当てていた。
 俺も新聞の記事を見ると、それには驚くべき内容が記されている。

「ロックバンド商国が滅亡!?なんだこれ、本当なのか?」

「恥ずかしながら本当のことだね。他の領地にも、我が社の新聞配達員が号外を配っているんだよ。我が社もロックバンド商国にあったんですけど------生き残ったのは僅か五人です」

「五人・・・しかもこの内容だと、たった一人にそれだけのことをされたってことだろ?」

 内容が白銀のガーナ一人に、壊滅状態に陥りロックバンド王国は現在生存者は不明。
 しかも商国代表のヴォルフ・リスカースルは死亡を確認済み。 
 その他も商会の本部のほとんどが壊滅しているらしい。
 ロックバンド商国と言えば、さっきマグワリアでも話した通り商人のほとんどが商国出身だ。
 出身と言えばそうだが、その商売をするための金は本国から出ていて、稼いだ額は送金したりしているらしい。
 
「あぁ、あれは悪夢だった。たった一人に次々と殺されていく一般人達。気がつけば俺達は追いつかれないように必死に逃げていた。やっとの思いでライザー帝国の国境に着いたときは五人しか生き残っていなかったんだ」

「そこで国境にいた我々が、こいつらを保護してここまで連れてきたんだよ」

「久しぶりのアルゴノート領はいいね」

「げっ・・・」

 野次馬をかき分けて、新聞配達員の後ろから出てきたのは俺の今生の父と、幼馴染みであるプラムの父。
 アルジオ・フォン・アルゴノートとガリオ・フォン・ヘルナーリット子爵様だ。
 因みに俺が反応したのは父ではない。
 ガリオ様だ。

「げっ、はないだろうリアスくん」

「いえ!その・・・ミラ!」

「ボク先に屋敷に戻ってるねー!」

「あ、おい!」

 ミラは炎の噴射で浮かび上がる。
 一応寮内で雷属性の魔法を放つと色々と面倒ごとが起きる。
 なにせミラは一応ナスタと契約していることになっている。
 でも今はそうじゃない!

「逃げないでよミライちゃん!マクギリス」

『了解主』

「速っ!」

 マクギリスはガリオ様の契約精霊で、土属性のピクシーだ。
 空中に小さな岩を少しだけ設置しただけだというのに、それを上手い事踏み台にしてミラにあっという間に追いついて服の首根っこを掴んでしまった。 
 そしてその勢いのまま、俺の後ろに回り込むガリオ様。
 俺とミラはこの人が苦手だ。
 何故なら------

「二人とも連れないなぁ!久しぶりの二人のもち肌ぁあ!」

「やめてくださいガリオ様」

「やめてー」

 会う度に俺達はこの人に頬ずりをされるんだ。
 いくら幼馴染みの父親だからってこれはドが過ぎてるだろ。
 俺は親父に助けを求めたが、しばらくそうしろと言われてしまった。
 まぁうちは男爵家で、ガリオ様は子爵家。
 仕方が無い話なんだが。

「驚いた。ガリオ、久しぶりだね」

「これはジノア様。このような状態で失礼致します」

「久しぶり。辺境でのお勤めご苦労様」

 どうやら二人は知り合いみたいだな。
 そりゃそうか。
 ガリオ様は、契約精霊が土属性でありながら電光石火のガリオと二つ名が雷魔法を使えそうな響きの名前を承ってるんだからな。
 理由は簡単で、身体強化を彼の契約精霊であるマクギリスが施し、ガリオ様持ち前の身体能力があまりにも高いため高速で動くことができるからだ。
 そのために辺境の警備では隊長として前線に立っていた。

「ジ、ジノア様って言ったら・・・第三皇子様じゃ!こ、これは失礼致しましたぁ!」

「いいよいいよ。僕は君がスパイだと思ってたけど、違うみたいで安心したよ」

「ジノア様と一緒と言うことは、そちらの方々は従者の方でございましょうか?」

「従者って失礼だな。オレ達そんな貴族に見えねぇか?」

「えぇ、貴方は少なくとも見えないわね」

「味方からの追撃はひでぇ・・・」

「消沈してる暇があったら助けろやてめぇ」

「もう、照れ屋さんだなぁ!ほれほれぇ」

 痛い!
 髭がすごい痛い!
 イケメンではあるんだが、辺境の地での勤務の所為でちゃんと髭を剃ってないからか痛い。
 
「痛いから離してください!それよりも保護したって、白銀のガーナがいたのに助かったのですか!?」

 白銀のガーナは神話級の精霊と契約してると聞いたことがある。
 エグゼリアガソと言う翁国の翁女だと言うが、三十路にもなるのにわがまま姫だという噂だ。
 しかし実力と実績がそれを許しているらしい。
 何の神話級の精霊と契約してるかは不明だ。
 クレも予想が付かないと言っていた。
 北国には神話級の精霊は住処にしていないらしい。
 
「ん?あ、そうだな。白銀のガーナはどうやらライザー帝国とは喧嘩をしたくないのか、引いていったよ。まぁ本気で戦いになっていたら俺達も危なかっただろうね」

「こちらは肝が冷えましたよ。ガリオ様、ガーナ相手に喧嘩をふっかけるんですから」

「あはは!だってその方が面白いだろう?」

 この人は本当・・・
 しかし白銀のガーナ、いやエグゼリアガソはどうしてロックバンド商国を壊滅させたんだ?
 正直言って、ライザー帝国でもロックバンド商国がいなくなったことで飢餓に見舞われている。
 大国でも大打撃を受けるというのに、小さな国のエグゼリアガソが手を切る意味がわからなかった。
 グレシアも恐らくそのことを思って考えを巡らせているのだろう。

「ふふっ、考えてるねリアスくん」

「顔に出てましたか?」

「あぁ、面白いことをする前の思考の顔だよ」

 どんな顔だよ。
 しかしまぁ、どうしてこう次から次に問題を抱えるのかねぇ。
 俺、一回お祓いしてもらおうかな?

「因みにリアス。何故ジノア様がこの領地にいるんだ?」

「別に良いだろ。てめぇこそアルナに顔出せや。2年も家を空けやがってこのクソ亭主!」

「そりゃ、辺境伯爵家御用達の娼館に通い詰めだったからいけるわけないよ!アハハ!」

「が、ガリオ様!」

「ほほぅ」

 アルジオは性欲の塊だ。
 なにせグレコがいながら母さんに手を出したくらいだからな。
 こいつは浮気男に違いは無い。
 じゃなきゃ俺とアルナの歳が同じなはずがない。

「お前、グレコの実家に文句を言われなかっただけよかったのに、まだそんなことしてんのか?てか、その金どっからだした!」

「お、落ち着けリアス!話せばわかる」

「話してもわからねぇから言ってんだバカが!」

「おっと、これは話した方が面白そうだ。おっと、ミライちゃん。君は俺の膝にいなきゃダメだよ」

 無駄遣いの中でも一番の無駄遣いだ。
 これを許せるほど俺は人間出来ちゃいねぇ。

「落ち着けリアス・・・」

「お前、一体どれだけ無駄遣いした?怒らないから答えろ?」

「いやだ!お前、顔が怒ってんだよ!鏡を見ろ!」

「あぁ?はよ応えろや」

「お前、父親に対して・・・」

「父親が風俗に無駄遣いをしたって聞いたら黙ってらんねぇだろ?てめぇいくら使ったんだ!」

「き、金貨20枚・・・」

 ブチッ!
 何かが切れるような音が頭に鳴り響いた。
 金貨20枚は、日本円に変えたら200万円だ。

「てめぇ!っざけんじゃねぇぞ!ちょっとお仕置きが必要みてぇだな!」

「おい、まて!お前のお仕置きは人としての尊厳が------」

「妻がいながら娼館に通って、金貨20枚も刷った奴の尊厳がよく主張されると思ったなぁ!てめぇ覚悟しやがれ!」

 その後俺はアルジオに対して、金的を何度も繰り返したあと、素っ裸に服を剥がして片足をだけを紐で結び、街の噴水の近くの街灯に結びつける。

「おーい、みんな!こいつは助けなくて良いからな!反省会の時間だ」

「「はいっ!リアス様」」

「おい、お前達!今の領主は私だぞ!?」

「人望ねぇなぁ。まぁ仕方ねぇよな。そのだらしない下半身を晒して今日一日反省しやがれ」

「あははっ!アルジオ面白いなぁ!やっぱ君の息子は面白いよ」

「が、ガリオ様ぁ・・・お助けください」

「ちょっとは反省したら?俺は止めたよ?」

 ガリオ様に止められたってのにそれでも通うのを続けやがったのか。
 これは許せねぇ!

「歯を食いしばれこの野郎!」

「ひえぇええええ!」

 思い切りヒモを引くことで、街灯の下に結ばれていた紐が勢いよく上に上がっていく。
 それとアルジオの身体が宙を舞う。
 それも勢いよく。

「反省しろ」

「お前、あとで帰ったら覚えて------」

「あ゛?」

「申し訳ありませんでした」

「今日一晩そこで反省しろクソ親父!」

「お、おい!本当にここに放置する気か?」

「何か問題でも?」

「ありません・・・」

 両親にはこうして教育的指導をしている。
 おかげで今は俺と家族仲は良好だ。

「リアスくん、これで家族仲良好だと思ってるんだよ?」

「え、嘘でしょ?僕ドン引きしてるよ」

「オレもだ。そこまでやるか?」

「いや、娼館で無駄遣いしてたら普通するでしょうよ。でも良好かどうかと聞かれたら、それは良好じゃないと言っておくわ」

 知らん!
 誰がなんと言おうと良好だ。
 新聞配達員の人がドン引きしていたが気にしない。

「ハハハ!リアスも良き友達が出来たみたいで俺も安心だよ」

 ドン引きしてるって言われてるのに、それもどうなんだガリオ様。
 とりあえずガリオ様と新聞配達員の人は屋敷に呼ぶか。

「ガリオ様と、えっとそこの方は------」

「あ、申し遅れました!私、こういう者です」

 お、この世界に名刺があるのはすごい新鮮だな。
 どれどれ。
 名前はアル・マニュオートさんか。
 営業部所属で年齢は31歳。
 見た目の割りに意外と若かった。

「アル様ですね。どうぞこちらへ。邸宅へご案内致します」

「あ、あの。あれはよろしいのですか?」

「えぇ、問題ありません。今日一日は反省の意味で放置します。全員、絶対外してやるなよ!それとこの件は俺が詳しく話し聞くから、安心してみんなはいつも通りの日常を過ごしてくれ」

「「はいっ!リアス様」」

 そういうと、領民達はそれぞれの日常へと戻っていった。
 こういう素直な領民に恵まれて幸せだ。

「すごいですね。かつてこの国で働いていた友人は、貴族様に横暴な態度を取られたと聞きましたが、リアス様はそうでもないのですね。あ、すいません」

 その発言は、この国の貴族の大半がキレそうだな。
 横暴じゃなくて、平民と貴族は身分が違うとか言いそうだ。
 まぁこの国を改革してくのはアルバートとジノアの皇族に任せよう。
 一貴族の俺がどうこうできる問題じゃない。

「気にしないでください。貴族も平民も同じ人間ですし、俺の場合は平民の血も流れていますから」

「なんとっ!このような対応をしても、眉一つ変えずに返してくださるとは!これは他の国の貴族でもありえない光景なのですよ」

 あ、この感じ俺って試されてたのか。
 まぁ向こうからしたら、信頼して良いのかどうか試したくなるよな。 
 商業国家本国の営業はさすがと言ったところか。

「もしかして試されました?」

「申し訳ありません」

「いいですよ。できれば貴方には良きビジネスパートナーになってくれればと思って居ますので」

「え?」

 出来れば亡命してきた新聞配達員全員、抱え込みたいよな。
 この世界には娯楽が少ないから、新聞とかを作ってくれたら領民達のストレス解消にも役に経つと思うんだよ。
 
「また面白いことをしようとしてるなぁ?」

「いえ、今回はお互いに利益のある契約が出来ればと思っているだけですよガリオ様」

「そうか。くっくっく!これがあるから君は面白いんだ」

 勝手に面白がってくれる分には問題ないな。
 プラムの父であるガリオ様もドブさらいと呼ばれる人種だから、俺的にはかなり接しやすくて助かってる。

「まぁその話は追々です。アル様には白銀の話を聞くために今は招待しております。その後のビジネスパートナーとしての交渉は、俺個人の頼みですので断っていただいても構いません」

「あ、いえ・・・ありがたい申し出と思っております!」

「そうですか」

「リアスくん、そろそろ着くよ」

「だな。話していたらあっという間に着いてしまいました。改めましてようこそアルゴノート領へ」

 そう言って俺は二人を屋敷の中へと案内した。
 途中、庭のアルバートとパルバディと鬼神を見ていたガリオ様が青い顔をしているところを生まれて初めて見た。
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