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五章
ガヤ、休暇を楽しむ
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「死にたくない!助けてくれオーナー!」
泣き叫ぶ男性はそのまま胸にナイフを突き刺され、絶命する。
「いやぁぁ!来ないで!わたしには彼がいるのやめ・・・」
女性は抵抗も虚しく男達に欲の吐き出し口として、女性として尊厳を奪われ、最後には首を引き裂かれ絶命する。
「くそぉぉぉ!***っ!絶対に許さな------」
その男性は首を引き裂かれた女性の許婚だった。
しかしその彼が復讐の念を向ける前に、大槌で頭を潰され絶命する。
これは<狂戦士の襟巻き>に保存された記憶。
怨念と言っても良い。
リアスが襟巻きを使うのは、魔物達と対峙するまでに使用した回数は五回だ。
その五回で肉体に襟巻きが馴染んでしまい、地獄の様な光景を見続ける事になっている。
この他にも数千人はくだらない怨念の記憶がリアスの頭を駆け巡る。
「いやだ!もう聞きたくない!助けてくれぇぇえ!」
リアスの精神はもう壊れてしまうほどにまでに至っている。
まだ助けを求める気力だけは残っているのだ。
いや、リアスだからこそまだ壊れずにいたのだ。
常人の人間ならばそれで押し潰されても仕方ない。
それほど無残な殺され方をした人間の記憶を数千回。
つまり死の記憶を数千回経験したのだ。
前世での記憶で死の経験を一度している為だろう。
「ミラ!イルミナ!クレ!誰か、誰か居ないのか!」
リアスの声も虚しく、その声は誰の元にも響かない。
空虚に消えるだけだ。
そして再び数千人の死の記憶がリピートされ始める。
現実世界でリアスの暴走が止まる、すなわち襟巻きが外れるまでこれは続くのだ。
「いっそ殺してくれ!うぁぁぁあ!」
狂ったり、精神が壊れてしまったほうが本人は楽だったかもしれない。
半ば耐性を持ってしまった事で地獄を味わっているのだ。
そして再び半分まで記憶を見たところで、等々リアスは限界が来てしまい完全に心が折れて死にそうなってしまった。
「ははっ・・・」
しかしそこで頭の中で記憶の再生が終わる。
現実世界でミラ達がリアスから襟巻きを剥ぎ取ったのだ。
「やっと、この地獄から解放され------」
そこでリアスの残っていた意識は途切れてしまった。
*
「はっ!あれ?ここは、領地の邸宅?あれ?俺何してるんだ?」
確か俺は、Sランクの魔物達と対峙する事になって・・・
そうか、俺は<狂戦士の襟巻き>を装備したんだ。
「けど、あの何人もの死の記憶が夢だとは思えない」
俺は頬から零れ落ちる涙に気付く。
それだけ恐怖が強かったんだ。
襟巻きがゲーム内では使いやすかったからと安易に考え、現実でも切り札として持っていた自分が恥ずかしくなる。
あれはアイテムなんかじゃない。
自身を殺害した男を呪う怨嗟の念の塊だ。
恐らく成仏する事もできずに今も苦しんでいる霊達だ。
「あ、リアスくん起きたんだ!おはよーっ」
「ミ・・・ラ?」
俺は部屋に入ってくるミラを見て安心したと同時に布団から飛び出して抱きついた。
「わっ!ちょっ、リアスくん急にどうしたの?」
「あぁ、悪い。こうしたくなったんだ。もう少しだけこうさせてくれ」
「う、うん?」
あれは地獄だった。
いくらなんでも数千回もの死の記憶を体験するなんて、心が病んでも仕方ないレベルだ。
だからこそ、ミラが入ってきた事で安心した自分が無意識に行動を起こしてしまった。
ミラには悪いけど、こうしないと頭がおかしくなりそうだったんだ。
『いちゃいちゃするのは良いですけど、何か言うことあるんじゃないんですかね?』
「クレ!」
俺はミラの肩に居たクレにも思い切り抱きついてしまう。
俺はこの温もりが、自身によって永遠になくしていたかもしれないことを思うとゾッとした。
いくら危機的状況だったとしても、起死回生で使ったものだとしても、どのみち使えば助かるのは俺だけの可能性が高いんだ。
もう二度と襟巻きを使いたくない。
けど恐らく、俺は追い込まれればまた使ってしまうだろう。
切り札でもあるんだこいつは。
『珍しいですね。大丈夫ですか?』
「大丈夫じゃないからもう少しこうさせて」
「どうやら今回は相当来るものがあったみたいだね。何があったか話してよ?」
俺は襟巻きを装備した後にまた数千人の死の記憶について話す。
時より動悸は荒くなかったが、ミラが背中を優しくさすってくれたことにより落ち着き全てを話し終えた。
「それが襟巻きを装備してから見た記憶だ。この記憶は襟巻きを装備していた人間が見た記憶じゃない。襟巻きを装備した者に殺される人達の怨嗟だ・・・」
「うんうん。そっかそっか、がんばったねリアスくん。リアスくんはがんばった」
ミラは何も言わず俺を抱きしめる。
それはとても心地よいもので、それでいて温かい。
「情けねぇな。実体験じゃないのに」
『仕方ないですよ。しかし<狂戦士の襟巻き>にはその様な記憶が保存されているとは』
「あぁ、これは呪いのアイテムで間違いねぇだろうな。あ、それからごめん。またクレとミラに迷惑かけちまったよな」
「二人だけじゃないぞ?」
「そうね。わたし達も苦労をかけさせられたわ」
「わたしは別に構いません。リアス様にはそれだけの恩を返されましたから」
ぞろぞろと入ってきたのはグランベル、リリィ、イルミナの3人だ。
まさか5人係で俺を止めに行った?
『今回に至っては私は手を出していません。この4人のコンビネーションで貴方から<狂戦士の襟巻き>を剥ぎ取ったのです』
「え?」
クレが強力せずに勝った?
ミラ達はそれだけ強くなったってことか。
それから俺はみんなに襟巻きをつけてからの出来事をある程度話してもらった。
驚くことに、襟巻きには知性が生まれてて魔法が使えるようになっていたと言う。
「マジかよ。ってことは今までよりも強力になってたってことか」
「強力かどうかはともかく、同じ方法で襟巻きを奪い取ることは出来なくなったって感じかな」
「わたしはもう絶対協力しないわ!生きた心地しなかったんだからね!?」
「いやごめん。ありがとなリリィ」
「あ、えっとそんな素直にお礼を言われるとその------」
「要約すると照れるからやめてくれだってよ!ははっ!俺的にはこの闘いで学べることも多かったからいいぜ!俺はまだまだ弱え。もっと強くならなきゃ守りたいもん守れねぇしな」
「へぇ、守りたいもんあったんだなー」
俺はリリィとグランベルを交互に見る。
するとグランベルは顔を赤くして咳払いをした。
面白いな。
こいつの恋が叶うかどうかはわからないが、俺は応援したいところだ。
「それにしてもリアス様。お身体は大丈夫ですか?」
「あー気怠い感じはするけど大したことはねぇなぁ。俺はどれくらい寝てたんだ?」
「そんなに長くないよ。一昨日だから丸一日くらいだね」
決して短くはないが長くはない。
もっと寝てたかと思ったから、時間を無駄にしないでよかった。
俺はベットから立ち上がると、外から鉄を弾き合わせてるようなカンカンという音がする。
窓から外を覗いてみると、アルバートとパルバディが鬼神と対峙していた。
「鬼神!?おいおい、襟巻きを装備したから倒したかと思ったのに!」
やべぇ、あの二人じゃ鬼神には絶対敵わない。
今は遊ばれてるみたいだから生きているが、いつ気が変わるかわからねぇ。
「リアスくん待って!窓から飛び出そうとしないで!」
「ミラ!あんなのでも一応皇子とアデルさんの息子だ。助けねぇと」
『落ち着きなさい。今の貴方じゃまず鬼神には勝てませんし、それに魔物達とは和解したのですよ』
「和解?」
外の様子を見るが、よく見たら鬼神と二人が持ってる剣って模擬戦用の剣じゃねぇか。
あれは俺とミラとイルミナで剣術の練習をしようとして、全く才能がないことに気づいて倉庫に眠っていた奴だ。
生物を殴る時だけ物理ダメージが減少する付与付きだから、怪我する恐れは低い。
「確かによく見たら殺し合いはしてないな。でも魔物と和解か。一体どうしたらそうなったんだ?」
「フェンリルいたでしょ?おじさんとの昔からの友達らしくってそれで」
『友達ではありませんよ。腐れ縁です』
「そゆことー!」
ドアを開けて大きな青い毛並みをしたオオカミが入ってくる。
フェンリルって言ったら、前世では神話に出てくる神だったり、災厄をもたらす魔物だったりと色々いたな。
俺の身体に鼻をつけてくんくんしてくる様子はオオカミと言うより、犬を彷彿とさせる。
「スノーよクレセントの契約者さん」
「リアスだ。クレとはどういう?」
「昔ちょっとあってね。ここでお世話になることになったわ」
「そのちょっとが聞きたかったんだが」
「そんな、乙女の秘密を話せって言うのね!?」
「お・・・乙女?」
あ、部屋が一気に寒くなった。
ミラもクレもそっと俺の近くから離れていく。
これは地雷踏んだか!?
「お・と・め」
「はい・・・」
「よろしい。って事だからここに居候させてもらう代わりに、貴方達に魔法の使い方を教えてあげるわ」
「魔法の使い方?」
魔物って魔法使えるのか?
今まで闘ってきた魔物達が魔法を使ってるのをみたことがない。
見たことないだけで使えるのかも知れないけど。
「因みにわたしは魔法が使えなくってよ!!」
「は?」
「リアス様。スノー様は何も自分が教えるとは仰っていません」
「それもそうだな。ってことは魔物の誰かが教えてくれるのか?」
「そういうことよ!もうミライ以外の三人は教わってるわ」
「ボクのが彼より魔法はすごいからね」
「彼?」
「おいっすー!俺があんた達魔法を教える指南役っすよ!!」
そう言って入って来たのは恐らくチーリンというSランクの魔物。
角が生えてるし、なんとなくそんな感じがする。
「でもなんかしゃべり方がムカつく------え?」
「へっへーん!俺には攻撃は効かないっすよ!」
イラッとしたから俺がこいつの角を鷲づかみにしようとしたけど、何故か角を掴もうとした手に力が入らない。
「リアスくん、どうやら彼はある一定値の運動を止めることができるらしいよ」
「そうっす!すごいだろうっす!」
「へぇ、魔物特有の何かって奴か?」
「魔物はこの段階まで進化するとスキルと言うものを手に入れられるのよ。彼のスキルの名前は境界斥力よ」
魔物ってSランクに到達するとそんなチート能力得るんだな。
そりゃ生き残れないわ。
少なくとも人間にはスキルみたいなあやふやなものはない・・いや。
「なぁリリィ」
「気づいたわね。その魔物のスキルってわたし達の転生特典に似てるわよ」
リリィも気付いていたか。
俺は転生特典についていまいち理解してないけど、転生特典は精霊と喋れる能力らしい。
リリィのは相手の最大火力を解析する能力らしいけど、どれも普通の人間にはない物だ。
「じゃあ魔物は俺たちに近い存在ってことか?」
『おそらく違うと思いますよ』
「クレセントの言う通りかしら。おそらくは本来あった自我に別の自我が入ることが共通点だと思うわ」
「なるほど」
つまり転生者以外でもそう言った能力を持ってる奴がいるかもしれないってことか。
前世の知識を持つ転生者が脅威に変わりはないけど。
「まぁそう言うことっすから明後日からビシビシ指導するっすよ!」
「どういうことだよ。今の話と魔法を学ぶことに共通点ないじゃん。でもなんで明後日?明日じゃないのか?」
「リアスくん!アジャイルとグレゴリータが目が覚めたら工房に来て欲しいらしいよ」
「おっさん達が?ははん、なんかのサプライズか?」
アジャイルさんとグレゴリータさんは建築士と鍛治士を営んでる、俺が平民だった頃のご近所さんだ。
俺は二人を小さい時から知ってるから、あれやこれやと頼み事をしまくってたから色々と夢見たいな道具の設計図がある。
因みにビデオカメラはグレゴリータさんが、俺の特注の馬車の主な設計をしたのはアジャイルさんだ。
建築も魔道具作りも付与魔法が欠かせない。
俺は二人から基礎を教えてもらったから、今無茶苦茶な付与を思いついてもそれを実行に移せるし感謝しかない。
「サプライズかどうかと言ってからのお楽しみだよ」
「まぁ久々に会いたいし顔出すか」
「そうですね。ところでリアス様、カムイと話し合いはしなくてもよろしいのですか?」
「カムイ?あ、そっか」
進化する前の魔物だったとはいえ、俺はあいつの両親を殺したんだ。
謝って済む話でもないけど、それでも一言謝らないとな。
俺はジャイアントベアを殺したこと自体は間違ってないと思ってる。
でもこう言うのって理屈じゃないしな。
「それなら別に構わねぇぜ。某は別に両親に固執しちゃいなかったしな。お前さんにリベンジしたかっただけだ」
「カムイ!」
扉の蓋に腕を置いて笑いながらそう言うが、格好がものすごく変だからコメントに困る。
リリィ以外が笑ってないところを見るに、この世界では普通なのか?
「あはは!リアスはよく笑わないでいられるね。袖無しシャツに股引履いて腹巻きしてるとか、いつの時代のお父さんよ」
「いや、あまりのダサさに言葉を失ってた」
「ダサい!?てめぇちょっと表出ろや!襟巻きしてなきゃお前は俺の敵じゃないことを証明してやらぁ!」
「やめとく。それは俺も自覚してるし」
「やけに潔いいな」
「自分の無力さには痛感してるからな」
俺はまだまだ弱い。
いくらAランクの魔物を何体倒せても、Sランク一体に勝てないんじゃまるで意味がない。
別に力が入らない世界ならそれでもよかったかもしれないけど、この世界で平穏な暮らしを手に入れる為にはどうしても力が必要になってくる。
「んまぁそう言うことなら俺が直々にお前をしごいてやるよ!いいだろ姉御、チーリン」
「まぁ見ていた感じ、カムイと闘い方は似てるからそれでも良いかしらね」
「せっかく魔法も鍛えられる逸材なんすから、俺も鍛えたいっす」
「んなら、某が鍛えてる間に他の奴を鍛えて後からこいつを鍛えてやれば良かろう」
「それもそうっすね!」
「おい、俺の預かり知らぬところで不穏なスケジュール組まれたぞ?」
「リアスくんがんばって!ボクもリアスくんの修行風景は外から見てるからね」
めちゃくちゃ笑顔のミラの言葉が冗談で言ってないことがわかる。
おいおいマジかよ。
領地にいるうちにしたいことも色々あったのに、この夏休み修行生活か?
いや、流石に毎日はないだろうからあれだが、休まる時間も無くなりそうじゃねぇか。
初日から夏季休業は最悪なスタートを切ってるけど、終わるまで続くんじゃねぇかこれ。
泣き叫ぶ男性はそのまま胸にナイフを突き刺され、絶命する。
「いやぁぁ!来ないで!わたしには彼がいるのやめ・・・」
女性は抵抗も虚しく男達に欲の吐き出し口として、女性として尊厳を奪われ、最後には首を引き裂かれ絶命する。
「くそぉぉぉ!***っ!絶対に許さな------」
その男性は首を引き裂かれた女性の許婚だった。
しかしその彼が復讐の念を向ける前に、大槌で頭を潰され絶命する。
これは<狂戦士の襟巻き>に保存された記憶。
怨念と言っても良い。
リアスが襟巻きを使うのは、魔物達と対峙するまでに使用した回数は五回だ。
その五回で肉体に襟巻きが馴染んでしまい、地獄の様な光景を見続ける事になっている。
この他にも数千人はくだらない怨念の記憶がリアスの頭を駆け巡る。
「いやだ!もう聞きたくない!助けてくれぇぇえ!」
リアスの精神はもう壊れてしまうほどにまでに至っている。
まだ助けを求める気力だけは残っているのだ。
いや、リアスだからこそまだ壊れずにいたのだ。
常人の人間ならばそれで押し潰されても仕方ない。
それほど無残な殺され方をした人間の記憶を数千回。
つまり死の記憶を数千回経験したのだ。
前世での記憶で死の経験を一度している為だろう。
「ミラ!イルミナ!クレ!誰か、誰か居ないのか!」
リアスの声も虚しく、その声は誰の元にも響かない。
空虚に消えるだけだ。
そして再び数千人の死の記憶がリピートされ始める。
現実世界でリアスの暴走が止まる、すなわち襟巻きが外れるまでこれは続くのだ。
「いっそ殺してくれ!うぁぁぁあ!」
狂ったり、精神が壊れてしまったほうが本人は楽だったかもしれない。
半ば耐性を持ってしまった事で地獄を味わっているのだ。
そして再び半分まで記憶を見たところで、等々リアスは限界が来てしまい完全に心が折れて死にそうなってしまった。
「ははっ・・・」
しかしそこで頭の中で記憶の再生が終わる。
現実世界でミラ達がリアスから襟巻きを剥ぎ取ったのだ。
「やっと、この地獄から解放され------」
そこでリアスの残っていた意識は途切れてしまった。
*
「はっ!あれ?ここは、領地の邸宅?あれ?俺何してるんだ?」
確か俺は、Sランクの魔物達と対峙する事になって・・・
そうか、俺は<狂戦士の襟巻き>を装備したんだ。
「けど、あの何人もの死の記憶が夢だとは思えない」
俺は頬から零れ落ちる涙に気付く。
それだけ恐怖が強かったんだ。
襟巻きがゲーム内では使いやすかったからと安易に考え、現実でも切り札として持っていた自分が恥ずかしくなる。
あれはアイテムなんかじゃない。
自身を殺害した男を呪う怨嗟の念の塊だ。
恐らく成仏する事もできずに今も苦しんでいる霊達だ。
「あ、リアスくん起きたんだ!おはよーっ」
「ミ・・・ラ?」
俺は部屋に入ってくるミラを見て安心したと同時に布団から飛び出して抱きついた。
「わっ!ちょっ、リアスくん急にどうしたの?」
「あぁ、悪い。こうしたくなったんだ。もう少しだけこうさせてくれ」
「う、うん?」
あれは地獄だった。
いくらなんでも数千回もの死の記憶を体験するなんて、心が病んでも仕方ないレベルだ。
だからこそ、ミラが入ってきた事で安心した自分が無意識に行動を起こしてしまった。
ミラには悪いけど、こうしないと頭がおかしくなりそうだったんだ。
『いちゃいちゃするのは良いですけど、何か言うことあるんじゃないんですかね?』
「クレ!」
俺はミラの肩に居たクレにも思い切り抱きついてしまう。
俺はこの温もりが、自身によって永遠になくしていたかもしれないことを思うとゾッとした。
いくら危機的状況だったとしても、起死回生で使ったものだとしても、どのみち使えば助かるのは俺だけの可能性が高いんだ。
もう二度と襟巻きを使いたくない。
けど恐らく、俺は追い込まれればまた使ってしまうだろう。
切り札でもあるんだこいつは。
『珍しいですね。大丈夫ですか?』
「大丈夫じゃないからもう少しこうさせて」
「どうやら今回は相当来るものがあったみたいだね。何があったか話してよ?」
俺は襟巻きを装備した後にまた数千人の死の記憶について話す。
時より動悸は荒くなかったが、ミラが背中を優しくさすってくれたことにより落ち着き全てを話し終えた。
「それが襟巻きを装備してから見た記憶だ。この記憶は襟巻きを装備していた人間が見た記憶じゃない。襟巻きを装備した者に殺される人達の怨嗟だ・・・」
「うんうん。そっかそっか、がんばったねリアスくん。リアスくんはがんばった」
ミラは何も言わず俺を抱きしめる。
それはとても心地よいもので、それでいて温かい。
「情けねぇな。実体験じゃないのに」
『仕方ないですよ。しかし<狂戦士の襟巻き>にはその様な記憶が保存されているとは』
「あぁ、これは呪いのアイテムで間違いねぇだろうな。あ、それからごめん。またクレとミラに迷惑かけちまったよな」
「二人だけじゃないぞ?」
「そうね。わたし達も苦労をかけさせられたわ」
「わたしは別に構いません。リアス様にはそれだけの恩を返されましたから」
ぞろぞろと入ってきたのはグランベル、リリィ、イルミナの3人だ。
まさか5人係で俺を止めに行った?
『今回に至っては私は手を出していません。この4人のコンビネーションで貴方から<狂戦士の襟巻き>を剥ぎ取ったのです』
「え?」
クレが強力せずに勝った?
ミラ達はそれだけ強くなったってことか。
それから俺はみんなに襟巻きをつけてからの出来事をある程度話してもらった。
驚くことに、襟巻きには知性が生まれてて魔法が使えるようになっていたと言う。
「マジかよ。ってことは今までよりも強力になってたってことか」
「強力かどうかはともかく、同じ方法で襟巻きを奪い取ることは出来なくなったって感じかな」
「わたしはもう絶対協力しないわ!生きた心地しなかったんだからね!?」
「いやごめん。ありがとなリリィ」
「あ、えっとそんな素直にお礼を言われるとその------」
「要約すると照れるからやめてくれだってよ!ははっ!俺的にはこの闘いで学べることも多かったからいいぜ!俺はまだまだ弱え。もっと強くならなきゃ守りたいもん守れねぇしな」
「へぇ、守りたいもんあったんだなー」
俺はリリィとグランベルを交互に見る。
するとグランベルは顔を赤くして咳払いをした。
面白いな。
こいつの恋が叶うかどうかはわからないが、俺は応援したいところだ。
「それにしてもリアス様。お身体は大丈夫ですか?」
「あー気怠い感じはするけど大したことはねぇなぁ。俺はどれくらい寝てたんだ?」
「そんなに長くないよ。一昨日だから丸一日くらいだね」
決して短くはないが長くはない。
もっと寝てたかと思ったから、時間を無駄にしないでよかった。
俺はベットから立ち上がると、外から鉄を弾き合わせてるようなカンカンという音がする。
窓から外を覗いてみると、アルバートとパルバディが鬼神と対峙していた。
「鬼神!?おいおい、襟巻きを装備したから倒したかと思ったのに!」
やべぇ、あの二人じゃ鬼神には絶対敵わない。
今は遊ばれてるみたいだから生きているが、いつ気が変わるかわからねぇ。
「リアスくん待って!窓から飛び出そうとしないで!」
「ミラ!あんなのでも一応皇子とアデルさんの息子だ。助けねぇと」
『落ち着きなさい。今の貴方じゃまず鬼神には勝てませんし、それに魔物達とは和解したのですよ』
「和解?」
外の様子を見るが、よく見たら鬼神と二人が持ってる剣って模擬戦用の剣じゃねぇか。
あれは俺とミラとイルミナで剣術の練習をしようとして、全く才能がないことに気づいて倉庫に眠っていた奴だ。
生物を殴る時だけ物理ダメージが減少する付与付きだから、怪我する恐れは低い。
「確かによく見たら殺し合いはしてないな。でも魔物と和解か。一体どうしたらそうなったんだ?」
「フェンリルいたでしょ?おじさんとの昔からの友達らしくってそれで」
『友達ではありませんよ。腐れ縁です』
「そゆことー!」
ドアを開けて大きな青い毛並みをしたオオカミが入ってくる。
フェンリルって言ったら、前世では神話に出てくる神だったり、災厄をもたらす魔物だったりと色々いたな。
俺の身体に鼻をつけてくんくんしてくる様子はオオカミと言うより、犬を彷彿とさせる。
「スノーよクレセントの契約者さん」
「リアスだ。クレとはどういう?」
「昔ちょっとあってね。ここでお世話になることになったわ」
「そのちょっとが聞きたかったんだが」
「そんな、乙女の秘密を話せって言うのね!?」
「お・・・乙女?」
あ、部屋が一気に寒くなった。
ミラもクレもそっと俺の近くから離れていく。
これは地雷踏んだか!?
「お・と・め」
「はい・・・」
「よろしい。って事だからここに居候させてもらう代わりに、貴方達に魔法の使い方を教えてあげるわ」
「魔法の使い方?」
魔物って魔法使えるのか?
今まで闘ってきた魔物達が魔法を使ってるのをみたことがない。
見たことないだけで使えるのかも知れないけど。
「因みにわたしは魔法が使えなくってよ!!」
「は?」
「リアス様。スノー様は何も自分が教えるとは仰っていません」
「それもそうだな。ってことは魔物の誰かが教えてくれるのか?」
「そういうことよ!もうミライ以外の三人は教わってるわ」
「ボクのが彼より魔法はすごいからね」
「彼?」
「おいっすー!俺があんた達魔法を教える指南役っすよ!!」
そう言って入って来たのは恐らくチーリンというSランクの魔物。
角が生えてるし、なんとなくそんな感じがする。
「でもなんかしゃべり方がムカつく------え?」
「へっへーん!俺には攻撃は効かないっすよ!」
イラッとしたから俺がこいつの角を鷲づかみにしようとしたけど、何故か角を掴もうとした手に力が入らない。
「リアスくん、どうやら彼はある一定値の運動を止めることができるらしいよ」
「そうっす!すごいだろうっす!」
「へぇ、魔物特有の何かって奴か?」
「魔物はこの段階まで進化するとスキルと言うものを手に入れられるのよ。彼のスキルの名前は境界斥力よ」
魔物ってSランクに到達するとそんなチート能力得るんだな。
そりゃ生き残れないわ。
少なくとも人間にはスキルみたいなあやふやなものはない・・いや。
「なぁリリィ」
「気づいたわね。その魔物のスキルってわたし達の転生特典に似てるわよ」
リリィも気付いていたか。
俺は転生特典についていまいち理解してないけど、転生特典は精霊と喋れる能力らしい。
リリィのは相手の最大火力を解析する能力らしいけど、どれも普通の人間にはない物だ。
「じゃあ魔物は俺たちに近い存在ってことか?」
『おそらく違うと思いますよ』
「クレセントの言う通りかしら。おそらくは本来あった自我に別の自我が入ることが共通点だと思うわ」
「なるほど」
つまり転生者以外でもそう言った能力を持ってる奴がいるかもしれないってことか。
前世の知識を持つ転生者が脅威に変わりはないけど。
「まぁそう言うことっすから明後日からビシビシ指導するっすよ!」
「どういうことだよ。今の話と魔法を学ぶことに共通点ないじゃん。でもなんで明後日?明日じゃないのか?」
「リアスくん!アジャイルとグレゴリータが目が覚めたら工房に来て欲しいらしいよ」
「おっさん達が?ははん、なんかのサプライズか?」
アジャイルさんとグレゴリータさんは建築士と鍛治士を営んでる、俺が平民だった頃のご近所さんだ。
俺は二人を小さい時から知ってるから、あれやこれやと頼み事をしまくってたから色々と夢見たいな道具の設計図がある。
因みにビデオカメラはグレゴリータさんが、俺の特注の馬車の主な設計をしたのはアジャイルさんだ。
建築も魔道具作りも付与魔法が欠かせない。
俺は二人から基礎を教えてもらったから、今無茶苦茶な付与を思いついてもそれを実行に移せるし感謝しかない。
「サプライズかどうかと言ってからのお楽しみだよ」
「まぁ久々に会いたいし顔出すか」
「そうですね。ところでリアス様、カムイと話し合いはしなくてもよろしいのですか?」
「カムイ?あ、そっか」
進化する前の魔物だったとはいえ、俺はあいつの両親を殺したんだ。
謝って済む話でもないけど、それでも一言謝らないとな。
俺はジャイアントベアを殺したこと自体は間違ってないと思ってる。
でもこう言うのって理屈じゃないしな。
「それなら別に構わねぇぜ。某は別に両親に固執しちゃいなかったしな。お前さんにリベンジしたかっただけだ」
「カムイ!」
扉の蓋に腕を置いて笑いながらそう言うが、格好がものすごく変だからコメントに困る。
リリィ以外が笑ってないところを見るに、この世界では普通なのか?
「あはは!リアスはよく笑わないでいられるね。袖無しシャツに股引履いて腹巻きしてるとか、いつの時代のお父さんよ」
「いや、あまりのダサさに言葉を失ってた」
「ダサい!?てめぇちょっと表出ろや!襟巻きしてなきゃお前は俺の敵じゃないことを証明してやらぁ!」
「やめとく。それは俺も自覚してるし」
「やけに潔いいな」
「自分の無力さには痛感してるからな」
俺はまだまだ弱い。
いくらAランクの魔物を何体倒せても、Sランク一体に勝てないんじゃまるで意味がない。
別に力が入らない世界ならそれでもよかったかもしれないけど、この世界で平穏な暮らしを手に入れる為にはどうしても力が必要になってくる。
「んまぁそう言うことなら俺が直々にお前をしごいてやるよ!いいだろ姉御、チーリン」
「まぁ見ていた感じ、カムイと闘い方は似てるからそれでも良いかしらね」
「せっかく魔法も鍛えられる逸材なんすから、俺も鍛えたいっす」
「んなら、某が鍛えてる間に他の奴を鍛えて後からこいつを鍛えてやれば良かろう」
「それもそうっすね!」
「おい、俺の預かり知らぬところで不穏なスケジュール組まれたぞ?」
「リアスくんがんばって!ボクもリアスくんの修行風景は外から見てるからね」
めちゃくちゃ笑顔のミラの言葉が冗談で言ってないことがわかる。
おいおいマジかよ。
領地にいるうちにしたいことも色々あったのに、この夏休み修行生活か?
いや、流石に毎日はないだろうからあれだが、休まる時間も無くなりそうじゃねぇか。
初日から夏季休業は最悪なスタートを切ってるけど、終わるまで続くんじゃねぇかこれ。
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