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ヲホド王来襲
兆し(6月3日追加しました)
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つい先ほどまで、温かい夜具にくるまっていた筈なのに。
気付くと手白香は飾りも美しい輿に乗っていた。
驚いて周囲を見回すと、後ろには多くの下人が肩に荷を担いで列をなしている。前には騎乗の護衛達。
自身を見ればきれいに着飾っていて、普段はまとめている長い髪も艶やかに梳られ、蔓で飾られていた。
『これではまるで・・・』
「・・・様。手白香様。」
飾り気のない白木の扉の向こうから自分を呼ぶ声が聞こえて、手白香ははっと目が覚めた。
夢を見ていたらしい。
起き上がっても覚えている夢を見たのは久しぶりだ。
まさか予知夢、、、?
思い付いた言葉に自分で笑ってしまう。
自分の祖先に神と交感し、時に予言をするものが居たと聞いたことはある。それでも、今となっては何世代も前の出来事として、半ば夢物語のように語られるものだ。
曰く、海を渡って外国を攻めよと神は宣い給うとか、、、。
「手白香皇女様、まだお目覚めになりませぬか?」
再度呼ばれた声に、「目覚めた、こちらはもう良い、」と答えて、手白香は気持ちを切り替えた。
ここに居を移して二月あまり。人手はほとんどないのだから、自分より幼い妹たちの世話に人を分けねば。
真冬の今なら、妹たちは起きるのもぐずるだろうから、なおの事。
自らはさっと起きて、まだ半分凍っている井戸水で顔を洗い身支度を済ませると、朝餉の支度の様子を見に行く。
手配を済ませ、母后に挨拶に行こうとすれば、庭先に稽古が終わったばかりらしい幼馴染を見かけた。
「磐井、相変わらず早起きだこと。」
声を掛ければ、振り向いてさっと跪かれた。
「主、お早うございます。」
この男が手白香の杖刀人(護衛)になったのは、二月前に儚くなった弟が大王の位に就いた時だから、もう八年になる。それまでは砕けた物言いもしていたと言うのに、いつの間にやら畏まるようになってしまった。
「こちらに来て。」
廊下に座って手招けば、近付いてまた畏まる。
「磐井は本当に変わったわねえ。」
以前はよく軽口を言われたのに。
笑って言えば、苦い顔をして黙るのも、いつの間にか見慣れた光景だ。
「実はね、夢を見たのだけど・・・」
気にせず、ふと思いついて先ほどの夢を話すと、磐井は苦い顔をもっとしかめた。
「予知夢と言う事は・・・?」
「予知夢を見たのはずーっと昔の大后様よ。新羅を攻めろ、なんて、神様のお告げだったとしても、なかなか言えるものじゃないわ…どんな方だったのかしらね?」
そうだ、美人だったらしいわよ、と笑うと、磐井のしかめ面が少し緩んだ。
「主よりもですか?」
「え・・・?」
磐井が私を褒めるなんて、と驚くと、磐井はすっと真面目な顔に戻って立ち上がった。
「申し訳ありません、今日の警護の打ち合わせをして、後ほどお側に参ります。」
「そうね、私も母后のところに伺うところでした。朝餉の後はまた棺の守りに入ります。」
ここは、今は亡き弟、先代の大王の御霊を慰める殯宮。毎日ただ静かに、祈りの日々を過ごす場所。
今日も昨日と全く同じ一日が始まる。
手白香はそのことを疑いもしなかった。
気付くと手白香は飾りも美しい輿に乗っていた。
驚いて周囲を見回すと、後ろには多くの下人が肩に荷を担いで列をなしている。前には騎乗の護衛達。
自身を見ればきれいに着飾っていて、普段はまとめている長い髪も艶やかに梳られ、蔓で飾られていた。
『これではまるで・・・』
「・・・様。手白香様。」
飾り気のない白木の扉の向こうから自分を呼ぶ声が聞こえて、手白香ははっと目が覚めた。
夢を見ていたらしい。
起き上がっても覚えている夢を見たのは久しぶりだ。
まさか予知夢、、、?
思い付いた言葉に自分で笑ってしまう。
自分の祖先に神と交感し、時に予言をするものが居たと聞いたことはある。それでも、今となっては何世代も前の出来事として、半ば夢物語のように語られるものだ。
曰く、海を渡って外国を攻めよと神は宣い給うとか、、、。
「手白香皇女様、まだお目覚めになりませぬか?」
再度呼ばれた声に、「目覚めた、こちらはもう良い、」と答えて、手白香は気持ちを切り替えた。
ここに居を移して二月あまり。人手はほとんどないのだから、自分より幼い妹たちの世話に人を分けねば。
真冬の今なら、妹たちは起きるのもぐずるだろうから、なおの事。
自らはさっと起きて、まだ半分凍っている井戸水で顔を洗い身支度を済ませると、朝餉の支度の様子を見に行く。
手配を済ませ、母后に挨拶に行こうとすれば、庭先に稽古が終わったばかりらしい幼馴染を見かけた。
「磐井、相変わらず早起きだこと。」
声を掛ければ、振り向いてさっと跪かれた。
「主、お早うございます。」
この男が手白香の杖刀人(護衛)になったのは、二月前に儚くなった弟が大王の位に就いた時だから、もう八年になる。それまでは砕けた物言いもしていたと言うのに、いつの間にやら畏まるようになってしまった。
「こちらに来て。」
廊下に座って手招けば、近付いてまた畏まる。
「磐井は本当に変わったわねえ。」
以前はよく軽口を言われたのに。
笑って言えば、苦い顔をして黙るのも、いつの間にか見慣れた光景だ。
「実はね、夢を見たのだけど・・・」
気にせず、ふと思いついて先ほどの夢を話すと、磐井は苦い顔をもっとしかめた。
「予知夢と言う事は・・・?」
「予知夢を見たのはずーっと昔の大后様よ。新羅を攻めろ、なんて、神様のお告げだったとしても、なかなか言えるものじゃないわ…どんな方だったのかしらね?」
そうだ、美人だったらしいわよ、と笑うと、磐井のしかめ面が少し緩んだ。
「主よりもですか?」
「え・・・?」
磐井が私を褒めるなんて、と驚くと、磐井はすっと真面目な顔に戻って立ち上がった。
「申し訳ありません、今日の警護の打ち合わせをして、後ほどお側に参ります。」
「そうね、私も母后のところに伺うところでした。朝餉の後はまた棺の守りに入ります。」
ここは、今は亡き弟、先代の大王の御霊を慰める殯宮。毎日ただ静かに、祈りの日々を過ごす場所。
今日も昨日と全く同じ一日が始まる。
手白香はそのことを疑いもしなかった。
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