皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

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ヲホド王来襲

殯宮への使者

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殯宮もがりのみや※に大連おおむらじ※である大伴金村おおとものかなむらの使者が来たのは、昼餉ひるげを済ませた家族がひつぎの守りに戻り、一人手白香たしらか夕餉ゆうげの手配をしていた時だった。
「これから来て欲しいと。金村は本当にそう言ったのですか?」
階の下に畏まるかしこまる使者に思わず問い返す。
「はい。夜半に開かれる合議を密かに聞いて欲しいとのことでした。今夜はそのまま宮でお泊り頂けるよう、采女うねめ※に準備もさせているので、身一つで疾くお越し頂けと。」
「そうですか……」
言いつつちら、と後ろを見る。手白香の杖刀人じょうとうじん※として常に付き従う磐井いわいは、表情を変えないまま、微かに首を振った。
彼の言いたいことは分かる。手白香の頭の中も疑問しかない。
そもそも現在は先の大王おおきみの喪中であり、実姉である手白香も他の家族も、亡き大王の御霊みたまを慰めるために殯宮に籠っている。
通常であれば、大王の喪の間は、重臣たちが合議の上、大王不在のまつりごとを執り行い、かつ新しい大王を探している期間である。
次の大王が早くに決まっても、推戴すいたいはせず、新しい宮を造りつつ、合議に加わるのみだ。先の大王の家族が殯宮で御霊と共に守る三種の神器が宮に無いからだ。
喪が明け、宮に戻った先の大王の家族が三種の神器を新しい宮に持参し、重臣が推戴して、初めて新しい大王の御代みよが始まる。
この時期に大きな政の改変はしないものだし、新しい大王が決まったとの報告も未だ無いと言うのに。
それなのに。
先の大王の母后でもある母にも告げず、手白香が身一つで殯宮から宮に行くなど、通常であれば考えられない。大体、長い喪の間溜まった穢れけがれを、どこで落とせと言うのか?

そう答えた手白香に、金村の使者……杖刀人の毛野けなは淡々と答えた。
「今から出立すれば、日のあるうちに宮に戻れましょう。湯の準備も衣の準備もしております。そこでみそぎ※をなされませ。皆さまお集りの前に身支度は整いましょう。」
「準備のよいこと。金村は、私が『否』と言うとは思わないのでしょうか?」
少し皮肉を込めて返すと、毛野は目を伏せたまま、少し躊躇い……ちら、と手白香の後ろを見やった。
「『否』と言われた時は集まりの理由を申せと言われております。さすれば皇女ひめみこは必ずいらっしゃると。」

「ならばそれを疾く申すように。」
「……人払いは」
「何を言うのです。ここには私とそなた、磐井しかおりませぬ。磐井とそなたは共に先の大王に杖刀人として仕えた仲でしょう?」
手白香が呆れたように言うと、一つ溜め息を吐き。それで観念したのか、毛野は話し始めた。


※の解説
殯宮  死者の親族たちが一定の期間、遺体とともに、またはその近くに、忌籠いみごもりの生活をする建物。上代の習俗で、葬式の日まで遺体を仮に安置する所。あらき(大辞林より)

大連  大和朝廷における最高執政官の称。連むらじの姓かばねの最有力者が任ぜられた(大辞林より)

采女  古代の宮廷で天皇に近侍し,食膳などに奉仕した下級女官。地方豪族の娘が貢進され,出身地名を冠して呼ばれた(世界大百科事典より)

杖刀人 詳細は不明ながら、大和政権で宮廷での雑役・警備を務めたと考えられている。ここでは近衛騎士のイメージで使用 

禊   罪や穢れを落とし自らを清らかにすることを目的とした、神道における水浴行為(ウィキペディアより)
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