皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

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ヲホド王来襲

寝所前

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外はもう深夜に近く、欠け行く月が中天に向かいながら、冷たい光を放っているだけ。
灯りも既に落とされている。僅かな月明かりだけの暗い廊下を、磐井は松明も持たず確かな足取りで、足早に行く。
手を引かれたままの手白香は、小走りになりながら声を掛けた。
「磐井、も少しゆっくり。これでは転んでしまう。」
「今しばらくご辛抱を。転げた時はお支え致しますので。」
一層強く手を握りしめながら、硬い声で磐井は言った。

おかしい、色々おかしい。
滑らぬよう、転ばぬよう、注意しながら、頭の隅で手白香は考える。
感情を表に出さないよう常に気を付けている磐井が怒りを露にした。
杖刀人として身近にいても、常に後ろに控え、何があっても触れてこない磐井が、主の手を握って前を行く。

突然、何の心境の変化か?力の無い、誰とも知れぬ田舎者に嫁ぐ主に、遠慮は必要ないと思ったか?

疑問と自嘲に意識を取られていた手白香は、前を行く磐井が急に止まったので、その背に思い切りぶつかってしまった。
「痛っ」
「主っ」
鼻を押さえてしゃがんだ手白香を振り返り、磐井は慌てて助け起こした。
「申し訳御座いません。あの場から、とにかく早く離れたくて。何処を痛めました?」
俯いた手白香の顔から、そっと、そっと押さえた手を除けさせようとするから。
手白香はぶつかった鼻を気にしながらも、痛みで潤んだ目で磐井を見上げた。
どうせ、この暗闇では何も見えまい。
そう思ったのに。
「血が・・・!」
言うなり手白香は横抱きに抱えられてしまった。
「誰ぞ起きておるか?皇女様が戻られた。この戸を開けよ。」
気付くとそこは、つい二月ほど前まで使用していた自分の部屋の前で。
「只今!ああ、皇女様!」
直ぐに開いた扉の向こうには、懐かしい采女の顔があった。
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