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ヲホド王来襲
回顧Ⅲ続出逢い(杖刀人磐井)
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結局、私をその場から救ってくれたのは、社で祈っていた少女だった。
私の仕える若雀命の姉らしい。
「麁鹿火、矛を収めて。私、父上から、弟の宮に若い杖刀人が来たって聞いてるわ。えーっと、名前は・・・」
「磐井と申します。皇女様。」
「そう、磐井、そんな名だったわ。」
うんうん。皇女が頷くと、首の後ろの刃物の圧力が消えた。振り返ると、上背のあるしっかりとした体つきの男が厳しい顔をして矛を片手に立っている。
その後ろに控える兵が手ぶらなのを見るに、兵の得物を咄嗟に使ったようだ。
すごい腕だな、良いもの着てるけど、何処のどいつだろう?
そう思いながら、頭を下げた。
「改めまして。大伴金村様の命で、先日より若雀皇子様の宮の杖刀人をしております、筑紫の磐井と申します。」
「・・・気を付けよ。ここはお前のようなものがみだりに入って良い場所ではない。」
言い捨てると、麁鹿火と呼ばれたその男は矛を兵に渡し、皇女に恭しく頭を下げた。
「手白香様へもご無礼を致しました。大王に呼ばれて参ったのですが、見かけぬ者が奥に入っていくのを見て、ついこちらまで足を踏み入れてしまいました。」
「ううん。麁鹿火なら父上も母上も咎めないと思うわ。でも、ここは神域だから、帰りましょう。」
言いながら先に立ってさっさと歩を進める皇女に、黙って従う男と付き人の兵。
見たところまだ十にも満たない少女だが、随分としっかりしている。皇女とはこのようなものなのか?
そう思いながら、取り敢えず最後尾に付いて歩く。歩きながら前を行く男を見る。足の運び、目の配り、かなりの腕の武人だ。
聞いたことあるんだよな、、、麁鹿火、、、。
考えているうちに分かれ道に来た。
「私は大王と大后の宮へ向かいますが、手白香様はどうされますか?」
「若雀命がまた臥せっているっていうから、お見舞いに行くわ。またね、麁鹿火。ああ、今度は影媛を連れて来て。一緒に遊びたいわ。」
「若雀皇子様の宮に行かれるなら、私の兵を付けましょう。その者を私はまだ信用していませんから。それと・・・影媛もお会いしたいと申しておりました。近いうちに連れて参ります。」
「兵は要らないわ。磐井、いらっしゃい。」
なおも言い募る男を軽くいなし、手白香と呼ばれた皇女はさっさとまた歩き始める。
一礼してそれに続いた私は、暫くしてフッと思い出した。
「麁鹿火とは・・・若しや物部一族の?」
「あら、磐井は麁鹿火を知らないの?」
口に出して言っていたらしい。皇女は振り返ると首を傾げて私を見上げてきた。
白い顔を縁取る少女らしい細くて艶のある髪が、さらさらと細い肩からこぼれる。黒目がちの瞳が初めて意志を持って私を見た。
「麁鹿火は戦で名高い物部氏の新しい長よ。杖刀人なら知ってなくちゃ。」
「我々とは役割が違うので。物部は外に討伐に行く者。我等は内を守る者。」
「あら、言うわね。守る前に疑われてたくせに。」
可愛い顔と華奢な姿に似合わず話の返しが速く鋭い。いけないと思いつつ、つい話しているうちに、いつの間にか若雀命の宮に戻っていた。
さて、この皇女をどうしたらいいのか?
だが、悩む必要も無かった。
「これは、手白香皇女様。」
「稲野、若雀がまた臥せってると聞いて来たの。寝てるかしら?」
「お休みですが、手白香様がいらしたと知ればお喜びになります。疾くお上がりを。」
通りかかった采女に迎えられると、皇女は先ほどまで親しく話していた私を振り向きもせず、階(階段)を上って去って行ってしまった。
私の仕える若雀命の姉らしい。
「麁鹿火、矛を収めて。私、父上から、弟の宮に若い杖刀人が来たって聞いてるわ。えーっと、名前は・・・」
「磐井と申します。皇女様。」
「そう、磐井、そんな名だったわ。」
うんうん。皇女が頷くと、首の後ろの刃物の圧力が消えた。振り返ると、上背のあるしっかりとした体つきの男が厳しい顔をして矛を片手に立っている。
その後ろに控える兵が手ぶらなのを見るに、兵の得物を咄嗟に使ったようだ。
すごい腕だな、良いもの着てるけど、何処のどいつだろう?
そう思いながら、頭を下げた。
「改めまして。大伴金村様の命で、先日より若雀皇子様の宮の杖刀人をしております、筑紫の磐井と申します。」
「・・・気を付けよ。ここはお前のようなものがみだりに入って良い場所ではない。」
言い捨てると、麁鹿火と呼ばれたその男は矛を兵に渡し、皇女に恭しく頭を下げた。
「手白香様へもご無礼を致しました。大王に呼ばれて参ったのですが、見かけぬ者が奥に入っていくのを見て、ついこちらまで足を踏み入れてしまいました。」
「ううん。麁鹿火なら父上も母上も咎めないと思うわ。でも、ここは神域だから、帰りましょう。」
言いながら先に立ってさっさと歩を進める皇女に、黙って従う男と付き人の兵。
見たところまだ十にも満たない少女だが、随分としっかりしている。皇女とはこのようなものなのか?
そう思いながら、取り敢えず最後尾に付いて歩く。歩きながら前を行く男を見る。足の運び、目の配り、かなりの腕の武人だ。
聞いたことあるんだよな、、、麁鹿火、、、。
考えているうちに分かれ道に来た。
「私は大王と大后の宮へ向かいますが、手白香様はどうされますか?」
「若雀命がまた臥せっているっていうから、お見舞いに行くわ。またね、麁鹿火。ああ、今度は影媛を連れて来て。一緒に遊びたいわ。」
「若雀皇子様の宮に行かれるなら、私の兵を付けましょう。その者を私はまだ信用していませんから。それと・・・影媛もお会いしたいと申しておりました。近いうちに連れて参ります。」
「兵は要らないわ。磐井、いらっしゃい。」
なおも言い募る男を軽くいなし、手白香と呼ばれた皇女はさっさとまた歩き始める。
一礼してそれに続いた私は、暫くしてフッと思い出した。
「麁鹿火とは・・・若しや物部一族の?」
「あら、磐井は麁鹿火を知らないの?」
口に出して言っていたらしい。皇女は振り返ると首を傾げて私を見上げてきた。
白い顔を縁取る少女らしい細くて艶のある髪が、さらさらと細い肩からこぼれる。黒目がちの瞳が初めて意志を持って私を見た。
「麁鹿火は戦で名高い物部氏の新しい長よ。杖刀人なら知ってなくちゃ。」
「我々とは役割が違うので。物部は外に討伐に行く者。我等は内を守る者。」
「あら、言うわね。守る前に疑われてたくせに。」
可愛い顔と華奢な姿に似合わず話の返しが速く鋭い。いけないと思いつつ、つい話しているうちに、いつの間にか若雀命の宮に戻っていた。
さて、この皇女をどうしたらいいのか?
だが、悩む必要も無かった。
「これは、手白香皇女様。」
「稲野、若雀がまた臥せってると聞いて来たの。寝てるかしら?」
「お休みですが、手白香様がいらしたと知ればお喜びになります。疾くお上がりを。」
通りかかった采女に迎えられると、皇女は先ほどまで親しく話していた私を振り向きもせず、階(階段)を上って去って行ってしまった。
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