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ヲホド王来襲
回顧Ⅳ姉弟(杖刀人磐井)
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手白香と言う皇女は、本当に弟思いの姉だった。
今までは、主である若雀命が臥せっている時は杖刀人見習の稽古に駆り出されていて気付かなかったが、気付いてみると、あれから毎日のようにこの宮で見かける。
それも、ただ見舞いに来るだけでは無い。食事時に来て粥を煮てみたり、夕刻にお湯で体をふいたり、采女がするような世話を甲斐甲斐しくしている時もある。
今までも見かけていたのかもしれないが、世話をしに来るときは、皇女とは思えない、采女童のような恰好をしているので気にも留めなかったのだろう。
「あら、今日は磐井がここにいるの?」
ある日、たまたま同僚に代わり部屋の前の番をしている時に皇女が来た。今日は皇女らしい格好をしている。
「はい、皇女様。先日はありがとうございました。その後、改めてお礼もせず、申し訳ございません。」
通常であれば黙って一礼してお通しするところだが、皇女の方から声を掛けてきたのだ。
黙っているのも失礼かと思い挨拶をすると、皇女は気にしないで、と軽く首を振った。
「それより、聞きたいことがあるの。」
皇女は扉の反対側を守る相方の先輩をチラッと見てから、今度は小声で話しかけてきた。
「なんでしょう?」
真っすぐ前を見つつ答える。仕事中なのだ。主の姉とはいえ、無暗に話しかけられるのは困る。
「ここでは・・・ね、ちょっとあっちで話せない?」
廊下の端を指さしたので、いいえ、と答えた。
「申し訳ございません。見ての通り、今はここを離れられません。」
「いつならいいの?そんなに時間はかからないわ。」
「それは・・・」
困っていると、相方の先輩が「皇女様の仰せだ。疾く伺い、疾く戻れ。」とやはり前を向いたまま言った。確かにここで押し問答しているより、その方が早いかも知れない。
「良かった!こっちにきて。」
廊下の端まで皇女の後をついて行く。
「何でしょうか?」
「あのね、うちの宮の采女に聞いたんだけど・・・」
主の部屋に呼ばれたのはその数日後だった。
いつもは外で守るばかりの扉を入り、締め切った部屋の奥、簾内に近付く。
床上げをしたばかりの皇子は、薄暗い灯明の元、毛皮の敷物の上に座り幾枚も衣を重ねてもまだ青白い頬をしていた。細面の整った顔に目ばかり大きく、鋭くみえる。
真冬に川を渡っても風邪一つ引いたことの無い磐井は驚いて横になるよう勧めた。
「主、まだ床上げは早いのでは。今少し顔の色が良くなるまで横になられては?」
普段なら穏やかに言葉を返す若雀命は、珍しくいらただしげな眼を向けた。
「言われずとも分かっておる。お前に聞きたいことがあって無理に起きたのだ。」
「・・・何を、でございますか?」
病を押してわざわざ呼びつけ聞かれることが全く予想できない。仕えて数か月、この主を親しく思い始めていた磐井は、話より休息、と細い体を横たえさせようとした。
「止めろ!その親切ごかしが腹立たしい!」
いきなり手を払われて、困惑する。
「主、なぜ・・・?」
それだけで肩をゼイゼイ言わせていた若雀命は、目だけはギッと磐井を睨みつけ、思っても見なかったことを言い出した。
「お前、姉様と逢引きしているだろう?」
「・・・は?」
あいびき、、、逢引き?まだ十にも満たぬ少年の、血の気の薄い唇から発せられるには何とも違和感のある言葉に首を傾げる。
「しらばっくれるのか!?お前は私が床に伏した隙に姉様に近付き、最近ではこっそり逢ったりして仲睦まじくしているそうではないか?」
掠れた声で糾弾されても、、、。主の言う姉様と言うのが手白香皇女ならば、確かに最近二~三度話をしたが、あれを逢引きと言うのか?
首を傾げた磐井を激しい目で見ていた主は、忌々しそうに言った。
「お前の派手に遊んでる噂は聞いていたからな。この宮に来ると父上に聞いた時から、姉様には会わせないようにしていたんだ。床に伏した時も金村に言って宮から遠ざけていたのに・・・いつの間にか姉様と親しくなって!」
「主、誤解です。落ち着いて下さい。」
待ってくれ。遊んでるって、まさか女遊びの事か?それが何で十やそこらの皇女に関係する?
磐井は困惑しながら、主を落ち着かせようとした。
が、一旦興奮した主は止まらなかった。
「嘘を吐くな。僕は姉様から直接聞いたんだ。噂の磐井と知り合いになったと。最近はここに来るたび二人でよく逢っていると!」
「それは、まあ、話はしますが・・・」
皇女も紛らわしいことを言わないで欲しい。確かに会っているが、それは、、、。
「何を話しているか聞いたけど、今まで僕に隠し事をしたことの無い姉様が内緒って言うんだ!」
「それはそうかも知れませんが、しかし・・・」
「黙れ!言い逃れるな!何度聞いても姉様は嬉しそうに内緒と言う・・・お前と二人で内緒の・・・姉様はきっともう・・・よくも僕の大事な姉様を汚したな・・・僕の、僕だけの姉様だったのに・・・うぅ・・・」
興奮が過ぎて主は泣き出してしまった。こうなるともう磐井にはどうしていいか分からない。
大体、自分がまだ子供の皇女を閨事の対象と見るはずがないと言いたかったが、この調子では慕っている姉を貶されたと思われる可能性もある。
万事休す。そう思った時。
「あら、もう起きていいの?若雀・・・そこに居るのは磐井?」
部屋の扉が開いて、話題の皇女が顔を出した。
今までは、主である若雀命が臥せっている時は杖刀人見習の稽古に駆り出されていて気付かなかったが、気付いてみると、あれから毎日のようにこの宮で見かける。
それも、ただ見舞いに来るだけでは無い。食事時に来て粥を煮てみたり、夕刻にお湯で体をふいたり、采女がするような世話を甲斐甲斐しくしている時もある。
今までも見かけていたのかもしれないが、世話をしに来るときは、皇女とは思えない、采女童のような恰好をしているので気にも留めなかったのだろう。
「あら、今日は磐井がここにいるの?」
ある日、たまたま同僚に代わり部屋の前の番をしている時に皇女が来た。今日は皇女らしい格好をしている。
「はい、皇女様。先日はありがとうございました。その後、改めてお礼もせず、申し訳ございません。」
通常であれば黙って一礼してお通しするところだが、皇女の方から声を掛けてきたのだ。
黙っているのも失礼かと思い挨拶をすると、皇女は気にしないで、と軽く首を振った。
「それより、聞きたいことがあるの。」
皇女は扉の反対側を守る相方の先輩をチラッと見てから、今度は小声で話しかけてきた。
「なんでしょう?」
真っすぐ前を見つつ答える。仕事中なのだ。主の姉とはいえ、無暗に話しかけられるのは困る。
「ここでは・・・ね、ちょっとあっちで話せない?」
廊下の端を指さしたので、いいえ、と答えた。
「申し訳ございません。見ての通り、今はここを離れられません。」
「いつならいいの?そんなに時間はかからないわ。」
「それは・・・」
困っていると、相方の先輩が「皇女様の仰せだ。疾く伺い、疾く戻れ。」とやはり前を向いたまま言った。確かにここで押し問答しているより、その方が早いかも知れない。
「良かった!こっちにきて。」
廊下の端まで皇女の後をついて行く。
「何でしょうか?」
「あのね、うちの宮の采女に聞いたんだけど・・・」
主の部屋に呼ばれたのはその数日後だった。
いつもは外で守るばかりの扉を入り、締め切った部屋の奥、簾内に近付く。
床上げをしたばかりの皇子は、薄暗い灯明の元、毛皮の敷物の上に座り幾枚も衣を重ねてもまだ青白い頬をしていた。細面の整った顔に目ばかり大きく、鋭くみえる。
真冬に川を渡っても風邪一つ引いたことの無い磐井は驚いて横になるよう勧めた。
「主、まだ床上げは早いのでは。今少し顔の色が良くなるまで横になられては?」
普段なら穏やかに言葉を返す若雀命は、珍しくいらただしげな眼を向けた。
「言われずとも分かっておる。お前に聞きたいことがあって無理に起きたのだ。」
「・・・何を、でございますか?」
病を押してわざわざ呼びつけ聞かれることが全く予想できない。仕えて数か月、この主を親しく思い始めていた磐井は、話より休息、と細い体を横たえさせようとした。
「止めろ!その親切ごかしが腹立たしい!」
いきなり手を払われて、困惑する。
「主、なぜ・・・?」
それだけで肩をゼイゼイ言わせていた若雀命は、目だけはギッと磐井を睨みつけ、思っても見なかったことを言い出した。
「お前、姉様と逢引きしているだろう?」
「・・・は?」
あいびき、、、逢引き?まだ十にも満たぬ少年の、血の気の薄い唇から発せられるには何とも違和感のある言葉に首を傾げる。
「しらばっくれるのか!?お前は私が床に伏した隙に姉様に近付き、最近ではこっそり逢ったりして仲睦まじくしているそうではないか?」
掠れた声で糾弾されても、、、。主の言う姉様と言うのが手白香皇女ならば、確かに最近二~三度話をしたが、あれを逢引きと言うのか?
首を傾げた磐井を激しい目で見ていた主は、忌々しそうに言った。
「お前の派手に遊んでる噂は聞いていたからな。この宮に来ると父上に聞いた時から、姉様には会わせないようにしていたんだ。床に伏した時も金村に言って宮から遠ざけていたのに・・・いつの間にか姉様と親しくなって!」
「主、誤解です。落ち着いて下さい。」
待ってくれ。遊んでるって、まさか女遊びの事か?それが何で十やそこらの皇女に関係する?
磐井は困惑しながら、主を落ち着かせようとした。
が、一旦興奮した主は止まらなかった。
「嘘を吐くな。僕は姉様から直接聞いたんだ。噂の磐井と知り合いになったと。最近はここに来るたび二人でよく逢っていると!」
「それは、まあ、話はしますが・・・」
皇女も紛らわしいことを言わないで欲しい。確かに会っているが、それは、、、。
「何を話しているか聞いたけど、今まで僕に隠し事をしたことの無い姉様が内緒って言うんだ!」
「それはそうかも知れませんが、しかし・・・」
「黙れ!言い逃れるな!何度聞いても姉様は嬉しそうに内緒と言う・・・お前と二人で内緒の・・・姉様はきっともう・・・よくも僕の大事な姉様を汚したな・・・僕の、僕だけの姉様だったのに・・・うぅ・・・」
興奮が過ぎて主は泣き出してしまった。こうなるともう磐井にはどうしていいか分からない。
大体、自分がまだ子供の皇女を閨事の対象と見るはずがないと言いたかったが、この調子では慕っている姉を貶されたと思われる可能性もある。
万事休す。そう思った時。
「あら、もう起きていいの?若雀・・・そこに居るのは磐井?」
部屋の扉が開いて、話題の皇女が顔を出した。
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