皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

文字の大きさ
17 / 33
ヲホド王来襲

回顧Ⅸ残月(杖刀人磐井)終

しおりを挟む
そう言えば、大伴の大連おおむらじ(金村)とこの件について一度だけ話したことがあった。
明け方の冷えの厳しさに身震いしながら、磐井は朝までの僅かな時間を眠りに使わず、なおも思い返している。

あれは大王の病重篤と重臣に発せられ、宮の内が騒がしくなり始めた頃だった。
所用で已む無く主の元を離れて政の宮に居た時に、偶々金村とすれ違ったのだ。
「ああ、磐井。」
「大伴の大連おおむらじ様。」
脇に避け、頭を下げて礼をしている磐井の前を通り過ぎようとして、ふと金村は立ち止まった。
、大王から承った。」
お互い連れが無かった為か、そのまま話し始める。
「……その時は宜しくお願いいたします。」
取り敢えず一層深く頭を下げた磐井に頭を上げるよう促すと、金村は磐井の顔をじっと見た。
「いつ発つ?」
「大王のご快癒を願っておりますので、今はまだ何とも。」
「そうか。確かに。……発つ時は私に言うように。後のことがある。」
「時、至れば必ず申し上げます。」
何処で誰が聞いているか分からないので、お互いに問いも答えも端的に伝える。立ち止まっている時間も短ければ短いほど良い、、、それなのに、次の質問の前には、少し沈黙があった。
「それでは私はこれで…「それで、大和ここに戻るつもりか?」
頭を下げて挨拶をしかけていたので、やや驚いて金村を見上げた。
かつての上役で、今は宮の警護と大和の治安、それに付随する情報管理を一手に引き受ける辣腕の大連は、実に怜悧な目で磐井を見つめていた。
スッと背筋が凍る。この答えは間違えてはいけない。と、何故だか強く思った。
だが、何が正解かも分からない。
「……発つ前に大連様にご相談に上がります。」
そう答えるのが精いっぱいだった磐井に、金村は微かな笑みを向けた。
「そう怯えるな……悪いようにはしないつもりだ。では。」
そう言って、静かに去る金村を、磐井は黙って頭を下げて見送ったのだった。

「悪いようにはしないと、貴方は言ったのに、何故……!」
口惜しさが思わずこぼれ出る。
見上げた空は、明け方が近く少しずつ闇が薄まり、中天を過ぎた月が弱い光を放ってほの白く浮かんでいる。
そろそろ朝の早い采女の起き出す頃合いだ。
そう思ったところで、背中の扉が静かに開いた。
「磐井様……やはりいらせられましたか。」
「山門か。皇女様は?」
「よく、お休みです……そろそろ宮の兵の見回りがあります。磐井様も朝餉まで少しお休みください。」
「……分かった。そうさせてもらおう。」
「私の部屋をお使いください。今お湯をお持ちします。」
扉を開けて、すぐ脇にある控えの間を示される。磐井は少し躊躇ったが、素直に従うことにした。
大連の権力を持ち、先の大王に頼れと言われた金村は、恐らく自分の味方ではない。となれば、休める時に休んでおかないと、危急の時に不覚を取ってしまう。
奥の間の簾内が静かなのを確認し、改めて誓う。先の大王の若雀命に。そして、まだ何も知らない手白香皇女に。
「必ずや、仰せに従ってお守りします。」
そして、なんとしても、この腕に、、、。

長い一日が、始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...