皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

文字の大きさ
26 / 33
思惑

金村の思惑

しおりを挟む
磐井が山門郎女に引き摺られて出て行った。
手白香は一人部屋に取り残されて、やや茫然とした。
「あの二人は、あんなに仲が良かったかしら……」
同じ筑紫の一族の出だと言う事は知っている。一度山門に聞いたことがあったから。その時彼女は何と答えたか。
「そうそう、磐井は主筋だって言ってたはず……?」
主筋にあんな態度をとるものか?もしや、自分の最も信頼する二人には、自分の知らない秘め事があるのではないか?
「いやね、子供でもないのに邪な疑いをかけるなんて。」
反省しつつ、早く戻って欲しいと思ってしまう。自分から出て行ってなどと叫んだのに。
だからだろうか。
静かな足音が近付いて、落ち着いた叩扉の音が聞こえた時、つい自分で扉に近付いてしまったのだ。
「殯宮から使いが戻りました。皇女様にと荷を預かっています。」
その内容が山門から聞いていたものであり、その声が女性のものだったから、つい油断してしまったのだ。
よく聞いていれば、その声は微かに震えていたと言うのに。
「そう、ありがとう。」
殯宮は人が少なく、手白香は一人で動くことに慣れてきていた。
二人が来る前にさっさと着替えてしまおう。そう思って、つい扉を開けてしまう。
「皇女様。荷をお渡しに参りました。こちらは采女の手が足りておりませんようで、先ほど、杖刀人磐井が朝餉の用意をしているのを見かけました。どうぞ大伴大連様のところへご足労賜りたく。こちらよりはお付けできる采女の数も多うございます。」
そこには。
荷を持って蒼ざめた顔をした見知らぬ采女と、その采女の肩をつかんでいる、、、毛野が居た。


「これは皇女様……と毛野。お早いお越しですね。采女より、まだお休みだと伺っておりましたのに。」
大王が居なくとも、新しい大王と新しい宮が出来るまでは、ここが倭国の政の中心だ。宮の警備と大和の治安を一手に担う金村は、宮の表御殿の一角に部屋を持っていた。
扉が開いて中に入ると、意外にも質素な佇まいに驚く。奥から出てきた金村は、手白香を見ると少し目を見開いてから、丁寧に頭を下げた。
「どこぞの杖刀人に、無理やりね。」
手白香は冷たく返した。
身体に触れはしなかったものの、肩をつかまれ震える采女に訴える様に見つめられては同行せざるを得ない。
扉を閉めて立て籠もろうにも、毛野は中からの攻撃を一切警戒せず、人目も気にせず扉をぐいっと開け放った。それで手白香にも分かったのだ。部屋は見張られていたと。毛野は磐井や山門味方が居なくなった隙を狙ったのだ。
「殯宮から取り寄せた忌み籠りの衣に着替えたかったけれど、それも許されませんでした。大連は杖刀人に一体どんな躾をしているのですか?」
そう、重ねて冷たく言えば、金村は謝罪の言葉と共に、すぐに采女と部屋を用意した。この男は、まじめに政を行うため現在手白香の味方では無いが、元来は大王家に忠実な男なのだ。
だからこそ、敵にせずに何とかしたいのだけれど。

「湯を使われますか?」
見知らぬ采女に慇懃に問いかけられたが、自分の宮以外で肌を見せるつもりはない。
「要らぬ。衣のみ替える故、其方らも下がりおれ。誰も入れるでないぞ。」
素っ気なく言えば、どんな指示を受けているのか、采女たちはさっと下がった。一人、扉のうちに残し、残りは部屋を出る。
手白香はこの後の金村のとの話し合いを考えながら手早く衣を替えた。
忌み籠りの衣は装飾の類が一切ない。死者を悼む心を表す衣に華美は必要ないからだ。
染めの無い上衣に裳(長いスカート)、倭文布しづりの帯も色糸を使わず、領巾も纏わない。代わりに肩から細布をかければ、殯宮にいる時と同じ、厳粛な気分になる。
そうだ、どんな話が来ても、若雀命先の大王の喪が明けるまでは受けられない、と断ろう。
金村は、先の大王の忠実な部下であった。手白香と先の大王が仲睦まじい姉弟だったのも知っているのだから、その喪に服すと言う手白香に無理は言うまい。
いや、言わせない。独りでも、いや、独りだからこそ、金村の思惑を変えて見せる。
手白香は自らの心を奮い立たせると、「行く。案内を」と短く行って着替えの部屋を出た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...