皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

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思惑

金村の思惑Ⅲ

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昨夜の話と重なりますが、、、。そう断って始まった金村の話は簡潔で、、、容赦がなかった。
先ほどの笑みは見間違いかと思うほど、冷静な表情と口調で語られた金村の申し条とは。
一つ、丹波の国の倭彦王やまとひこのおおきみが逃げた以上、ヲホドは現状大王の血を引くと確認された唯一の大王候補であること
一つ、ヲホドが国境まで兵を連れてきた言い分は、大和の豪族の動きへの自衛。今朝も物見が帰ったが、現状攻め入る気配はないとのこと
一つ、とは言え、今後の状況ではヲホドは攻め入ってくる可能性もある。大和での戦を避けるためには、早急にヲホドを大王に推す条件を詰めないといけないこと
一つ、ヲホドの障害は血の薄さ。気位の高い大和の豪族を納得させるには血の補完が必要であること、つまり、誰が即位するとしても、次代の大王の大后は、現大王家の皇女でなければならないこと
一つ、、、
「もう良いわ。一旦止まって下さい。」
手白香は金村を遮った。
「その辺りは昨夜聞いています。つまり、金村殿はヲホドが大王になるのは決定事項で、方法論を述べたいと?」
「そうなりましょう。」
「問題点は血の薄さのみと。」
「はい。」
手白香は金村を見据えた。冗談ではない。
「私とは認識が違うようですね。私はヲホドには問題があると思います。」
「それは……理由をお伺いしても?」
「遠方の豪族でありながら、兵で脅して大王の地位を狙う。そんな者を貴い大王の地位に就かせてよいとは思えません。」
(欲深く横暴な田舎者など、大和の豪族と利害が対立して、結局揉めますよ?)
「次にヲホドの資格。それほど薄い血であるならば、そして皇女との婚姻で補完できるものならば、別に血にこだわって候補を立てる意味はないのでは?ヲホドの出身は近江や越。大和の豪族ですらないのですよ?昔からの名門である葛城や和珥……何なら貴方の大伴だって、皇女との婚姻で補完すれば、大王になれるのでは?」
(もう、血以外の条件で大王を選びましょう?)
「そして、皇女にそこまで頼るなら、皇女の希望も聞くべきです。聞くところによると、ヲホドは孫もいるような翁だとか?田舎の翁との婚姻など、皇女に失礼ですよ。」
(私に白髪の老人の妻問いを受けろと言うのですか?)
「一旦大王選びは白紙に戻すべきです。金村殿もヲホドに固執しなくともよいのでは?むしろ貴方なら、『大和を脅かす者など、蹴散らしてごらんに入れます』と言ってもいいお立場でしょう?」
「大体、合議の場でも話が出た、兵の準備の早さ。大和に内通者がいたのは間違いないでしょう。なぜ、大和の治安と宮の警備の責任者である金村殿がそれを問題としないのですか。」
(貴方が内通していたんではないの?)
最後は睨みつけながら言い募った私の言葉を、始めは畏まったふうに聞いていた金村は、そのうちあっけに取られ、なんと楽しそうに笑い出した。
驚いて言葉が止まる手白香を見て、尚も笑みは止まらない。そのまま口を開いた。
「真に失礼を。しかし……聡明で物事をよく見て、柔軟な考え方をし、必要とあらば、はっきりとした物言いも辞さない。普段の嫋やかな佳人ぶりからは想像もつきません。先の大王が手放されなかった訳です。」
「?それは今は……」
「関係ないと?いいえ、大いに関係があるのです。私にとっては……。」
笑みを収めた金村は、常には伏し目がちな面を上げ、不躾なほどはっきりと手白香を見た。
「そうですね。大和の一豪族、若しくは政に係わる大連としては、手白香様の仰る通り、ヲホドを唯一の候補と固執する理由はありません。野心がある者ならば、むしろ邪魔ともいえます。しかし、こと私個人にとっては、とても都合のいい方なのです。」
「個人的に都合のいい?実は血縁であるとか?」
いぶかし気にする手白香を見つめる瞳は、段々熱を帯びてきた。
「まさか。我が家の血が大王家と交わったことはありません。ヲホドの都合の良さ、それは、その年です。」
年?老年の何処がいいのだろう。手白香は、ますますいぶかし気に首を傾げた。
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