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バーベンベルク城にて

出発します!

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地獄のような十日間も終わり。
今日はいよいよ帝都に出発する日。
朝から雲一つない良い天気で、ウキウキが止まらない。

我ながら、よく頑張ったと思うの。
マナーは、何とか昨日の晩餐で合格点をもらった。
ダンスも、昨日の夕方、晩餐の準備前にルー兄さまと踊って何とか合格。
「俺くらいお前の癖が分かっている奴ばかりじゃないからな。」
と最後まで憎まれ口を叩かれたけど、私が踊りやすいよう、丁寧にリードしてくれたので感謝しておいたわ。
毎日のように外で遊んで、泥だらけでも風で絡まっても適当にしていた私の肌と髪は、侍女たちに十日間、徹底的に磨き上げられて、うるうるのツヤツヤになった。
髪といえば、、、。昨日は晩餐前に髪の毛も切ってもらった。私の髪は、母さまに似て緩くクセがあるから、お手入れをサボるとすぐ広がってしまう。それが面倒で、今までは一つに括って、せいぜいリボンで結んでもらうくらいだったけど。
これからは伸ばしたいと言ったら、アンナは喜んで、綺麗にカールが出来るようにしつつ、傷んだところを切ってくれた。
綺麗に伸ばすために、これからは毎日お手入れしましょうねと言われると、頑張るようにしますとしか言えないけどね。
とにかく、マナーの最終テストだった昨日の晩餐に、手持ちの中で一番綺麗な薄いピンクのドレスを着、髪をハーフアップに結い上げてゆっくりと降りていくと。
父さまの、ひたすら可愛いと言う言葉や、母さまの、さすがディー、十日で完璧だな、と言う予想できる褒め言葉だけでなく。
普段は絶対褒めない兄さまが、まあまあだな、と言ってくれたので、その一言だけがちょっと自信になったのは、内緒にしておくわ。


いつもより早い朝食を終えて、一旦は、旅行用のドレスに着替える。
私はあくまで家族で一緒に旅をすることになってるからね。
城を出て城下町を通り抜け、最初の休憩で私は男の子に変身する。せっかく磨き上げたけど、父さま付きの侍従見習いとして魔導師団に、つまりは皇宮にお泊まりするのだ。その後は帝都観光。ふふっ楽しみ!

、、、あれ、休みを楽しみに頑張ったけど、そう言えば、何でこんなに磨かれたんだろう。社交界デビューするわけでも無いのに、、、?
ふと疑問に思ったけれど。
「ディー、ボヤボヤするな、出発するぞ。」
もう馬上にいるルー兄さまに呼ばれて、慌てて玄関から馬車に向かう。
バーベンベルクの鍛治職人が工夫に工夫を重ねた最新式の馬車は、振動を半分に
速さを二倍にした優れもの。
父さまがうやうやしくエスコートしてくれるので、ちょっと照れながら馬車に乗り込み、窓を開けた。
父さまも一緒に乗り込んで扉が閉まる。

すでに母さまも馬上だ。
護衛の名目で揃えられたバーベンベルク軍精鋭も準備万端みたい。
留守の間、お城を守るアランとブラントほか、お城のみんなも総出で見送りに出ていて。

「では、行ってくる。」
「恙無くお戻りを。」
一斉に頭を下げるなか、母さまの、「出発する!」の声が響き。
私はとうとう生まれて初めてバーベンベルクを離れ、未知の世界に乗り出した。



城下町では歓声の中手を振って、しっかり一緒だよアピールをしておく。
街並みが途切れ、河を渡り、麦が刈られたばかりの畑を行くと、少し木立がある。近くに水の飲める泉があり、ここが最初の休憩場所。母さまたちはここで旅装を行軍用に切り替える。そして私は、ここで身代わりと入れ替わるのだ。
私は既に馬車の中で、侍従のお仕着せに着替えている。
父さまは魔術で一気に着替えさせたい、とアワアワして言ったけど、きちんと一人で着られるか、確認しないとね。
旅行用のマントを身につけ、フードをしっかり被ると、馬車の外に出る。
いよいよ変身するのね?と言っても、幻術をかけて、他の人の顔に見えるようにするだけらしいんだけど。
ライは何処かな?とキョロキョロすると、少し先の木立の陰で、母さまが小柄でフードを深く被った人と話しているのが見えた。
「ああ、あれかな?父さま、行こ・・・。」
振り返ると、父さまの雰囲気が一変している。
「まさか、あの子どもを・・・?!」呟くなり、私を置いてく勢いでツカツカ近づいていく。
「父さま!」
呼びかけると、ハッと振り返って、慌てて手を繋いでくれたけど、どうしてしまったのかしら?

とにかく急いで近づくと、母さまがこっちを見て手を上げた。
「アル!こっちだ!」
ちょっと胡散臭い笑顔。うーん?

「この子がディーの身代わりだ。よろしく頼む。」
一歩前に出た子はライじゃ無いの?今も深くフードを被っている。
「・・・これは、貸しですよ。エレオノーレ 。」
低い父さまの声がしたと同時に、その子のフードがフワッと後ろに流れた。
そこにいたのは、、、私?
明るい夏の初めの日差しにキラキラ輝く紅金色の髪。ふんわりした白い肌は気持ちの高ぶりを表してか、ほんのり上気して桃色。大きくて明るい黄金の瞳は、髪よりやや暗い色の長いまつ毛に縁取られ、キリッとした眉の下、利かん気な輝きを放っている。通った鼻筋の下には、小さく整った赤い唇が、微笑んで。

うん、磨いてみた私って、なかなか良いじゃない!
思わずふふっと笑うと、その子はハッと目を見開いた。

父さまの低い、低ーい声がする。
「くっ、この顔はなるべく晒さないこと。良いですね?貴方も含め、へんな虫でも付けたら、エレオノーレ と言えど許しませんから。」

父さまはその子と、なんと母さまにまで念押しすると、さっと私を振り向いた。

「さあ、私の本当のお姫さま。参りましょうか?」
抱き寄せられると同時に、顔をフッと風が撫でた気がした。
どんな顔になってるんだろう?
分からないけど、まあ、後で見れば良いかな。
だって私はこれから半月、じ、ゆ、う、なんだから!

「あ、おい待て、アル?ディーの顔は・・・!」
「行ってきますね!母さま!」
私はとりあえず元気一杯声を掛けると、父さまにギュッと抱きついた。
「行こう!父さま!!」

一瞬風が吹けば、それはもう、新天地。

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