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番外編

いついかなる状況でも、萌えポイントは見逃せない 後編

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一日二日と経つにつれ、オリヴィエさんあの男の胡散臭さが気になってきた。
もちろん好みど真ん中なんだけど。それと身の安全は別よ~。
私は考えた末、次の会合は封印結界付きの会議室で行うよう、使い魔を回した。

普段、誰も気にも留めないような同好会の開催を、敢えて極秘で行う。
メンバー達はかえって不審に思ったらしい。
食堂や休憩室など、人の行きかう場所で出会っても、普段は目も合わせないメンバー達が、ちらちら視線を合わせてくる。非常に困る。

しかし、それも今日、ここまでだ。
あの任務、、、バーベンベルク急襲作戦は魔導師団内で、例の件と呼ばれるようになっていた、、、から一週間。魔導師団本部の一角にある会議棟。その中にある小会議室の一つの扉を開けると、既にメンバーが集まっていた。結界装置を起動させてから、振り返ると、一斉にこちらを見つめる熱い視線。

「レティ、ものものしいな、今回。」
「大物を捉えたのか?」
「もしかしてこの間の例の件?」
みんな口々に言いたてる。例の件?て言ったのはテレーゼだ。期待に目を輝かせている。気持ちは分かるよ。私もあんな事件の後にあんなの回されたら、気になって仕方ないもん。
私はにんまり笑ってメンバーを見回すと、もったいぶって空いてる席に座った。

「まあまあ、皆さん。」
ゆっくり話し始める。
「私たちの会で度々対象候補として上がりつつも、中々捉えることが出来なかった大物の一瞬を、わたくしレティ・イニスが捉えました・・・」
みんながゴクリとのどを鳴らすのが聞こえた。
「その名は言えませんが、最近起こった例の件の主人公です!空中に念写しますのでご覧ください!」
私は告げると同時に、薄暗い会議室の円卓の中央上部に、奇跡の場面を映し出した。
「・・・」
「こ、これがかの有名な・・・」
「我々では、どう頑張っても拝めなかった・・・」
「素晴らしい・・・」

それは、バーベンベルク伯夫妻の、つまり、辺境伯が団長の頬へ口づけた、一瞬のシーンだった。

もちろん個人を特定しないという約束があるので、モノトーンにして、髪や目の色は分からない。加えて表情や背景などもぼやかし、場所も特定出来ないようにしてある。
しかし、良いのだ。我々に必要な情報はそんな部分ではないのだから!

「噂通り性別不明の美しさ・・・いや、むしろ男同士と言っても全く違和感が無い・・・」
「魔導師と騎士・・・一番おいしいネタだ!」
「しかも、魔導師受け、騎士責め・・・王道!」
「いや、これは、見ようによっては逆もいける。受け騎士に敢えて攻めさせている攻め魔導師の受け。俺はむしろこっちがいい。」
「この身長、体格・・・なんてぴったり!しかも騎士の無駄のない筋肉!」
「最高の一対だ・・・」
メンバーは口々に自分の思いを語りだす。私は苦労の末、見事使命を果たした達成感で、ほおが緩むのを抑えきれなかった。

、、、私たち、自由精神研究会の真の姿。
それは、何物にもとらわれない自由な発想と精神生殖や異性愛に偏らず対象カップルを見、その見方の是非受け攻めどちらがふさわしいかを徹底的に話し合う会なのだ。

「ちょっと、レティの意見はどうなのよ。」テレーゼの声に、私はハッとした。メンバーは一通り意見を出し終えたらしい。
みんな、自分の意見を曲げる気はなさそうね。今日も熱い討論が楽しめそう。でも、、、私の好みは少し違うのよね!
「私は・・・この対象カップルは美しく完成しすぎていると思うの。」
「出た。鬼レティ。」
「二人の世界で完成させてあげようよ。」
口々に不満が出る。確かに、今回の対象カップルは最高に完成してますからね~。だから異種投入が必要よ!
「案件提出者特権で、もう一人、追加します!超弩級Sタイプ、O氏です。」
空中への念写で映し出したのは最も悪い顔いい笑顔をしているオリヴィエさんだ。

「来たーーー!超弩級S魔導師!」
「なんだこの美形は!これなら団長と張れるかもしれない!」
「これで受けは考えられるのか?その場合攻めはどっちなんだ・・・あぁ~難問過ぎて今夜は眠れない・・・!」
「なんだ、この人のこのあつらえたような顔は!?」

「本当に見たの?レティ?妄想じゃない?」
騒ぎの中、テレーゼが聞いてくる。この会の基本コンセプトは見たままを、なので、ねつ造厳禁なのだ。
「それが、見たのよう。例の件に居たの。私の転移補助要員だったよ。上級魔導師以上なのは確定なんだから、私よりテレーゼの方が知り合いの可能性高いんだけど。」
むしろ、テレーゼに見せれば所属が分かると思ってたのに。

「こんな悪そうな優男、見かけたら絶対覚えてると思うんだけどな・・・知らない。」
「この間の会議室にもいたと思うよ。そこで手に入れたんだもん。」
「・・・それはない。私、全員と顔見知りだと思ったもの。」
テレーゼが真面目な顔で言った。

え?知らないの?私も首をかしげる。
テレーゼは魔導師管理部にいる。帝国魔導師団私たちの全員とはいかなくても、少なくとも上級魔導師くらいは全員把握しているはずだ。

私たちが思わず顔を見合わせた時。

「見てみて。フフッ。僕まで入ってるよ。」
開くはずのない扉が開いて、オリヴィエ悪い男の声がした。




その少し前。
魔導師団長執務室では。副官のエルンストが団長のアルフレートに向かって小言を言っていた。

「今回、皆さんにこんなに迷惑を掛けたのに、また仕事をさぼって帰ろうとするんですか?」
「皆さんって誰だ。具体的に言ってみろ。私はそういういい加減な大衆迎合主義は好かない。」
また真顔でもっともらしいこと言ってるよ。コノヒト、、、。

狭量な嫉妬と独占欲からくる痴話げんかであんな事件を起こしておいて、どの口が言うんだか。
言い返す気もせず、とりあえず、転移されないよう袖を掴む。
団長は律儀な性格なのか、どうしても逃げられたくない時は、そういう意思表示をすると、逃げないのだ。

「・・・早く帰らないとディーが休む時間に間に合わない。」
逃げないが、言うことを聞く気も無いらしい。
エルンストは溜息をついた。
「大丈夫ですよ。閣下から、もし団長の仕事が忙しいときは、魔力封印お休みのキスはフィン様にさせると伝言を受けてます。」
だからしごと、、、と言いかけると。いきなりグッと袖を引かれた。息子においしい役を渡す気が無いらしい。
なんて大人げない親なんだ。

負けじと力を入れたため、肘で脇机を押してしまった。あ、まずい、そう思った途端、、、。ザザッと書類が執務机に雪崩れてきた。
「ああ、こんなになって。団長が仕事しないから・・・。」ささっと書類を集めながら言うと。
「今のはお前が悪いだろう。」文句を返しながらも転移せず逃げずに、いくつかの書類を宙に浮かべた。流石にあの騒動のあとで、少しは反省したようだ。よしよし。大事なものだけでも、ささっと終わらせてもらおう。
静かに紙のめくられる音を聞きながら、他の書類の優先度を確認していると。
「・・・なんだ、これは。」
団長の不審げな声がした。顔を上げると。あの時の念写が束になって宙を舞っていた。

そう言えば、あの事件の始末を徹底するために招集した会議の資料の裏紙に念写させたんだった、、、。
忙しくてそのまま資料として出してしまったらしい。
別なものと差し替えるつもりで書類に手を伸ばすと、フッと横取りされた。
「なんです。読みかけですか?」団長を見ると、意外にも真剣に眺めている・・・念写の方を。
全く、忙しいのに。でも、、、私はにんまりした。

「それ、よく出来てるでしょう?魔導師団うちの優秀な若手魔導師の念写なんですよ。
いずれ落ち着いたら研究棟にやって、実験の参考資料とするため念写してもらおうと思ってます。」

「まあまあだな。ディーはもう少し愛らしい。まあ、あの時は疲れて多少顔色も悪かったか・・・」
団長あんたが気にするのはそんなところか。でも、この人のまあまあは大賛辞だからな。あの娘に教えてやると喜ぶだろう、、、仕事と研究に熱心だったし。

俺は、そうそう、と続けた。
「その念写した子、すごく仕事熱心でしてね。業務外でも研究会をしているんですよ。」
「仕事時間以外にも仕事をしているのか!?」
表情は変わらないけど声が大きくなった。随分驚いているらしい。いや、団長あんた以外は、この組織、魔術バカが多いから、けっこう残業してるけど。

「自由精神研究会って同好会で魔術の討論をしているらしいですよ。団長とは大違いですね!」
だから、この場面の個人的な念写許可を出しました。条件を付けているし構わないでしょう。と続けると。
団長が微かに首をひねった。

「・・・自由精神研究会って、そんな活動だったか?」
「知ってるんですか!?同好会の内容?」
「設立の時の趣意書とか、年に一度の活動報告書が回ってくるだろう。」
団長この人のすごいところは、この膨大な記憶力だよな。感心していると。
「趣意書や活動報告書がものすごくつまらないわりに、固定メンバーで続いている会だから、不思議に思って一度こっそり見に行ったことがある。」

仕事はさぼるのに、そんなことはするんかい。
俺は脱力しながら投げやりに相槌を打つ。
「団長と違って、真面目な討論に面白さを感じる真面目な人間もいるんですよ。」
だからあんたもさっさと仕事しろよ。と出かかるのを止める。あまり非難して拗ねられても困るしな。

「恋愛談義していたぞ。」
団長が念写の部分を何度も見ながら、ぼそっと言った。
「は?」
今、団長の口から聞こえた言葉は何だ?
「赤の他人らしい何人かを対象人物にして、どの組み合わせが良いとか悪いとか。受けとか攻めとか。二人が良いとか三人が良いとか、随分熱心に議論をしていた。しかも対象者は全員男だった。」

「え?」言葉が耳をすり抜けていく、、、なんだって??組み合わせ?受け・攻め?対象者は男?
団長は自分の言葉に違和感を感じないらしい。淡々と続けた。
「まあ、少し驚いたが、あれはあれで面白い討論と言えた。確かに自由な精神での白熱した話し合いだったからな。」

ここで団長は納得したらしい。個人の特定は避けろよ、と一般的な指示を出して次の案件に進もうとした。
いや、いやいやいや!
「そこ、流してはダメです!」
執務机をバンっと叩く。せっかくそろえた書類がまた、ざざーっと雪崩れた。団長の機嫌が降下するのが分かるが構ってられない。
「そんな同好会なんて許せるわけないでしょう!まあ、ほんとだったらの話ですが・・・」
「こんなくだらない嘘ついてどうする。」
「叔父さんの言う通りですよ。エルンスト副官殿。」
団長の声にかぶさるように扉の方から声がして。振り返ると、オリヴィエが相変わらずの良い笑顔をのぞかせていた。

「僕もたまたま知ったんですけどね。」
勝手に団長執務室に入ってくると、オリヴィエはにこにこしながら言い出した。団員でもないのに相変わらずの情報通だ。
「レティちゃんたちの会って、その筋では有名で・・・」
「どんな筋なんだ!」俺がかっかとして言うと。
「もちろん、男性同士の恋愛ものが好きな人たちです。意外に多いんですよ。特に暇を持て余している社交界のマダムたちなんかに。」オリヴィエの言葉に俺はがっくりした。

「彼らは討論の結果をもとに、不定期で少部数の小説・・・同人誌って言ったかな?を出してるんですよ。これが人気で。今日会合やってるから、見に行きませんか?」

場所はもう確認済みです。さあさあ、と促され、なぜか団長と三人で廊下を歩きだす。
「行ってどうするんだ?」団長が聞くと。
「現場を押さえたら、ちょっと揺すって手に入れたいものがあるんですよね~。あ、これ、父からの指示ですから。」あくどい笑顔で言い出す。
「兄上が・・・」団長の声に諦めが滲んだ。
そう、オリヴィエは団長の兄、コンラート公爵、、、宰相でもある、、、の長男で、非公式に補佐を務めているのだ。
「父が、叔父さんに、今回の件では文官こっちも結構骨を折ったんだし、協力しろって。」
「・・・分かった。何をすればいい?」
「まあまあ。とりあえず楽しみましょうよ。ほら、あそこの封印結界付きの小会議室。ここを取る団体があったら連絡するよう手をまわしておいたんです。」オリヴィエは得意げに言うが・・・団員を勝手に使うんじゃない。

「叔父さん、音を立てずに開けてもらえますか?出来れば声だけ聞こえると、踏み込み時期が分かっていいんだけど。」
「分かった。」団長は小さく溜め息を付くと手を軽く上げた。

静かだった廊下に声が聞こえてくる。
中ではだいぶ盛り上がっているらしい。

「出た。鬼レティ。」
「二人の世界で完成させてあげようよ。」
「案件提出者特権で、もう一人、追加します!超弩級Sタイプ、O氏です!」
「来たーーー!超弩級S魔導師!」
「なんだこの美形は!これなら団長と張れるかもしれない!」
「これで受けは考えられるのか?その場合攻めはどっちなんだ・・・あぁ~難問過ぎて今夜は眠れない・・・!」

な、なんだこの会話は、、、。私はふらふらと壁に寄りかかった。
オリヴィエはくすくすと笑っている。
「ちょうどいいタイミングかも。念写も出そろってそうだね。叔父さん踏み込みますよ。」
「私も行くのか?」団長が驚いたように言った。ここまでが仕事だと思っていたようだ。

「行かなくても良いけど・・・」小首をかしげる。オリヴィエ、男がそんなこと・・・。
「たぶん、自分の眼で見た方が良いと思うな~。」

「じゃあ、開けるよ。」
オリヴィエは取っ手を掴むと、ためらいなくバンっと開いた。
中の面々がギョッとした顔を向ける。

そして。
円卓の中空には、見る人が見れば分かる辺境伯夫妻のキスシーンと、加工されてないオリヴィエのいい笑顔悪い顔が浮かんでいた。
これが、どうしても念写したかったもの、、、。俺の許可がこんなものに、、、。

「見てみて。フフッ。僕まで入ってるよ。」オリヴィエの楽しそうな顔。いや、今こいつはどうでもいい。
団長は?怒りの暴風がふくのか?恐る恐る振り返ると。

「こういう切り取り方の念写があったか!対象を正確に写すだけではないんだな。敢えてぼかす・・・それに二人入るのは斬新だ!どうやって・・・そうか、使い魔の視界を・・・」
新たな可能性に目覚め、自分の世界に入っていた。

そして、同好会のメンバーたちは、、、呆然としている。特にレティと言ったか、あの女の子は真っ赤になって固まっている。当たり前だ。
こいつ等、どうしてくれよう。俺の感動を返してくれ!




「あの同好会から欲しかったもの?」
あの後、すぐにバーベンベルクに帰ると騒ぐ団長に最低限の仕事をさせるため執務室に戻った俺は、何週間かして、またひょっこり執務室に顔を出したオリヴィエを捕まえた。
いつもなら団長が来て、今日の仕事の流れを説明している時間なんだが、今日は突然休むと使い魔から連絡があったばかりだ。
余裕があった俺は、気になっていたことを聞いてみた。

ちなみに俺の処分は同好会開催自粛三か月だ。本当はつぶしてしまおうかと思ったが、団長が意外にも良しとしなかったのだ。

「ああ、僕のシナリオ通りに作った同人誌を出してもらっただけだよ?内容聞きたい?」
にっこり。良い笑顔だ。どんな内容か、知りたくなくなるが、、、。
「誰とは言わないけど、某国の王太子が、友好国を訪問し、妻子ある美貌の男と惹かれあう。二人は一見仲違いしたように見せかけ、その実逢瀬を重ね、ついに男は妻子を置いて、王太子の帰国に合わせ出奔してしまう。」
お、おい。それって、、、。

「しかし、妻の必死の捜索と、男の帝国・・・国への止みがたい忠誠心により、二人は国境の町で永遠の別れをするって、ね。公式見解に沿った、いい話だろ。」

「・・・それで例の件のうわさが長引かなかったんだ・・・。」
良かったと、思うべきなんだろうけど。

「そう。噂ってのは、面白くない真実より、スキャンダラスな嘘の方が勝つからね。宰相閣下の策さ。あの人は末の弟が大好きで、かつ茶目っ気のある方だから。面白いことを考える。」
本当に参考になるよ。オリヴィエは楽しそうに笑った。何の参考にするんだか。

「ついでに。これは僕が勝手にやったんだけど。」声を落とすなよ。なんだよ、ほんとに怖いんだけど。
「同人誌を一部、辺境伯叔母上と、とりわけ仲が良くて、時折便りを交換し合うご婦人に、そっと渡しておいたんだ。真面目な方だから、下世話な噂にはやや疎くていらっしゃるけど、これなら確実にバーベンベルクに届くだろ?」
そろそろ届いてもおかしくないんだけどな、、、。オリヴィエはウインクを残し、サッと扉を閉めて去っていった。

「おい!!なんだそれ!待てよ・・・」待つわけ、無いよな、、、。
俺はこの先何日も滞るであろう仕事を考え、がっくりと肩を落とした。


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思っていたよりものすごく長い番外編になってしまいました。最後、駆け足になってもこの長さ・・・。
これだけ長いと読んでいて疲れますよね。読んだくださった方、ありがとうございました。
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