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皇宮での邂逅
エピソード I マクシミリアン殿下は身代わり中
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「・・・そしてこっちが娘のディアナだ。」
バーベンベルク辺境伯に促され、一歩前に出る。
先に紹介されたルーより少し後ろに留まり、少し影に入るようにする。
「ディアナ・グンダハールで御座います。どうぞお見知り置きを。」
お見知り置きをと言いながら、マントのフードは取るものの、なるべく顔は上げずにカーテシーをした。
姉貴達に面白半分に教え込まれた事が、こんな時に役に立つとは。
俺の黒歴史にも意味はあると言うことか。
「こちらがディアナ嬢ですか。」
興味津々の声がして、ああ、此処でもか、とウンザリする。
「いやぁ、バーベンベルクのディアナ嬢と言えば、辺境伯殿と魔導師団長殿が、大切にされる余り家族以外には会わせないと有名でしたからな。我が城でお会いする事が出来るとは何たる幸運!」
先方の、、、何とか伯と言ったか、、、の後方から、ヒョロッとした足が進み出るのが、俯いた視線の先に見える。
「私の愚息です。どうぞお見知り置きを。」
愚息の声を聞き流し、俺は一層深く俯いた。
辺境伯殿に、娘は疲れが溜まっていると言ってもらい、晩餐を断って良かった。
俺は宛てがわれた部屋で、一人のんびりと寛ぎつつ夕飯を済ませると、ゴロリとベッドに横になる。
今のうちに休んでおかないとな。
しかし、ディアナ嬢がこんなに政略結婚の相手として人気があると思わなかった。
何年か前までは母上の強い希望により、年に一二回は家族で王宮の式典に来ていたから、知らない仲では無いけれど。
正直あの子を嫁に欲しいとは、思った事が無い、、、無かったと言うべきか。
まあ、来ていた頃はまだ幼児だったしな。母上は、あの子はエレオノーレ に似て美人になるわよ!と騒いでいたけど、姉貴が二人もいた上に、王太子として女官連中にチヤホヤされている俺としては、乳臭いガキに全く興味が無くても仕方ない。
だから、今回の婚約の件も、とりあえず母上の機嫌を損ねないようディアナ嬢の機嫌を取りつつ、もっといい条件の令嬢がいないか探すつもりだった。
、、、今は、違うけど。
十日前、久しぶりに会ったディアナ嬢は、見違えるほど綺麗になっていた。
柔らかな紅金の髪が白いけれど血色の良い顔を縁取り、大きな黄金の瞳が、明るい輝きを放ちながら、こっちを見つめていた。それは単なる好奇心からだとは思うけれども、俺が興味を持つには充分で。
すっと通った鼻筋や形の整った赤い唇が小さな顔にバランスよく配置されている。マントに隠された身体はまだまだ子供だろうが、辺境伯を見れば将来の予想も付く。
これは確かに母上の言う通り、モノにしておく価値があるな。
、、、帝都滞在が楽しみだ。
俺が思わずニヤリとした時、顔の周りに柔らかい風が吹いて、フードが後ろになびいた。
魔導師殿の魔術か。
俺が笑ったまま、視線を上げ、ハッキリとディアナ嬢に視線を合わせると。
あの子はちょっとビックリした表情で俺を見つめて、、、多分、自分の顔を見て驚いたんだろう、、、そのあと、実に自然に、嬉しそうに、ニッコリと笑ったのだ。
一瞬心臓がドキッとして、身体が熱くなって。そのまま見つめることしか出来ない。
食らってしまった、と思った。
でも、ディアナ嬢にとっては単なる挨拶か、、、それ以下かも知れない、、、何かで。
魔導師殿の低い声に我に返った時には、あの子は魔導師殿に抱き締められ、辺境伯へ楽しそうに一声掛けると、さっさと行ってしまった。
俺をただの身代わりと思って。
振り返りもせず。
誰にも言えないが、あの後毎晩、俺は一人になると鏡を見ている。
紅金の髪、黄金の瞳が見返す。ディアナ嬢の顔だ。
あとは、あの笑顔が自分に作れれば、この熱が冷めるんじゃ無いかと思って。
恥ずかしいが鏡の前で一人笑ってみる。
でも、駄目だ。あの笑顔は、あの子にしか無いもので。
鏡を見つめれば見つめるほど、今俺が見ている顔は所詮ニセモノなんだって、思い知らされる。
だから。
帝都で俺は捕まえる。あの子を捕まえて、今度は俺のために、俺のためだけにあの笑顔を見せるようにしないと。
そのために今晩も。
「ディアナ嬢、お加減が悪いと伺いましたが大丈夫ですか?貴女を心配のあまり、夜分ではありますが訪れる僕を、受け入れて下さいませんか?」
、、、ほら来た。
数にならない競争相手でも蹴散らして、あの子の目には触れさせないように。
俺は今晩も頑張るのだ。
バーベンベルク辺境伯に促され、一歩前に出る。
先に紹介されたルーより少し後ろに留まり、少し影に入るようにする。
「ディアナ・グンダハールで御座います。どうぞお見知り置きを。」
お見知り置きをと言いながら、マントのフードは取るものの、なるべく顔は上げずにカーテシーをした。
姉貴達に面白半分に教え込まれた事が、こんな時に役に立つとは。
俺の黒歴史にも意味はあると言うことか。
「こちらがディアナ嬢ですか。」
興味津々の声がして、ああ、此処でもか、とウンザリする。
「いやぁ、バーベンベルクのディアナ嬢と言えば、辺境伯殿と魔導師団長殿が、大切にされる余り家族以外には会わせないと有名でしたからな。我が城でお会いする事が出来るとは何たる幸運!」
先方の、、、何とか伯と言ったか、、、の後方から、ヒョロッとした足が進み出るのが、俯いた視線の先に見える。
「私の愚息です。どうぞお見知り置きを。」
愚息の声を聞き流し、俺は一層深く俯いた。
辺境伯殿に、娘は疲れが溜まっていると言ってもらい、晩餐を断って良かった。
俺は宛てがわれた部屋で、一人のんびりと寛ぎつつ夕飯を済ませると、ゴロリとベッドに横になる。
今のうちに休んでおかないとな。
しかし、ディアナ嬢がこんなに政略結婚の相手として人気があると思わなかった。
何年か前までは母上の強い希望により、年に一二回は家族で王宮の式典に来ていたから、知らない仲では無いけれど。
正直あの子を嫁に欲しいとは、思った事が無い、、、無かったと言うべきか。
まあ、来ていた頃はまだ幼児だったしな。母上は、あの子はエレオノーレ に似て美人になるわよ!と騒いでいたけど、姉貴が二人もいた上に、王太子として女官連中にチヤホヤされている俺としては、乳臭いガキに全く興味が無くても仕方ない。
だから、今回の婚約の件も、とりあえず母上の機嫌を損ねないようディアナ嬢の機嫌を取りつつ、もっといい条件の令嬢がいないか探すつもりだった。
、、、今は、違うけど。
十日前、久しぶりに会ったディアナ嬢は、見違えるほど綺麗になっていた。
柔らかな紅金の髪が白いけれど血色の良い顔を縁取り、大きな黄金の瞳が、明るい輝きを放ちながら、こっちを見つめていた。それは単なる好奇心からだとは思うけれども、俺が興味を持つには充分で。
すっと通った鼻筋や形の整った赤い唇が小さな顔にバランスよく配置されている。マントに隠された身体はまだまだ子供だろうが、辺境伯を見れば将来の予想も付く。
これは確かに母上の言う通り、モノにしておく価値があるな。
、、、帝都滞在が楽しみだ。
俺が思わずニヤリとした時、顔の周りに柔らかい風が吹いて、フードが後ろになびいた。
魔導師殿の魔術か。
俺が笑ったまま、視線を上げ、ハッキリとディアナ嬢に視線を合わせると。
あの子はちょっとビックリした表情で俺を見つめて、、、多分、自分の顔を見て驚いたんだろう、、、そのあと、実に自然に、嬉しそうに、ニッコリと笑ったのだ。
一瞬心臓がドキッとして、身体が熱くなって。そのまま見つめることしか出来ない。
食らってしまった、と思った。
でも、ディアナ嬢にとっては単なる挨拶か、、、それ以下かも知れない、、、何かで。
魔導師殿の低い声に我に返った時には、あの子は魔導師殿に抱き締められ、辺境伯へ楽しそうに一声掛けると、さっさと行ってしまった。
俺をただの身代わりと思って。
振り返りもせず。
誰にも言えないが、あの後毎晩、俺は一人になると鏡を見ている。
紅金の髪、黄金の瞳が見返す。ディアナ嬢の顔だ。
あとは、あの笑顔が自分に作れれば、この熱が冷めるんじゃ無いかと思って。
恥ずかしいが鏡の前で一人笑ってみる。
でも、駄目だ。あの笑顔は、あの子にしか無いもので。
鏡を見つめれば見つめるほど、今俺が見ている顔は所詮ニセモノなんだって、思い知らされる。
だから。
帝都で俺は捕まえる。あの子を捕まえて、今度は俺のために、俺のためだけにあの笑顔を見せるようにしないと。
そのために今晩も。
「ディアナ嬢、お加減が悪いと伺いましたが大丈夫ですか?貴女を心配のあまり、夜分ではありますが訪れる僕を、受け入れて下さいませんか?」
、、、ほら来た。
数にならない競争相手でも蹴散らして、あの子の目には触れさせないように。
俺は今晩も頑張るのだ。
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