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皇宮での邂逅

彼の名前は

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「ごめんなさい。驚かせた?」
小首を傾げて、少し見上げるように見つめると。
彼は決まり悪そうな顔をして、慌てて腕を下ろした。
「べ、別に驚いてはいない。ちょっと予想してなかっただけだ。」
近くで見ると、彼の瞳は綺麗な蒼だった。細めで切れ長だからパッと見ると少し怖いけど、さっき表情を緩めた時は、柔らかな感じだったよね。
しっかりした鼻筋や頬骨は高くて、やや薄い口元がキュッと結ばれてる。
うん、オスカー兄上タイプだ。さっき精悍な、と思ったのはこの子だわ!
思わずニッコリすると。
「そんなにジロジロ見るな。それに男がヘラヘラ笑うな。」
顔を背けられてしまった。そっか。私は今男の子なんだから、男の子っぽくしなきゃね。
「すみません。」
とりあえずペコリと頭を下げておいた。
頭を上げてもまだそっぽを向いたままだ。怒らせちゃったかな。やっぱり壁登って裏道行こうかな?
そう思っていると。

「いや、いい。ちょっと待ってろ。今片付ける。」
彼が動き出した。模擬刀をしまい、水筒に口をつけながら、上着や汗拭きの布をポイポイかばんに放り込む。あっという間に片付け終わると無造作に肩に担いでこっちを一瞥した。
「行くぞ。」
一声かけると、さっさと歩き出すので、慌てて後を追った。
せっかくだから、剣の話がしたい!
「さっきの試合、凄かったです。わた、僕、感動しました!」
でも、話しかけると胡散臭げに見られてしまった。
「君、侍従見習いだろ。魔導師団の。魔術使いが剣の腕なんて分かるのか?」
あ、この子、結構潔癖かも。
お世辞を言われ慣れてて、しかも流せないタイプなんだ。ふふ、ルー兄さまみたい。
「分かりますよ、わ、僕も、これでも騎士の家系で剣を握りますからね!」
腕をブンブン振り回すと、クッと笑われてしまった。
「その細腕でか?どら、見せてみろ。」
掴まれそうになり、サッと避ける。身軽さとすばしこさは私の身上なんだから!
「おっ?」
空振りした彼は驚いたように自分の手を見つめ、それからニヤッと笑った。表情に親しみが籠もったのが分かる。
「すばしこいな。さっきの体重を感じさせない跳躍といい・・・君の剣は小うるさそうだ。」
「試してみます?正直、貴方に勝てるとは思ってません。でも、逃げに徹すれば、結構保つとは思いますよ?」
ふふっと笑うと、笑い返された。
「機会があったらな。」
断られなかった。今日はそれだけで充分ね。

壁沿いに進むと、段差が低くなったところに門があって、彼は私が出た後、中をチラッと確かめると、スラックスのポケットから鍵を出してきちんと閉めた。
門に見張りもいないから、無人になる。

「訓練場っていつも開けてるんじゃ無いの?」
思わず尋ねてしまった。バーベンベルクでは、軍の訓練場は警備兵が常駐している代わりにいつも開けてあって、訓練時間外でも、空き時間に訓練する騎士や兵士は多かったから、変な感じがする。

「他のところは開けてるさ。ここは普段使われてないからな・・・て、なんで来たばかりの魔導師団の侍従見習いがそんな事知ってるんだ?」

不審な目を向けられて気がついた。侍従見習いはそんなこと知らないはずなのね。
えーっと、なんて言おうかな。まあ、真面目で潔癖な感じだから、此処はきちんと答えよう。
「騎士の家系って言ったでしょう?僕の訓練していたところでは、警備担当が常駐してる代わりにいつも開いていて、時間があれば訓練し放題でしたから。」
うん、嘘は付いてない。バーベンベルクは騎士の家系だし、訓練場は私の遊び場だったからよく知ってるもの。

男の子の目を見て答えると、彼は納得したようだった。
「そうか、良い養成所に通ってたんだな。」
、、、養成所って、何?
それとなく尋ねる。帝都には、騎士階級の子弟が通う騎士の養成所がいくつかあって、それぞれ剣の流派も違うのだそうだ。
貴族でも、家に剣術の師を呼べない者は、養成所に通うことも多く、貴族向け、騎士階級向け、庶民向けなど様々分かれているらしい。
「そうなんですか?!知らなかったです!」
素直に驚くと、かえって驚かれた。
「騎士階級の家なんだろ。君、どんな田舎から来たんだ?」

あは、困ったな、今度はなんて答えよう。
そう考えた時。
急に肩の小鳥がチッと鳴いて。
風が吹いたと思ったら、耳元で父さまの声がした。
「デイー!帰ってこないと思ったらこんな所で何してるんだ!」

え?!思わず振り返っても、誰も居ない。でも、すぐそこに気配を感じる。

父さまだ!

え、いつから居たの?何処から聞いてたの?どうしたらいいの?
頭が真っ白になってワタワタしてしまう。

「おい、どうした?君・・・。」
私の動きを不審に思ったらしい。
男の子が、ぐっと手を伸ばして腕をつかもうとした時。

「・・・い、まだ終わらないのか?」
「早くしないと午後の予定が押しますよ。」
「お昼先食べちゃうぞ!ジキスムント!」
すぐ先の建物から、さっきの三人の声がした。

まずい!あの子たちにまで会ったら余計ややこしくなりそう!
男の子、、、ジキスムント君て言うんだ、、、が彼らの方を振り向いた瞬間。

「父さま!」
私が小さく呼びかけると同時に、背中からフワッと抱かれて、風を顔に感じて。
「またね!」と言う声は彼に届いたのか、、、。
次の瞬間、私は朝方ぶりに父さまの執務室に戻っていた。
まだお昼も食べてないのに、色んなことがありすぎて、しかも背中の父さまは、どうやらお怒りのようで。

もうお腹一杯よ。誰か今の私の身代わりになって、、、。
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