146 / 241
帝都のひと夏
匿ってしまいました
しおりを挟む
曰く。
ユラン王国内部では、正妃の出身地であるオストマルク帝国との関係強化を進める王と、帝国の南にあるロンヌ王国との関係強化を訴える王弟が、お互いの支持基盤の貴族を巻き込み争っているのだそうだ。
今回、相互不可侵条約更新と、互恵的通商条約交渉のため、全権としてマックス殿下を帝都に派遣しようとしたところ、反対派から邪魔が入ったらしい。
「邪魔とは、どの程度の?」
母さまの質問にマックス殿下は「まあ、嫌がらせですね。」と淡々と答えた。
「視察に向かう馬車を引く馬の飼葉に興奮剤が混ぜてあって暴走したり、茶器に弱い毒が塗ってあったり、狩りの時誤って射殺されそうになったり。小細工が主なので半分脅しだと思いますが。」
本気なら、もっと分からないよう工夫すると思います。まあ、少なくとも僕はそうするな。
小首をかしげて言うことかしら?
「でもまあ、それで母が騒ぎましてね。辺境伯殿が近々帝都に上られるはずだから、一緒に行ってらっしゃいと、部下と秘密裡に通商団に放り込まれたわけです。」
お陰で帝国領に入るまでは襲撃らしい襲撃も無く済みまして。
にっこり。ライの顔で笑ってるのに笑みが黒い。この人も相当な腹黒さんなのかも。
「犯人の目星は?」ルー兄さまが問うと、うーん、と言って少し沈黙した。
「王弟殿下の派閥も中は色々ありそうで。僕の異母弟のところも入ってると言えば入ってるし・・・特定出来ないまま出てきてしまったんだよね。」
えへへと笑うマックス殿下を、ルー兄さまは睨みつける。
「笑ってる場合か。殿下のせいで、ライを預けた通商団が襲われたというのに!」
しかも複数回。どうしてくれる!
語気も荒いルー兄さまに比べ、マックス殿下は飄々としている。
「うん。それ聞いたとき、やっぱりこっちに匿って貰って良かったって本当に思ったよ。」
母上の慧眼に感謝だな、なんて言ってるけど。
ライが?
「襲われたって・・・」
思わず声に出してしまったみたい。
「ああ、心配ないよ。ライは無事だ。一回目に襲撃された後、こっちの方から何人か護衛に回したしね。」
ルー兄さまは安心させるように頷いて、頭を撫でてくれた。そっか。無事で良かった、、、。
「ただ・・・面が割れた可能性はあるんだ。」
「どういうこと?」
どうやら通商団に居たのはライで、殿下では無いってことに気づかれたらしい。その証拠に、行程の後半では監視だけで全く襲われなくなったんだって。
代わりに、母さま達の一行に尾行がつき始めたらしい。
「まあ、こっちにも見た限りでは居ない訳だから、襲撃はして来なかったけどな。」
ルー兄さまが、五月蠅かったぞ、と溜め息を付けば、
「来た方が文句なく捕まえて尋問できたから、早かったんだけどな。」
少し隙を作ればよかったな、と母さまが苦笑して、父さまに文句を言われてる。
「まあそんな訳で帝都には無事着いたんだが。」
ただでさえきつい旅程を、誰かのせいで最後無理やり詰めたから、ほんと辛かったですよ、父上。
ルー兄さまが珍しくぼやけば、「尾行もついて来れなくて、結局撒いてしまったしな、、、」実は武闘派の母さまも残念そうに言う。父さまはフンッとそっぽを向いてから、、、それで、とマックス殿下を促した。
「無事、帝都に着いたんだろう?なぜここにいる。送らせるからさっさと大使館でも皇宮でも行け。」
それで無かったことにしてやろう。父さまが言うと。
「でも、僕の腹心は皆通商団と一緒ですし、一人で大使館や皇宮に行っても、誰が敵か味方かも・・・どうやって来たと言われても答えられないですし・・・」
心細そうに口籠ると。
通商団が来るまで匿ってくださいませんか?マックス殿下はそう言って頭を下げた。
部屋に沈黙が広がる。
父さまは明らかに機嫌を悪くしていて、西日も厳しい夏の夕暮れなのにひんやりとした冷気が漂い始めてるし、母さまもルー兄さまも難しい顔をしている。
私は俯くマックス殿下をそっと見た。肩が少し揺れてる気がするけど、若しかして震えてるのかな。
ライと一緒に通商団が来るまでは一人なんだ。はっきり味方と分かる人がいない状況で一人は怖いよね。
「父さま、母さま、ライの代わりに此処で過ごして貰いましょうよ。」
思い切って私が言うと。
「こら、ディー!勝手なこと言うな。」
ルー兄さまの厳しい声がした。マックス殿下はビクッとしてなおの事肩を震わせて深く俯く。
「ルー兄さま、お声が厳しいわ。マックス殿下が震えてらっしゃるじゃない。」
私が言い返すと、なぜかルー兄さまは忌々し気に私を見た。
「お前、殿下がお前の姿で何をしたか知らないからそんなこと言ってられるんだ・・・!」
「・・・え?」
私の姿でいた時?お行儀悪かったのかしら?それは困るけど、でも私もライの格好で色々してたしな、、、。
「それはどんな・・・?」「よし、匿いましょう。」
私の問いに被せて、母さまがやや大きい声で言った。あ、ルー兄さまと目配せしている。
「エレオノーレ!私は反対だ。何なら通商団を今すぐユランの大使館前に転移させますが・・・」
父さまが訴えたけれど、母さまは、首を振った。
「殿下お一人の安全なら、それで構わないが・・・事は不可侵条約や通商条約にも関わるだろう。慎重に行った方が良い。私たちが帝都に着いた日に殿下が突然大使館や皇宮に現れたら、確かに変だしな。通商団を待って合流した方が怪しまれずに済む。」
「でも、母上・・・」
「その代わり、通商団に付けた部下に連絡して、旅程を早めさせよう。残り大体十日だろうから・・・三日くらいは短くできるだろう?」
母さまの言葉にルー兄さまは「母上・・・鬼だ」と呟いた。
「それと、殿下にも条件があります。」
母さまがマックス殿下の方を向くと、殿下は俯いたまま、両手で顔を覆っていた。
安心して泣いちゃったのかな?
心配していると母さまはそのまま淡々と続けた。
「いいですか?まずここではライムンドと言う侍従見習になってもらいます。待遇もそうなりますのでご承知おき下さい。」
「それと、勝手な行動は慎んでくださるように。使い魔に監視もさせますが・・・これは殿下の身を守るためでもあります。この屋敷は普段前辺境伯夫妻が使用しており、私たちはここの使用人を把握していない。様子が分かるまでは、ここにも敵がいるつもりで不用意な行動はお控え下さい。」
良いですね?ちゃんと聴かないと放り出しますよ。
母さまの、子供に対するような念押しに、深くうなずくと。
マックス殿下は勢い良く顔を上げた。満面の笑みだ。
、、、え?泣いてたんじゃなかったの?
あっけに取られた私が辺りを見回すと、父さまは、、、相変わらず冷気を出してるし、ルー兄さまはぶすっとした表情を隠しもしないし、母さままで、やれやれと言った表情だ。
みんな分かってた?私だけ勝手に騙されてたってこと?
茫然とした私の手を、またまた両手でしっかり握りしめて。
「やったぁ、有難う!君のおかげだよ!ディアナちゃん!」
これから七日間、よろしくね?
マックス殿下はにっこり宣ったけど、、、その笑みが真っ黒く見えたのは、気のせいではないみたい。
ユラン王国内部では、正妃の出身地であるオストマルク帝国との関係強化を進める王と、帝国の南にあるロンヌ王国との関係強化を訴える王弟が、お互いの支持基盤の貴族を巻き込み争っているのだそうだ。
今回、相互不可侵条約更新と、互恵的通商条約交渉のため、全権としてマックス殿下を帝都に派遣しようとしたところ、反対派から邪魔が入ったらしい。
「邪魔とは、どの程度の?」
母さまの質問にマックス殿下は「まあ、嫌がらせですね。」と淡々と答えた。
「視察に向かう馬車を引く馬の飼葉に興奮剤が混ぜてあって暴走したり、茶器に弱い毒が塗ってあったり、狩りの時誤って射殺されそうになったり。小細工が主なので半分脅しだと思いますが。」
本気なら、もっと分からないよう工夫すると思います。まあ、少なくとも僕はそうするな。
小首をかしげて言うことかしら?
「でもまあ、それで母が騒ぎましてね。辺境伯殿が近々帝都に上られるはずだから、一緒に行ってらっしゃいと、部下と秘密裡に通商団に放り込まれたわけです。」
お陰で帝国領に入るまでは襲撃らしい襲撃も無く済みまして。
にっこり。ライの顔で笑ってるのに笑みが黒い。この人も相当な腹黒さんなのかも。
「犯人の目星は?」ルー兄さまが問うと、うーん、と言って少し沈黙した。
「王弟殿下の派閥も中は色々ありそうで。僕の異母弟のところも入ってると言えば入ってるし・・・特定出来ないまま出てきてしまったんだよね。」
えへへと笑うマックス殿下を、ルー兄さまは睨みつける。
「笑ってる場合か。殿下のせいで、ライを預けた通商団が襲われたというのに!」
しかも複数回。どうしてくれる!
語気も荒いルー兄さまに比べ、マックス殿下は飄々としている。
「うん。それ聞いたとき、やっぱりこっちに匿って貰って良かったって本当に思ったよ。」
母上の慧眼に感謝だな、なんて言ってるけど。
ライが?
「襲われたって・・・」
思わず声に出してしまったみたい。
「ああ、心配ないよ。ライは無事だ。一回目に襲撃された後、こっちの方から何人か護衛に回したしね。」
ルー兄さまは安心させるように頷いて、頭を撫でてくれた。そっか。無事で良かった、、、。
「ただ・・・面が割れた可能性はあるんだ。」
「どういうこと?」
どうやら通商団に居たのはライで、殿下では無いってことに気づかれたらしい。その証拠に、行程の後半では監視だけで全く襲われなくなったんだって。
代わりに、母さま達の一行に尾行がつき始めたらしい。
「まあ、こっちにも見た限りでは居ない訳だから、襲撃はして来なかったけどな。」
ルー兄さまが、五月蠅かったぞ、と溜め息を付けば、
「来た方が文句なく捕まえて尋問できたから、早かったんだけどな。」
少し隙を作ればよかったな、と母さまが苦笑して、父さまに文句を言われてる。
「まあそんな訳で帝都には無事着いたんだが。」
ただでさえきつい旅程を、誰かのせいで最後無理やり詰めたから、ほんと辛かったですよ、父上。
ルー兄さまが珍しくぼやけば、「尾行もついて来れなくて、結局撒いてしまったしな、、、」実は武闘派の母さまも残念そうに言う。父さまはフンッとそっぽを向いてから、、、それで、とマックス殿下を促した。
「無事、帝都に着いたんだろう?なぜここにいる。送らせるからさっさと大使館でも皇宮でも行け。」
それで無かったことにしてやろう。父さまが言うと。
「でも、僕の腹心は皆通商団と一緒ですし、一人で大使館や皇宮に行っても、誰が敵か味方かも・・・どうやって来たと言われても答えられないですし・・・」
心細そうに口籠ると。
通商団が来るまで匿ってくださいませんか?マックス殿下はそう言って頭を下げた。
部屋に沈黙が広がる。
父さまは明らかに機嫌を悪くしていて、西日も厳しい夏の夕暮れなのにひんやりとした冷気が漂い始めてるし、母さまもルー兄さまも難しい顔をしている。
私は俯くマックス殿下をそっと見た。肩が少し揺れてる気がするけど、若しかして震えてるのかな。
ライと一緒に通商団が来るまでは一人なんだ。はっきり味方と分かる人がいない状況で一人は怖いよね。
「父さま、母さま、ライの代わりに此処で過ごして貰いましょうよ。」
思い切って私が言うと。
「こら、ディー!勝手なこと言うな。」
ルー兄さまの厳しい声がした。マックス殿下はビクッとしてなおの事肩を震わせて深く俯く。
「ルー兄さま、お声が厳しいわ。マックス殿下が震えてらっしゃるじゃない。」
私が言い返すと、なぜかルー兄さまは忌々し気に私を見た。
「お前、殿下がお前の姿で何をしたか知らないからそんなこと言ってられるんだ・・・!」
「・・・え?」
私の姿でいた時?お行儀悪かったのかしら?それは困るけど、でも私もライの格好で色々してたしな、、、。
「それはどんな・・・?」「よし、匿いましょう。」
私の問いに被せて、母さまがやや大きい声で言った。あ、ルー兄さまと目配せしている。
「エレオノーレ!私は反対だ。何なら通商団を今すぐユランの大使館前に転移させますが・・・」
父さまが訴えたけれど、母さまは、首を振った。
「殿下お一人の安全なら、それで構わないが・・・事は不可侵条約や通商条約にも関わるだろう。慎重に行った方が良い。私たちが帝都に着いた日に殿下が突然大使館や皇宮に現れたら、確かに変だしな。通商団を待って合流した方が怪しまれずに済む。」
「でも、母上・・・」
「その代わり、通商団に付けた部下に連絡して、旅程を早めさせよう。残り大体十日だろうから・・・三日くらいは短くできるだろう?」
母さまの言葉にルー兄さまは「母上・・・鬼だ」と呟いた。
「それと、殿下にも条件があります。」
母さまがマックス殿下の方を向くと、殿下は俯いたまま、両手で顔を覆っていた。
安心して泣いちゃったのかな?
心配していると母さまはそのまま淡々と続けた。
「いいですか?まずここではライムンドと言う侍従見習になってもらいます。待遇もそうなりますのでご承知おき下さい。」
「それと、勝手な行動は慎んでくださるように。使い魔に監視もさせますが・・・これは殿下の身を守るためでもあります。この屋敷は普段前辺境伯夫妻が使用しており、私たちはここの使用人を把握していない。様子が分かるまでは、ここにも敵がいるつもりで不用意な行動はお控え下さい。」
良いですね?ちゃんと聴かないと放り出しますよ。
母さまの、子供に対するような念押しに、深くうなずくと。
マックス殿下は勢い良く顔を上げた。満面の笑みだ。
、、、え?泣いてたんじゃなかったの?
あっけに取られた私が辺りを見回すと、父さまは、、、相変わらず冷気を出してるし、ルー兄さまはぶすっとした表情を隠しもしないし、母さままで、やれやれと言った表情だ。
みんな分かってた?私だけ勝手に騙されてたってこと?
茫然とした私の手を、またまた両手でしっかり握りしめて。
「やったぁ、有難う!君のおかげだよ!ディアナちゃん!」
これから七日間、よろしくね?
マックス殿下はにっこり宣ったけど、、、その笑みが真っ黒く見えたのは、気のせいではないみたい。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる