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帝都のひと夏

コンラート公爵邸にてⅥ(オリヴィエ視点)

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コンラート公爵家の血脈の業を知った衝撃も冷めやらぬうちに、バーベンベルクの一行がうちに来た。

どうやら辺境伯殿の道中で色々あったらしい。
本当は部屋で不貞寝でもしていたいところだけれど、父上に、「補佐官殿も同席するように。」と言われれば是非もない。
僕はやむを得ず客間に降りた。


初めの要件はディアナ嬢とルーファス君の帝都社交界お披露目のエスコート役の件だった。
取り敢えず父上がやることになった。コンラート一門として迎える気満々だな。
ディアナ嬢は言わずもがな、ルーファス君も生真面目そうだが華やかな美少年だ。頭の方も申し分ないと家庭教師筋から聞いている。
可愛い従弟であり、僕の代の手駒候補でもある。一門として迎えるのは大歓迎だ。
ただ、二人とも成人していないので、今回は貴族界の一員として顔を出すのが狙いだろう。
特にルーファス君はこのまま帝都にとどまって秋から学園に入学すると聞いているから、閑散期とは言え、会える貴族子弟には会っておいた方が良いな。
僕の役割としては、彼の能力を見定めながら、その辺のつなぎを付けるといったところか。
父上に話しかけられて緊張している初々しい従弟を見ながら、ぼんやりと段取りを考えつつ、、、気付くとつい、ディアナ嬢に目が吸い寄せられるのを止められない。

今日も可愛い。
しかも、一度意識してしまうと、彼女が無意識に発散させる魔力が堪らなくかぐわしい。

さっき目が合った時も、思わずジッと見つめてしまった。
不味い。
このままだとフラフラ跪きに行ってしまいそうだ。

僕は貴族の基本である笑顔を諦め、眉間にしわを寄せて理性を保った。
まだ、自分の中で方針を決めてないのに、下手な動きは出来ない。

結構拷問な時間が過ぎ。
いい加減イヤになって、先に部屋に帰ろうかなと考えていると。
父上と叔父がまた適当な玉投げをしてきた。
ルーファス君の後ろに影のように控える侍従、やっと到着したらしい本物のライムンドに、今までの経緯を話しとけ、とは。
でも、まあ、いいか。
面倒くさいけど、この部屋から出られるし、ルーファス君と話も出来る。本物のライムンドは、魔力が違うからか全く可愛げを感じないけど、所詮少年、こんなものかな。

承知の旨を伝え、少年二人を連れて廊下に出る。
付いてきた侍従にお茶の支度を言いつけようと振り返ろうとした時。
「オリヴィエ殿。」
小さな声がして、従弟殿が見上げてきた。
「うん?」
歩きながら少し身をかがめると、彼も何気なく近寄りながら、早口で囁いてきた。
「ライムンドは、ユランのマクシミリアン王子の変化なんです・・・」
一瞬何を言われたか分からなくて立ち止まりそうになったけど、なんとかやり過ごす。
「うん、これからよろしくね?ルーファス君・・・そう呼んでもいいかい?」
当たり障りのない事を話しながら頭をフル回転させる。

また、変化の術のかかってるライムンドなのか?今度はユランのマクシミリアン王子?ああ、そう言えば辺境伯の道中で色々あったと言ってたな。ユランとバーベンベルクは国境を接している。最近政情不安だと連絡も来ていたな。その辺の事情に絡むのか、、、なら、取り敢えず人払いしないと。

「君とはゆっくり話したいと思っていたんだよ。ああ、お茶は僕が出すから下がっていていいよ。必要ならライムンドを使いに出すから、顔だけ覚えておいて?」
侍従をさりげなく下げて、僕はさっさと二人を部屋に押し込んだ。


ルーファス君はとっても真面目ないい子だった。
いい加減なマクシミリアン殿下と色々あったみたいで、冷たい態度ながら、でも最低限の気遣いはしている。
帝都で擦れてしまうのがもったいない。まあ、このまま正義感の強いお坊ちゃんのままでは使い物にならないけれども。

一方、マクシミリアン王子は擦れすぎだ。なんだこの調子のいい色ボケ王子は?本当にあのイメルダ殿下の息子なのか?才走ったふうに見せているけれど、どれだけのものか非常に怪しい。
こいつをユランの王太子候補として押さなくてはいけないなんて、、、頭が痛い。
大体、あの腕輪、相当やばい。何も事情を聴いてないけれど、ここまでの間にバーベンベルク一族の怒りを買ったことだけは良く分かる。
なんであんなに平気な顔していられるんだか?知らないってのは恐ろしい。

そう思いつつ、腕輪の話を聞きだすと、、、。
なんとマクシミリアン殿下は情報の対価に社交界のご婦人方との渡りを要求してきた。
何が夜の帝王だ。洗練さのかけらもない。全く、何て言う阿呆なんだ?
しかも、、、本命はディアナ嬢だと?

どう料理するかは後の楽しみに取っておきながら、なんでもない表情で頷く。
今はこの阿呆に叔父が何をしたかの方が気になる。
僕と違って叔父は、外交問題とか、皇族への配慮とか、全く考慮しないからな。


そして、面倒くさいと説明を投げたマクシミリアン王子の代わりに、ルーファス君が一生懸命説明してくれたのは、、、。

「は?勃たなくなる?」
「ええ、それだけではありません。大きさが小さくなり、そのうち体も丸みを帯びて女性化すると、父は言っていました。」

説明を終えた従弟殿はホッとしてお茶など飲んでいるが、、、僕は軽く恐慌状態だ。

なんだと?

なんだと!!!

大問題じゃないか!?王子が王女になって帰国するかも知れないってことだろう?
ユラン王国は女性に王位継承権は無い。
つまり、この阿呆な、しかし我が国の皇帝陛下の血を引く王子は、一時期の遊びのせいで、目の前の王位を手に入れ損なうってことだ。
と言うか、そもそもそんなことになったら、こいつ、社会的に抹殺されるぞ?いや、母親のイメルダ殿下に実際に殺られるかも知れない。

僕がこんなに焦っているのに、当の本人はどこ吹く風。
「おかしい話だろう?でも、まあいくら貴国の天才魔導師とは言えはったりだろう?実際、昨晩は特に問題なかったぞ。」
などと呑気にほざいている。

こいつ、本当に、この腕輪つけられた後にやったのか?
思わずルーファス君を見ると、「殿下のお帰りは明け方でした。」と苦々し気な返事が返ってきた。


阿呆だ。
本当の阿呆だ。
イメルダ殿下は、ユランの王子教育は、一体どうなっているんだ?
危機管理能力くらい、最低限身に着けさせろよ!会って話しているんなら、叔父がどれだけヤバいか、肌身で感じるだろう?

こいつは、この可愛い従弟殿の侍従として置くのは手に余るだろう。
とすると。
こいつの持って来たであろうユランの政情不安や外交問題ごと、僕が引き取るしかないのか?
補佐官として呼ばれたのは、そういう訳も有ったってことなのか?


相変わらずの父上と叔父の無茶ぶりに、怒り心頭だ。
こうなったらこの従弟君を精々こき使ってやるぞ。
まずは一連の会話に引いてるから、僕の方にきちんと引き込まないと。
、、、いずれ、ディアナ嬢への対処方針によっては、味方にしておいた方が良いしな。

「・・・そうか、ルーファス君、色々大変だったね。ご両親も忙しいだろうし、これから何かあったら遠慮なく僕に相談してね。同じような色合いのせいかな?君とは同じ血を感じると言うか、他のバーベンベルクの従弟より、親しみを感じるんだ。」
これからよろしくね。

にこやかに手を差し出すと、ルーファス君は少し頬を赤らめて、ギュッと握手をしてきた。

ああ、いい子だ、、、。
なんとかこの子の良さを残しつつ、オトナにして行きたいものだよ。
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