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帝都のひと夏

コンラート公爵邸にてⅦ(宰相視点)

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にぎやかな晩餐を終えて、弟一家が帰っていった。
子供達はもうほとんど眠っていたから泊まることを勧めたが、バーベンベルク街屋敷の様子も気になると言われれば仕方ない。

執務室に戻って考えをまとめながら酒を嗜んでいると、可愛い息子がやって来た。
ノックの音も荒々しく扉を開ける。相当お怒りのようだ。
「おや、オリヴィエ、こんな時間にどうした?」
笑顔で答えると、息子はむっとした顔を隠しもせず近づいてくる。
私の手元から酒瓶を奪って、置いてあったカットグラスに注ぎ、一息にあおいだ。
「何を仰るんだか。僕がここに来ることを見越して、ソファにいるんですよね。グラスまで用意しておいて。」
恨めし気な様子を見るに、結構いい情報交換が出来そうだ。
私は笑顔のまま対面を示すと、空になった彼のグラスに酒を注いだ。

「話してごらん?」
促すと、はぁっとワザとらしく溜め息を付く。うん、自分の立てた対策が嫌なんだね。よくあることだ。
黙って待っていると、優秀な補佐官殿は観念して説明を始めた。

ユラン王国の政情と、バーベンベルクの一行に紛れたいきさつ、ディアナに変化していたこと、襲撃の様子などは一通り聞いているようだ。

正直、ユランの政情については目新しいものは無い。殿下がユラン国内で遭遇した事件についても、ざっくりとした報告は受けている。
我が国での襲撃は把握していなかったが、そこはエレオノーレだ。彼女の用兵は天賦の才に努力と経験が裏打ちされている。実際あの人数で問題なく連れてきたわけだし。
これから一番気を遣う対策は、本来の使節団が来るまで殿下を如何に無事に匿うかだ。
本来の姿に戻れば、外国の賓客としても、皇帝陛下の甥としても宮中で守ることが出来るんだが、、、突如一人で現れるのも外交上あまりよろしくないだろう。
問題があると駐留外交官や反対派の貴族に思われるのは避けたい。
あくまで両国とも問題なく友好的な関係である結果として結ばれる不可侵条約であり、通商条約でなければならないし、その手柄を元に、マクシミリアン殿下には立太子して貰わねばならない。
エレオノーレの読みでは使節到着まで、今日を入れて七日間。
その間どこでどうやって匿うか、、、。

「それなのに!全く!」
ここまで話して、オリヴィエはイライラとまたグラスをあおった。うーん、私の優秀な補佐官殿は大分荒れているようだ。
そうなると原因は一つ。
「君がそんなに荒れてるのは、あのおバカな殿下が付けてる腕輪のせいかい?」
訊ねると、息子は私を睨んできた。
「それもありますが、何といってもあの危機意識の薄い、阿呆なマクシミリアン殿下の存在に腹が立ちます。あんなもの着けられるってことは、そもそも結構な事をやらかしてるに違いない。」
うん、その辺はエレオノーレ殿に聞いたよ。聞く相手を間違えた、と、この私が反省したのは内緒だ。

「大体、なんで父上がそんなに平然としていられるか僕には分かりませんね。あの腕輪のヤバい方の性能については、叔父上から聞いてるんでしょう?」
私は頷く。この辺り、息子がどこまで突っ込んで情報を取っているか確認したいところだ。
「多分君が聞いてるのより、細かい性能を確認したよ。私としては、実際の殿下の行動を知りたい。聞いてるか?」
「聞いてるも何も、隠す気も無いようですよ。はったりだと思っているみたいで、気にしてもいませんでした。昨日も着けられた後に侍女と消えて、お戻りは明け方だったとか。」
息子は吐き捨てるように言う。この子はこういった事に情緒を重んじるから、殿下のような男はそもそも気に入らないだろうが。
問題はそこでは無い。
「一晩か・・・」
マクシミリアン殿下の一晩が何回かは分からないが、結構事態は急を要するようだ。
私は弟に聞いた効果の出始める回数と原状回復について息子に伝えることにした。
さて、どんな反応と対策を出すだろうか。
様子を伺うと。
彼は、一瞬固まり、、、その間色んな計算をしたんだろう、、、みるみる顔色を蒼ざめさせた。
「帰国時に不能な王子は確定か・・・」
息子としてはそっちは確定か。そこまでは行くまいと思っていた私はやはり年なんだろうか?
少しショックだった私の気持ちを知る由もなく、すぐに優秀な補佐官の顔をして、息子は私を見た。
「仕方ありません。あんな阿呆の面倒を見るのは嫌ですが、あれは我が国の将来の、つまりは未来の私の重要な手駒。殿下をうちに連れて来て、安全に匿いつつ徹底的にしごきましょう。」
大体、バーベンベルクの街屋敷では、どんな邪魔が入るか。
そう言う息子の顔が厳しいのは、殿下のしごきを考えているからだけではあるまい。
「・・・その件でも、情報の擦り合わせをしておきたいな。優秀な補佐官殿。」
その前にもう一杯。
うん、いい酒を用意しておいて良かった。

その夜。
私達はグラスを傾けつつ、夜が更けるまで話し合った。


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