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帝都のひと夏
例えば、母なる言葉を発するように
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マックス殿下が膝からくず折れた、と思ったら、今度は木立の奥から声が聞こえて来た。
心配だけど私は殿下には近づけない。
つまり、診療所の前にいるのに真っ青な殿下、、、しかも今はライムンドの姿なのに、、、をなぜ連れて行かないかと言われても答えられない。
それはライムンドになっている殿下も同じだろう。
困った私は診療所にいるラーナさんを思い出し、取り敢えず戻ろう、と思った。
次の瞬間。
「・・・え?」
私は診療所の中でラーナさんの前に立っていた。
「つまり、転移なさったと言う事ですね。」
あわあわとして要領を得ない私の話を落ち着いて聞きつつ、窓越しに殿下の様子を確かめ、椅子を引いてくれたラーナさんは、茫然としていた私の前に、温かいハーブティーを出してくれると、向かいの席にゆっくりと座った。
「行きたい場所、つまり私のいるこの部屋を思い浮かべて、行きたいと思ったのですね。」
「そう、だと思います・・・」
自分のした事なのにはっきりと答えられず、ぽつぽつ言葉を紡ぐ。
ラーナさんはそんな私を見て一つ頷くと、いつものように穏やかに言った。
「さぞ驚かれたことでしょう。でも、大丈夫です。魔力を使われただけのこと。坊ちゃまもそのように転移しておりました。」
血筋ですよ、と微笑まれて驚く。
「でも、私、魔力を使おうなんて思いもしませんでした。それに、ご存じのように私はついこの間まで魔力を封じられていたので、使い方も習っていません。術式も全く知らないのです。」
訴えると、ラーナさんはそれでいいのです、とまた頷いた。
「お嬢様の魔力は・・・つまり、黒の森に住んでいた御方の魔力は、そういう使い方をすると聞いています。私達一般の魔導師のように、術式を学び、魔力を乗せ、発動させる方法を必要としないと。」
「必要としない?」
「ええ。しなくても出来るけれど、しても出来る、とアルフレート坊ちゃまは仰っておいででした。つまり、お嬢様は先ほど、場所を思い浮かべ、行きたいと思うだけで気付かず魔力を使い転移していましたね?」
そうなんだろう。取り敢えず頷く。
「でも、一般の魔導師のように魔術を学び、転移の術式を組んで位置を特定し、魔力を乗せても、転移できると言う事です。その場合でも、慣れてくるとやろうとする術式が見えてくるそうですよ?」
「見えてくる・・・」
「どのようにご説明すれば良いのでしょう・・・もちろん坊ちゃまにお聞きすれば私などよりよほど上手くご説明頂けると思いますが・・・そうそう。」
少し考えをまとめる様に言葉を途切れさせたラーナさんは、にっこりと笑った。
「昔、坊ちゃまを見ていて思ったことがあります。まるで母なる言葉のように自然に無理なく魔力を使われると。」
「?」
「新しい言葉を習う時、言葉を一つずつ覚え、文の決まりを覚え、特有の言い回しを覚えますね。でも、母なる言葉はそれらを自然に覚えて使えるようになるでしょう?私たちにとって魔力の使用は新しい言葉を習うようなもの。一方お嬢様の血筋にとって魔力の使用は母なる言語を使うようなものと思えばよろしいかと。思いのままに操ることが出来るし、仕組みを学べば、より深く理論的に知ることが出来る・・・いかがですか?」
「・・・分かるような、気もします。」
まだ驚きが大きくて、納得しきれていないけれど。
でも、確かに自然で無理なく思った通りに出来たから。
頷いて目を上げると、ラーナさんはにこにこしながら言った。
「そのお茶を飲んで少し落ち着いたら、お迎えが来るまで、どんなことが出来るか試してみましょうか?」
結果から言うと。
その後一時ほど試してみて、思いついてやろうと思ったことは全て出来ることが分かった。
例えば畑に水を上げたり、例えば姿を隠してみたり、例えば遠くの物音を聞いてみたり、見えないものを見てみたり。
「すごい・・・!」
日差しが赤く染まりだし、夕暮れには迎えに行くよと言われていたのを思い出して部屋に戻ったけれど、私は大興奮だった。
「なんでかは分からないけど色々出来る!ラーナさん、魔力ってすごいわ!」
「特別な能力なんですけれどね・・・でも、今日色々試してみて、良かったのかもしれません。」
そう言うと、ラーナさんは今までで一番真面目な顔になった。
「お嬢様には魔力が安定するよう、この三日間色々な方法をお伝えしましたが・・・結局不安定になる元は坊ちゃまの魔力でしたからね。ご自分も相応に魔力が使えると、それだけで気持ちに余裕が生まれませんか?」
たしかに。
父さまはあれだけ約束して下さったし、母さまもいらっしゃるし、何もないとは思うけど。でも、取り敢えず転移できると思うだけで、心の余裕が違う気がする。
「そうですね。何かあっても自分で少しは何とか出来る、と思うだけで安心感が違います。」
答えた私の表情を見て、ラーナさんは、これでお役目が果たせたようですね、と目を細めた。
「最後に一つ、私から忠告を。明日から忙しくなるでしょう。魔力のお披露目は少し落ち着いてからにして、今夜はゆっくりお休みくださいね。」
そうだ、私やルー兄さまのお披露目は明日だった。オスカー兄上は昨日大学を卒業したから、今日の晩餐には街屋敷に顔を出す、と連絡があったし、フィン兄さまもきっといらっしゃる、、、。
思い出すとソワソワしてしまう。
「まあまあ、落ち着いて。もう一杯お茶を飲んでいきますか?」
ラーナさんに窘められたけれど。
結局迎えに来た父さまをはじめ、家族中に驚かれ、いい気になって魔力を披露した私は、興奮のあまり全く寝付けず、夜明けを迎えてしまったの。
ラーナさん、ご忠告守れなくて、今頃反省しています、、、。
心配だけど私は殿下には近づけない。
つまり、診療所の前にいるのに真っ青な殿下、、、しかも今はライムンドの姿なのに、、、をなぜ連れて行かないかと言われても答えられない。
それはライムンドになっている殿下も同じだろう。
困った私は診療所にいるラーナさんを思い出し、取り敢えず戻ろう、と思った。
次の瞬間。
「・・・え?」
私は診療所の中でラーナさんの前に立っていた。
「つまり、転移なさったと言う事ですね。」
あわあわとして要領を得ない私の話を落ち着いて聞きつつ、窓越しに殿下の様子を確かめ、椅子を引いてくれたラーナさんは、茫然としていた私の前に、温かいハーブティーを出してくれると、向かいの席にゆっくりと座った。
「行きたい場所、つまり私のいるこの部屋を思い浮かべて、行きたいと思ったのですね。」
「そう、だと思います・・・」
自分のした事なのにはっきりと答えられず、ぽつぽつ言葉を紡ぐ。
ラーナさんはそんな私を見て一つ頷くと、いつものように穏やかに言った。
「さぞ驚かれたことでしょう。でも、大丈夫です。魔力を使われただけのこと。坊ちゃまもそのように転移しておりました。」
血筋ですよ、と微笑まれて驚く。
「でも、私、魔力を使おうなんて思いもしませんでした。それに、ご存じのように私はついこの間まで魔力を封じられていたので、使い方も習っていません。術式も全く知らないのです。」
訴えると、ラーナさんはそれでいいのです、とまた頷いた。
「お嬢様の魔力は・・・つまり、黒の森に住んでいた御方の魔力は、そういう使い方をすると聞いています。私達一般の魔導師のように、術式を学び、魔力を乗せ、発動させる方法を必要としないと。」
「必要としない?」
「ええ。しなくても出来るけれど、しても出来る、とアルフレート坊ちゃまは仰っておいででした。つまり、お嬢様は先ほど、場所を思い浮かべ、行きたいと思うだけで気付かず魔力を使い転移していましたね?」
そうなんだろう。取り敢えず頷く。
「でも、一般の魔導師のように魔術を学び、転移の術式を組んで位置を特定し、魔力を乗せても、転移できると言う事です。その場合でも、慣れてくるとやろうとする術式が見えてくるそうですよ?」
「見えてくる・・・」
「どのようにご説明すれば良いのでしょう・・・もちろん坊ちゃまにお聞きすれば私などよりよほど上手くご説明頂けると思いますが・・・そうそう。」
少し考えをまとめる様に言葉を途切れさせたラーナさんは、にっこりと笑った。
「昔、坊ちゃまを見ていて思ったことがあります。まるで母なる言葉のように自然に無理なく魔力を使われると。」
「?」
「新しい言葉を習う時、言葉を一つずつ覚え、文の決まりを覚え、特有の言い回しを覚えますね。でも、母なる言葉はそれらを自然に覚えて使えるようになるでしょう?私たちにとって魔力の使用は新しい言葉を習うようなもの。一方お嬢様の血筋にとって魔力の使用は母なる言語を使うようなものと思えばよろしいかと。思いのままに操ることが出来るし、仕組みを学べば、より深く理論的に知ることが出来る・・・いかがですか?」
「・・・分かるような、気もします。」
まだ驚きが大きくて、納得しきれていないけれど。
でも、確かに自然で無理なく思った通りに出来たから。
頷いて目を上げると、ラーナさんはにこにこしながら言った。
「そのお茶を飲んで少し落ち着いたら、お迎えが来るまで、どんなことが出来るか試してみましょうか?」
結果から言うと。
その後一時ほど試してみて、思いついてやろうと思ったことは全て出来ることが分かった。
例えば畑に水を上げたり、例えば姿を隠してみたり、例えば遠くの物音を聞いてみたり、見えないものを見てみたり。
「すごい・・・!」
日差しが赤く染まりだし、夕暮れには迎えに行くよと言われていたのを思い出して部屋に戻ったけれど、私は大興奮だった。
「なんでかは分からないけど色々出来る!ラーナさん、魔力ってすごいわ!」
「特別な能力なんですけれどね・・・でも、今日色々試してみて、良かったのかもしれません。」
そう言うと、ラーナさんは今までで一番真面目な顔になった。
「お嬢様には魔力が安定するよう、この三日間色々な方法をお伝えしましたが・・・結局不安定になる元は坊ちゃまの魔力でしたからね。ご自分も相応に魔力が使えると、それだけで気持ちに余裕が生まれませんか?」
たしかに。
父さまはあれだけ約束して下さったし、母さまもいらっしゃるし、何もないとは思うけど。でも、取り敢えず転移できると思うだけで、心の余裕が違う気がする。
「そうですね。何かあっても自分で少しは何とか出来る、と思うだけで安心感が違います。」
答えた私の表情を見て、ラーナさんは、これでお役目が果たせたようですね、と目を細めた。
「最後に一つ、私から忠告を。明日から忙しくなるでしょう。魔力のお披露目は少し落ち着いてからにして、今夜はゆっくりお休みくださいね。」
そうだ、私やルー兄さまのお披露目は明日だった。オスカー兄上は昨日大学を卒業したから、今日の晩餐には街屋敷に顔を出す、と連絡があったし、フィン兄さまもきっといらっしゃる、、、。
思い出すとソワソワしてしまう。
「まあまあ、落ち着いて。もう一杯お茶を飲んでいきますか?」
ラーナさんに窘められたけれど。
結局迎えに来た父さまをはじめ、家族中に驚かれ、いい気になって魔力を披露した私は、興奮のあまり全く寝付けず、夜明けを迎えてしまったの。
ラーナさん、ご忠告守れなくて、今頃反省しています、、、。
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