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帝都のひと夏
カレンブルクのお茶会へようこそ(ディアナは居心地が悪いⅡ知り合いの男の子の母親に会うのは気が重い)
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「あらあら、まあまあ、これはこれは!」
眼をキラキラさせながらそう言って扇で口元を隠した貴婦人を見て、ディアナは引きつり笑いを浮かべつつ、内心盛大に溜め息を吐いた。
あーこれは。
一見意味の無い言葉ばかりだけど、中身が相当あるパターンだわ。かなり手強そうなご婦人だけど、でも、このテーブルではないって侍女さんは言ってたわよね、、、。
期待を込めて侍女さんを見上げるも、貴婦人は容赦なかった。
「あなた、私の席もここにして頂戴。息子が座ってもまだ一つ空いてるんですもの。ここの予定の方には、別の席に行って頂いて?」
「夫人それは・・・」
「母上、やめて下さい。カレンブルク侯にもこの席の方にも失礼ですよ?」
「ジキスちゃんは真面目ねぇ。大丈夫よ。この席、どうせ子供たち用でしょう?どなたにしろ、いらしたらどきますから。ね?」
侍女が困り、ジキスムント君が慌てて一歩前に出て注意するも、貴婦人・・・なんとジキスムント君の母上だった、、、は、さっさとテーブルを回り、ルー兄さまの隣の席まで行ってしまった。
「お隣、よろしくて?」
にっこりされれば、例えデビューしていなくとも貴族男子たるものエスコートせざるを得ない。
「勿論です、ロイス侯夫人。」
ルー兄さまは先ほどの黒さはみじんも見せずに、にっこり微笑み席を立つと、優雅に椅子を引いてジキスムント君の母上、、、ロイス侯夫人を座らせた。
「それでね、ジキスちゃんたら、入学前で忙しいって言って、最近は全然私に付き合ってくれないのよ。昔は『母上僕も連れてって』て、夜会に出かける私のドレスの裾を握って泣いたのに。」
「もうやめて下さい、母上・・・」
力無いジキスムント君の声に、爽やかなルー兄さまの声がかぶる。
「なるほど。ロイス侯夫人はロイス卿を慈しんでいらっしゃるのですね。愛する我が子と、いつまでも楽しい思い出を共有したいと。」
「それなのよ!ルーファス様は母の気持ちをよくご存じでいらっしゃるわ。うちのジキスちゃんにも見習って欲しいわ!それでね・・・」
ロイス侯夫人は手強かった。
先ず、まったく他人の話を聞かないで話し続ける。しかも話が飛ぶので、話題を上手く逸らすことが出来ないのだ。
始めは何とか母親を黙らせようとしたジキスムント君は『ジキスちゃん』を連発されて早々に撃沈し、私はそばに呼ばれて瞳をしげしげと覗き込まれ、愛想笑いをするのが精一杯。席に戻ってぐったりしている私とジキスムント君を尻目に、一人にこやかに付き合っているのは、普段無口なルー兄さまだった。
さっきから散々幼児時代の息子話を暴露していたロイス侯夫人は、今は最近仲良しの御婦人たちの話をしている。
こっちへの関心が薄れたのを確認してから、私はジキスムント君に思い切ってそっと声を掛けた。
「大変でしたわね?」
虚ろな眼差しを紅茶に向けていたジキスムント君の肩がビクッとした。一瞬ためらうように動きが止まってから、ゆっくりとこちらを向く。
「いや、、、こちらこそ、母が不躾で申し訳ない。」
先日の挨拶の時とは違って、きちんと私の視線を捉えた眼差しは真摯で、ライとして会っていた時の彼を思い出させてくれた。
今日は、上手く話せるかも。そう思えば、この状況を作ってくれたカレンブルク侯にもロイス侯夫人にも、感謝しかないわ。
「いいえ、明るくて楽しい方ですね。」
フフッと笑めば、釣られたようにジキスムント君の口元も緩んだ。
「ああ、うちは俺も父も無口なので。母が賑やかにしてくれないと屋敷全体が沈んだようになってしまうんです。」
あんな風で、困ったところもありますが、、、言いつつも母親に向ける眼差しはやさしい。
ああ、なんだかんだ言って仲良しなんだな。そう思ったら、何だかからかいたくなった。
「仲が良くて素敵ですわ。うちも家族仲は良いと思いますけれど、母は騎士ですから、小さい時から子供にちゃん付けは無くて・・・」
にっこりしながらジキスムント君の顔を覗き込めば、途端に彼は真っ赤になった。
「あ、あれは・・・止めて欲しいと何度も言っているのだが・・・」
「あら、親しみやすくて良いと思いますわ。私も呼ばせて頂いてもよろしくて?」
小首を傾げてちょっと意地悪を言ってみると、彼は真っ赤な顔のまま押し黙ってしまった。
あ、虐めすぎたかも。
「御免なさい。ちょっと意地悪でしたわ。許して下さる?ロイス卿。」
慌てて謝った時。
「御免なさい、て・・・何をしたんですの?」
女の子の鋭い声が背中からして、私は驚いて振り返った。
眼をキラキラさせながらそう言って扇で口元を隠した貴婦人を見て、ディアナは引きつり笑いを浮かべつつ、内心盛大に溜め息を吐いた。
あーこれは。
一見意味の無い言葉ばかりだけど、中身が相当あるパターンだわ。かなり手強そうなご婦人だけど、でも、このテーブルではないって侍女さんは言ってたわよね、、、。
期待を込めて侍女さんを見上げるも、貴婦人は容赦なかった。
「あなた、私の席もここにして頂戴。息子が座ってもまだ一つ空いてるんですもの。ここの予定の方には、別の席に行って頂いて?」
「夫人それは・・・」
「母上、やめて下さい。カレンブルク侯にもこの席の方にも失礼ですよ?」
「ジキスちゃんは真面目ねぇ。大丈夫よ。この席、どうせ子供たち用でしょう?どなたにしろ、いらしたらどきますから。ね?」
侍女が困り、ジキスムント君が慌てて一歩前に出て注意するも、貴婦人・・・なんとジキスムント君の母上だった、、、は、さっさとテーブルを回り、ルー兄さまの隣の席まで行ってしまった。
「お隣、よろしくて?」
にっこりされれば、例えデビューしていなくとも貴族男子たるものエスコートせざるを得ない。
「勿論です、ロイス侯夫人。」
ルー兄さまは先ほどの黒さはみじんも見せずに、にっこり微笑み席を立つと、優雅に椅子を引いてジキスムント君の母上、、、ロイス侯夫人を座らせた。
「それでね、ジキスちゃんたら、入学前で忙しいって言って、最近は全然私に付き合ってくれないのよ。昔は『母上僕も連れてって』て、夜会に出かける私のドレスの裾を握って泣いたのに。」
「もうやめて下さい、母上・・・」
力無いジキスムント君の声に、爽やかなルー兄さまの声がかぶる。
「なるほど。ロイス侯夫人はロイス卿を慈しんでいらっしゃるのですね。愛する我が子と、いつまでも楽しい思い出を共有したいと。」
「それなのよ!ルーファス様は母の気持ちをよくご存じでいらっしゃるわ。うちのジキスちゃんにも見習って欲しいわ!それでね・・・」
ロイス侯夫人は手強かった。
先ず、まったく他人の話を聞かないで話し続ける。しかも話が飛ぶので、話題を上手く逸らすことが出来ないのだ。
始めは何とか母親を黙らせようとしたジキスムント君は『ジキスちゃん』を連発されて早々に撃沈し、私はそばに呼ばれて瞳をしげしげと覗き込まれ、愛想笑いをするのが精一杯。席に戻ってぐったりしている私とジキスムント君を尻目に、一人にこやかに付き合っているのは、普段無口なルー兄さまだった。
さっきから散々幼児時代の息子話を暴露していたロイス侯夫人は、今は最近仲良しの御婦人たちの話をしている。
こっちへの関心が薄れたのを確認してから、私はジキスムント君に思い切ってそっと声を掛けた。
「大変でしたわね?」
虚ろな眼差しを紅茶に向けていたジキスムント君の肩がビクッとした。一瞬ためらうように動きが止まってから、ゆっくりとこちらを向く。
「いや、、、こちらこそ、母が不躾で申し訳ない。」
先日の挨拶の時とは違って、きちんと私の視線を捉えた眼差しは真摯で、ライとして会っていた時の彼を思い出させてくれた。
今日は、上手く話せるかも。そう思えば、この状況を作ってくれたカレンブルク侯にもロイス侯夫人にも、感謝しかないわ。
「いいえ、明るくて楽しい方ですね。」
フフッと笑めば、釣られたようにジキスムント君の口元も緩んだ。
「ああ、うちは俺も父も無口なので。母が賑やかにしてくれないと屋敷全体が沈んだようになってしまうんです。」
あんな風で、困ったところもありますが、、、言いつつも母親に向ける眼差しはやさしい。
ああ、なんだかんだ言って仲良しなんだな。そう思ったら、何だかからかいたくなった。
「仲が良くて素敵ですわ。うちも家族仲は良いと思いますけれど、母は騎士ですから、小さい時から子供にちゃん付けは無くて・・・」
にっこりしながらジキスムント君の顔を覗き込めば、途端に彼は真っ赤になった。
「あ、あれは・・・止めて欲しいと何度も言っているのだが・・・」
「あら、親しみやすくて良いと思いますわ。私も呼ばせて頂いてもよろしくて?」
小首を傾げてちょっと意地悪を言ってみると、彼は真っ赤な顔のまま押し黙ってしまった。
あ、虐めすぎたかも。
「御免なさい。ちょっと意地悪でしたわ。許して下さる?ロイス卿。」
慌てて謝った時。
「御免なさい、て・・・何をしたんですの?」
女の子の鋭い声が背中からして、私は驚いて振り返った。
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