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帝都のひと夏
美しい薔薇園には、、、Ⅳ
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ロンヌ王国の王子の邸宅とはつまり、ロンヌ王国の公邸。そんなところで衆人環視の中、エティエンヌ殿下に向かって剣を振り回すなんで、下手をしたら宣戦布告に取られかねない。
そんなこと、一国の王子であるマックス殿下がする訳がない。第一、間近で見るマックス殿下の目は、エティエンヌ殿下を捉えてはいない。その周辺にある、と彼が思っている何かと対峙しているだけ。
よく見れば、マックス殿下の視線の向こう、エティエンヌ殿下の周囲には、魔術陣がいくつも浮かんでいる。巧妙に隠されていて何の術かすぐ分からないけれど、絶対にあれが原因だわ。でも、誰が?何のために?ああ、でもとにかく今は、一瞬でも早くマックス殿下を止めなくちゃ!
「殿下!」
思わずマックス殿下に向かって叫んでしまった私に、なぜかエティエンヌ殿下がチラッと視線を向けて。
目が合った?と思った瞬間、エティエンヌ殿下は微かに笑った。
剣を向けられているのに、その余裕の笑み。まさか、、、?
思わず睨みつけてしまったその時。
再びフッと空気が揺らいで、同時に魔術陣が消える。
次の瞬間。
「え・・・?」
突然、ライの姿のマックス殿下の動きが止まった。一瞬目を見開いた後、慌てて周囲を見回そうとしている。短剣を構えた腕は止まったままだ。
「今だ!捕らえろ!」
その隙に駆け寄った護衛騎士に、マックス殿下はあっさり拘束されてしまった。
ライの格好なんだから、それが正解、むしろそれしかないんだけど。
未だ呆然とした風で、でも素早く立場をわきまえたマックス殿下のところに、すぐに駆け寄りたい。
でも。
一歩踏み出そうとした私を引き止めるかのように、手を握ったままのルー兄さまの手に、力が込められた。
「!」
驚いて振り仰いだ私に向かって。
「何か、見えたか?」
見たことのないほど険しい表情の兄さまは、低い声で、そっと囁いた。
何か・・・見えたわ。兄さまは予測してたの?
こくこく頷くと、心話で、と囁き返される。
『魔術陣が、エティエンヌ殿下の周りに!何を発動してたかは分からないんだけど、でも、多分あれはエティエンヌ殿下が・・・!』
私は息を吐くと、心を落ち着けて伝える。
そう、あれはエティエンヌ殿下の仕業に違いない。この場にいる他の誰からも、あんなに絶妙な魔術展開ができる能力を感じないもの。
その点彼は、普段はフィン兄さまと大学で魔術の研究をしているんだもの。
あれくらいの目眩しや操作、出来てもおかしくないわ。
「そうか、やはり始まったか・・・」
そう呟くと、ルー兄さまは、私の目を覗き込んだ。
『ここからは、ディーの協力が必要だ。だから、僕がお願いするまでは、静かにしているんだよ。』
心に響く言葉に再びこくこくと頷くと、ルー兄さまは、険しい表情のまま、微かに笑みを浮かべてみせた。
すぐに連行されるかと思ったマックス殿下は、意外にもエティエンヌ殿下の足元に押さえつけられ、跪かされた。
周囲には、いつの間にこれほど、と言うほど多くの護衛騎士がいる。
まるで、この事件が起こるのを予想していたように。
そして、それを遠巻きに見つめる、薔薇園を見にきたオストマルク帝国貴族。本人たちにその気はなくとも、これではロンヌ王国の言いがかりと言われないための証人として呼ばれたみたい。
「見て!あの少年は・・・」
「そう、バーベンベルクの・・・」
「なんて恐ろしい・・・」
そして、ロンヌ王国の、おそらくエティエンヌ殿下の思惑通り、ライの姿のマックス殿下を、バーベンベルクを犯罪者のように見て騒ぎ始めた。
「違う・・・」
「ディー、落ち着いて。今は静かに。」
周りの非難の声にたまらず声をあげようとした私に、ルー兄さまは重ねて黙るように言って、ギュッと手を握ってきた。
何か策があると言うのは分かったけれど、でも、何の説明も受けてないから、不安で心臓がどくどくいう。
けれど、再び見上げた兄さまの横顔は、険しいながらも落ち着いていて。
私がフッと息を吐いた時。
「やあ、君はバーベンベルク辺境伯家の侍従君だね?なんでロンヌ王国の公邸でロンヌの王子である僕に襲いかかってきたの?」
たった今襲われたとは思えないほど、穏やかな落ち着いた声で。
エティエンヌ殿下はライの姿のマックス殿下に話しかけた。
そんなこと、一国の王子であるマックス殿下がする訳がない。第一、間近で見るマックス殿下の目は、エティエンヌ殿下を捉えてはいない。その周辺にある、と彼が思っている何かと対峙しているだけ。
よく見れば、マックス殿下の視線の向こう、エティエンヌ殿下の周囲には、魔術陣がいくつも浮かんでいる。巧妙に隠されていて何の術かすぐ分からないけれど、絶対にあれが原因だわ。でも、誰が?何のために?ああ、でもとにかく今は、一瞬でも早くマックス殿下を止めなくちゃ!
「殿下!」
思わずマックス殿下に向かって叫んでしまった私に、なぜかエティエンヌ殿下がチラッと視線を向けて。
目が合った?と思った瞬間、エティエンヌ殿下は微かに笑った。
剣を向けられているのに、その余裕の笑み。まさか、、、?
思わず睨みつけてしまったその時。
再びフッと空気が揺らいで、同時に魔術陣が消える。
次の瞬間。
「え・・・?」
突然、ライの姿のマックス殿下の動きが止まった。一瞬目を見開いた後、慌てて周囲を見回そうとしている。短剣を構えた腕は止まったままだ。
「今だ!捕らえろ!」
その隙に駆け寄った護衛騎士に、マックス殿下はあっさり拘束されてしまった。
ライの格好なんだから、それが正解、むしろそれしかないんだけど。
未だ呆然とした風で、でも素早く立場をわきまえたマックス殿下のところに、すぐに駆け寄りたい。
でも。
一歩踏み出そうとした私を引き止めるかのように、手を握ったままのルー兄さまの手に、力が込められた。
「!」
驚いて振り仰いだ私に向かって。
「何か、見えたか?」
見たことのないほど険しい表情の兄さまは、低い声で、そっと囁いた。
何か・・・見えたわ。兄さまは予測してたの?
こくこく頷くと、心話で、と囁き返される。
『魔術陣が、エティエンヌ殿下の周りに!何を発動してたかは分からないんだけど、でも、多分あれはエティエンヌ殿下が・・・!』
私は息を吐くと、心を落ち着けて伝える。
そう、あれはエティエンヌ殿下の仕業に違いない。この場にいる他の誰からも、あんなに絶妙な魔術展開ができる能力を感じないもの。
その点彼は、普段はフィン兄さまと大学で魔術の研究をしているんだもの。
あれくらいの目眩しや操作、出来てもおかしくないわ。
「そうか、やはり始まったか・・・」
そう呟くと、ルー兄さまは、私の目を覗き込んだ。
『ここからは、ディーの協力が必要だ。だから、僕がお願いするまでは、静かにしているんだよ。』
心に響く言葉に再びこくこくと頷くと、ルー兄さまは、険しい表情のまま、微かに笑みを浮かべてみせた。
すぐに連行されるかと思ったマックス殿下は、意外にもエティエンヌ殿下の足元に押さえつけられ、跪かされた。
周囲には、いつの間にこれほど、と言うほど多くの護衛騎士がいる。
まるで、この事件が起こるのを予想していたように。
そして、それを遠巻きに見つめる、薔薇園を見にきたオストマルク帝国貴族。本人たちにその気はなくとも、これではロンヌ王国の言いがかりと言われないための証人として呼ばれたみたい。
「見て!あの少年は・・・」
「そう、バーベンベルクの・・・」
「なんて恐ろしい・・・」
そして、ロンヌ王国の、おそらくエティエンヌ殿下の思惑通り、ライの姿のマックス殿下を、バーベンベルクを犯罪者のように見て騒ぎ始めた。
「違う・・・」
「ディー、落ち着いて。今は静かに。」
周りの非難の声にたまらず声をあげようとした私に、ルー兄さまは重ねて黙るように言って、ギュッと手を握ってきた。
何か策があると言うのは分かったけれど、でも、何の説明も受けてないから、不安で心臓がどくどくいう。
けれど、再び見上げた兄さまの横顔は、険しいながらも落ち着いていて。
私がフッと息を吐いた時。
「やあ、君はバーベンベルク辺境伯家の侍従君だね?なんでロンヌ王国の公邸でロンヌの王子である僕に襲いかかってきたの?」
たった今襲われたとは思えないほど、穏やかな落ち着いた声で。
エティエンヌ殿下はライの姿のマックス殿下に話しかけた。
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感想ありがとうございます。
ほんと、お子様ですね〜。
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しかし、失礼な大人はなんとかしないと!!
お忙しい中、更新ありがとうございます❗️嬉しいです。どうぞお疲れを出されませんように…
ねこママ様
感想ありがとうございます。
お気遣いありがとうございます。
気分転換を兼ねて、頑張って進めて行こうと思ってます。
更新ありがとうございます♪
ディーちゃんモテモテ笑また楽しみにしてます。パパ様大好きです。
さめ姫様
ご無沙汰しています。感想ありがとうございます。
再開しました!
頑張って進めますので、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。