帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです

波月玲音

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帝都のひと夏

美しい薔薇園には、、、Ⅲ(マクシミリアン殿下は思い返す)

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今朝早くに、今、最も会いたくない、でも最も会う必要のある奴に呼ばれた。
アルフレート・ユリウス・グンタハール。
オストマルク帝国この国の魔導師の親玉で、俺の生殺与奪を握っているいけすかない男。
本当は這いつくばってでも赦しを乞い、さっさと元の体に戻してもらうべきなんだろうが、下手を打つともっと酷い状況になりかねない。
どうしたものか。
対応を決めかねつつ部屋に入ると、すでに身支度を済ませた姿で窓の外を眺めていた奴は、振り返りもせずこう言った。
「今日の外出では、必ずルーファスとディアナあの子達から離れないように。」
「僕に窒息して死ねと言うわけですね?」
侍従としての指示なんだろうから黙って頷けばよかったのだろうが、ユラン王国第一王子に対しての気遣いの無さ、俺の体に滅茶苦茶な魔術を施したことへの罪悪感の無さに、つい嫌味で答えてしまった。
だが、そんなことではこの鉄面皮が揺らぐことは無いらしい。
ちら、と俺を無表情のまま見やると、ふ、とため息を吐いて、一言、
「自業自得だ。盛りのついた思春期のガキが。」
そう言って、また窓の外を向いてしまった。
ムッとした俺が短慮だが、それにしても取り付く島もない。今回はこのまま引き下がるか・・・。
そう思って一礼して廊下への扉を開けようとした時、奥の扉が開いて貴婦人が現れた。
「?」
ひどく見慣れた、でも見知らぬ貴婦人に戸惑い、つい見つめてしまうと、相手はにこやかに声をかけてくる。
「殿下。お早いですね。何か御用ですか?」
「!・・・閣下でしたか。普段のお姿とあまりに違うので、目が離せませんでした。ご無礼をお許しください。」
貴婦人は、珍しくもデイドレスを身に纏ったバーベンベルク辺境伯のエレオノーレ殿だった。
この人は、普段軍服しか着ないから忘れがちだけれど、一度装うと、その背の高さ、姿勢の良さ、スタイルの良さ、顔立ちの華やかさ、髪の色、、、本当に人目を引く美人だ。
貴婦人に対する礼をすれば、エレオノーレ殿は照れ臭そうに笑って手を振った。
「今日は朝からあちこち顔を出さねばならなくて。ユラン王宮で美女に囲まれている殿下のお目汚しにならねばいいのですが。」
「いえ。朝露をまとう大輪の薔薇のようにお美しいですよ。」
王族の条件反射で褒め言葉を口にしつつ、素早く考えを巡らせる。
今がエレオノーレ殿に頼み込んで、腕輪を取ってもらえるチャンスなのでは、、、!
「・・・それで実はご相談・・・」
「そうですね、忙しいのですから侍従相手に話す暇などありませんよ。エレオノーレ。行きましょう。」
話しかけようと一歩踏み出すと、遮るように魔導師団長が近づいて立ち塞がった。
余計なことは言うな、とばかりに一瞥してくるが、こっちもスカートを履いて帰国する訳に行かないのだから必死だ。
睨み合っていると、エレオノーレ殿が奴の肩越しにひょいと顔を覗かせた。
「アル、話してる途中で遮るなっていつも言って・・・。あ、もしかして、今日のあの子たちの茶会の件で殿下をお呼びしたのか?」
「ええ、ですがもう用は済んだので・・・」
出かけよう、と手を取る夫の手を軽く叩いて宥めつつ、エレオノーレ殿は俺に向かって申し訳なさそうに笑いかけた。
「殿下にはご足労ですが、今日はあの子達への付添いをお願いします。何かあっても困るので、決して離れないようにしていただきたい。」
「それは、侍従として当然ですが・・・」
答えながら、不図疑問に思う。たかが親戚の茶会に行くのに、この二人から、敢えてこの注意。何かあるのか?
若しや、離れて困るのは、あの兄妹ではなくて、この俺、、、?
「大丈夫です。」
俺の逡巡に気付いたエレオノーレ殿は、安心させるように笑みを深めた。
「殿下のことは、まあ色々ありますが、バーベンベルクがお守りすると決めたのです。ご心配には及びませんよ。あの子達もまあまあ頼りになりますし、なんと言ってもこちらには、稀代の魔導師がいますから。な、アル。」
「そう、ですか・・・」
ご心配には及びませんなんて言われて、却ってはっきりした。今日の茶会のターゲットは俺だ。何かが起こる。そしておそらく俺はそれに巻き込まれる。
どうする?この二人を信頼していいのか?出かけていいのか?この屋敷に居た方が安全では無いのか?
俺は笑顔を保ちつつ、必死に思考を巡らせる。
だが。
旅の間、軍の指揮官として有能さを発揮したエレオノーレ殿の、夫への眼差しには全幅の信頼があった。そして、その視線の先にいる夫である、あのいけすかない魔導師団長は、、、。
ため息を一つ吐くと、俺にちら、と視線を向けた。
一瞬、俺の腕から決して取れない腕輪がポウ、と光る。
「・・・近づいても息は出来るようにしてやる。だから離れるな。」
それだけ言うと、今度こそエレオノーレ殿の手を取り、さっさと俺の前を通り過ぎ、出て言ってしまった。
「え?」
「アル?何の話・・・」
パタン、と扉がしまる。
「・・・息が出来るってことは、まあ、生かす気があるってことだよな。」
たとえスカート履いて帰国させる気だとしても。
今日を生かす気はあるなら、何とかなる、はずだ。
一人取り残された俺は、多くを考えることを止めた。
そして、取り敢えず、何があっても、今日一日、ルーファスとディアナあの二人にくっついていようと心に誓ったのだった。

それなのに、、、。

茶会の席では問題は無かった。カレンブルク侯の視線や口調はやや気になったが、実際何事も起こらなかったから、帰ろうと二人が席を立った時には、気が抜けたくらいだ。
ロンヌ王国の王子だという優男にディアナ嬢がちょっかいをかけられた時も、俺に注目が集まることは無かった。
薔薇園に無理矢理行くことになり、ルーファスに、お前だけ帰るか?と聞かれた時には、変な男に絡まれているディアナ嬢を置いて帰れるか、無事に連れ帰らなくては、なんて、柄にもなく思っていたくらいだったんだ。

それなのに、、、。

薔薇園に向かう馬車の中でも、刺客や事故を警戒していたけれど何事も無くて。むしろ、ロンヌの王子に攫われるように馬車に乗せられたディアナ嬢が無事か、ルーファスと二人ヤキモキしていたのに。
薔薇園でも、なるべくロンヌの王子から離れ、三人で固まるように歩いていたのに。

いつの間にか高い生垣に視界を閉ざされる薔薇の小道を歩いていて。ほんの少し前までは、確かにディアナ嬢のすぐ後ろを歩いていた筈なのに、ふと気づくと周囲に誰もいなくて。

立ち止まって周囲を見回した瞬間、視界がぐらりと揺らいで。
次の瞬間、前方から何者かが襲いかかってきたんだ。



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