群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

文字の大きさ
98 / 147
三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ⑪<王子4> 『人影』

しおりを挟む

⑯【ロキ】

「シルワぁああああッ!!」
 触手に振り回された彼女の身体は、窓をぶち破り、夜空へと放たれる。
 思考よりも先に、俺の身体は動いていた。シルワを追って、窓から夜空へと飛び立つ。

 彼女の柔らかな身体を抱きしめ、夜を纏《まと》う。

「っざけんなッ!!」
 近づいていく地上を見つめながら俺は叫ぶ。姿の見えない敵に悪意を吐き捨てる。
 駄目だ。落下地点近くに植木も水も見当たらない。
 このままだと床に叩きつけられて終わる。内臓を撒き散らして即死する。

 シルワの身体が離れないよう押さえながら、腰に付けた革袋から目的の物を取り出した。手の平に収る程度のタブレット菓子のような物体だ。

 いつかどこかで使えると思っていたが……まさか、こんな場面とはな!

「シルワ! 借りるぞ!」
 目的の物を手の平に納めたまま、シルワの太股から針を一本抜き、針先を手の平にあてる。
 ……最悪、片手は使えなくなるだろう。

「だが、死ぬよりマシだ!」
 覚悟を決め、タブレット菓子のような物体に針を突き刺した。

 圧縮された大量の空気が一気に解放され、手のひらを飛ばし、鼓膜を刺激し、俺達を吹き飛ばす。
 『爆圧錠』。ネルが熱気球のため開発した物だ。一つだけくすねてきたが、こんな早々のタイミングで使う羽目になるとはな。

 空気に弾かれた片腕が痛い。だが、美味い具合に外側へ衝撃が分散されたらしい。骨は折れてないようだし、動かせないほどではない。
 落下方向が変わり、俺達は小高い樹の茂みに放り込まれた。
 枝が身体にぶつかり、へし折れていく。シルワを抱えながら、痛む手のひらを酷使し必死に枝を掴もうともがく。そして――

 二人分の重みが俺の腕に衝撃を与える。肩が抜けそうだ。だが、なんとか……枝を掴むことができた。
 かなりの高さから落下してしまったが、下を見ると床はまだ遙か下だ。
 ここから落ちたとしても、無事では済まないだろう。

 腹を貫かれたシルワは気絶している。
 片手はシルワを、片手は枝を掴んでいるが、その力は少しずつ弱まっていってる。

 これは、マズい。
 もう、打ち手が思いつかない。
 俺がここでシルワを離せば、自分一人であれば、恐らく助かる事ができるだろう。
 だが、そんな提案は当然、却下だ。

 絶対に有り得ない。

 俺は絶対に、仲間を見捨てたりしない。
 愛していると言ってくれた女を、絶対に見殺しにはしない。

 ――べきり、と低い音が頭上から響いてきた。
 身体が大きく下へと移動する。

「……嘘だろ、おい」
 俺の手にした枝がへし折れていく。二人分の重みで大きくしなり、それに耐えきれずに破れていく。

 それは突然訪れた。二人を支えていた俺の腕がその重みから解放され、身体が重力のされるがままに動いていく。
 もう『爆圧錠』もない。魔石を使う余裕もない。
 打つ手は、尽きた。

 その時、俺は見た。
 高見の広場上空から落下を続けていたからこそ、見ることができた。

 広場の中央に人影が立っていた。
 遠く暗闇に紛れ、その姿ははっきりとは見ることができない。だが、確かにそこに誰かが立っていた。
 人影の背中付近で、緑色の炎が噴き上がっている。その炎の光に紛れ、その姿ははっきりとは分からない。

 だが、確実に、そこには人間が立っていた。

 そして――

 広場を支える古木、支柱の役割を果たしてる太い木の前に、巨人の影が立っていた。
 それは四本の古木それぞれに一体ずつ存在した。

 両手を重ね合わせ、頭の上に腕を振り上げている。

「まさか……まさか!」
 四体の巨大な影が、同時に腕を振り下ろした。

 衝撃が『森のノカ』を包み込んだ。



⑰【ロキ】
 四本の支柱から受ける支えを失った高見の広場が崩壊する。瓦礫へと一瞬で変わり『夜のノカ』へと降り注いでいく。
 そして――広場の瓦礫とともに落下を続ける俺とシルワ。

「なんだってんだ!」
 広場の床に叩きつけられなかったのは幸運だったが、危機は去っていない。
 広場の床に叩きつけられるか、大地の藻屑へと変わるのか、それだけの違いでしかない。

 流れる古木達の隙間を落ちていく。瓦礫が太い古木の枝にあたり砕け散っていく。
 広場を崩壊させた巨人達の姿は見当たらない。崩壊させた瞬間に消え失せていた。

 変わりに――

「あれは……なんだ?」
 落ちる瓦礫から瓦礫へと飛び移りながら黒い影が素早く動き回っている。
 それは瓦礫を足場にしながら俺達に近づいてくる。

「……い、犬?」
 それは犬の影だった。大型犬サイズの影が落ちる瓦礫から瓦礫へと飛び跳ね、視界に見えるその姿が大きくなっていく。

 俺に飛びかかった犬の影が口らしき部分で俺の服にを噛む。その瞬間変化が起こった。
 影で作られた犬の身体が、大きな翼を持つ鳥の影へと形を変化させたのだ。

 翼を羽ばたかせ、浮かぼうともがき続ける。

「……大白鳩《シェバト》の影か? これは」
 大陸で鶏馬《ルロ》の次に有名な鳥だ。貴族から平民まで、様々な人間に愛されながら食べられている。
 人の子供くらいは抱えて飛べるだろうが、こちらは大人二人分だ。浮力は感じず落ち続ける。
 だがそれも僅かな時間だった。次々に大白鳩《シェバト》の影が俺の周りに集まりだしたからだ。
 俺の服を咥えていく。大きな鉤爪で掴んでくる。
 視界が影に覆われながら、落下速度が弱まっていくのを身体で感じ取る。

「俺達を……助けているのか?」
 俺の疑問に答えられる存在はどこにもいなかった。
 大白鳩《シェバト》に囲まれた俺はゆっくりと、森の大地へと降ろされた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

処理中です...