127 / 129
過去の裏話 ある日の話
過去回想:聖域の火花。弓から顕現する聖霊と、若き正妻の覚悟
しおりを挟むそれは、結衣が現実で健太郎に初めて身を捧げた数日後のこと。健太郎が現実の工房で急ぎの注文品を仕上げている間、結衣は意を決して、一人でゲーム内の拠点へとログインした。
無人の工房には、健太郎が愛用する漆黒の弓――アイリスの依代(よりしろ)が、主の帰りを待つように祭壇へ鎮座していた。
「……そこにいるんでしょ。隠れていないで、出てきなさいよ」
結衣の鋭い声が、静まり返った工房に響く。かつての控えめな彼女からは想像もつかない、刺すような語気だった。
「……。あるじのいない間に、随分と不作法な小娘ですわね」
空間がかすかに歪み、弓から溢れ出した黄金の魔力が、一人の女の形を成していく。
光の粒子が収束し、現れたのは、不遜な笑みを浮かべた聖霊アイリス。
彼女は実体化するなり、結衣を蔑むような目で見下ろした。
「妾の眠りを妨げた罪、どう償ってくださるのかしら? あるじの体(現実)を奪っただけでは飽き足らず、この聖域まで汚しに来た泥棒猫さん」
アイリスの言葉は、氷のように冷たかった。だが、今の結衣は一歩も引かない。
「アイリス。……敬称はいらないわ。私も、あなたのことをこれからは『アイリス』って呼ぶから」
「……なんですって?」
アイリスの眉が不快げに跳ね上がる。結衣は真っ向から、その黄金の瞳を射抜いた。
「それから、私のこともリサじゃなくて『結衣』って呼んで。リサはゲームの名前。でも、健太郎さんが愛して、抱きしめたのは、現実(リアル)に生きている『早川結衣』なの」
「ふん……。肉体の交わりなど、一時の情欲。あるじが真に求めているのは、永遠を共にする至高の魂……すなわち、妾という存在ですわ」
「いいえ、違うわ! 健太郎さんが私を抱いた時の熱、耳元で囁いてくれた声……あれは一時の情欲なんかじゃない。私がいなきゃ、あの人は仕事のしすぎで壊れちゃう。あの人を現実で支え、生かしているのは私なのよ!」
結衣は、自身の肌に残る健太郎の指先の感触、彼がどれほど自分を必要としてくれたかを、赤裸々にぶつけた。
「アイリス、あなたは健太郎さんの『可能性』かもしれない。でも、私は健太郎さんの『人生』そのものになる。……文句があるなら、かかってきなさい!」
「……っ!」
アイリスは絶句した。目の前の小娘から放たれる、むき出しの独占欲と、一歩も引かない強気な姿勢。
「ふふ……あははははッ! 面白いですわね。ただの温室育ちの雛かと思っていましたが、それなりに鋭い爪を持っているようですわ」
アイリスは不敵に笑い、結衣の鼻先に指を突きつけた。
「いいでしょう、結衣。認めませんが……注視はしてあげますわ。あなたが本当にあるじの隣に立つに相応しい傑作なのか、妾がその身を刻んで試して差し上げます」
「望むところよ、アイリス。……覚悟して。私、絶対にあなたに負けないから」
火花を散らす紫の瞳と緑の瞳。
これが、仮想世界の聖霊と現実世界の恋人が、互いを最強のライバルとして認めた瞬間の記録であった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

