[R18]2度目の人生でスローライフ?ハーレムだっていいじゃないか

白猫 おたこ

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第九章 ライバル達

第206話: 【再会】京の染師と神域の主

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 静寂に包まれた「浄化の森」。その境界に、コンコン、と小気味良い音が響いた。
 茉莉が愛用の扇を閉じ、不可視の結界――健太郎が加工の余波で無意識に張り巡らせていた魔力の障壁を軽く叩く。

「……ふふ、やっぱり。この頑固なまでの硬い手触り、旦那の仕事そのものやね。うん、ここや。この先に旦那がおるわ」

 扇の先から伝わる微かな「熱」を感じ取り、茉莉は艶やかな笑みを浮かべた。
 その直後、目の前の空間が波打つように揺らぎ、無骨な男の姿が現れる。

「――おう、茉莉か? 久しぶりだな」

 健太郎は、まるで昨日も会っていたかのような平然とした態度でそこに立っていた。
だが、その背後に控える第五形態のアイリスが放つ、黄金のプレッシャーまでは隠しきれていない。

「こないだ村正の爺さんもここに来たぞ。お前まで来てるとは思わなかったが」

「あら、三神の旦那。相変わらず愛想のない挨拶やねぇ。……村正の御大(おんたい)も来てはったん? 道理で、この辺りの空気が職人の火でチリチリしてるわけやわ」

 茉莉は扇を広げて口元を隠し、上目遣いで健太郎を見つめた。
 二十七歳の大人の女性が醸し出す、憂いを帯びた妖艶さ。
それが、健太郎の無機質な職人の空気に溶け込んでいく。

「……それで? その腰の扇に巻き付いてるのが、さっき言ってた『大事な子』か」

「そう。ハルトや。アビスにやられて、魂の色がすっかり抜け落ちてしもて……。旦那、この清浄な森にある素材と、あんたのその『熱い指先』。ハルトをもう一度染め上げるために、貸してくれはる?」

 茉莉が差し出した扇の骨には、力なく絡みつく白い糸。
 健太郎は深層の鑑定眼を凝らし、その「糸」の奥に眠る微かな魂の残滓(ハルト)を見つめた。

「……いいぜ。職人の頼みを断るほど、俺も野暮じゃない。アイリス、案内してやれ」

「……承知いたしましたわ、主。茉莉様、こちらへ。足元が『色濃い』ですから、お気をつけて」

 アイリスが歩き出す。一見すると丁寧な案内だが、その一歩一歩が茉莉を牽制するように優雅で、かつ冷徹な実在感を放っていた。

「ふふ、おおきに。……ええ身体(うつわ)やねぇ妖精姫さん。旦那の好み、よう分かってるわ」

 茉莉は動じることなく、アイリスの背中を見つめて微笑んだ。
 古都の染師と神域の職人。
二人の「色」が混ざり合い、ハルトを紡ぎ直すための神域加工が、今まさに始まろうとしていた。

「……旦那ぁ」

 ふわりと、古都の四季を凝縮したような白檀の香りが鼻腔をくすぐる。
 茉莉が、音もなく健太郎の背中にしなだれかかった。
二十七歳の大人の女が持つ、しっとりとした熱。それが薄い装備越しに、健太郎の背中へダイレクトに伝わってくる。

「堪忍なぁ、旦那……。ハルトを助けたい一心でここまで来たけど、旦那の顔見たら、うち、急に心細うなってしもて。……どうしようもないねん」

 茉莉は甘えるように健太郎の肩に顎を乗せ、正面のアイリスにも負けない、豊潤で扇情的な胸の膨らみを背中に押し付けた。彼女が吐き出す熱い吐息が、健太郎の耳朶を弄ぶように震わせる。
 それは、少女の無垢な甘えとは違う、酸いも甘いも噛み分けた大人の女性による、計算された、しかし本気度の高い誘惑だった。

「……おい。茉莉、離れろ。歩けねえだろ」

 健太郎は眉をひそめ、努めて冷徹に言い放つ。
だが、深層の鑑定眼が捉える茉莉の魂動は、見事なまでに健太郎の「熱」を求めて波打っていた。

「あら、主……。随分と、お熱いご挨拶ですこと」

 周辺の空気が一瞬で氷点下まで凍りついた。
 アイリスが、黄金の瞳に抜き身の剣のような光を宿し、静かに二人を見つめていた。第五形態として真の肉体を得た彼女から放たれるプレッシャーは、今や物理的な重圧となって辺りをビリビリと震わせていた。

 茉莉は離れるどころか、さらに深く健太郎の腕に自分の身体を絡みつかせ、挑発的にアイリスを見つめ返した。

「……どいつもこいつも」

 健太郎は溜息をつき、無理やり二人を引き剥がすように一歩前へ出た。

女たちの火花を、健太郎の冷徹な一喝が引き裂く。

「……落ち着け。ハルトを直すっつっても、今のこの工房には必要な素材が足りねえんだ」

 健太郎の言葉に、茉莉が少し意外そうに首を傾げた。

「あら、旦那が綺麗にした森やのに、素材持ってへんの?」

「俺が浄化したのはあくまで『芯』だ。清浄化したあとの森に、どんな生態系が戻り、どんな素材が芽吹いてるのか、中に入って把握すらしてねえ。……未知の領域なんだよ、ここは」

「取り敢えず入れよここが俺の工房、拠点だ」

 健太郎は、まだ落ち着かない様子で周囲を見渡す茉莉を椅子に促すと、茶葉を手際よく淹れ、彼女の前に置いた。

「とりあえず座れ。……落ち着かないだろ」

「おおきに、旦那。ふふ、旦那が淹れてくれたお茶なんて、なんや勿体なくて飲めへんわぁ」

 茉莉は茶柱の立つ湯呑みを両手で包み、その湯気に目を細める。
二十七歳の憂いを帯びた美女が、職人の戦場である工房で一息つく姿は、それだけで一枚の絵画のような妖艶さを放っていた。

 だが、その安らぎを破るように、工房の入り口から賑やかな声が響く。

「健太郎さーん! ログインしました!」

「健太郎さん、お待たせ! 準備万端やで!」

「……健太郎さん……桃子も、来たよ……」

 結衣、恵梨香、桃子の三人が、まるで示し合わせたかのようにログインしてきた。彼女たちは工房に入るなり、見慣れない美女が健太郎の隣に座っているのを見て、ピタリと足を止める。

「……あら? 健太郎さん、その方は……?」

「……おじさん、誰……? すっごく、いい匂いする……」

 結衣の笑顔がわずかに引き攣り、桃子が鼻をひくつかせながら茉莉を見つめる。
女性特有の鋭い感覚が、茉莉から漂う「大人の色香」と、健太郎への隠しきれない「親愛」を瞬時に察知したのだ。

「ああ、こいつは茉莉だ。西のエリアで染物屋をやってる腕利きの職人でな。……茉莉、こいつらは俺の仲間だ」

 健太郎の紹介を聞くやいなや、茉莉はしなやかな動作で立ち上がると、健太郎の背後に回り込み、その逞しい肩に腕を絡ませた。

「堪忍なぁ、みんな。旦那とは昔馴染みでねぇ……。今はちょっと、どうしようもないことがあって、旦那に縋らせてもうてんの」

 茉莉は、アイリスや結衣たちに見せつけるように、その扇情的な胸を健太郎の背中に押し付けた。
しなだれかかるその熱い接触に、健太郎は眉をひそめる。

「おい、茉莉。離れろって。……お前らもそんな顔するな。こいつの武器聖霊『ハルト』が糸に戻っちまって、それを直すために協力することになったんだ」

「それは放っておけないけど……。でも、健太郎さんにそんなに密着する必要、ある?」
 結衣が裁縫師としての使命感と、一人の女性としての嫉妬の間で揺れる中、アイリスが冷徹な黄金の瞳で茉莉を射抜く。

「主。……客人を『つまみ出す』手間を省かせてくださいまし。ハルトを救いたいという言葉に嘘はないようですが、その態度は万死に値しますわ」

「あはは! 修羅場やな! 健太郎さん、モテモテやんけ!」

 恵梨香だけが面白そうに笑う中、健太郎は溜息を吐きながら、全員に今後の予定を告げた。
ハルトを紡ぎ直すには、健太郎が浄化したばかりの「未知の森」へ入り、最高級の素材を求めて探索しなければならない。

「……とにかく、全員揃ったな。これからあの森の生態系を調べつつ、ハルトのための素材を獲りに行く。全員、準備しろ。ここからは遊びじゃねえぞ」

 新たな職人、茉莉の加入。
 それは、清浄化した森への初探索という未知の冒険に、甘く危険な火花を添えることとなった。
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