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『第一話:えっ、私、神官のはずなんですが!?』
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王宮には後宮と呼ばれる王の側室や王妃が暮らすための宮がある。
場所は後宮の中庭、白銀色の長い髪に藤色の瞳をした女性がまだ生まれて間もない赤子を横抱きにして中庭に咲く花々を眺めていた。
―――どうしてこうなってしまったんだろう。
エリンは赤子を抱いたまま思わずそんなことを考え、深い溜息を吐いてしまった。溜息に気付いたらしい赤子、ノアは泣きそうな表情を浮かべてエリンに向かって小さな手を伸ばした。
「あらら。ごめんね、ノア。心配させちゃったかな」
ノアは自身に手を伸ばしていることに気付いたエリンはすぐ優しい笑みを浮かべノアに話し掛けた。
エリンが優しい笑みを浮かべ自分に話し掛けてくれたと分かったノアは泣きそうな表情から一転、嬉しそうにキャッキャッとはしゃいだように笑った。エリンはノアのその様子を見てホッと胸を撫で下ろした。
「子どもは好きだけど、育児って柄じゃないんだよね、私」
今更ながらノアはエリンの実子ではない、いわゆる養子というものだ。何故エリンが実子ではないノアを育てることになったのか。事の発端は五年前、先代の王が崩御したというニュースが国を駆け巡ったことからはじまる。
先代には後継ぎとなる男児がいなかった、はずだったのだ。
先代の遺書が見つかりとある人物を次の王にするよう書かれていたのだ。
当時エリンは神殿に仕える神官だった。神殿には、異能を扱える人間が十数人おり、そのうちの一人がエリンだった。
当時のエリンは新しく王の座に新しい御方が就いたことは知っていたが詳しくは知らなかったし知る由もなかった。というのも神殿は王宮の裏の山奥に位置しており王族がたまにお祈りに来たりする以外は人が全くと言っていいほど来なかったからだ。
「新しい王様が出来たってさ」「へぇ」
これだけの会話で済ませてしまうほど神殿にいる者たちは新たな王に感心がなかった。
新たな王が就いて五年が経った頃、神殿に王がやってくることになった。その頃には上級神官になっていたエリンは王を出迎える役を担うことになった。
「面倒だなぁ。レイ、代わってよ」
「わたし、上級神官じゃないから無理」
「えぇ……それ言ったら同期の子たちみんな駄目じゃん」
「エリンの役目だよ、頑張って」
「はーい」
内心面倒臭いと思いつつその役目を真っ当しよう、と思っていたのだ。
そして新たな王、ユーリが神殿にやってきた時、エリンは度肝を抜かれた。やってきた新たな王が住んでいた村の幼馴染なら誰だって驚くだろう。
「ユー、リ?」
「エリン、やって見つけた! お願い、僕の妃になってよ」
「…………はい?」
突然何を言い出すのだろうか、この男は。
エリンは内心そんなことを思いながらユーリを見た。最後に見た頃よりも幼さは抜けているが深い緑色をしたユーリの瞳をエリンは忘れたことはなかった。
それからとんとん拍子に話が進んでしまい、エリンは王妃になった。
いや、まず上級神官の私が王妃になること自体有り得ないんだよなぁ。
エリンは中庭に咲く花々を見ながらノアに気付かれないように溜息を吐いた。
「エリン様、風が冷えてまいりました。そろそろ中に入られては?」
エリンの背後に立ちそう言ったのはエリンの神官時代の同期、レイだった。
あれからどうやったのかは知らないがエリンが王妃になると聞くや否や神殿を飛び出し、エリンの侍女になると言い出したのだ。
そのことをエリンが聞いたのは手続きが全て終わったあとで、ユーリから聞いたものだった。
「そうだね。にしてもレイ、君まで神殿出る必要なかったろうに」
エリンは室内に入りながらレイに話し掛けた。
「そうでしょうけど、わたしがいたほうが気が休めるでしょう?」
「確かにね。それは否定できないけど」
「ほらね。それなら良いのよ。エリンが少しでも休める場所を作るのが今のわたしの仕事だもの」
いつも冷静沈着、物静かで大人しいが時々毒を吐くレイがこんなに自分のことを心配してくれている……!
エリンはそんなことを思いちょっと涙目になってしまった。
涙目になったエリンを見たレイは「ノア様の前で泣かないで」と厳しい一言を放った。やっぱり毒を吐くか。
場所は後宮の中庭、白銀色の長い髪に藤色の瞳をした女性がまだ生まれて間もない赤子を横抱きにして中庭に咲く花々を眺めていた。
―――どうしてこうなってしまったんだろう。
エリンは赤子を抱いたまま思わずそんなことを考え、深い溜息を吐いてしまった。溜息に気付いたらしい赤子、ノアは泣きそうな表情を浮かべてエリンに向かって小さな手を伸ばした。
「あらら。ごめんね、ノア。心配させちゃったかな」
ノアは自身に手を伸ばしていることに気付いたエリンはすぐ優しい笑みを浮かべノアに話し掛けた。
エリンが優しい笑みを浮かべ自分に話し掛けてくれたと分かったノアは泣きそうな表情から一転、嬉しそうにキャッキャッとはしゃいだように笑った。エリンはノアのその様子を見てホッと胸を撫で下ろした。
「子どもは好きだけど、育児って柄じゃないんだよね、私」
今更ながらノアはエリンの実子ではない、いわゆる養子というものだ。何故エリンが実子ではないノアを育てることになったのか。事の発端は五年前、先代の王が崩御したというニュースが国を駆け巡ったことからはじまる。
先代には後継ぎとなる男児がいなかった、はずだったのだ。
先代の遺書が見つかりとある人物を次の王にするよう書かれていたのだ。
当時エリンは神殿に仕える神官だった。神殿には、異能を扱える人間が十数人おり、そのうちの一人がエリンだった。
当時のエリンは新しく王の座に新しい御方が就いたことは知っていたが詳しくは知らなかったし知る由もなかった。というのも神殿は王宮の裏の山奥に位置しており王族がたまにお祈りに来たりする以外は人が全くと言っていいほど来なかったからだ。
「新しい王様が出来たってさ」「へぇ」
これだけの会話で済ませてしまうほど神殿にいる者たちは新たな王に感心がなかった。
新たな王が就いて五年が経った頃、神殿に王がやってくることになった。その頃には上級神官になっていたエリンは王を出迎える役を担うことになった。
「面倒だなぁ。レイ、代わってよ」
「わたし、上級神官じゃないから無理」
「えぇ……それ言ったら同期の子たちみんな駄目じゃん」
「エリンの役目だよ、頑張って」
「はーい」
内心面倒臭いと思いつつその役目を真っ当しよう、と思っていたのだ。
そして新たな王、ユーリが神殿にやってきた時、エリンは度肝を抜かれた。やってきた新たな王が住んでいた村の幼馴染なら誰だって驚くだろう。
「ユー、リ?」
「エリン、やって見つけた! お願い、僕の妃になってよ」
「…………はい?」
突然何を言い出すのだろうか、この男は。
エリンは内心そんなことを思いながらユーリを見た。最後に見た頃よりも幼さは抜けているが深い緑色をしたユーリの瞳をエリンは忘れたことはなかった。
それからとんとん拍子に話が進んでしまい、エリンは王妃になった。
いや、まず上級神官の私が王妃になること自体有り得ないんだよなぁ。
エリンは中庭に咲く花々を見ながらノアに気付かれないように溜息を吐いた。
「エリン様、風が冷えてまいりました。そろそろ中に入られては?」
エリンの背後に立ちそう言ったのはエリンの神官時代の同期、レイだった。
あれからどうやったのかは知らないがエリンが王妃になると聞くや否や神殿を飛び出し、エリンの侍女になると言い出したのだ。
そのことをエリンが聞いたのは手続きが全て終わったあとで、ユーリから聞いたものだった。
「そうだね。にしてもレイ、君まで神殿出る必要なかったろうに」
エリンは室内に入りながらレイに話し掛けた。
「そうでしょうけど、わたしがいたほうが気が休めるでしょう?」
「確かにね。それは否定できないけど」
「ほらね。それなら良いのよ。エリンが少しでも休める場所を作るのが今のわたしの仕事だもの」
いつも冷静沈着、物静かで大人しいが時々毒を吐くレイがこんなに自分のことを心配してくれている……!
エリンはそんなことを思いちょっと涙目になってしまった。
涙目になったエリンを見たレイは「ノア様の前で泣かないで」と厳しい一言を放った。やっぱり毒を吐くか。
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