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二話『後宮の管理人』
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明蘭から謎めいた噂を聞いて数日が経った。
後宮に住んでいるのに女人ではない、というなんとも意味不明な噂。
元々後宮に居るのは女人がほとんとだ。男も居たりはするが大事なものを失った所謂宦官という位の人たちだけ。後宮に出入り出来るのはこの国で最も尊い御方である皇帝陛下とその血縁者のみ。
歪だが理にかなっているこの後宮で宦官でもなく、女人でもない人間がどうやって住めるのだろうか?
うーん……、と悩みながら今日も今日とて洗濯物を洗っていると其処へ慌てた様子の明蘭がやってきた。
「秀鈴! 秀鈴ったら!」
「明蘭? どうしたの?」
息を切らしながらやってきた明蘭は秀鈴を見つけると「やっと見つけたぁ……」と小さく呟いた。
「秀鈴、あなた異動ですってよ!」
「異動? 何処になるのかしら」
「もう! なんでそんなに冷静なの! 詳しくは分からないけれど取り敢えず栄仁という方があっちで呼んでいたわよ」
「栄仁?」
はて、聞いた事のない名前だ。
そうは思っても呼ばれているのならば行かなければなるまい。洗濯物を明蘭にお願いし、栄仁という人物が待っている場所へ向かう。
しばらく歩いていると明らかに女だらけの園に場違いな背の高い男性を見つけた。いや、此処にいるのだから大事なものを失った〝元〟男性だろう。
「栄仁さまでしょうか?」
己を呼び出したであろう人物に声を掛けるとその人物は「あなたが秀鈴殿ですか?」と問い掛けられた。ハッキリとした声で「はい」と返事をすると栄仁はホッとしたような表情を一瞬浮かべた。
「突然お呼び出ししてしまい申し訳ございません。私の主人があなたを呼んでおられます」
「はあ……」
正直意味が分からないと思ったが秀鈴は無表情のまま曖昧な返事をした。
「こちらへいらっしゃって下さい」
栄仁はそう言うと秀鈴を連れて後宮の奥の方へ向かった。
しばらく歩いていると大きな宮が秀鈴の視界に入った。思わず惚けてしまう程綺麗な宮だった。
「中で主人がお待ちです、どうぞ」
栄仁は宮の出入口のところで止まると扉を開けて秀鈴に中に入るように促した。
秀鈴は意を決して中に入り長い廊下を道なりに歩いていると宮の奥まで来ただろうか、翡翠色の扉を見つけた。
「失礼致します、秀鈴と申します」
扉の前でお辞儀し、上記を述べると「入って良い」という声が聞こえてきた。女とも男とも区別のつかない声色だなぁと秀鈴は思ったが「失礼致します」とだけ言うと扉を開けて室内に入った。
室内に入ると椅子には綺麗な人が座っていた。
白銀色の長い髪に花笠色の綺麗な瞳。着ている衣は白を基調としており刺繍は緑を少し薄めた色でされていた。
こんなに綺麗な人、初めて見た、と秀鈴は思った。
しばらく惚けているとその人はクスッと笑みを零した。
「私の顔に何か付いてますか?」
凛とした声はやはり女とも男とも区別のつかない声色だった。中性的といえば良いのだろうか。
「初めまして、私は鈴風。今日からあなたは私の侍女になっていただきます」
「…………へ?」
間抜けな声が漏れてしまったが自分は悪くない、と秀鈴は思った。
後宮に住んでいるのに女人ではない、というなんとも意味不明な噂。
元々後宮に居るのは女人がほとんとだ。男も居たりはするが大事なものを失った所謂宦官という位の人たちだけ。後宮に出入り出来るのはこの国で最も尊い御方である皇帝陛下とその血縁者のみ。
歪だが理にかなっているこの後宮で宦官でもなく、女人でもない人間がどうやって住めるのだろうか?
うーん……、と悩みながら今日も今日とて洗濯物を洗っていると其処へ慌てた様子の明蘭がやってきた。
「秀鈴! 秀鈴ったら!」
「明蘭? どうしたの?」
息を切らしながらやってきた明蘭は秀鈴を見つけると「やっと見つけたぁ……」と小さく呟いた。
「秀鈴、あなた異動ですってよ!」
「異動? 何処になるのかしら」
「もう! なんでそんなに冷静なの! 詳しくは分からないけれど取り敢えず栄仁という方があっちで呼んでいたわよ」
「栄仁?」
はて、聞いた事のない名前だ。
そうは思っても呼ばれているのならば行かなければなるまい。洗濯物を明蘭にお願いし、栄仁という人物が待っている場所へ向かう。
しばらく歩いていると明らかに女だらけの園に場違いな背の高い男性を見つけた。いや、此処にいるのだから大事なものを失った〝元〟男性だろう。
「栄仁さまでしょうか?」
己を呼び出したであろう人物に声を掛けるとその人物は「あなたが秀鈴殿ですか?」と問い掛けられた。ハッキリとした声で「はい」と返事をすると栄仁はホッとしたような表情を一瞬浮かべた。
「突然お呼び出ししてしまい申し訳ございません。私の主人があなたを呼んでおられます」
「はあ……」
正直意味が分からないと思ったが秀鈴は無表情のまま曖昧な返事をした。
「こちらへいらっしゃって下さい」
栄仁はそう言うと秀鈴を連れて後宮の奥の方へ向かった。
しばらく歩いていると大きな宮が秀鈴の視界に入った。思わず惚けてしまう程綺麗な宮だった。
「中で主人がお待ちです、どうぞ」
栄仁は宮の出入口のところで止まると扉を開けて秀鈴に中に入るように促した。
秀鈴は意を決して中に入り長い廊下を道なりに歩いていると宮の奥まで来ただろうか、翡翠色の扉を見つけた。
「失礼致します、秀鈴と申します」
扉の前でお辞儀し、上記を述べると「入って良い」という声が聞こえてきた。女とも男とも区別のつかない声色だなぁと秀鈴は思ったが「失礼致します」とだけ言うと扉を開けて室内に入った。
室内に入ると椅子には綺麗な人が座っていた。
白銀色の長い髪に花笠色の綺麗な瞳。着ている衣は白を基調としており刺繍は緑を少し薄めた色でされていた。
こんなに綺麗な人、初めて見た、と秀鈴は思った。
しばらく惚けているとその人はクスッと笑みを零した。
「私の顔に何か付いてますか?」
凛とした声はやはり女とも男とも区別のつかない声色だった。中性的といえば良いのだろうか。
「初めまして、私は鈴風。今日からあなたは私の侍女になっていただきます」
「…………へ?」
間抜けな声が漏れてしまったが自分は悪くない、と秀鈴は思った。
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