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第四話
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カフェで会計を済ませて今住んでいる実家に帰る。「ただいま」と一言述べてから家に入り、自分の部屋に引っ込む。
鞄をベッド脇に置いてベッドに寝転がり、天井を見上げる。
八月一日を見ていると変な気持ちになってしまう気がする。心の中がモヤモヤするっていうか、なんていうか……。
そんなことを考えていると部屋の扉が開いて姉貴が入ってきた。
「星那、ちょっとパソコン貸して」
「えぇ……、自分の使えばいいだろ」
「今調子悪いんだもん。少しだけ、十分くらいで終わるから」
姉貴はそう言うと両手を合わせて懇願してきた。俺は深い溜息を吐き、「十分だけだぞ」と言い了承した。
「ありがと~! やっぱ持つべきものは優しい弟だよ」
嬉しそうにそう言う姉貴は椅子に腰掛け、パソコンを起動しUSBを差し込むとキーボードを器用に叩き始めた。おおかた、小説でも書いているのだろう。あ、姉貴に聞いてみるか。
「なぁ姉貴」
「んー? 何よ」
「誰かを見て心の中がモヤモヤする気持ちってどんな感情なんだ?」
「……はい?」
姉貴は俺の質問に驚いたらしく、パソコンの画面から目線を移し俺の方を見てきた。
「なんでそれを私に聞くわけ?」
「いや、なんとなくだけど」
俺がそう言うと姉貴は今まで聞いたことがないくらい深い溜息を吐いて俺の方へ体を向けた。
「モヤモヤってどんな感じなのよ」
「なんか、心が黒い絵の具で汚されていく、みたいな?」
「何それ、うつ状態?」
「違う」
「んー。あ、恋じゃない?」
こい? 鯉? 恋⁉︎
「はあ⁉︎」
「だってそうじゃない? 恋って甘酸っぱいものとかって思われているみたいだけど実際はドロドロしてるもんでしょ? それに、何かの本で読んだんだけどね『誰かを好きになるということは、自分の一番皮膚の薄い柔らかい場所を差し出すことでしか成り立たない』って書いてあったし」
「……」
一理あるような気がしてきた。
姉貴は自分が満足する答えを出せたと思ったのかまた体をパソコンの方へ向けた。
鞄をベッド脇に置いてベッドに寝転がり、天井を見上げる。
八月一日を見ていると変な気持ちになってしまう気がする。心の中がモヤモヤするっていうか、なんていうか……。
そんなことを考えていると部屋の扉が開いて姉貴が入ってきた。
「星那、ちょっとパソコン貸して」
「えぇ……、自分の使えばいいだろ」
「今調子悪いんだもん。少しだけ、十分くらいで終わるから」
姉貴はそう言うと両手を合わせて懇願してきた。俺は深い溜息を吐き、「十分だけだぞ」と言い了承した。
「ありがと~! やっぱ持つべきものは優しい弟だよ」
嬉しそうにそう言う姉貴は椅子に腰掛け、パソコンを起動しUSBを差し込むとキーボードを器用に叩き始めた。おおかた、小説でも書いているのだろう。あ、姉貴に聞いてみるか。
「なぁ姉貴」
「んー? 何よ」
「誰かを見て心の中がモヤモヤする気持ちってどんな感情なんだ?」
「……はい?」
姉貴は俺の質問に驚いたらしく、パソコンの画面から目線を移し俺の方を見てきた。
「なんでそれを私に聞くわけ?」
「いや、なんとなくだけど」
俺がそう言うと姉貴は今まで聞いたことがないくらい深い溜息を吐いて俺の方へ体を向けた。
「モヤモヤってどんな感じなのよ」
「なんか、心が黒い絵の具で汚されていく、みたいな?」
「何それ、うつ状態?」
「違う」
「んー。あ、恋じゃない?」
こい? 鯉? 恋⁉︎
「はあ⁉︎」
「だってそうじゃない? 恋って甘酸っぱいものとかって思われているみたいだけど実際はドロドロしてるもんでしょ? それに、何かの本で読んだんだけどね『誰かを好きになるということは、自分の一番皮膚の薄い柔らかい場所を差し出すことでしか成り立たない』って書いてあったし」
「……」
一理あるような気がしてきた。
姉貴は自分が満足する答えを出せたと思ったのかまた体をパソコンの方へ向けた。
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