僕を愛して

冰彗

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第一章

『第十三話』

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「昔、僕と会ったことありますか?」

 静かに問い掛けると三日月さんは、驚いたような表情を浮かべた。

「思い出したんですか?」

「……僕は高校二年の頃の記憶が一部ありません、期間は一週間ほど。その期間の記憶がないことは正直、気にしたことはありませんでした。勉学も、学校生活も友人や先生方のことを覚えていないわけではなかったので」

 静かに、自分のことを語る。その間、三日月さんはただただ静かに聞いていた。

「ですが先日、姉さんに聞かれたんです。『覚えていないの?』と。それから、覚えていない期間のことを気になってまして。三日月さん、僕が覚えていない期間のことを知っているのなら教えて下さい」

 懇願するようにそう言うと三日月さんはじっと僕を見ていた。そして目を逸らした。話さない、という意思表示だろうか。

 そんなことを思っていると三日月さんはカバンの中に先程僕がサインした本を仕舞った。

「ここではなんですので、公園にでも行きませんか?」

「……いいですよ」

 僕自身もノートと筆箱をカバンの中に仕舞い、立ち上がった。

 ○○○

 カフェから程近い場所にある大きな公園にやってくると三日月さんは入ってすぐの場所にあるベンチに座った。

「隣、どうぞ」

「失礼します」

 僕は一言そう言うと三日月さんの隣に座った。

「俺の話をしますね」

 三日月さんはそう切り出した。

「高校一年生の頃の俺は、軽度の女性恐怖症でした。女性と話すのも、触れ合うのも駄目で。一緒の空間にいるのも耐えられなくて女性恐怖症だと分かってから母と離れて暮らしたりもしました。高校は男子校に通っていました」

 今度は僕は静かに聞く番。

「ある日の学校帰りに、アルファだからと女性に迫られたことがあって。逃げたいけど逃げられなくて、その時でした。困って怖がっていた俺を助けてくれたのが心広さん、あなたでした」

「えっ、僕?」

 首を傾げて問い掛けると三日月さんは優しい笑みを浮かべて「はい、心広さんです」と言った。

「『困っているから、離してあげて下さい』。そう言って俺を助けてくれました。それでも女性たちは離れてくれなくて。俺の手を引いて逃げてくれたんです。あの時から心広さんのこと、オメガだって分かったんです。でも逃げている途中で心広さんがヒートになってしまって。それでも俺を助けようとしてくれたらしくて苦しそうにしながら助けてくれたんです。その後、騒ぎを聞いていた人たちが警察を呼んでくれたらしくて俺は助かりました」

 全然、覚えていない……。

「その後、聞きました。心広さんがヒートになっていて、いつもより重いみたいだって。警察の人も驚いていました、『オメガがアルファを助けるなんて聞いたことがない』って」

 そういえば、姉さんがその一週間のこと、『ヒートが重くて入院した』って言っていたな。
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