月蝕の令嬢 〜妹の偽りの光を暴き、夜の王に溺愛される〜  嘘つきの妹に成敗を、ざまあ

しょくぱん

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断罪と奈落の出会い

第6話:夜の王の正体

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 銀色の髪を夜風に靡かせ、私の前に現れた青年――ゼノス。その神々しいまでの美貌とは裏腹に、彼から放たれる魔力は、冷たく、重く、どこまでも深い闇を纏っていた。全裸であることを気にする様子もなく、彼は私をひょいと軽々と横抱きにすると、洞窟の奥へと歩き出す。

「……離して、ください。私は、もう死んだはずの人間……」 「黙れ。我の食事を台無しにする気か」

 ゼノスの声は低く、抗いがたい支配力に満ちていた。彼が歩くたび、足元の岩場に銀色の光の粒が零れ落ち、真っ暗だった洞窟内を朧気に照らし出していく。辿り着いたのは、奈落の底とは思えないほど神秘的な空間だった。透き通った水を湛えた泉があり、周囲には発光する植物が幻想的に揺れている。彼は私を柔らかい苔の絨毯の上に横たえると、近くにあった黒いマントを無造作に羽織った。

「さて、エレナ。貴様、自分がなぜこれほどの毒を溜め込んでいたか理解しているか?」 「それは……私が、公爵家の楔だからです。セリナ……妹の光が産み出す『歪み』を、代わりに引き受けるのが私の役目でしたから」

 私が弱々しく答えると、ゼノスは鼻で笑った。その嘲笑は私に向けられたものではなく、地上でふんぞり返っている連中に向けられたもののようだった。

「ククッ……『歪み』だと? 地上の連中は相変わらず無知だな。貴様が吸い取っていたのは、単なる魔法の残りカスではない。この星が排出し、決して消えることのない『原始の魔力』そのものだ」

 ゼノスは私の側に座り込み、まだ炭化した跡が生々しい私の右腕を、長い指先で優しくなぞった。彼の指が触れるたび、肌の奥で疼いていた激痛がスッと引いていく。

「この力は本来、一人の人間が背負えるものではない。それを無理やり押し付けられれば、肉体が炭化し、腐り落ちるのは当然だ。……だというのに、貴様は数年も耐え抜いた。驚くべき強靭な魂だな」

「強靭、だなんて。私はただ……家族の役に立ちたかっただけで……」 「役に立つだと? 笑わせるな。貴様はただ、あの偽りの光を輝かせるための『下水処理場』として利用されていたに過ぎん」

 ゼノスの冷徹な言葉が、私の胸に深く突き刺さる。薄々感づいていた。けれど、認めれば自分の人生がすべて無駄になってしまう気がして、目を逸らしてきた真実。ゼノスは私の顎をくいと持ち上げ、その冷たい黄金の瞳で私を射抜いた。

「我はかつて、地上の連中に『夜の王』と蔑まれ、この奈落へ封じられた。奴らは光という名の傲慢を維持するために、不都合な闇をすべて我に押し付けたのだ。……エレナ、貴様と我は同類だ」

 同類。王太子の婚約者として、公爵家の令嬢として、完璧であることを求められてきた私。誰からも愛されず、疎まれ、最後には不要なゴミとして捨てられた私。そんな私に向けられた「同類」という言葉は、地上でもらったどんな賛辞よりも、私の孤独な魂を震わせた。

「貴様を捨てたあの国は、じきに崩壊するだろう。浄化装置を失った光は、自らの毒に呑まれて腐り果てる。……それを高みの見物とするか、あるいは、我と共にすべてを奪い返すか」

「奪い……返す?」 「そうだ。幸い、貴様の腕に溜まった毒は、我にとっては最高の糧となる。貴様が我に毒を捧げる限り、我は貴様に力を貸そう。我の『楔』となり、この世界を支配する夜の妃となるがいい」

 ゼノスが差し出した手。その手を取ることは、これまで信じてきた「正義」や「光」を捨てることを意味していた。けれど、右腕を焼かれ、心を殺され、奈落に突き落とされた私に、もはや迷う余地などなかった。

「……あの方たちを、見返したい。私をゴミのように捨てたことを、後悔させたい」

「いい目だ。……ならば契約は成った」

 ゼノスが唇を歪めて微笑む。彼が私の右腕にそっと唇を寄せると、炭化した黒い肌がパキパキと音を立てて剥がれ落ち始めた。

 剥がれ落ちた皮膚の下から現れたのは、再生した白い肌。そしてそこには、かつてなかった白銀の幾何学模様――【星の楔】の真の姿が、鮮烈に浮かび上がっていた。

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