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隣国での寵愛と、偽りの聖女の再起
第12話:夜の王の執着
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夜の国の王城での生活は、目眩がするほどに甘やかで、そしてどこまでも過保護なものだった。
朝、目を開ければそこにはゼノス様の美しい寝顔がある。彼は私が起きようと身をよじらせるたびに、その逞しい腕で私を強く抱き寄せ、低く心地よい声で「あと少しだけ、我の腕の中にいろ」と命じるのだ。
「ゼノス様、もう朝です。侍女たちが……」 「構わん。我の妃がいつ起き、いつ眠るかは我だけが決める。他者に指図はさせん」
ゼノス様の独占欲は凄まじかった。私が部屋を出ようとすれば必ず騎士が守護につき、私が少しでも顔を曇らせれば、その原因となった物事を徹底的に排除しようとする。昼食の際、私がほんの少しだけ食欲がない様子を見せると、ゼノス様は即座に黄金の瞳を鋭く光らせた。
「どうした。食事が口に合わぬか? それとも、調理師の腕が落ちたか。……作り直させよう。いや、いっそ首を――」 「違います、ゼノス様! ただ、あまりに豪華なお食事が続いて、少し驚いているだけなんです」
私が慌てて彼の手を握ると、ゼノス様はふん、と鼻を鳴らして私の隣に腰を下ろした。
「貴様はかつて、他者の尻拭いばかりをさせられ、まともな食事も与えられていなかったのだろう? 奪われていた分を取り戻すのだ。……我は、貴様を世界で最も幸福な女にすると決めた」
ゼノス様は、私の右腕を愛おしそうに引き寄せ、白銀の紋章にそっと唇を落とした。その仕草は騎士が主君に捧げる誓いのようでもあり、猛獣が獲物を慈しむようでもあった。
「エレナ。貴様を虐げ、その価値を知らずに奈落へ放ったあの国……カイルといったか? あの卑小な男の顔を思い出すたび、我が腹の奥で龍の血が煮えくり返る」
「……ゼノス様」
「いっそ、我のブレスで跡形もなく焼き尽くしてやろうか。貴様の瞳に映るものが、我が国の美しい夜だけであれば、貴様はもう二度と怯える必要はあるまい?」
彼の言葉は冗談ではなかった。本気で、私のために一国を滅ぼそうとしている。かつての私なら、その過激な愛に恐怖を感じたかもしれない。けれど、冷たい石畳に頭を擦り付け、誰からも守られずに死を待ったあの日を思えば、ゼノス様の執着は、何よりも温かな救いだった。
「いいえ。……焼き尽くすのは、まだ早いです。彼らには、自分たちが何を捨てたのかを、もっと深く理解してもらわなければなりませんから」
私の言葉に、ゼノス様は意外そうに眉を上げた後、獰猛な笑みを浮かべた。
「ククッ……。言うようになったな、エレナ。そうか、ならば存分に焦らしてやろう。奴らが飢え、乾き、貴様の温情を乞うて這いずり回るまでな」
ゼノス様は私の髪に指を通し、恍惚とした表情で囁く。
「貴様は我の宝だ。我の楔だ。……世界が貴様を否定したというのなら、我はこの世界のすべてを否定し、貴様のための理ことわりを作ろう」
熱い口づけが降ってくる。私はその熱の中で、心地よい支配に身を任せた。私を「ゴミ箱」と呼んだ者たちが、この「夜の王」の怒りの重さを知る日は、そう遠くないはずだ。
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朝、目を開ければそこにはゼノス様の美しい寝顔がある。彼は私が起きようと身をよじらせるたびに、その逞しい腕で私を強く抱き寄せ、低く心地よい声で「あと少しだけ、我の腕の中にいろ」と命じるのだ。
「ゼノス様、もう朝です。侍女たちが……」 「構わん。我の妃がいつ起き、いつ眠るかは我だけが決める。他者に指図はさせん」
ゼノス様の独占欲は凄まじかった。私が部屋を出ようとすれば必ず騎士が守護につき、私が少しでも顔を曇らせれば、その原因となった物事を徹底的に排除しようとする。昼食の際、私がほんの少しだけ食欲がない様子を見せると、ゼノス様は即座に黄金の瞳を鋭く光らせた。
「どうした。食事が口に合わぬか? それとも、調理師の腕が落ちたか。……作り直させよう。いや、いっそ首を――」 「違います、ゼノス様! ただ、あまりに豪華なお食事が続いて、少し驚いているだけなんです」
私が慌てて彼の手を握ると、ゼノス様はふん、と鼻を鳴らして私の隣に腰を下ろした。
「貴様はかつて、他者の尻拭いばかりをさせられ、まともな食事も与えられていなかったのだろう? 奪われていた分を取り戻すのだ。……我は、貴様を世界で最も幸福な女にすると決めた」
ゼノス様は、私の右腕を愛おしそうに引き寄せ、白銀の紋章にそっと唇を落とした。その仕草は騎士が主君に捧げる誓いのようでもあり、猛獣が獲物を慈しむようでもあった。
「エレナ。貴様を虐げ、その価値を知らずに奈落へ放ったあの国……カイルといったか? あの卑小な男の顔を思い出すたび、我が腹の奥で龍の血が煮えくり返る」
「……ゼノス様」
「いっそ、我のブレスで跡形もなく焼き尽くしてやろうか。貴様の瞳に映るものが、我が国の美しい夜だけであれば、貴様はもう二度と怯える必要はあるまい?」
彼の言葉は冗談ではなかった。本気で、私のために一国を滅ぼそうとしている。かつての私なら、その過激な愛に恐怖を感じたかもしれない。けれど、冷たい石畳に頭を擦り付け、誰からも守られずに死を待ったあの日を思えば、ゼノス様の執着は、何よりも温かな救いだった。
「いいえ。……焼き尽くすのは、まだ早いです。彼らには、自分たちが何を捨てたのかを、もっと深く理解してもらわなければなりませんから」
私の言葉に、ゼノス様は意外そうに眉を上げた後、獰猛な笑みを浮かべた。
「ククッ……。言うようになったな、エレナ。そうか、ならば存分に焦らしてやろう。奴らが飢え、乾き、貴様の温情を乞うて這いずり回るまでな」
ゼノス様は私の髪に指を通し、恍惚とした表情で囁く。
「貴様は我の宝だ。我の楔だ。……世界が貴様を否定したというのなら、我はこの世界のすべてを否定し、貴様のための理ことわりを作ろう」
熱い口づけが降ってくる。私はその熱の中で、心地よい支配に身を任せた。私を「ゴミ箱」と呼んだ者たちが、この「夜の王」の怒りの重さを知る日は、そう遠くないはずだ。
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