月蝕の令嬢 〜妹の偽りの光を暴き、夜の王に溺愛される〜  嘘つきの妹に成敗を、ざまあ

しょくぱん

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隣国での寵愛と、偽りの聖女の再起

第13話:剥がれ落ちる虚飾

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 その頃、エレナを捨てた母国――サンクチュアリ王国では、建国以来の危機が静かに、しかし確実に進行していた。

「……セリナ、どういうことだ。これを見ろ」

 王太子の執務室。カイルは苦虫を噛み潰したような顔で、数枚の報告書を机に叩きつけた。そこには、国中の聖域で『黒死病こくしびょう』と呼ばれる謎の立ち枯れ現象が発生し、作物の収穫量が例年の三割にまで落ち込んでいるという惨状が記されていた。

「聖なる儀式を司るはずの君が傍にいて、なぜこのような事態になる? 神殿の聖石も、日に日にその輝きを失っているではないか」

 カイルの鋭い糾弾に、セリナは肩を震わせ、今にも泣き出しそうな表情で彼を見上げた。

「……わ、私だって一生懸命、光を注いでいますわ。でも、あのお姉様が最期に呪いをかけたに違いないのです! あんな不浄なものを奈落に捨てたから、その怨念が地を這って……」

「呪いだと? あの無能な女に、そんな大層な真似ができるはずがない」

 カイルは忌々しそうに吐き捨てたが、その指先はわずかに震えていた。彼が愛してやまないセリナの「聖なる光」。かつては見る者の心を癒やす柔らかな輝きを放っていたはずのそれは、今や直視すれば目が潰れるほどに鋭く、どこか刺々とげとげしいものに変質していた。

 さらに不吉なのは、セリナ自身の変化だった。どんなに高価な化粧水を使っても、彼女の肌は薄くひび割れ、隠しきれない隈が目元に浮いている。まるで、内側から何かにかのように。

「セリナ様、お薬の時間です」

 神官が持ってきたのは、教団が開発したという秘薬――『極光の滴きょっこうのしずく』。セリナはそれを奪い取るようにして飲み干すと、一瞬だけ頬に赤みが差した。

「……ふう。大丈夫ですわ、カイル様。私は聖女。選ばれし者です。あんなゴミ箱がいなくなったからといって、この私が負けるはずがありませんわ」

 セリナは鏡に向かい、無理やり口角を吊り上げた。彼女は認めなかった。自分が「光」を放てば放つほど、世界に蓄積される「闇の毒」を処理する者がもうこの国にはいないということを。これまでエレナが黙って引き受けてきた激痛と腐敗。それが今、逃げ場を失い、サンクチュアリ王国の土壌と、聖女を自称するセリナの肉体を直接蝕み始めているのだ。

「明後日の『星辰祭』。そこで私が圧倒的な光を見せれば、民の不安も消え去りますわ。……お姉様の代わりなんて、誰にでも務まるんですもの」

 セリナの言葉とは裏腹に、彼女の指先は微かに震えていた。彼女の足元の影が、まるで生き物のように不気味に広がり、その背後で口を開けて笑っていることにも気づかずに。

 一方、その報告を夜の国の玉座で受けていたゼノスは、隣で果実を頬張るエレナの頭を愛おしそうになでた。

「ククッ……。連中はまだ、自分たちの尻を拭いていたのが誰だったのかに気づいていないようだ。……エレナ、そろそろ招待状を出してやろうか?」

「ええ、ゼノス様。……一番綺麗な、夜の色をしたものを」

 エレナの瞳に宿る白銀の光は、以前よりも強く、気高く輝いていた。

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